水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

涙のユーモア短編集 (46)ドラマ

2023年09月30日 00時00分00秒 | #小説

 テレビだけでなく現実の世界でもドラマのような出来事はある。そんなドラマのような出来事が起これば人は感動し、自ずと涙するものだ。ただ、そんなドラマのような出来事は現実にはほとんど起こらない。そればかりか、泣きたくなるような辛(つら)い出来事が後を絶たないのである。こんな悲しいドラマのような涙は誰だって嫌である。今現在、ヨーロッパで現実に起きているドラマのような悲しい戦いは一日も早く終わってもらいたい…と、誰しも思っていることだろう。むろん、私だってこんなドラマのような悪い現実のドラマはすぐにでも…と思える。ドラマのような第三勢力の出現で、この戦いがたちまち終わったり、放射能のガイガーカウンターの数値が0になるような物質や方法の発明発見のドラマが起きて欲しいものだ。放射能を0に出来れば核兵器の存在価値もなくなり、核廃棄物の最終処分地問題も消え去る訳です。こんな人類の未来が開ける現実のドラマはいかがでしょうか?^^ 今日はそんなドラマのようなお話です。
 とある研究所である。
「し、所長っ!! き、消えましたっ!!」
「なにが?」
「ほ、放射能がゼロにっ!!」
「んっな馬鹿な…。どれどれ」
 所長はガイガーカウンターのメーター数値を見つめた。
「おおっ!! こ、これはっ!!」
「ぅぅぅ…し、所長、や、やりましたっ!!」
「ああ、よくやったっ!!」
 二人は手を取り合いながらドラマのような現実に涙した。
「ぅぅぅ…」
「で、どうやったんだ?」
「えっ!? ゴチャゴチャやってるうちに…」
「分からないのかい?」
「はあ…」
 ドラマのような現実の涙は、すぐ消え去るのです。^^

                   完


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涙のユーモア短編集 (45)無念

2023年09月29日 00時00分00秒 | #小説

 無念で流れる悔(くや)し涙がある。この涙ほど心を攻苦しめるものはないだろう。今日はそんなお話である。
 とある商店街の一角に新しく開店したラーメン店の店前である。美味(うま)いという評判が広がったのか、朝の八時だというのに長蛇の人の列ができている。開店は十一時だから、まだ優に三時間はあるのだが、並ぶ人は当然の態で、別にイラつく様子もなく並んでいる。豪の者は折り畳み椅子に座り、持参の新聞を広げ、コンビニで買ったと思える牛乳パックをチュバチュバとストローで吸いながら、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)の態で揚げパンを齧(かじ)っている。
 そして待ちに待った開店の時間となった。店の入り口を店員が開けると、我先にっ! と言わんばかりに人々は店の中へ入ろうと動き出した。
「ま、待ってくださいっ! ニ十人以上は無理ですっ!」
 狭い店らしく、店員が雪崩れ込もうとする客に警告する。
「こ、ここまでですっ!」
 満席になったのを見届け、店員は、後の客を手を広げて制止した。そして、少しずつ入れ替えがあり、それでもまだ入れない客の列は絶えなかった。そして昼三時過ぎとなった。全員の入店は無理と見たのか、店員がまた、口走った。
「すみませんっ! 今日は入れませんので、明日お並び下さい~~っ!」
 その声を聞いた客はゾロゾロと去っていった。
「ぅぅぅ…お願いしますっ! なんとか、入れてくださいっ! 私これで五度目なんですっ!」
「そんなこと言われましてもねぇ~。もう麺が品切れなんで、食べてもらえないんですよ、お客さん…」
 店員は事情を縋(すが)る客に話した。
「ぅぅぅ…」
 縋る客は、とうとう無念の大粒の涙を流し始めた。
 美味(おい)しいものが食べられないと、無念の涙が流れるのです。^^


                   完


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涙のユーモア短編集 (44)痛いっ!

2023年09月28日 00時00分00秒 | #小説

 (26)で痛いを書いたが、本当に痛いのは痛いっ! で、涙が出る。この痛いっ! と思える感覚は身体的な場合もあるだろうし、心理的な場合もあることだろう。今日は、そんな痛いっ! と感じたときに溢(あふ)れる涙についてのお話である。^^
 とある医院である。仕事場でケガをした現場作業員でレギュラー患者の豚川(ぶたがわ)が診察椅子に座り、医者の牛尾(うしお)と診察後の対話をしている。
「痛けりゃ涙が出るんですかっ!?」
「そりゃ、痛けりゃ涙が出るのは当然でしょ!」
 牛尾はすぐに言い返す。
「痛けりゃ涙が出るって言われますがねっ! 鶏冠(とさか)屋の奥さん、涙流してませんでしたよっ!」
 鶏冠屋はこの町に一軒だけの酒屋である。
「そりゃ、あなた…。そういう人も、いるにはいますよっ!」
「ほらっ! いるじゃないですかっ!」
「ええ、いらっしゃいますよっ! しかし、それはごく僅(わず)かな人でしょ! フツウ~の人は、痛けりゃ涙を出しますよっ!」
「いやいや、涙を出さない人は多いと思いますよっ!」
「先生っ! あとの患者さんが待ってますっ!!」
 長びく二人の会話を見かねた女性看護師が、二人の話に分け入った。
「んっ? ああ、そうだったね…。じゃあ、この話の続きは次回ということで…」
「はい。どうも…」
 豚川は診察椅子を立つと、素直に頷(うなず)いて診察室を出た。
 痛いっ! と感じたとき、涙を出す人出さない人は、人それぞれということではないでしょうか。^^

                   完


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涙のユーモア短編集 (43)疑問

2023年09月27日 00時00分00秒 | #小説

 悲しみが一定限度を超えれば涙は出ないのは疑問の一つだ。そこへいくと、あんたは関係ないだろっ!? と疑問が湧く人が涙する人がいるが、それほど涙とは不思議なものといえるだろう。^^
 とある事故現場である。
「何かあったんですかっ!?」
 通りかかった人が立ち止まって事故現場を見守る一人の人に、後ろから訊(たず)ねた。
「いや、私も分からないんですがね。なんか前の方であったみたいなんですが、泣く人以外、見えないからよく分からないんです…」
「そうなんですか…。なんだろ?」
 通りかかった人も立ち止まり、その見守る人の一人になった。そうこうして、後ろから訊ねて立ち止まる人の数は増え、見守る人の数は大きな群衆へと変化していった。恰(あたか)もそれは、ウイルスのようにである。^^
 しばらく時を経て、その原因が何だったのかがわかった。涙を出していた人は、当たった宝くじ券を道端で立ち止まってニヤリと見ていたとき、一陣の風が舞い、どこかへその当たり券が吹き飛ばされ探していたのである。ところが、どうしても見つからなかった・・という訳だ。見守る人の群衆は原因が分かったあと、跡形もなくすぐ消え去ったという。
 このように涙とは、疑問が湧くときに流れ出るもので、訳が分からない神出鬼没なもののです。^^

                   完


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涙のユーモア短編集 (42)惜敗(せきはい)

2023年09月26日 00時00分00秒 | #小説

 手に汗握る対戦で相手や相手チームに惜敗(せきはい)したときほど悔(くや)しいものはないだろう。当然、ぅぅぅ…と涙が出るものだ。今日は(41)に続き、とある力士のその後の話である。
 相手力士にうっちゃりで惜敗したとある力士は、とある相撲部屋へ肩を落として帰ってきた。迎えたのは、とある相撲部屋のとある親方だった。
「惜(お)しかったな…」
 親方は軽くとある力士の肩を叩(たた)いた。
「はい、悔しいです親方っ! ぅぅぅ…」
 とある力士は大粒の涙を流し、泣き始めた。
「馬鹿野郎っ! 泣くやつがあるかっ! お前は、だから負けるんだ。なぜ負けたか? それをどうして考えんっ!」
「どうしてですかっ!」
「馬鹿野郎っ! それをお前が考えるんだろっ! 体の動き、気力、瞬間の判断・・いろいろあるだろうが、それはお前にしか分からんっ! まあ、今日は美味(うま)いピールを冷やしておいたから、それでも飲んで、寝床(ねどこ)でじっくり考えろっ!」
「はい…」
 とある力士は親方に慰められ、美味いピールを飲みながら寝床で考えた。考えるには考えたが、そのうち睡魔がとある力士を襲った。睡魔に襲われ、ウトウトしかけたとある力士だったが、そのとき、ハッ! と、とある自分の発想に気づき、目覚めた。睡魔をうっちゃったのである。睡魔は押し出され、軽く頭を下げると、スゥ~っととある力士の体内から消え去った。惜敗の原因は取り口の悪い癖だった。癖は頭が高い・・という姿勢の問題だったのである。
 次の場所以降、とある力士はペコペコと頭を低くして相撲を取っている。すでに三役は決まったらしい。
 睡魔を押し出せば、自ずと頭は低くなり惜敗の涙を流す一番は減るようです。^^

                   完


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涙のユーモア編集 (41)今一歩のところで…

2023年09月25日 00時00分00秒 | #小説

 大相撲の本場所が始まろうとしている。この男、苔岡(こけおか)の家でもテレビが賑やかに熱戦の様子を映し出していた。
『ええ、そう思いますよ。いい技持ってんですから、もっと磨けばいいと思うんです』
『来場所あたりは三役に上がれますかね?』
『ええ、勝ち越せば上がれると思いますよ。技は出せますし素質は十分にあるんですから期待しましょう』
 中継アナウンサーと解説者の親方が、とある力士を弄(いじ)っている。その映像を観ていた苔岡は思わず涙した。
「ぅぅぅ…そうなんだよ、いい技(わざ)持ってるのになぁ~。どういう訳か上がれないんだよ」
 先場所もとある力士は今一歩のところで三役を逃がしてしまっていたからである。そして、この日の取り組みが制限時間いっぱいになった。勝てば念願の三役である。対戦相手は分のいい力士だから、今度こそ…の期待を苔岡は抱いていた。が、しかし、得意技を出したものの詰めが甘く、今一歩のところで、うっちゃられて負けてしまったのである。
「負けか…」
『今一歩の力士ですね』
『そうです、今一歩のところでした。来場所の三役はダメになりましたが、その次の場所もあるんですから…』
 アナウンサーの言葉に解説者はその場しのぎの慰めを言った。
「もう、いいっ! ぅぅぅ…もう、いい!!」
 とある力士を応援する苔岡の目に涙が光った。
 今一歩のところで…負ける力士を応援すれば、目には涙が光るのです。^^

                   完


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涙のユーモア短編集 (40)泣き落とし

2023年09月24日 00時00分00秒 | #小説

 泣き落としの涙ほど演技力がいる涙はない。^^
 とある年の歳末風景である。出版業界の会社、凸凹出版は大手のフラットに押され、会社存続の危機に見舞われていた。
「ぅぅぅ…ですから、お願いしますよっ! 鱈腹(たらふく)さんっ!」
 凸凹出版の社長、河豚尾(ふぐお)は荒波銀行の頭取、鱈腹に平身低頭、頼み込んでいた。というのも、銀行融資が滞れば、年末の手形が不渡りになる恐れがあったからである。
「そうは言われますがね。あなたの会社は業績が今一という結論が出てましてね…」
「ぅぅぅ…そこをなんとかっ! このままですと、年が明けりゃ私は首を吊(つ)らねばなりませんっ!」
 河豚尾は何を思ったか、応接椅子を立つとフロアに正座し、土下座をしながら涙を落とした。
「…お、おやめください、河豚尾さんっ!」
 鱈腹は、勝手にやってろ! とも言えず、紋切り型の言葉を吐いた。
「でしたら、ご融資をっ! ぅぅぅ…」
「弱りましたな…それじゃまあ、今回だけは特別に…。いいですか、今回だけですよっ!」
 河豚尾の得意技、涙の泣き落としが炸裂(さくれつ)し、鱈腹は、ついに泣き落としに屈したのである。
 このように、涙の泣き落としを演じる演技力さえあれば、会社は救われるのです。^^

                   完


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涙のユーモア短編集 (39)別れ[2]

2023年09月23日 00時00分00秒 | #小説

 (24)に続き、また別の別れ話である。^^
 人とは妙なもので、再会したときや思わぬ出会いがあったときには喜ぶが、別れとなればどういう訳か悲しむ性質を有している。まあ、人の性(さが)だと言ってしまえばそれまでだが、別れるというただそれだけの理由で涙する知的動物なのである。別れというだけで涙を流さずともいいだろう…と思えるのだが、今日もそんなお話である。
 蕗川(ふきかわ)は五月晴れの一日、日課にしている家庭菜園の手入れをしていた。日々、見ている菜園だから、どの位置に何が植えられているか・・は、頭の中に細かくイン・プットされていた。
「おやっ!? こんなところに植えたかな…?」
 ふと見れば、昨日までは気づかなかった植物が芽吹いているではないか。蕗川は疑問に思いながら訝(いぶか)しげに首を傾(かし)げた。ただ、過去にもそういうことがあるにはあったから、鳥が落とした糞(ふん)の中の種子が芽生えたに違いない…と推測した。ただ、何という名の植物かは分からなかった。
「まあ、育ててみるか…」
 そう呟(つぶや)くと、蕗川はいつもの植栽管理の見回りを続けた。
 そして半月ばかりが過ぎ去ったとき、自然と生えたその植物の名が判明した。なんと、その品種は世界でも超レア[過少価値]な品種で、我が国ではどういう訳か育たない・・とされている梅干草だと判明した。
「う、梅干草だ…」
 蕗川は図書館の植物図鑑の写真をマジマジと見ながら確信した。さてそうなれば、これからこのまま育てていいものかどうかが気になる。蕗川は植物園に電話をしてみた。
『ええっ!』
 はい、で、どうしたものかと…」
『わ、分かりました。ご住所はどちらですか?』
 植物園の職員はコトの詳細を蕗川に訊(たず)ねた。
 その後、蕗川はテレビ出演などを経て世間に知れ渡る人物となっていった。ただ、その頃から蕗川は時折り涙するようになった。理由は、超希少価値のある梅干草を自宅の家庭菜園から半強制的に持っていかれた・・というものだった。
『没収されるくらいなら、黙って育てていた方がよかった…』
 蕗川にとって悔(く)いが残るのは、ただその一点だった。そして今もまた、蕗川は梅干草を思い出しながら、時折り涙しているということである。
 有名になるだけが、最良の道ではない・・という涙するようなお話でした。^^

                   完


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涙のユーモア短編集 (38)演歌

2023年09月22日 00時00分00秒 | #小説

 過去の短編集でも何度か登場した演歌のお話である。演歌に涙は欠かせない。薄幸の演歌歌手、若草鹿美にも、ついに、幸せの息吹(いぶき)が芽生えようとしていた。待ちに待った念願の紅白出場の知らせが届いたのである。ただ、事実を言えば、オファーされた超有名女性歌手、焼鳥串代と局とのイザコザによるドタキャン騒ぎがあり、その穴埋めに抜擢されたのが若草鹿美という内情があった。むろん、そんな内情があったことを若草鹿美や彼女のマネージャーは露(つゆ)ほども知らない。
「鹿美ちゃん、よかったなっ!!」
「占部(せんべ)さん、有難うございますっ!」
「ぅぅぅ…」「ぅぅぅ…」
 二人は手を取り合って感涙に咽(むせ)んだ。大粒の涙が二人の頬(ほお)を伝う。CDの売り上げ枚数が数十枚だった頃の記憶が二人の脳裏を掠(かす)めた。
 そして数日が経ったときである。事務所のテレビリモコンを押した占部は映し出された画面に思わず唸(うな)った。
『トラブルにより出場辞退された焼鳥串代さんと局との和解が成立し、紅白出場がふたたび決定しました…』
「フゥ~ン、そんなことがあったのか。まあ、うちの事務所には関係ない話だ…」
 占部は小さく呟(つぶや)くと、淹(い)れた焙煎コーヒーを美味(うま)そうに啜(すす)った。そのとき、事務所の電話が静かに鳴った。
「はい、大仏(おさらぎ)ミュージックですが?」
『以前、お電話させていただいたプロデューサーの猿沢と申します。もう、ご存じかと存じますが、そんなことで、今回の話はなかったということで…』
「ええっ!! そんなっ!! 紅白はダメなんですかっ!?」
『はい、誠に残念ではありますが…。来年を期待していてください。それじゃ…』
 逃げるような猿沢の電話を切る音が占部の耳に届いた。占部は彼女にどう話していいものか…と、しばし目を閉ざした。
 その後がどうなったのか? 私は知らない。しかし、二人が別の意味で涙したことは疑う余地がないだろう。孰(いず)れにしろ、演歌に涙は付きもの・・というのが結論のようです。^^

                   完


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涙のユーモア短編集 (37)締め切り

2023年09月21日 00時00分00秒 | #小説

 とある有名作家の書斎である。応接室では、担当編集者が締め切り原稿を待っているのだが、有名作家は筆がさっぱり進まず、アングリした顔で机に置いた女性歌手の写真を愛(いと)おしげに見つめるだけだった。年甲斐もなく彼女のコンサートに通いつめる熱烈なファンだったのである。^^ 小一時間が経ち、やがてまた半時間が過ぎ・・それでもまだ発想が浮かばず、白紙の原稿が今か今かと待っていた。ついに有名作家は握った万年筆のキャップを締めると原稿用紙の上で転がし始めた。が、それで発想が浮かぶというものでもない。
「先生、まだですかっ! 僕、これから行くところがあるんですけどっ!」
 担当編集者は辛抱堪らず、応接室を出ると書斎のドア前で喚(わめ)いた。実は行くところなどどこもなかったのである。しかし、原稿を持って帰らないと、編集長にこっぴどく叱(しか)られるのは目に見えていた。そんな理由で、出鱈目を口走ったのである。
「…んっ!? ああ、すまないね。もう、ちょっとだから…」
 もう、ちょっとどころか、少しも筆は進んでいなかったのだが、有名作家はドア越しに出鱈目を口走った。
「…分かりましたっ! 早くお願いしますよっ!!」
 そして時は静かに過ぎていき、夕方になった。
「先生っ!! ぅぅぅ…お願いしますっ!」
 我慢の限界を超えた担当編集者は、ついにドア前で涙を流し始めた。
「ぅぅぅ…もう少し待ってくれっ!」
 全然、発想が浮かばない有名作家は、ついに書斎で涙を流し始めた。
 締め切りに追われると、涙が流れ出るのです。^^

                   完


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