水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第百八十八回)

2010年12月31日 00時00分02秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百八十八
『あなたがOKを出せば、活躍される舞台は東京へと移ります。いかが、されますか?』
「それは先輩に云ったとおりです。しばらく考えさせて下さい。あのう…会社は、このまま続けても大丈夫なんでしょうか?」
『ははは…、何もご存じないようですね。大臣には大臣規範という規範があるんですよ。正確には、国務大臣、副大臣及び大臣政務官規範と、なんとも長くて早口言葉のような規範です。この規範で在任中の兼職は禁止されています。ただし、報酬のない名誉職は小菅(こすが)総理に届ければOKです。そんなことですから、会社とご相談なさって、無報酬の顧問とかでいいと思うのですが…。もちろん、大臣を退かれた時点で部長に復職するという条件をお付けになってね』
「なかなかお詳しいですね。畏(おそ)れ入りました…」
『私に分からないことはありません。まあ政治なんていうものは、すべてがファジーなんですがね』
「ファジーですか…」
『曖昧(あいまい)なんですよ、物事の解釈が…。アバウトと申しますかね。だから、予算の委員会で予算と関係ない論議がアバウトに進んだりしてます。まあこれは、政治に限ったことだけじゃなく、人間の世界は、すべてが白でも黒でもない灰色のアバウトですが…』
「ええ…、それは私にも分かります。すべての物事が正しいから通用する、っていうもんでもないですよね」
『そうです、そうですとも…。ですから、私は慌(あわただ)しく駆け巡らねばならないのです。駆け巡る、とは霊力で飛ぶことを意味するのですが…』
「だから、急に会話が中断したり、そのまま、なかったりするんですか?」
『はい。まあ、そうお考え戴ければ結構です。おっ! これは…。また孰(いず)れ』
 お告げは急にピタッ! と途絶えた。しかし、この前と違い、玉が話しをやめることを前もって知らせてくれた点は一歩前進だった。

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スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第百八十七回)

2010年12月30日 00時00分02秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百八十七
やがて、先輩が口にしたのは、どこか近くに美味い店はないか、ということだった。あまり余裕の時間がないらしく、昼食兼夕食を食べて、東京へUターンすると云った。
「美味い店なら、いろいろとありますが…。和食、中華、洋食、何になさいます?」
「そうだな…。朝からステーキだから、少しあっさりとした和食がいい…」
「それなら喜楽という店がいいでしょう。ここから右へ折れて突き当りです。大きな看板が出てますから、すぐ分かりますよ」
「そうか…有難う。それじゃ、十日後辺りに電話する…」
 煮付(につけ)先輩は応接セットから立ち上がると、ドアへ向かった。
「炊口(たきぐち)さんにご挨拶だけして、その足で帰るから、送りはいいぞ、塩山」
「はい。それじゃここで失礼させて戴きます」
「ああ…、じゃあな」
 先輩が部屋を出たあと、妙な空虚感が私の心を苛(さいな)んだ。その時、お告げが聞こえた。
『どうです。新しい展開が始まったでしょう。あなたが見た映像に一歩、近づいた訳です』
「それが、国連なんですか?」
『まあ、そうなっていくでしょう。それ以上は決まりで云えないと以前、申しました』
「ええ…、それは憶えております」
 私はそれ以上、深く踏み込まなかった。

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スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第百八十六回)

2010年12月29日 00時00分02秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百八十六
 寝耳に水の話で、私はしばらく茫然(ぼうぜん)として言葉を失った。冷静になろうとするが、すぐ心が乱された。恐らくは、みかんの玉が霊力を発して先輩をその気にさせた…と考えられた。でなければ、あまりに突飛でありえない話だったからだ。
「…なぜ、私なんです!?」
 一瞬の途切れた会話が復活した次の瞬間、私は思わずそう訊(たず)ねていた。
「理由は、ただひとつ。そう思ったからだ」
 この言葉で、みかんの玉が放った霊力による、ということが、ほぼ確定した。
「だが、それだけじゃないぞ。お前の有能さは学生時代から見てきた俺が一番よく知ってる」
「いやあー、嬉しいんですが弱りました。今はとても心の準備ができません。お引き受けしていいものかどうか…」
「そら、そうだろう。以前のように十日ばかり待とう。改造は、まだ当分先のようだからな」
「その改造内閣は、いつ頃?」
「総理の腹づもりひとつだが、この前のお話では、半年ほど先をお考えのようだ…」
「半年ほど先ですか…」
「ああ…。飽くまでも目安だ。予算審議や重要法案の成立いかんでは延びるかも知れん」
「何もなければ半年後、ということですね?」
「まあ、そうなるかな…」
 ふたたび、二人の会話は途切れた。

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スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第百八十五回)

2010年12月28日 00時00分02秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百八十五
 先輩が私のいる部長室へ入ってきたのは、それから小一時間過ぎた頃だった。カツッ、カツッっと小気味よい靴音が響き、ドアがノックされた。私は即座に、「どうぞっ!」と大声を発した。ガチャッと音がし、ドアが開いた。
「君達は応接室で待っていなさい。三十分ほどで戻る…」
 お付きの人達に云っていると思われる先輩の声が、ドアの隙間から小さく聞こえた。そして中へは先輩一人が入ってきた。他の人達は、どうも引き返したように思えた。
「待たせたな、塩山。…それにしても、眠気(ねむけ)はいい所だな。だいいち、空気が美味い!」
「ははは…、都会に長くおられると、そう思われますか?」
「ああ、実感でな」
 私と煮付(につけ)先輩は思わず大笑いした。
「ところで、云ってらしたお話とは?」
「おお、それだったな。…実は近々、小菅(こすが)改造内閣が組閣されることは、ほぼ間違いがない。そこでだ! 総理と私が直接、話したんだがな。お前を民間人から入閣させようと考えてな。総理も考慮しようとおっしゃった」
「えっ? …ええっ!!?」
 目を丸くする・・とは、まさにこのことであろうか。民間人が入閣して大臣になれることは知っていた私だが、まさかその人物としてなんの社会的知名度や地位もない私が先輩から名指しされようとは露ほども思ってはいなかった。

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☆お知らせ☆

2010年12月28日 00時00分00秒 | #小説

年末につき、お休みを戴きます。休館日(12/28~1/6)です。皆さん、よいお年をお迎え下さいますように…。 \(^^)/

※ 連載小説 「あんたはすごい!」 は、掲載を続けさせて戴きます。


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スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第百八十四回)

2010年12月27日 00時00分01秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百八十四
「それよりお前、今度はいつ東京へ来れる?」
「えっ? 今のところ予定はないんですが…。何かあるんですか?」
「いや、今は長電話になりそうだからい…。詳しいことは、そっちへ行って炊口(たきぐち)さんにお会いしてから話すよ。まあ、悪い話じゃないから、楽しみにしてろ」
「はい、分かりました…」
 電話はそれで切れた。煮付(につけ)先輩が私に何を云いたかったのかが少し気にはなったが、悪い話じゃないということなので自然と意識から遠退(とおの)いた。その先輩が我が社へ車で乗りつけたのは昼の三時頃だった。政府高官が来社するというので社内は騒然としていた。この日ばかりは炊口社長自らが陣頭指揮に立ち、接遇に手抜かりがないか、細かく事前チェックした。そして、先輩が車から降り立つと、社をあげてのお出迎えである。管理職以下、まるで賓客(ひんきゃく)を出迎えるかのように正面エントランスに整列し、先輩と数人のお付きの人達を迎えた。もちろん整列した中に私がいたことは云うまでもない。煮付先輩は炊口社長と笑顔で堅(かた)い握手を交わし、社長室へと消えた。二人が何を語らったのか、私にはまったく分からなかったが、恐らくは米粉プロジェクトの今後についての意見交換かと思われた。

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残月剣 -秘抄- 《惜別》第二十九回

2010年12月27日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《惜別》第二十九回

「これでいいかな? …他に訊ねたき儀があらば即答するが、どうだ?」
「いいえ、もう他には、これといって…」
 事実、左馬介にはそれ以上、心に蟠(わだかま)ることなど、なかったのだ。
「そうか…。では、久しぶりに鰻政で鰻の美味いのでも食って帰ったらどうだ? 俺も今、食って、ここへ来たところよ」
「はい、有難う存じます。では、この辺りで…」
 長居をする用も他になく、左馬介は蓑屋を出た。礼を返したのは兎も角、鰻を食べて、のんびり帰ろうとは取り分け思っていない左馬介である。それに、気を削がれることが一つあった。以前、番傘を借りた折りに見た、腰掛け茶屋、水無月の娘が、どうも左馬介の脳裏から離れないのだ。あの時以来、娘には会っていなかった。それで…という訳でもないのだが、蓑屋の情報を教えて貰った主(あるじ)に、ひと言だけでも挨拶をしておこう…と思ったからである。ただ、娘がいたら…と仄かに思う潜在意識が働いたのも確かだった。
 水無月は未だ暖簾を掛けてはいたが、そうは云っても既に夕刻である。恐らく、娘に会うことはないだろう…と、思うでなく左馬介は踏んでいた。


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スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第百八十三回)

2010年12月26日 00時00分00秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百八十三
 そこへ鍋下(なべした)専務が現われた。
「おお、児島君もおったか。塩山君、煮付(につけ)先生が今日の午後、遠路はるばる眠気(ねむけ)へ来られるそうだ」
「えっ! 煮付先輩が、ですか? なにか起こったんでしょうか?」
「んっ? いや、私もよくは分からんのだがね。先ほど社長室へ電話が入ったらしい。ただ、来られる、という話だったようだ」
「そうですか…。煮付先輩が…」
 つい数日前、私が東京へ行った時、先輩は何も云わなかったのだ。急用なのかも知れなかったが、それにしても会社へ直接、電話した先輩の意図が分からなかった。二人が出ていったあと、私は先輩に携帯で電話した。会社の電話は交換を通すから、避けた方が無難だと判断した訳だ。別に聞かれて拙(まず)い話じゃなかったが、なぜかそうしていた。
「先ほど専務から聞いたんですが、今日、こちらへ態々(わざわざ)、来られるそうですね?」
「ああ、そのつもりだ。今、出るところでな。ちょっとお会いしたい方がおられてな。そのついで、と云ってはなんだが…」
「私に一報して下されば、よろしいのに…」
「ははは…。塩山でも別に構わなかったんだが…。社長の炊口(たきぐち)さんにも御挨拶しておきたかったんでな…」
 煮付先輩は私に電話しなかった訳を説明した。

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残月剣 -秘抄- 《惜別》第二十八回

2010年12月26日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《惜別》第二十八回

「うん、まあな…。それはこちらが悪い。だがな、何もないのに行けぬからな」
「はあ、それもそうです」
「便りの無きが無事の知らせ…と申しますでな」
 二人の話を黙って聞いていた与五郎が、急に合いの手を入れ、口を挟んだ。
「おお…、上手いこと云ったぞ、与五郎」
 樋口が、図星だ…と云わんばかりに褒めた。その後、本題から枝葉末節へと流れかけていた話を元へ戻し、「そんなことは、どうでもいいのだ。お前の用件だったな…。そうそう、先生のご様子だが、先生は先生だわ、やはりのう。ははは…。いつの間にやら風の噂よ…」と、判じ文のような意味不明な語りで終えた。左馬介には今一つ、よく分からない。
「風の噂とは…、はて、どういうことでしょう?」
「剣の達人と呼び名が高いお主のことだから、分かると思ったが…。他意はない。言葉通りよ。風に乗り、何処(いづこ)かへ消え失せられたわ」
 そう云い終えると、樋口は高らかに一笑に付した。兎も角、幻妙斎に異変がなく、元気なようだ…と分かり、左馬介は、ひとまず安堵した。


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スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第百八十ニ回)

2010年12月25日 00時00分00秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百八十ニ
 よくよく落ちついて考えれば、米粉の卸(おろし)会社の中にいて営業部長という管理職を務める現実とフラッシュ映像では、明らかに違うギャップがあった。なぜ地球人類の未来を動かしかねない国連総会で私が演説をするのか? と不思議に思えたが、それでもそんな大舞台に登れる魅力は多少あった。たぶんそれが原動力となったのだろう。だが、フラッシュ映像はその一枚だけではなかった。その一枚一枚が大舞台で、まったく関連していないという奇妙さはあった。
「児島君、その後のプロジェクトの推移はどうなってる? 順調に運んでいるかな?」
 部長室に児島君を呼んで、私は現状報告を受けていた。
「はい! 以前の多毛(たげ)本舗のときとは販売網のスケールが違いますからねえ。営業実績だけじゃなく、まさに名実とも日本の一流企業ですよ」
「ああ…、それはまあそうだな。二部で低迷していた米翔(こめしょう)だが、今や一部上場だからなあ…」
「仰せのとおりです。当期純利益ひとつ見ても、恐ろしい額に跳ね上がってますから…。まったく過去では想像もできませんよ」
 児島君は興奮ぎみに捲(まく)し立てた。
「しかし、手放しで喜んでばかりもおれんぞ」
「はい、それは分かっています」
 児島君の顔に新(あら)たな精気が漲(みなぎ)り、紅潮した。

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