○ 安アパート とある部屋 夜
うす汚れた部屋。机の上。ただ黒ずんだひと房のバ
ナナだけがある。それをじっと腕を組んで見続け、
考え込む一人のうらぶれた男。男を照らす吊り下げ
られた電球一個の灯り。
○ メインタイトル「バナナを見続ける男」
○ 同 部屋 夜
両手を合掌して、食べようとするが、ふと思いとど
まる男。そして突然、絶叫し、ブツブツと呟き始め
る男。
男「なんでや! なんでお前は黒うなるんや。一週間
はいけると思てたんや! いや、十日はな(涙声
で)。お前は生命線なんやで…あかん! 黒うな
ったらあかん! あかんにゃで~(言い聞かせる
ように)」
突然、語りだすバナナ。
バナナ「私はバナナです」
男「えっ? (自分の耳を、指で擦りながら)ええ~
っ! それは分かったるにゃ。分かったるにゃで
ぇ~~。お前はバナナや。(バナナが話すという
こと自体を疑うように、バナナを覗き見て)」
バナナ「私は黒くならなければダメなのです。それが
生命線なのです。私は食べられてナンボのも
のなのです。分かって下さい~(懇願するよ
うに)」
男「いや、いやいやいや、それはおかしいわ。それは
あまりにもワガママや。自分勝手や。そんなら、
このワイはどうなる? どうなるんやいな? 云
うて! 云うてんか!(やや切れぎみに)」
バナナ「わ、私にどうしろと云われるんですか?」
男「そんなん…。今、云うたやないか。黒う、黒う
ならんとってくれたらそれでええんや。簡単な
ことやないか。バナナな君なら分かるやろ。…
バナナな君か・・、これは自分でも上手いこと
云えたな。ほめてあげたい。自分をほめてあげ
たい。なんや、こんなこと云うてたマラソン選
手いたなぁ~」
バナナ「何を云っておられるんですか?」
男「なんや! なんにもないわい! 馬鹿にしくさっ
て…(泣いて)」
バナナ「馬鹿になんぞしておりません。ただ、私は
私の存在価値を述べたまでです」
男「ほなら、ワイの存在価値はどこへ行ってしもたん
や? わいはバナナ以下かい! バナナ以下なら
なんやねん!」
バナナ「…知りません」
男「まあ、ええわ。…百歩、譲って黒うなるのは我慢
しよやないかい! (急に懇願調の声になり)ほ
んでいったい、どれだけもってくれんにゃいな?
十日はいけるんか? 三日は、かなんでぇ~。ほ
れはあかん。きつい」
バナナ「分かりました。こうしてお話ししてても、切り
がありません。何とかしましょう」
男「えっ!? どないすんにゃいな?」
バナナ、突然、純金に変身する。
男「かなんなぁ~。これでは食えんがなっ!(悲しそ
うに)
頭を抱えて、考え込む男。
○ エンド・ロール
スタッフ、出演者等
T「おわり」