水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疲れるユーモア短編集 (79)明日(あした)

2021年04月30日 00時00分00秒 | #小説

 明日(あした)はコレコレだから、アアしてコウして…と前日に考えれば当然、疲れる。身体の疲れではなく気疲れの方だ。ならば、考えなければ疲れることがないのか? と問えば、そうとも言えないのだから困ったものだ。明日どうするか? という先の備えがないから、なんともいえない不安に苛(さいな)まれる訳だ。^^ どうせそうなら、考えておいた方が少しは助かるだろう…という結論に至る。ははは…明日は明日の風が吹くさっ! と笑える図太い心の持ち主になってみたいものだ。^^
 とある会社の社長室である。
「君、明日の予定はどうなっとるんだっ?」
「は、はい。しばらくお待ちをっ。ええ…8時40分から豚尾銀行の肉川頭取との会合が、まずございます」
「またまたっ! どうして君は、いつもそういう中途半端な時間を予定に入れるんだっ!」
「はあ。そうは申されますが、先方のご都合でございまして…」
「そこを何とかするのが秘書課長の君の仕事じゃないかっ!」
「はあ、力足らずで申し訳ございません…」
「本当に力足らずだよ、君はっ! ああっ!! 明日のことを思うだけで頭痛がして疲れるっ! ったくっ!!」
「申し訳ございませんっ!!」
「もう、いいからっ!! 下がりなさいっ!」
「ははっ!! では、何かありましたらお呼びをっ!」
「ああ…」
 社長は何かあっても呼ぶもんかっ! …と決意した。疲れるからである。^^
 明日は明日の風が吹く…気分で出来る仕事が疲れることなく、いいようだ。

                   完


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疲れるユーモア短編集 (78)皮(かわ)

2021年04月29日 00時00分00秒 | #小説

 漢字の部首に病垂(やまいだれ)というのがある。疾、疼、症、痒…など、この垂(たれ)の漢字は多くある訳だが、概して言えることは、すべてが病(や)んだ状態を表す漢字だということだ。なぜ羊(ひつじ)さんが病むと痒(かゆ)いのかが分からないが、^^ 同じように、なぜ皮(かわ)が病む状態が疲れるのかも分からない。^^ 今日はそんなお話だ。
 東海道小学校、六年二組のとある授業中である。
「先生! ウイルスも食べるんですかっ?」
「んっ!? 藤枝君、君はどう思うんだっ!?」
 唐突(とうとつ)に質問された教師の掛川は、教室内の多くの生徒を前にして恥をかく訳にもいかず、逆に訊(たず)ね返した。
「僕は食べるって思うんですっ!」
「ほう! 食べるのか。なぜ、そう思うんだっ?」
「だって増えていくでしょ? 増えていくには食べなくっちゃ!」
「なるほどっ! エネルギーが必要って訳だな」
「そうだと思います。食べれば出しますよね?」
「出すっ!? 何をだっ?」
「何をって、先生は食べれば出さないんですか? うんち」
 教室内は爆笑の渦(うず)になった。
「そ、そら、先生だって食べれば出すさっ!」
 教師の掛川は内心で、疲れる授業だな…と、思わず眉間(みけん)に皺(しわ)を寄せた。
 疲れた…と思えば、眉間に皺が寄り、皮が疲れるのである。^^

                   完


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疲れるユーモア短編集 (77)熟(こな)す

2021年04月28日 00時00分00秒 | #小説

 熟(こな)す・・とは思っていたことをやり遂げることである。当然、やってしまわねばならない…と意気込まなければならないから疲れることになる。^^ やってしまわねばならないことはない…と思えばいい訳だが、世の中、そうは問屋(とんや)が卸(おろ)さず、熟さねばならない訳だ。^^
 とある片田舎の魚屋である。主人が店頭に並べた鮮魚(せんぎょ)を見ながら腕組みをしている。どうも思案気(しあんげ)な様子だ。そこへ奥から、おかみさんが顔を出した。
「あんた、どうしたんだいっ! 腕組みなんかしてさぁ~」
「なんだ、おっ母(かあ)か…。いや、なんでもねぇ~んだがな。この魚、売っちまわねぇ~となっ!」
「そりゃ、そうさっ! 売っちまわないと、あんた。払いもあるんだからさぁ~」
「ああ…。そうは言ってもなぁ~。買うのはお客だからなっ!」
「でもさぁ~、熟さないとさぁ~」
「ああ、そりゃ、そうなんだが…」
「心(こころ)一つさっ! 売れるっ! って思やぁ~売れるさっ!」
「ははは…お前の言う通りだっ! 一つ、意気込んで熟すとするかっ!
「ああ、その意気だよっ! 熟すさっ! 疲れるけどねっ!」
「ああっ!」
 二人は決意を新たにお客を待ち続けた。その意気込みが通じたのか、お客が一人…また一人とやってきた。熟せたのである。^^
 熟すには、疲れるのを覚悟で意気込み続けることが大事なのである。^^

                   完


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疲れるユーモア短編集 (76)自然体

2021年04月27日 00時00分00秒 | #小説

 自然体で暮らせば疲れることはない。^^ 世間は人の自然体を壊(こわ)そうと虎視眈々(こしたんたん)とつけ狙っているのだ。^^ それはウイルスのように近づき、人を拘(こだわ)らせるという手法を使う場合が多い。^^
 とあるラーメン店の店前である。人気があり、多くの人が長蛇(ちょうだ)の列をなしている。
その最後尾(さいこうび)に自然体で並びながら本を呼んでいる男がいる。
「あなた、よくこんな人込みの中で本が読めますねっ!」
 呆(あき)れ返ったように、その男に近づき、後ろへ並んだ男が思わず声をかけた。
「えっ!? ああ…わたしゃ全然、気にならんのですわっ! ははは…」
「気にならない? ああ、そうなんですか…。どれくらい並んでおられるんです?」
「んっ!? ああ、そうですね。かれこれ半時間くらいですかな、ははは…」
 本を読む男は腕を見ながら、自然体でそう言った。
「あと、どれくらいかかります?」
「店に入れるまで、ですか?」
「はいっ!」
「そうですね、いつもは、あと半時間ってとこですかな、はははは…」
 本を読む男は、[は]を一つ多めに、自然体で笑った。最後尾の男は、『こりゃ、疲れる…』
と思えたのか、自然体を捨て、他の店へと立ち去った。
 自然体で待つのが、疲れることから逃(のが)れられる最良の道なのである。^^

                   完


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疲れるユーモア短編集 (75)やり遂(と)げるっ!

2021年04月26日 00時00分00秒 | #小説

 何をするにも、やり遂(と)げるっ! と行動を続けるには、疲れるから相当な意気込みが必要となる。普通の場合は、まあ、食べてからでもいいか…などと中断することで、お釈迦さま[ダメ]になるケースが多い。手術の途中で中断し、患者さんを放っぽらかしてお店の美味(うま)い鰻重(うなじゅう)を頬張(ほおば)っていては、助かる命も助からないだろう。^^ 釈迦如来さまではダメで、疲れることを覚悟して、そこは薬師瑠璃光如来さまっ! と、いきたいものだ。^^
 緊急事態宣言が発せられ、七都府県は震撼(しんかん)していた。とある親子の会話である。
「どうなんだろうね…?」
「なにがだ…?」
「ウイルスのワクチン…」
「ワクチン? ああエビ…いや、あれは美味かった。…アビガンとか総理が仰(おっしゃ)ってたな…」
「そう! 出る弟子…違った! デフデシベル? とかの話も出てたよっ!」
「ああ、孰(いず)れにしろ、一過性(いっかせい)だなっ!」
「一家性(いっかせい)?」
「ああ、一過性。今回は終息したとしてだ。それに打ち勝つ抗ウイルスが出てきたらどうするんだっ! 耐性菌っ!」
「耐性菌っ!?」
「ああ、耐性菌。完全な一件落着じゃないだろっ!」
「医学の研究開発にかかってる訳だ…」
「発想の転換が必要になるんじゃないかっ…」
「発想の転換!?」
「ああ、発想の転換! 抑(おさ)えるってのはなっ! 死滅させなきゃ!」
「疲れる研究だねっ!?」
「ああ、疲れる研究だが、頑張ってもらわんとなっ!」
「そうだねっ!」
 二人は疲れる会話をやめ、熱い茶を啜(すす)りながら店屋物(てんやもの)の特上鰻重(うなじゅう)を頬張(ほおば)った。
 疲れることにスタミナは欠かせない。^^


                   完


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疲れるユーモア短編集 (74)我慢(がまん)

2021年04月25日 00時00分00秒 | #小説

 我慢(がまん)にもいろいろとパターンがある。その違いによって、気分が疲れる疲れないといった差が生じることになる。例えば痩(や)せ我慢と言われる我慢は、そうしたい自分の気持を必死に抑える訳だから、かなり疲れることになるだろう。痛みを我慢するのも辛(つら)いし、見たいものを見ないとか食べたいものを食べないといった我慢も辛い。それらは、人によって違う訳で、同じ人の場合でも、その時々で違うといった差異が生じる。全(すべ)ての我慢に共通するのは、程度の差こそあれ疲れるということだろう。^^
 とある桜並木である。満開となった桜の下ではドンチャン騒ぎの花見の宴(うたげ)が催(もよう)されている。多くの人が受かれる中で浮かれない一人浮いた男、猫川がいる。
「ウイッ! 猫川さん、まあ、一杯っ!!」
「いや、私はいいです。私は桜を見に来たんですから…」
「そんな硬いこと言わずにっ! ウイッ! …どこかお悪いんですかぁ~?」
「いや、どこも悪いところは…」
「でしたらっ!」
 犬山は赤ら顔で2リットル缶のビールを猫川に勧(すす)めた。
「いや、ほんとにっ! お気持だけっ!」
 猫川は口ではそう言ったが、手は紙コップを持ち、ビールを呼んでいた。犬山はその紙コップへ2リットル缶ビールを注(そそ)ぎ入れた。
「ははは…グ、グッとっ!! ウイッ!」
 犬川は半(なか)ば酔った声で煽(あお)る。
「い、いやっ!!」
 猫川の口は必死に止めようとしたが、手は勝手に動いて口へと近づけた。そして、一気に飲み干させたのである。
「なんだっ!! いける口じゃないですかっ! もう、一杯っ!!」
 犬山はふたたび2リットル缶ビールを紙コップへ注ぎ入れる。
「い、いや、もう…」
 猫川の口は否定し続けたが、紙コップを持った手は勝手に口へと動いていった。そしてふたたび、グビグビッ…と飲み干させたのである。そんなことか二度三度続いたあと、猫川の手は勝手に動いて犬川の手から2リットル缶ビールを奪い取り、紙コップへ注ぎ入れ始めたのである。そして、語り口調も少し変化してきた。
「へへへ…我慢なんか、してられるかってんだっ!! ですよねっ!? 犬山さんっ!!」
「ええっ!? はあ…そら、そうですよっ! ウイッ!」
 二人はその後、いい赤色の茹(ゆ)で蛸(ダコ)
へと出来上がっていった。
 我慢は我慢が続けばメッキが剥(は)げ落ちるのである。我慢も疲れるということだ。^^


                   完


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疲れるユーモア短編集 (73)動く

2021年04月24日 00時00分00秒 | #小説

 人は動くと疲れる。ジィ~~っとしていれば疲れないのか? と問えば、必ずしもそうとは言えない。^^ というのも、身体(からだ)は疲れないが、心が疲れる・・という体調変化が往々(おうおう)にしてあるからである。人に限らず、動くから動物は動物なのであって、動かなければ、ただの物でしかない。^^
 とある公園である。
「おやっ? あの人、今日もまだ座ってるよっ!」
「だなっ! 他にすることないのかねぇ~~。あんなご身分になってみたいよっ!」
 日が昇り始めた早朝から公園のベンチに座っている老人を見て、前の道を通りがかった二人の老人が訝(いぶか)しく思えたのか、立ち止まって話し始めた。
「まあ、別に悪いことしてる訳じゃないからいいんだけどね…」
「ははは…そうそう! 一日中、公園のベンチに座ってちゃいけないっていう法律はないからっ!」
「そうそう! 自由、自由! しかし、疲れないのかねぇ~」
「元々、動く人じゃなかったとか…」
「動物じゃなく植物だってこと?」
「ははは…そこまでは言ってないっ!」
 二人の老人は、見ない振りをして通り過ぎた。
 動く動かないは、本人の自由なのである。それによって疲れる疲れないも、本人の自由なのである。^^

                   完


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疲れるユーモア短編集 (72)謎が謎を呼ぶ

2021年04月23日 00時00分00秒 | #小説

 謎が謎を呼べば疲れる。なぜかといえば、あ~~でもない、こう~~でもない…と推理を巡らし考えるからである。要は気疲れだ。^^ 考えなければ疲れることもないのだが、得てしてその方面の推理ドラマがお好きな方はお考えになり、結果としてお疲れになる・・といった寸法だ。^^
 とある普通家庭である。テレビがガナっている。テレビ前の座椅子を見れば、その家のご主人がテレビ画面に映る推理ドラマに見入っていた。するとそのとき、CMが急に流れ始め、ドラマは寸断されてしまったのである。丁度、ドラマが盛り上がる最高潮のクライマックスである。
「チェッ! いいところなのになっ!」 
 開口一番、ご主人は思いっきり愚痴った。そこへこの家の奥様が、現れなくてもいいのに現れた。^^ 奥さんとフツゥ~に書きたいところだが、山の神的な雰囲気からして奥様なのである。^^
「早く入って下さらないっ!!」
「んっ!? どこへ?」
「どこへって…もう!! お風呂に決まってるでしょ! ったくっ!!」
「あっ! そうそう…。そうだったな、すまんっ!」
「すまんはいいからっ! 私が入れないでしょ!! ったくっ!!」
「ああ、分かった…。今、謎が謎を呼ぶいいとこなのになぁ~~」
「あれだけ言ってたのに、あなたが忘れてた方が謎が謎を呼ぶわよっ! ったくっ!!」
 奥様は、ったくっ! を三度も繰り返した。
 謎が謎を呼ぶとき、他のことは忘れるようである。^^

                   完


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疲れるユーモア短編集 (71)条件

2021年04月22日 00時00分00秒 | #小説

 疲れる条件を考えてみよう。まあ、人やそのときの場合によって違う・・と言ってしまえばそれまでだが、細かな違いはともかくとして、要は大まかな概略の違いである。^^
 とある官庁の残業風景である。例年ならこんなこともないな…と溜め息混じりに書類用の文書をPCで入力する男がいる。元居である。
「ああ…なんとかならないのかなぁ、ウイルスは…」
 そこへ同じ課の関川が後ろから声をかけた。
「お疲れっ! 俺、終ったから先に出るよっ!  いつもの店で待ってる!」
「ああ…」
 元居はPC画面に目を落としたまま、力なく返した。そして、『そういや、あの店も今週一杯で休業か…』と、ふと思った。『どうも最近は悪いことばかりが浮かぶ』と、続けて元居は思った。そのとき予期せぬいい発想が元居の脳裏に巡った。
『おお、そうだっ! 休業するはずだったが続けると、親父、前向きに言ってたな…』
 元居は一端、下げたテンションを回復させた。というのは、店の運転資金の貸し出し条件が緩和(かんわ)されたからだった。元居の残業による疲れる条件は消え去ったのである。
 条件がよくなれば、人は疲れることから解放されるのである。^^

                   完


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疲れるユーモア短編集 (70)維持(いじ)

2021年04月21日 00時00分00秒 | #小説

 この世の物や物事はすべて劣化し、消耗する。少しでもそうなるのを食い止め、維持(いじ)することに努めれば、物や物事の寿命は延びることになる。人の命もまた然(しか)りで、天寿は仕方ないが、身体をケアして維持すれば長寿を保てる訳だ。まあ、維持しない方が病(やまい)に倒れたとしても、それは私の与(あずか)り知らぬところである。^^
 とある温泉である。源泉が湧きだす近くで腕を組みながら話す二人の男がいる。どうもこの温泉で店を出すご主人と番頭らしい。
「しかし妙だっ! ここ最近、白い湯が赤茶けて出る…」
「旦(だん)さん、ひと月ほど前の地震のせいじゃないんですかっ!?」
「おっ! そういや、そんなことがあったな…」
「泉質が変わったのは、確か…あの頃からですよっ!」
「なるほど、そういうことか…。こればっかりは維持しようがないっ!」
「自然には勝てません…」
「うちのが実家へ帰ったのも、あの頃だったな…」
「そうでした、そうでしたっ! 確か、地震のあとでしたよね、奥さん出ていかれたのは…」
「ああ…。人間関係を維持するって~のも疲れるっ!」
「はいっ! で、どうします!?」
「んっ!? 待つしかなかろ…」
 番頭は、その言葉に泉質と奥さんの二つの意味を感じた。
 すべてに言えることだが、維持するのは疲れるほど難しいのである。^^

                   完


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