水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

思いようユーモア短編集 (29)星の数

2020年11月30日 00時00分00秒 | #小説
 人前で少し自慢すると、そんな人は星の数ほどいるっ! とかなんとか言われることがある。確かに星の数は多い。だが、夜空で輝く星の数がどれほどあるのか? という疑問は、三次元世界の宇宙科学をもってしても、これだけっ! と正確な数値で表すことは出来ないのである。まあ、ものは思いようで、人工衛星が小隕石の粉末を持ち帰ったくらいの話題で、どうのこうの[どうたらこうたら]と一喜一憂(いっきいちゆう)するちっぽけな発想の持ち主が私達なのだ。^^
 とある町役場の商工観光課である。課長補佐の島袋玉男は今日もシコシコと励んでいた。むろん、仕事にっ! である。^^
「どうだ、島袋君っ! 桜まつりの準備は出来たかいっ!?」
 課長の精力(せいりき)が、元気そうな赤ら顔で訊(たず)ねた。
「雪洞(ぼんぼり)の電飾も終わりましたし、課長! あとは余興(よきょう)の手配だけですっ!」
「余興の手配っ? まさか、毎年のアノ連中じゃないだろうねっ!」
「はいっ! アノ連中ですが、それが何か…?」
「あっ、アレはいかんっ! あの連中は、やめてくれっ!! まだ私の裸踊りの方が増しだっ! 上手(うま)いのは星の数ほど、いるだろっ!」
「星の数ほどいるかは別として、まだ、半月ばかりあります。なんとか職員有志を探(さぐ)ってみますっ!」
「頼(たの)んだよっ!」
 その半月後の桜まつり会場である。毎年のアノ連中が、下手(へた)なコ-ラスを、さも得意げに聴き惚(ほ)れるほどでなくハモっていた。^^
 星の数というのは実は思いようで、少ない場合もある訳だ。^^


                    

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

思いようユーモア短編集 (28)雑念

2020年11月29日 00時00分00秒 | #小説
 よく、百八つの煩悩(ぼんのう)とか言われる。そんなにあるんかいっ! くらいの気分になるのが普通だが、ボォ~~~ンと除夜の鐘が撞(つ)かれるに及んで、なんとなく有りそうになるから不思議といえば不思議だ。^^ 煩悩という言葉自体難しいから分かりよく言えば、要は雑念である。人は…まあ、人に限ったことではないが、目覚めてから様々な事象に遭遇するが、その一つ一つの事象に対する思いようで雑念が湧くことになる。…ふぅ~~ん、とか…ほぉ~~う! くらいの軽い思いようで右から左へ受け流す人は雑念が、まず湧かない。まあ、柳に風と受け流したいものだが、世の中は実に強(したた)かで、雑念を湧かそう湧かそう! と攻め立てるから生きづらく世知辛(せちがら)いのである。^^
 物尾(ものお)は何事も深く考える繊細(せんさい)な心の持ち主だった。フツゥ~なら、まあ、聞けばいいか…くらいの思いようでも、いやいや…世の中はそんなに甘くない。とにかく、路線図と時刻表を確かめよう! と思う、思いようの深い男だった。そこへもってきて、列車に数分の遅れが出れば、これはもう生きた心地がしないのである。すべての思いようがご破算になる…という雑念が湧き、どうする必要もないのに、さあ、どうする…と考えるのである。
『まもなく3番線に、10:20発、○○行きが到着いたします。列車は4分ほど遅れで到着をいたします。ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません』
 列車到着のアナウンスが駅構内に響き渡る。
『ったくっ! 4分も遅れてっ! 計画が台無しだっ!』
 物尾は怒り心頭(しんとう)に発した。4分ほどで計画が台無しになるはずがない。^^
 雑念による思いようで、小さなことで腹が立つ人もいる訳である。^^

                    

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

思いようユーモア短編集 (27)自分の物

2020年11月28日 00時00分00秒 | #小説
 よ~~~く考えれば、自分の物・・と呼べる所有物は実に曖昧(あいまい)な概念だと分かる。元々、人は何も持たない裸の身で生まれたのだから、自分の物と呼べる所有物は、[1]人から貰(もら)った物、[2]自分で買った物、[3]無理やり手に入れた物の三通り以外はない訳である。^^[1]、[2]はいいとしても、[3]は流石(さすが)に戴(いただ)けないだろう。^^
 小さなアパ-トの片隅(かたすみ)で、公務員の屑川(くずかわ)は今朝も目覚めた。部屋を見回せば、自分の物・・と呼べる物の中にはかなりの高級品も含まれ、一見(いっけん)、暮らしには事欠かないように思えた。それでも屑川は今日も自分の物を増やそうと探し求めていた。^^
「おやっ?」
 休日のある日、ひょこひょこと河原を歩いていた屑川は、その日、妙な物を川べりで発見した。拾って手に取り、よ~~く見ると、それは宝石の原石のように思えた。それも光る輝きからして、どうもダイヤモンドの原石のようだった。『ははは…まさか、いくらなんでも』と一端、全否定した屑川だったが、ただの石ころにしては光り輝いている。これはっ! と、屑川は家へ持ち帰ることにした。
 数日後、図書館で調べてみると、やはりダイヤモンドの原石に間違いなかった。どれほどの価値か? を調べてみると、なんとっ! 数億はする代物(しろもの)ではないかっ! しかし、河原にそんな原石が存在すること自体、不可解といえば不可解である。屑川は自分の物を求める男だったが、これほどの大物は、かつて巡り合ったことがなかった。だが、ただの河原の石ころである。遺失物とはいえないから警察に持ち込むことも出来ず、屑川は、あんぐりした。あんぐりした・・とは、途方に暮れたような何とも言えない顔の表情である。--;
 次の日から屑川は自分の物という思いに疑問を持ち、自分の物を増やそうとは思わなくなった。そして、拾った宝石の原石のような石を仕事帰りに見つめては、一人、ニンマリ! しながら悦(えつ)に入っているという。
 ものは思いようだが、自分の物は人にないのでは?  と私には思える。^^

                    

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

思いようユーモア短編集 (26)元(もと)の鞘(さや)

2020年11月27日 00時00分00秒 | #小説
 元(もと)の鞘(さや)に納(おさ)まってよかったですねっ! などと、よく言う。この鞘というのは、お武家時代の刀の鞘のことらしく、別の鞘に入っていた刀が、以前の鞘に戻る・・ということから、一端、ダメになった関係や物が元通りに復帰してめでたし、めでたし・・ということのようだ。ものは思いようで、元の鞘に納まらなかったらどうなるんだっ!? という素朴な疑問が湧く訳だが、私には分からない。たぶん、阿弥陀様じゃなくお釈迦様になるんだろうな…とは思うのだが…。^^
 吠崎(ほえざき)は、朝飯準備に追われていた。というのも、妻に出ていかれたことで仕方なく・・という必要に迫られる事情があったからである。脳裏に浮かぶのは新婚当時の甘い記憶である。何がいけなかったか? と思ってはみるのだが、出ていかれるような思い当たる理由も浮かばなかった。そうなると、理由は妻の方に・・ということになる。いい男でも出来たか? というのが、まず浮かぶ一つの可能性だった。しかし、これというような不審な挙動もなく、まるで狐(きつね)に抓(つま)まれたかのように、妻は忽然(こつぜん)と吠崎の前から姿を消したのだった。
「ああっ! 分からんっ!!」
 卵を割る吠崎の口から思わず声が飛び出した。その声でフライパンの上の目玉焼きの黄身が崩れ、流れ出た。
「まあ、いいか…」

 その十分後、目玉焼きはスクランブル・エッグへ見事に変身していた。そのとき玄関で妻の声がした。
「ただいまっ!」
 吠崎は信じられない現実に、これが元の鞘か? という疑問が、ふと湧いた。
「ちょっと、無性に食べたいものがあったから、飛行機でグルメしてきたのっ!」
 聞かされた吠崎の思いようは、『あり得ない、あり得ないっ!!』だった。
 元の鞘に戻(もど)る場合の理由は思いようがないほど実に不可解で、これといった定まった方程式はないのだ。^^ 

                    

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

思いようユーモア短編集 (25)九死(きゅうし)に一生(いっしょう)

2020年11月26日 00時00分00秒 | #小説
 その旅客機に乗っていなかったから九死(きゅうし)に一生(いっしょう)を得た! というような実話がある。まあこれは、キャンセル待ちでその旅客機に乗ってお亡(な)くなりになった方からすれば、九生(きゅうしょう)に一死(いっし)! となる訳で、誠に忍びない話なのだが、こんな人間ドラマが展開するのが人の世なのである。くわばら、くわばら!^^
 川山は、旅の途中で、はて、どうしようか? と迷っていた。予定の帰着時間までには、まだ少し時間があった。時間があるからA地点からB地点へ移動して楽しむという選択肢も当然、あった。その川山が迷いに迷った挙句、やはり目的だけ果たして帰ろう! と腹を決め、半時間が経った。駅へ向かうビルのテレビ画面に、B地点で起きた大惨事のニュ-スが報じられ、映し出されていた。その瞬間、川山は九死に一生を得たことを実感した。
 気弱な私の場合の九死に一生への思いようは、転(ころ)ばぬ先の杖(つえ)・・くらいの気分です。^^

                    

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

思いようユーモア短編集 (24)宝くじ

2020年11月25日 00時00分00秒 | #小説
 夢のような気分を買うのが宝くじである。〇千万円が当たったら家を買って旅行して、美味(おい)しいものを鱈腹(たらふく)食べて、高級外車を乗り回して、豪遊して・・と、思いようは、どんどん膨(ふく)らむ訳だ。^^
 島壺(しまつぼ)は宝くじ売り場でジィ~~っと張り出された当選番号を見ていた。今までジィ~~っと見て当たった例(ためし)がなく、今回も思いようはダメだろうが…くらいの気分だった。そして結果は、やはりダメだった。ダメでもいつかは…というのが島壺の思いようだったが、今回で数十回ともなると、さすがにその熱い気分も萎(な)えていた。そのときである。知らない男が島壺と同じように当選番号を見ようと島壺の横に立った。
「ほう! あなたも買われたんですかっ?」
 ふと、訊(たず)ねられ、島壺は買ったからここに立ってんだろうがっ! とイラついたが、グッ! と抑(おさ)えて、「はあ、まあ…」と暈(ぼか)した。
「私は第●◇▽回を買ったんですが、あなたは●▽◇回でしたか?」
 その男は島壺の宝くじ番号に目をやりながら、ボソッと言った。そのとき、島壺はハッ! とした。島壺の見ていたのは●◇▽回の当選番号だったのである。第●▽◇回の当選番号はその隣に掲示されていた。島壺は慌(あわ)てて隣の当選番号に食い入った。すると、あった! あったのは当たったということである! ただ、それは最下位の等の当たりくじだった。
 宝くじは当たればっ! という、ればっ! の思いようで買うのが肝心だろう。期待は抱かず、夢を抱きましょう!^^
 
                    

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

思いようユーモア短編集 (23)見込み

2020年11月24日 00時00分00秒 | #小説
 誰だって見込みが薄(うす)いより濃(こ)い方がいいに決まっている。^^ いや! 私は薄かろうと濃かろうと、やるだけっ! と、コトの成否(せいひ)や成就(じょうじゅ)、不成就を気にされない思いようの方々もおられるだろうが、そういう上出来な方々は除(のぞ)かせていただいて、世間で暮らす普通の俗人(ぞくじん)を対象としたお話である。^^
 大学生の友人同士の会話である。
「でっ! 採用される見込みはあるのっ!?」
「いや、それがね。なにせ面接の数が多かったからさっ! 今一、自信がないんだっ!」
「それにしては豪(えら)く元気じゃないかっ!」
「ははは…まあ、少なからず見込みはあるように思ってるからなっ!」
「自信があるってことか?」
「ああ、まあな…」
 その二日後である。
「どうした!? 元気がないじゃないかっ!」
「はあ、それが見込み違いでダメだったんだっ!」
「ものは思いよう! 次があるさっ!」
「ああ、まあな…」
 そのまた二日後である。
「今日は元気だなっ! 落ちたと思ったら採用だった・・なんて、それはねぇ~かっ!」
「いや、実はそうなんだ! 採用辞退があったらしくて、補欠の俺が採用されたって訳!」
「よかったじゃねぇ~かっ! 俺は親父の家業があるから人ごとだがなっ!」
「ははは…お前の見込みは完璧(かんぺき)だからなっ!」
「ああ、まあな…」
 二人は爆笑した。
 思いようにもよるが、見込みは変化しやすいから軽く考えた方がいいようだ。^^いより濃(こ)い方がいいに決まっている。^^ いや! 私は薄かろうと濃かろうと、やるだけっ! と、コトの成否(せいひ)や成就(じょうじゅ)、不成就を気にされない思いようの方々もおられるだろうが、そういう上出来な方々は除(のぞ)かせていただいて、世間で暮らす普通の俗人(ぞくじん)を対象としたお話である。^
 大学生の友人同士の会話である。
「でっ! 採用される見込みはあるのっ!?」
「いや、それがね。なにせ面接の数が多かったからさっ! 今一、自信がないんだっ!」
「それにしては豪(えら)く元気じゃないかっ!」
「ははは…まあ、少なからず見込みはあるように思ってるからなっ!」
「自信があるってことか?」
「ああ、まあな…」
 その二日後である。
「どうした!? 元気がないじゃないかっ!」
「はあ、それが見込み違いでダメだったんだっ!」
「ものは思いよう! 次があるさっ!」
「ああ、まあな…」
 そのまた二日後である。
「今日は元気だなっ! 落ちたと思ったら採用だった・・なんて、それはねぇ~かっ!」
「いや、実はそうなんだ! 採用辞退があったらしくて、補欠の俺が採用されたって訳!」
「よかったじゃねぇ~かっ! 俺は親父の家業があるから人ごとだがなっ!」
「ははは…お前の見込みは完璧(かんぺき)だからなっ!」
「ああ、まあな…」
 二人は爆笑した。
 思いようにもよるが、見込みは変化しやすいから軽く考えた方がいいようだ。^^
 
                    

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

思いようユーモア短編集 (22)あの日

2020年11月23日 00時00分00秒 | #小説
 いいも悪いも、あの日…という頭に浮かぶ思い出が皆さんにもお有りのことと思う。まあ、勝手な思いようとはいえ、誰もが思い出したいのはいいあの日に違いない。悪いあの日など、浮かんだとしても、すぐ忘れたいくらいのものである。私もそう思える。いわゆる、『me too.』ってやつだ。^^
 鳥肌(とりはだ)はいい湯加減の風呂に浸(つ)かりながら、ふと、思い出したくもない悪いあの日を思い出していた。冬山で遭難しかけ、かろうじて緊急避難のビバ-グで助かった寒疣(さむいぼ)が出そうな思い出である。瞬間、身体は最高に温まり、気分は真逆に冷えてしまった。これでは、なんのために湯舟に浸かったのか? が分からない。鳥肌は忘れようと、湯舟にドボン! と顔を浸けた。すると突然、鳥肌の脳裏に海水浴で日光浴をしているあの日が浮かび始めた。鳥肌としては、やれやれ…である。あの日は、こうでなくっちゃ! ぐらいに気分に回復した。そのとき、浴室の外から突然、妻の声が響いた。
『いつまで入ってるのっ!! シチュ-が冷(さ)めちゃうわよっ!!』
「…」
 鳥肌の心は、ふたたび冷え始めた。
 あの日を思い出すにも、TPO[時(time)、所(place)、場合(occasion)]が必要になる訳だ。^^
 
                    

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

思いようユーモア短編集 (21)流れ

2020年11月22日 00時00分00秒 | #小説
 世の中の流れには見えない一定のサイクルがある。それが何なのか? は場合によって違うものの、形を変えながら同じような繰り返しで流れているという。逆(さか)らわず、その流れの方向へ進めば人生は上手(うま)くいく訳だが、それが分からない。分かれば誰も苦労はしないのだが、見えないのだから仕方がない。この男、低橋(ひくはし)も、世のいい流れを求めて生きる一塊(いっかい)のサラリ-マンだった。分かりよく言えば、平サラリ-マンということである。
「低橋さんっ! 課長がお呼びですよっ!」
「課長がっ! 僕をっ! …珍しいことがあるもんだなっ! いつもは、『そこにいたのか…』くらいなのに?」
「いや、何か訊(き)くことがあるとか、なんとか…」
「そうなのっ!? 世間の流れに取り残されたような僕にっ!?」
「ははは…取り残されてはおられないでしょ!」
「だって今、君、笑ったじゃないかっ!」
「失礼っ! まあ、そういうことですので…」
「分かった…」
 低橋は川の流れに微動だにしない岩のような重い腰を上げ、課長席へと向かった。課長席では課長の屋形(やかた)が長時間、舟に乗ったような顔で、今か今かと待っていた。
「遅(おそ)いじゃないかっ! 低橋君っ!!」
「いやぁ~、課長が僕を呼ぶなんて、何かの間違いじゃないか? と思いましてねっ!」
「いや、それがね…。ははは…まあ、いいじゃないかっ!」
「でっ!」
「出も入りもないが、どうなんだろうねっ?」
「何が、ですっ?」
「いや、次の議会の質問だよっ!」
「それを僕にっ!?」
「まあ、無茶な質問は飛ばないとは思うが…」
「ああ! その流れは大丈夫です。知り合いの波間(なみま)議員が、そう言っておられました」
「大丈夫って、どう大丈夫なんだっ!?」
「昨日(きのう)、僕が準備してお渡ししたコピ‐の内容でしたからっ!」
「あっ! そうなのっ! ははは…なら、いいんだよっ! ははは…」
 議会の流れは大丈夫と見た屋形は、ははは…と舟の上で酔いしれたかのように二度も笑った。
 ものは思いようで、流れを知ると、安心して笑えるのである。^^

                    

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

思いようユーモア短編集 (20)主役

2020年11月21日 00時00分00秒 | #小説
 人はどういう訳か気分が左右して染まりやすい。例えば、映画を観る前と観たあとでは明らかに違う。いかにも自分が今観た映画の主役になったような気分で映画館を出たりするのである。顎崎(あごさき)もそれを代表するような男だった。
 映画の終わったあとの顎崎である。彼が観た映画は、クラシカルなウエスタン映画で、主役の賞金稼ぎが格好よく悪者(わるもの)を銃(じゅう)でやっつけ[過去の時代背景だから許された殺戮(さつりく)で現代だと無期刑か死刑になります^^]、格好よく去っていく・・という荒筋(あらすじ)だ。顎崎は完全に強い主役になり切っていた。
 顎崎は駅前のラ-メン屋の暖簾(のれん)を潜(
くぐ)った。
「何になさいますっ!」
「どうも、冷えていけねぇやっ! マスタ-、熱いところを、こさえてくれっ!」
 ラ-メン屋の店主は、マスタ-と呼ばれたのは初めてだ…とは思ったが、そこはスル-して流した。
「へへへ…熱いのもいろいろありやすが…」
「だなっ! 醤油豚骨(しょうゆとんこつ)にするかっ…」
「? …醤油ですかっ? 豚骨ですかっ?」
「だからっ! 今、言ったろっ!? 醤油豚骨だっ!」
「ですから、どちらをっ?」
「分からねぇ~マスタ-だなっ! 醤油べ-スの豚骨味よっ!」
「へいっ!」
 店主は、分からないのはあんたでしょうがっ! とは思ったが、そうとも言えず笑って暈(ぼか)した。
「それでいいのよっ! 主役は他とは違うのよっ! 他が食うもんは食わねぇ~のさっ!」
「さようで…」
 店主は、そんなこたぁ~ねぇだろう…とは思ったが、反発せず、ふたたび笑顔で暈した。
 主役がすべて他の者とは違う・・というのは個人的な先入観による思いようで、そんなことは決してないのである。^^

                    

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする