水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 夏の風景(第二話) 馬鹿騒ぎ

2009年11月30日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
      
(第二話)馬鹿騒ぎ                

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   N      ・・湧水正也
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ

1.庭 早朝
   タイトルバック
   庭の樹木で鳴く蝉。早朝の陽射し。

2.子供部屋 早朝
   布団で眠る正也。蝉の鳴き声に薄眼を開ける正也。徐(おもむろ)に枕元の目覚ましを眠そ
うに見る正也。なんだ、こんな時間か…も
   う少し眠っていよう・・と、また布団を被る正也。が、
辺りの明るさに半身を起こして両手を広げ、欠伸をする正也。蝉の鳴き声。窓から
   入る陽射
しの明るさ。
  N   「蝉が唄っている。それも暗いうちからだから、寝坊の僕だって流石に目覚める。それ
に五時頃ともなれば冬とは違って外は明
       るいから尚更だ」
   テーマ音楽
   タイトル「秋の風景」(第二話) 馬鹿騒ぎ」
   キャスト、スタッフなど

3.庭 早朝
   半身裸の着物姿で木刀を振るい、剣道の稽古をする恭之介。恭之介の周りを元気に駆け巡るポチ。

4.渡り廊下 早朝
   歯を磨き終え、ラジオ体操に出ようと廊下を歩く正也。ガラス越しに見える恭之介。聞こえる
恭之介の掛け声。立ち止まり、稽古の模
   様を窺う正也。
  [恭之介]「エィ! ヤァー!(竹刀を振るいながら)」
   正也に気づく恭之介。
  [恭之介]「どうだ、正也も振ってみるか!」
  正也  「僕はいいよっ! ラジオ体操があるから!…」
   稽古を中断し、足継ぎ石に近づく恭之介。ガラス戸を開け放つ恭之介。
  恭之介「まっ、そう云うな、気持いいぞぉ、ほれっ! (正也の眼前へ竹刀をサッっと突き出し)」
   恭之介の勢いに押され、竹刀を手にする正也。
  N   「こういう主体性がないところは、父さんの子なんだから仕方がない」
   恭之介の指導通り、何回か竹刀を振るう正也。
  正也  「もう行くよ。遅れると、子供会で怒られるから…(急いでいる、と云いたげに)」
  恭之介「そうか…。じゃあ、行きなさい(素直に)」
   解放されたかのように、竹刀を置くと駆けだす正也。正也の後ろ姿に声を投げる恭之介。
  恭之介「帰ったら飯が美味いぞぉ~」

5.台所 朝
   ラジオ体操を終えて台所へ入る正也。恭之介の腕を揉む未知子。傍らには、起きたパジャマ
姿のまま見守る恭一。恭之介の横へ座
   る正也。
  恭一  「年寄りの冷や水なんですよ、父さん…」
  恭之介「なにを云うか! (激昂して)ちょいと、捻っただけだっ」
  N   「じいちゃんが気丈なのはいいが、父さんも、もう少し話し方を工夫した方がいいだろう。
僕の方が、じいちゃんの気性を知り尽く
       しているように思える」
  未知子「でもね、お義父さまも、もうお歳なんですから、気をつけて下さい…(揉みながら)」
   急に、顔が柔和になる恭之介。
  恭之介「ハハハ…、お二人にそう云われちゃなぁ。まあ、これからは考えます、未知子さん…」
   三人の様子を、椅子に座って見遣る正也。
  恭之介「さあ、飯にしましょう、未知子さん」
   隣に座る正也に気づく恭之介。
  恭之介「おぅ! 正也も帰ってたか…。虫に刺されなかったか?」
  正也  「うん、虫除け持ってったし」
  恭之介「ああ…、アレはよく効くからなぁ」
   台所の片隅で四人を窺うタマが、馬鹿な話はやめて夕飯にしませんか? とばかりに、ニャ~と鳴く。
  恭之介「さあ、飯にしよう。飯だ飯だ、飯…飯(立ちながら)」
   呆れたように恭之介を見遣る三人。
  N   「何かに憑かれたように、じいちゃんは母さんの手を振り解(ほど)いて、勢いよく立ち
上がった」
   F.O
   タイトル「夏の風景(第二話) 馬鹿騒ぎ 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第二話」 をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《剣聖①》第二十七回

2009年11月30日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖①》第二十七回
 その時、
「お早うございます…」
 と、慌しく小走りしながら、鴨下が左馬介の背に声を掛け、前を横切った。後方から不意を突かれた格好の左馬介だったが、「お早うございます」と、咄嗟(とっさ)に返していた。この感覚は、相手の打ち込む竹刀を受け、そして払った後に打ち返すという剣捌(さば)きにも似ていた。井上も神代も、別に驚くことなく、「おう!」とだけ吐いて鴨下へ応じた。鴨下の方は遅れた負い目があるのか、慌て味に洗顔などをして三人に追いつこうとしていた。井上と神代自分の小部屋へと戻っていった。これから朝餉の準備があるら、左馬介は「慌てずとも、いいですよ。私は先に厨房へ行ってりますから…」と、言葉を残して歩き出した。残りの門弟達が対から、ドカドカと洗い場へ駆けつける。鴨下は漸く顔を拭いなが左馬
介の尻に従った。
 厨房へ入れば毎朝の単調な賄いの準備が始まる。最初の頃は覚束無(おぼつかな)かった鴨下の手つきも慣れ、そうは度々、止まらなくなった。左馬介のように流暢(りゅうちょう)と迄はいかないが、それでも失敗がなくなっただけ随分と左馬介も助かった。


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シナリオ 夏の風景(第一話) 夕涼み

2009年11月29日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
      
(第一話)夕涼み

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   N      ・・湧水正也

1.庭先 夕方
   タイトルバック
   風呂から上がり、庭先の縁台で涼む恭一。団扇で手足の蚊を払う浴衣姿の恭一。
  N   「今年も暑い夏がやってきた。父さんは、のんびり縁台で涼んでいる。時折り、手や足をパチリ
パチリとやるのは、蚊のせいだ
       (◎に続けて読む)」

2.子供部屋 夕方
   勉強机から、窓の網戸越しに恭一を眺める正也。
  N   「(◎)僕は、その姿を勉強机から見ている(△に続けて読む)」

3.台所 夕方
   夕食準備のため、炊事場で小忙しく動く道子。
  N   「(△)母さんは、と云うと、先ほどから台所付近を夕餉の支度で、小忙しく動き回っている(◇に
続けて読む)」

4.庭 夕方
   軒(のき)に吊るされた風鈴が楚々と鳴る。ビールを縁台で飲む恭一。
  N   「(◇)父さんは風呂上りの生ビールを枝豆を肴(さかな)に味わっているから上機嫌である。庭の風
鈴がチリン…チリリンと、
       夕暮れの庭に涼しさを撒く」
   テーマ音楽
   タイトル「夏の風景」(第一話) 夕涼み」
   キャスト、スタッフなど

5.(フラッシュ) 庭 昼
   麦わら帽子を被り、ランニングシャツ姿の恭一。首に手拭いを巻き、高枝バサミで樹木の選定をす
る恭一。 
  N   「今日は土曜だったので、父さんは庭の手入れ、正確に云えば剪定作業をやっていた(○に続けて読む)」

6.もとの庭 夕方
   ビールを縁台で飲む恭一。  

7.子供部屋 夕方
   勉強机から窓の網戸越しに、庭の恭一を眺める正也。
  N   「(○)だから一汗かいたあとのビールなんだろうが、実に美味そうにグビリとやる。その喉越しの音が、机
まで聞こえてきそう
       だ」
   開いた戸から、突然、、風呂上がりの恭之介が入り、正也の背後に立って机上を覗き込む。
  恭之介「おう! 頑張っとるじゃないか…(云いながら正也の頭を撫でつけ、笑顔で)」
   驚いて、振り返る正也。
  N   「急に後ろから頭を撫でつけた無礼者がいる。振り返れば、じいちゃんが風呂上りの赤く茹で
あがった蛸になり、笑顔で立って
       いた」
  正也  「なんだ、じいちゃんか…(笑顔で、可愛く)」
  恭之介「正也殿に、なんだと申されては、埒(らち)もない」
  正也  「…(意味が分からず、無言の笑顔)」
   そのまま、ただ笑いながら居間へ立ち去る恭之介。

8.居間 夕方
   居間へ入る恭之介。庭先の足継ぎ石へ下りる恭之介。
  N   「僕の家には風呂番という一ヶ条があり、今日は、じいちゃんが二番風呂だった。この順はひと月
ごとに巡ぐるシステムになって
       いる。提案したのは僕だが、母さんにはすまないと思ってい
る。終いの湯があるから…と、母さんは笑いながら僕の提案を抜け
       ると宣言したのだ。男女同
権の御時世からすれば、時代遅れも甚だしいことは、小学生の僕にだって分かる」

9.庭 夕方
   徐(おもむろ)に縁台へ座る恭之介。二人の間に置かれている将棋盤と駒箱。
  恭之介「恭一、また…どうだ」
  恭一  「お父さん、もう夕飯ですから…(やや迷惑顔で、遠慮しながら、残ったビールを飲み干し)」
  恭之介「いいじゃないか。お前…確かこの前も負けたな。もう勝てんと音をあげたか?(フフフッ・・・と
笑いながら、縁台上の殺虫剤をブ
       シューっとやり)」
  恭一「違いますよ!」
  恭之介「なら、いいじゃないか(即座に返し)」
  恭一「分かりました。受けて立ちましょう(やや依怙地になり、即座に返し)」
   慣れた手つきで、瞬く間に駒を並べ終え、盤上に視線を集中させる二人。

10.子供部屋 夕方
   勉強机から、窓の網戸越しに二人を眺める正也。突然、未知子が現れ、正也の背後に立つ。机上に置
かれた蚊取り線香から流れる
   煙。
  未知子「正也!…早く入ってしまいなさい (やや強く)」
  
N   「母さんの声が背後から飛んできた。僕は勉強をやめ、風呂へ入ることにした。蚊が
机の上へ無念そうにポトリと落ちた」 
 

   F.O
   タイトル「夏の風景(第一話) 夕涼み 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は 「短編小説 夏の風景☆第一話」 をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《剣聖①》第二十六回

2009年11月29日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖①》第二十六回
 瞼を閉ざしていると、眼に映るものが無いだけ聴覚が鋭敏になる。左馬介は、既に四半時は座り続けていた。眠くはないが、心は雨音で幾らか集中を欠いている。未だこの程度の自分なのだ…と、思えた。そうこうしている内に、辺りは少し明るさを増していた。左馬介は瞼を開けるとスッ! と立ち、薪入れ小屋を素早く出ると一目散に分の小部屋へと急いだ。手燭台に灯りを入れていない分だけ手
は省けた。
 小部屋へ戻って暫くすると、魚板を叩く音が響いた。皆を起こす合図である。叩き手は、誰が決めたのか定かでないが、新入りの案内係を仰せつかっている大男の神代である。この男の背丈からすれば、腕をそう伸ばさずとも叩けるから疲れることはない。音も
きくなるよう造作なく強く叩ける訳だ。
 魚板が鳴れば、辺りには急に喧噪が漂う。云う迄もなく、門弟達が各々の動きを始める為である。堂所横に設けられた水洗い場は、歯を磨いたり顔を洗ったりする者達で、ごった返す。左馬介も、その要領は既に心得ていたから、手拭いを袴の腰紐へと通しな
がら、洗い場へと急いだ。
 洗い場には井上と神代がいたが、後の者達は未だ来ていなかった。


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短編小説&シナリオ 笹百合の峠

2009年11月28日 00時00分01秒 | #小説


     笹百合の峠     

「咲と申します」
「どこぞで、お逢いしたことが…?」
 市之進は、咲と名乗る年若な女に訊ねた。
 既に辺りの人気は失せ、宿を探そうとて、この山越えの峠道では如何(
いかん)ともし難く思えた。そこへ、この咲である。夕陽に浮かぶ咲の姿の、なんと白く手弱かなことか。そうでなければ市之進は、悪霊か何ぞに、とり憑かれた…と、逃げだしたに違いない。ただ、咲という女が、どうも市之進には想い出せないのだ。
「もう、お忘れになって、ございますか?」
 古めかしい云い回しをする女だ…と、妙に思ったが、想い出せない以上は仕方がない。
「お咲さん…、とか申されましたね? 私も旅の途中、どこぞでお逢いしたのならば、これも何かのご縁と申すものでございましょう」
 とだけ返した。その後、暫(しばら)くは、鬱蒼(うっそう)と樹々が茂る山道を連れ添って歩いた。市之進の算段では小諸宿へ疾(と)うに着いている筈であったが、峠越えををするどころか益々、足元は険しさを増していく。そうこうしている内に、日はとっぷりと暮れ果てた。仕方なく、市之進は焚き火を頼りに野宿をすることにした。
 咲は少しも話そうとはしない。市之進も、余りの咲の美しさに意識が先立ち、話せない。夜は深々と更けてゆく。幸い季節は初夏の匂いの漂い始める候で、寒くはなかった。市之進は疲れもあってか、いつしか微睡(まどろ)んでいた。
 ふと、現れた世界は幻なのであろうか…。市之進には分からない。だがその情景は、確かに見憶えのある辿った遠い過去であった。━━子供が数人いる。その中に自分の姿もある。子供の一人が棒切れで白い笹百合の花を斬ろうとした。それを自分と思しき子供が必死に両手を広げ、止めている…━━
 小鳥達の囀りに、ふと目覚めれば、辺りはもう早暁であった。瞼を開け、冷えた半身を起こした市之進は驚かされた。消えた焚き火の跡は確かにあった。が、咲はいない。何者かに連れ去られたか…と、全身を奮い起こして立つと、咲がいた場所には一輪の白い笹百合が咲いていた。その花は、市之進の夢に現れた花に違いなかった。幼い頃の…あの時の…。その花の株下に置かれた一枚の守り札…。その木札を手にしたとき、市之進の脳裡に、何故か懐かしい想いが駆け巡るのであった。
 その後、市之進はその守り札を片時も手離さず、破格の出世をしたそうである。
                                       完
--------------------------------------------------------
  ≪創作シナリオ≫

     笹百合の峠

    登場人物
  市之進・・・年若な武士
  咲   ・・・笹百合の化身

 1 とある山の細道(中腹) 夕暮れ前
   F.I
   タイトルバック
   とある山中。鬱蒼と茂る山林。山の細道を辿る年若な武士。夕暮れの木漏れ日。小鳥の囀り。
   前方の山道から近づく咲。擦れ違いざま立ち止まり、市之進を見上げる咲。
  咲  「あのう…市之進様? わたくし、咲と申します」
   訝しげに立ち止まり、振り返る市之進。じっと咲を見つめる市之進。
  市之進「はあ…。どこぞで、お逢いしたことが…?」
  咲  「もう、お忘れになって、ございますか?」
   訝しげに咲を見つめる市之進。想い出せない市之進。
  市之進「お咲さん…、とか申されましたね? 私も旅の途中、どこぞでお逢いしたのならばこれも何かのご縁と申すものでございましょ
       
う」
  咲  「有難う存じます…(軽く会釈して)」
   連れ添い、歩き出す二人。語らう二人。遠退く二人の姿。鬱蒼と茂る山林。
   テーマ音楽
   タイトル「笹百合の峠」
   出演者、制作スタッフなど。

 2 山の細道(中腹) 夕暮れ
   鬱蒼と茂る山林。険しくなる足元。辺りを見回す市之進。不気味な梟の鳴き声。
  市之進「…妙です。もう峠越えして、小諸宿が見える筈なのですが…(少し息切れしながら)」
   険しくなる一方の山道。息切れしながらも進む二人。日没。
  市之進「これ以上は無理なようです…。仕方ありません、野宿すると致しましょう。夜道は危険ですから…」
  咲  「はい…」

 3 山中の平地 夜
   漆黒の闇。焚き火を囲む二人の遠景。楽しく語らう二人。
  市之進「少し…疲れたようです…」
   次第に眠気が市之進を襲う。微睡(まどろ)む市之進。焚き火。

 4 ≪夢の中≫
   山中で遊ぶ子供達。咲く白い笹百合。棒きれで笹百合を叩き斬ろうとする子供。それを必死に両手で止める幼少期の市之進と思し
   
き子供。

 5 山中の平地 早暁
   消えた焚き火。朝靄が漂う山中の平地。目覚めて半身を起こす市之進。寒さに身を竦める市之進。咲がいないことに気づき、辺りを見
   
回す市之進。全身を奮い起こして立つ市之進。咲のいた場所に咲く一輪の白い笹百合。花に気づく市之進。
   O.L

 6 ≪幼少期の追憶≫ 回想
   白い笹百合。微笑んで笹百合を見る幼少期の市之進と思しき子供。

 7 山中の平地 早暁
   O.L 咲のいた場所に咲く一輪の白い笹百合。花の株下に置かれた一枚の守り札。木札を手に取る市之進。懐かしい想いに浸る市
   之進の近景。市之進の遠景。朝靄に煙り、欝蒼茂る山林。
   テーマ音楽
   朝靄に煙り、欝蒼と茂る山林。
   T 「終」
   F.O
                                                            完


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残月剣 -秘抄- 《剣聖①》第二十五回

2009年11月28日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖①》第二十五回
無論、道場での稽古は日々、続くのだから、稽古中は全力を傾倒せねばならない。要は、外見上の所作は初心者に戻る訳にもいかないから、今迄の所作で致し方ないのだ。皆の目もあるし、それは当然だった。しかし、内なる心理面では今迄と異なり、全てが計算ずくでない…という無心で相手と対するのだ。その心境こそが、新たな
技を編みだす第一歩となる筈だった。
 次の日の朝が明けようとしていた。いつもの隠れ稽古をする刻限が近づくと、やはり自然と左馬介の瞼は開いた。そして床(とこ)を抜け出す。こうした所作もいつもと同じで、それから堂所裏へと進み、薪入れ小屋へ入ったが、この朝の左馬介は、ここからが少し違った。左馬介は傍らにあった筵(むしろ)を床(ゆか)へ敷くと、そこへどっしりと腰を下ろした。さらに、瞼を閉じると、胡坐(あぐら)の姿勢のまま冥想に入った。すると、何故か今迄の出来事が走燈のように映像で脳裡を駆け巡った。今迄とは、初めて堀川道場の門を潜った去年の梅雨時から今年の春に至る迄である。剣の上達を日夜、考えて過ごした追憶、そして道場で起きた回想場面
の数々だった。
 外では春の雨が降り出した気配があった。冬とは違い、暖かい雨音である。


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シナリオ 「ターゲット」

2009年11月27日 00時00分01秒 | #小説

≪創作シナリオ≫

     ターゲットより

1.車の中(真夜中)
  高速道路を走る一台の車。運転する女。車線の左右に流れる銀光の照明灯。照明灯に照らされ銀光に浮かぶアスファルトの道。固
  
定して流れ続ける道。カーラジオから流れる音楽。車窓から入る照明灯に照らされ浮かぶ女の顔。助手席をチラッと見る女。
 女「もう少し待っててね。そしたら、あなたの出番よ…(カメラに言い聞かせるように)」
  助手席に置かれたデジタルカメラが銀光に浮かぶ。黙って運転する女。前方にインターチェンジの案内板。ウィンカーを出し、左へ車線
  変更をする女。

2.車の外(真夜中)・外景
  車線変更する車。減速し、走行する車。
  O.L

3.車の外(真夜中)・外景
  O.L
  減速し、走行する車。一般道を走る車。

4.車の中(真夜中)
  山並みを走る車。木々がヘッドライトの光でアンバーイエローに浮かび、流れていく。自動ウインドウを開ける女。微かな風に目を細
  める女。窓から入る穏やかな潮騒の音 S.E。さらに、車を走らせる女。

5.車の外(早暁)・外景
  山並みを抜け、海岸沿いの小道に出て走る
車。

6.車の中(夜明け前)
 女「着いたわよ…(カメラに言い聞かせるように)」
  車を停める女。サイドブレーキを引き、エンジンを切る女。助手席のデジタルカメラを手にする女。

7.車の外(夜明け前)・外景
  車を降り、小道から一歩一歩とゆったり歩を進める女。海が一望できるところを目指す女。その場所に至り、佇む女。薄暗い水平線を、
  ただじっと眺める女。
  O.L

8.車の外(夜明け)・外景
  O.L
  日の出前の水平線を、ただじっと眺める女。カメラを構える女。静かにオレンジ色の円を描いて姿を見せる太陽。陽光を浴びながらシ
  ャッターを切り続ける女。
                                        完
                                                   ※ 坂本博 氏「徒然雑記」内記事より脚色


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残月剣 -秘抄- 《剣聖①》第二十四回

2009年11月27日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖①》第二十四回
完全な独自性に富み、更にその剣筋に、相手を圧倒する絶妙の捌きが加味されている。更に加えるならば、相手の受けに隙がない…というのが最低限の条件であった。そのような技を編み出すには、長い月日を要するのだろう。左馬介自身、その点は解している。ただ、その最初の起点と最終の到達点が見えないのである。具体的に云えば、新技の姿が皆目、摑めず、脳裡に浮かばないのだった。そうした剣筋の構築への想いは、踠(もが)きにも似た迷路となっていった。左馬介は全てを考えないことにし、無から出直そうと思った。以前、左馬介の前へ数度は出現した幻妙斎も、新弟子の鴨下が入門した少し前頃から全く音沙汰がない。勿論これは、左馬介に限ったことではなく、最近、幻妙斎の姿や獅子童子の姿を見た者は、門弟達の中で皆無であった。師範代の井上すら、連絡が全くとれず困り果てていた。左馬介の方から幻妙斎へ近づく術(すべ)を一馬に訊ねた一件も、結果的には不首尾に終わり、未だに幻妙斎の詳細は分からない。今度こそ会えたときには教えを乞おう…
と、左馬介は想いを暖めるのだった。
 無からの出発は、今迄の修練で培(つちか)った剣の上達を放棄する心構えから始まる。即ち、剣を手にしたことがない者が、初めて剣を手にする心境と一(いつ)になることを意味するのだ。


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シナリオ 「見つめていたい」

2009年11月26日 00時00分01秒 | #小説

≪創作シナリオ≫

    「見つめていたい」より

1.車の中(運転席)・夕方[現在]
   車を走らせる男。
  N「知り合いの結婚式に出席した妻を迎えに、近くの駅まで車を走らせた」
   前方に駅のロータリー。改札口が視界に入る。車を停車させる男。降り出した雨。ワイパーを始動
し、ぼんやり改札口を見つめる男。窓ガラス
   
から見た駅の風景。
   O.L

2.車の中(運転席)・夕方[11年前]・回想
   O.L
   窓ガラスから見た駅の風景。T 「11年前」。降る雨。空虚に動くワイパ-。ぼんやり改札口を見つめる男。
  N「そういえばボクが二十二歳のときだ今日と同じように、ひとりの女性を待ちわびた時間がある。あの日も雨で、こうして車の中から
    
札口を眺めていた(※へ続けて読む)」
   列車が駅に入る。ホームに降り立つ乗客。車窓から女を注視して探す男。
  N
「(※)あの時は、大好きな彼女に、ボクの誕生日を一緒に祝って欲しいと誘ったのだ。彼女は、ちょっと迷った素振りだったが結局OK
   
をもらい、その日は朝からウキウキ三昧で、雨も街灯に照らされて銀色に輝いていた
   改札口から散らばって降り立つ多くの客。次第に疎らとなる客。
  男「……いない…(寂しく)」
   意識を集中させ、女を探す男。
   フラッシュ(到着する列車、改札口を出る客。到着する列車。改札口を出る客。……)
  N「結局、降り立った乗降客の中に、彼女の姿はなかった」

   車の中で、じっと、改札口を見つめる男。
  N「それから十五分おきに列車は到着したが、どの列車からも彼女が降りることはなかった」
   車の中で、じっと、改札口を見つめる男。車のシートを倒し、暗い車中でポカンと口を開けている
男。空虚なワイパーの音。フロントガラスを濡ら
   す雨。
   O.L

3.車の中(運転席)・夕方[現在]
   O.L
   空虚なワイパーの音。フロントガラスを濡らす雨。
  N「雨足は強くなり、なんの望みもなく時間が流れていた」
   傘をさし、突然、早足で車へ近づく女(バタバタと)。ドアを開ける11年後の老けた女(妻)。
  妻「ゴメン、遅くなっちゃった…(息を切らして)」
  男「いいんだ、メグちゃん! 予約したレストランも、まだ間に合うから…(昔に想いを馳せ)」
   唐突に、シートから身を起こす男。
  N「ボクは、弾んだ声で身を起こした」
   
助手席を見る男。結婚式の引き出物を持ち、訝しげな表情で助手席に座っている妻。
  男(M)「十一年か。フフフ…、メグちゃんも玉手箱、開けたなっ(ニヤッと笑い)」
    小さく咳払いする妻。カーラジオを入れ、とぼけ顔で車を発進する男。流れる曲 S.E(男にとって懐かし
い曲)。音楽を聴きながら運転
   
し、過去へ想いを馳せる男。男を横目に見て、訝しげな表情の妻。微笑を浮かべ、家路を急ぐ男。流れる外景。
                                       完
                                     
             ※ 坂本博氏 「徒然雑記」内記事より脚色


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残月剣 -秘抄- 《剣聖①》第二十三回

2009年11月26日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖①》第二十三回
 これには、井上を筆頭に門弟達も度肝を抜かれた。剣筋の方は今一だが、人は何か、取り柄(え)があるもんだ…と、左馬介は思った。しかし、今日の酒宴のことを、あれこれ考え巡っていてはいけない…とも思えた。左馬介には、堀川道場で一際(ひときわ)、秀でた剣筋を工夫するという大命題があったのである。たった一日のことながら、酒宴に己が身を置いたことの不埒(ふらち)さが許せない無垢(むく)な左馬介なのである。だが、その不埒さは、左馬介の一存では如何ようにもならない道場の決め事なのだから、憤懣(ふんまん)遣る
瀬ない、その捌(は)け口は、どこにもなかった。
 翌朝、やはり心の蟠(わだかま)りからか、早く目覚めた左馬介は、そのまま隠れ稽古をすることにした。辺りは早暁というには如何にも早過ぎる暗黒の闇で、寅の下刻ぐらいである。無論、左馬介にはその時分であろう…という程度の感性での認識しかない。時を知る術(すべ)は寺で撞(つ)かれる鐘だが、生憎(あいにく)、葛西の円広寺の住職が体調を崩し、臥せっていた。その為、鐘の撞き手がなく、鳴らない日々が続いていたのである。因みに、堂所でこの話が出ると、皆は、『寺へ医者が通うとは皮肉な話よ…』と、食べながら笑い合った。━ 新しい剣筋 ━ と云えばひと言だが、そう容易(たやす)くみ出せないのが剣の道の厳しさである。


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