水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第二十二回)

2012年01月31日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第二十二回
「ほお~、確かに結構、いるなあ、地球上の独裁者が…」
『彼等が初めから独裁者という訳じゃなかったようですけどね。すべては、人間の本性の弱いところですよ。権力、地位、名誉、金を手にすれば、人間は変わりますから。まあ、人間の性(さが)で、仕方ないんですが…』
「それは、そうだ…」
 的(まと)を得た幽霊平林の話に、上山も頷(うなず)かざるを得なかった。
『でも、これだけ多いと、念じる内容をグローバルにしないと駄目ですね。一人一人じゃ、追いつきませんよ』
 幽霊平林はメモ書きした霊界紙を両手で示しながら低いテンションで云った。
「まあ、その如意の筆がありゃ、内容を詰めることで私達の意向どおりにはなるんだからな。要は念じ方に尽きるな」
 上山は幽霊平林の胸元を指し示した。
『はい、それはまあ…。なにせ、これは荘厳な霊力を宿しているそうですから…』
 幽霊平林は上山の言葉に少しテンションを高めて自慢っぽく云った。
「さて、どうするかだが…。独裁者と地球温室効果ガスの相乗効果を狙わんとな」
『一石二鳥、ってやつですね』
「ああ、まあな…。ある意味、逆利用って手もあるぞ」
『どういうことです?』
「だから、独裁者を逆利用するのさ。独裁者の方が手っ取り早い、とも云える。なにせ、一人で思いどおりになるんだからな。そうした者に、こちらの思う念力を送れば、油井の減少、武器放棄とかが可能なんじゃないか」
『ええ…、そらまあ、そうなりゃいいんですが…』
「君は無理だと思うのか?」
『いえ、如意の筆なら不可能なことはないでしょうが…』
「何か心配になるようなことでもあるのか?」
 上山は怪訝(けげん)な表情で幽霊平林を見た。


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第二十一回)

2012年01月30日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第二十一回
「正義の味方? そこを、もう少し、詳しく聞きたいが…」
「いや、これは霊界トップの意向でもあるんです。実は、平林君が霊界では稀有(けう)な幽霊姿のままなんですよ。それを霊界トップは偉く興味をお示しになり、平林君に如意の筆をお与えになったり彼が見える私とタッグを組ませて社会正義を実践(じっせん)せよ、とご命じなんですよ…」
「ほう…、そんなことがあったのか。しばらく君らとは会っとらんから、状況がそれほど変わっとるとは知らなかったからのう…」
 滑川(なめかわ)教授は、二人(一人と一霊)の間に、どういう展開があったのか、まったく知らないから、把握(はあく)出来ていなかった。
「そりゃそうでしょう。一度、教授の研究所にお邪魔しますよ」
「おお、是非そうしてくれ。電話じゃ話せん積もる話もあるからのう…」
「はい、それじゃ今夜のところは、これで…」
「うん、幽霊のナントカにもよろしく云っといてくれ」
「はい、では…」
 上山が電話を切ると、幽霊平林は斜め上よりスゥ~っと降下して上山に接近した。
『教授、元気そうですね』
「ああ…、以前と、まったく同じだよ。まだ毒舌口調は健康だ」
 上山は自室へ歩きながらそう返した。その後方を幽霊平林は従う。
『あの…、これがピックアップした独裁国家リストのメモです』
 上山が背広を洋服箪笥(たんす)へ収納してラフなセーターに着替えすると、それを待っていたかのように幽霊平林は語りだした。
「ああ、それを…。書いてある内容は読めるが、残念ながら手にすることは出来んから、君、申し訳ないが、私の目の前へ広げてくれんか」
『あっ! そうでした。これは霊界紙でした。つい、うっかりしてました、ははは…』
 幽霊平林は陰気に笑うと、胸に挟んだメモを上山の目前で広げた。


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第二十回)

2012年01月29日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第二十回
「なんだ、君。現れていたのか…」
 上山が帰宅して玄関へ入ったとき、幽霊平林も偶然、スゥ~っと玄関を漂っていた。
『なんだ君、とは随分、ご挨拶ですね、課長』
 幽霊平林は冗談っぽく笑った。
「いや、すまん。実は滑川(なめかわ)教授に電話をしなくちゃならんのさ。まっ! 急ぎの用でもないらしいんだけどな」
『滑川教授ですか…。懐かしい名ですね』
「そうそう。しばらく私達から離れた存在の人だったからね」
『で、その教授がなんと?』
「これから教授のところへ電話するから、それを聞きゃ分かるさ」
 そう云いながら玄関を上がると、上山は着替えもせず近くの電話の受話器を手にした。
「あっ! 教授ですか。今、よろしいでしょうか?」
「おお、上山君か…。構わんよ。というか、儂(わし)から、かけようと思っとったんだよ」
「そうでしたか。それじゃ、さっそくなんですが、昼の続きです。ゴーステンでしたか?」
「なに云ってるんだ、君。マヨネーズの話だよ、中位相処理された」
「あっ! そうでしたか、すいません。マヨネーズ効果はあったんですが、他の人が消えてしまいまして…」
「えっ? どういうことかね、君」
「ですから、マヨネーズ効果は、かなりありまして、私がアチラへ近づいているようで、デンジャラスな結果でした」
「そうか…。元へ戻ればよかったのにのう」
「はあ…、まあ、そうなんですが。そうなれば、なったで、平林君と別れることになりますのでねえ」
「なんだ。だったら今のままで、いいじゃないか」
「なんか、どうでもよくなりまして。今は、正義の味方です、ははは…」
 上山は思わず、自分自身が変人に思えて笑ってしまった。


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第十九回)

2012年01月28日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第十九回
「ああ…、何だい?」
「実は、先ほど滑川(なめかわ)教授から電話があったのですが今、課長は席におりませんので、と申しておきましたので…」
「ほう、滑川教授が? 珍しいね、教授からとは。何だろう?」
「折り返し、お電話をさせて戴きますので、とは云っておきましたが…」
「あっ、そうなの。…社長室にいたときだな、その電話」
「はい、そうだと思います」
「分かった。もう、いいよ、かけておくから…」
 岬は軽く一礼して自席へ戻った。 岬が席に座ったあと、いったい何事だろう…と思いながら、上山は受話器を握った。
「お久しぶりでございます。田丸工業の上山でございます。先生、お電話を頂戴致したそうでございますが、何用でございましたでしょう?」
「おお、上山さんか。いやあ、佃(つくだ)君が送ったマヨネーズ以降、連絡が絶えておったから、どうしてるかと思ってなあ~。佃君も気にしとったぞ」
「ああ、そいうことでございましたか。いえ、いろいろありましたもので、ついご無沙汰致してしまいまして、申し訳けもございません。その話につきましては、今夜にも改めてお電話をさせて戴きますので…。この番号で、よろしかったでしょうか?」
「いや、今日は七時頃までいるが、その後は閉めて帰るからな。自宅の電話に八時過ぎ、かけてもらえるかのう」
「はい、分かりました。では、孰(いず)れ…」
 そう云うと、上山は電話を切った。課員がいる手前、ゴーステンとか中位相処理されたマヨネーズとかの話は大声では出来ないし、話すことも些(いささ)か憚(はばか)られた。上山は単純に、幽霊平林の出現と滑川教授の電話が重なると困るぞ…と思った。この段階で、家に幽霊平林が現れていることを上山は知らない。要は、詰まらない取り越し苦労なのだが…。


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第十八回)

2012年01月27日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第十八回
「それじゃ、頑張ってくれ! としか、私には云えんな」
 田丸は鼻下の髭を自慢げに片手の指で撫でつけながら云った。
「もう、いいでしょうか?」
「偉く、つれないじゃないか、上山君」
「いや、そんなこともないんですが…。今日、彼と、また会いますので…。次の新たな展開が始まる可能性もありますから、結果は孰(いず)れ社長にお話ししますよ」
「うん! それなら、いい。ご苦労さん。仕事を邪魔して申し訳ない」
「いえ、それはいいんですが…。係長の出水君もおりますから」
 本当にいい迷惑だよ…と上山は内心、思えていたが、口では、そう云っていた。
 上山が課へ戻り、その日は事もなげに時が流れていった。
 その頃、霊界の幽霊平林は、そろそろか…と、動きかけていた。動きかけるとは、人間界で云う、起きようとしている状態である。その幽霊平林が最初に気になったのは当然、現在時間である。もちろん、霊界には時の流れがないから、霊水瓶(がめ)に流れ込んだ水量増加で経過した時間を加えて知る他はなかった。スゥ~っと動いて瓶に近づくと、上山と別れてから大よそ七時間が流れたことを水量目盛により確認出来た。少し早いか…とは思えたが、幽霊平林は人間界へと移動した。むろん、会社は拙(まず)いと直感で閃いたから、現れたのは上山の家である。部屋の時計を見ると四時過ぎで、まだ一、二時間は、あったか…と、適当に漂うことにした。一方の上山は会社で社長に解放されたあと、いつもと変わらず業務計画書や企画書などに目を通し、決裁を済ませていった。
「あの課長、よろしいでしょうか?」
 突然、岬が課長席に接近して、そう云った。


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第十七回)

2012年01月26日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第十七回
「ははは…、君はご無沙汰ばかりだなあ」
 田丸は賑やかに笑った。
「そう云わないで下さいよ、社長!」
 上山も釣られて、小さな笑みを浮かべた。
「ところで、その正義の味方とやらは、順調に進んでるのかね?」
「それなんですよ、社長。今現在は第二段として、地球上の温室効果ガスをなくすことに努めておるんですが、ちょっと壁に、ぶち当ってるんです」
 上山は正直なところを田丸に吐露した。
「地球温室化か…。コップでやってる削減交渉はなかなか煮えないからなあ~。今、日本は、メアリカ、チャナイ、ローユからの守りだからな」
「はい、そのようです…」
 上山はトーンを下げて田丸へ返した。
「コップでもグラスでもいいんだが、目に見えないだけに、厄介だろう」
「ははは…、はい。平林君に霊界で調べてもらったり、お偉方(えらがた)に訊(き)いてもらったりは、してるんですが…」
「霊界のお偉方って?」
「いつか云ったとは思うんですが、霊界番人とか平林君が云っておる人、…人というのも、なんなんですが…」
「ははは…、その存在は私達人間には分からん存在だ」
「ええ、まあ…。正確には、その上の霊界司という霊界をとり仕切る存在の司令で、私と彼とはそのお方というのも、おかしいんですが、そのお方に従って動いてるんですよ」
「なんだ! 正義の味方ってえのは、君達の発想じゃなかったのか?」
「はい、すべては霊界の意向なんです…」
 上山は事の仔細(しさい)を田丸に話した。


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第十六回)

2012年01月25日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       
    
第十六回
  しばらく静寂の時が流れたが突然、田丸が語り出した。
「…、で、先ほどの大ありの話って?」
「ああ、変わった話ですか。いやあ~、まあ、二人で正義の味方をやっていた訳です。社長もご存知だと思いますが…」
「ああ、新聞で読んだやつだな、武器輸出禁止条約が批准された」
「ええ、そうです。まず世界紛争の直接行為となる武器をなくそうと考えた訳です」
「ああ、なるほど…」
 田丸も理解できたのか、その話には頷(うなず)いた。
「で、結果は新聞やテレピで報道されたとおりです」
「君達の名は、まったく出ていないから、文字通りの正義の味方だわなあ~、ははは…」
 笑った田丸だったが、すぐ真顔に戻ると、「世間の常識では起こらんことだからなあ~。まあ、私は信じよう」と厳(おごそ)かに云った。普通の者に云えば、「そんなことが、信じられるかっ!」と一喝(いっかつ)されるところである。
「はい! まあ、この話をマジで話せるのは、社長をおいてないですから」
「ああ、それは云えるだろうし、他人には云わん方がいい。変人扱いされかねんからなあ…」
「はあ…」
 上山は人間界で唯一、幽霊平林の存在を知る田丸を見た。しかし、やはり輝いた丸禿(はげ)頭は厳然と田丸の頭上で光り輝いていたから、思わず笑えて、すぐ目線を机上へ戻した。
「私には平林君が見えんからなあ。ただ、いつだったか、このボールペンが動いたから信じたんだが…」
「ああ、はい。そんなこともありましたね」
「ゴーステンは、その後、どうなったんだ?」
「いや…そちらの方は正義の味方活動でご無沙汰しております」
「ああ、そうか…。ということは、滑川(なめかわ)、佃(つくだ)両教授にも会っとらんのか?」
「はい、ご無沙汰しております」


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第十五回)

2012年01月24日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         
    
第十五回
 上山が座ると、田丸も対面のシングル椅子に座った。田丸と対峙すると、どうも笑えてしまい、それを抑えるのに難儀する上山なのだ。今もそうなりそうで、上山は自然と机上へ視線を落としていた。
「で、平林君は今でも見えるのかな?」
 徐(おもむろ)に田丸は訊(たず)ねた。
「はい、見えます。今は、いませんが…。なんなら、呼びましょうか?」
 上山は臆することなく、平然と答えた。
「いや、もう少しこのまま話そう。それからでもいいだろう。別に急ぐことでもない…」
 静かに田丸は返した。だが、その内心は鬱積(うっせき)した疑問を、すべて知りたい衝動にかられていた。それを押し殺して静かに返したのだった。
「で、社長に何をお答えすればよろしいんでしょう?」
「だから、平林君との、その後だよ。何か変わったことなどないか、と思ってね」
「いやあ~社長。ここだけの話なんですがね。実は、大あり、なんですよ。私達は今、世界の隠れた正義の味方、つまり、ヒーローなんですよ」
「えっ!? 話が突飛すぎて、よく分からんが…」
「話せば長くなりますので、掻い摘んで申しますと、平林君が霊界のお偉方に云われたのが発端なんですよ。そのことを実行することによって、私が幽霊の平林君を見えたり、彼も幽霊姿でいつまでも霊魂の姿になれないといったことが、すべて解決するということなんです」
「ほお…。つまり今までどおりの君に戻れる、って訳か」
「はい、そうです。彼と別れるのは寂しいんですが、お互いのためですし…」
「君も平林君も、辛いところだな」
「はい、まあ…」
「なるほど…」
 田丸はそれ以上、深く追求しなかった。


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第十四回)

2012年01月23日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第十四回
「おお、久しぶりだな、上山君。元気そうで何よりだ」
「あっ! これは社長!」
 相変わらず照からせて、とは、さすがに云えず、上山は徐(おもむろ)に田丸を見ず、光沢のいい丸禿(はげ)頭を見た。
「実はな。その後、アノ方は、どうなってる?」
「はっ? アノ、とはドノ?」
「アノはアノだよ」
 田丸は他の社員がいる手前、やや小声で素早く幽霊の手をジェスチャーした。
「ああ…、アレですか。アレは順調にいっております」
 上山も左斜め前方に座る係長席の出水を意識しつつ云った。
「そうか…。いやなに、それならいいんだ。どうだ、まあ、
ちょっと歩かんか」
 田丸は課の入口ドアを指さしてジェスチャーした。
「はい!」
 上山は、思わずそう云った。二人は課を出て前通路を歩いた。上山には進む目的の場所がない。ただ、田丸の後方を従うだけである。しばらく無言で歩いたとき、ふと田丸が振り向いて云った。
「まあ、入りなさい…」
「はあ…」
 そう頷(うなず)いて上山が見ると、社長室前だった。グルリと巡り歩いて、上山としては、それなりに、いい運動には、なっていた。ドアを開けて入った田丸に続き、上山も入った。
「まあ、座りなさい」
 田丸は応接セットの長椅子を上山に勧(すす)めた。上山は丸禿(はげ)頭を見ながら、━ まあ、 ━ が好きな人だな…と、思った。


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第十三回)

2012年01月22日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第十三回
『はい。じゃあ一端、戻って出直します。次はリストのメモを持ってきます』
「ああ、そうしてくれ。君ばかり活動させて申し訳ないが…」
『いえ、僕は幽霊ですから、その特性を大いに活用して下さって結構です』
 そう云うと、幽霊平林はニヤリと陰気な笑みを浮かべた。上山も思わず、「特性か…」と、ニヤけた。
 幽霊平林は一端、霊界へ戻り、上山が出社して時は流れた。霊界の幽霊平林は、霊界万(よろず)集で調べた独裁国家と、その首脳リストを見返していた。
『ヨーロッパでは、ベラルーシのルカシェンコ大統領、南米ではベネズエラのチャベス大統領、アフリカは、ジンバブエのムガベ大統領、スーダンのバシール大統領など、アジアでは、シリアのアサド大統領、イエメンのハーディー大統領、ミャンマーのセイン大統領、北コリアの金正恩氏など…か。北コリアは金正日総書記が死去したしなあ。いろいろ、世界はややこしい…』
 幽霊平林はブツクサと独り言を吐いていた。そして、メモ書きした霊紙(れいし)のリストと霊界万集の記載内容を突合(とつごう)した。
『まあ、間違いないようだな…。これから八時間ほどすれば、この霊紙を持って課長の家へ行けばいいんだな。どれ、それまで、ひと止まりするか』
 幽霊平林は、そう独りごちるとスゥ~っと住処(すみか)の端上へ移動した。ひと止まりとは、云うまでもなく、人間界で云うひと休みである。とはいえ、心を安息させるだけで、人間のように眠る訳ではないから、睡眠とは一線を画すのだ。むろん、止まる前に瓶に流れる霊水のセッティングは抜かりがない。この霊水の水時計システムを忘れれば、八時間待つという感覚は、さすがに把握出来ないのだ。そんなことで、幽霊平林は、安心して止まると、両眼を閉じて安息状態へ移行した。
 一方、人間界の上山は、のんびりと仕事を熟(こな)していた。そこへ突然、社長の田丸が入ってきた。田丸が自(みずか)ら業務第二課へ顔を見せるなどということは、めったになかったから、課内は緊張感に包まれたはい。じゃあ一端、戻って出直します。次はリストのメモを持ってきます』
「ああ、そうしてくれ。君ばかり活動させて申し訳ないが…」
『いえ、僕は幽霊ですから、その特性を大いに活用して下さって結構です』
 そう云うと、幽霊平林はニヤリと陰気な笑みを浮かべた。上山も思わず、「特性か…」と、ニヤけた。
 幽霊平林は一端、霊界へ戻り、上山が出社して時は流れた。霊界の幽霊平林は、霊界万(よろず)集で調べた独裁国家と、その首脳リストを見返していた。
 一方、人間界の上山は、のんびりと仕事を熟(こな)していた。そこへ突然、社長の田丸が入ってきた。田丸が自(みずか)ら業務第二課へ顔を見せるなどということは、めったになかったから、課内は緊張感に包まれた。


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