水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

めげないユーモア短編集 (91)思い出

2022年12月31日 00時00分00秒 | #小説

 めげないためには、若いうちから思い出を多く作っておく必要がある。それらの多くが防波堤となって、生き辛(づら)くなった現実から我が身を救ってくれることになる。元号が変わろうとも、お札が変わろうとも、勝手にやって下さいっ! と、撥(は)ねつける力を持っている。それが多くの思い出である。^^
 とある会社の屋上である。定年前の二人の平社員が缶コーヒーを飲みながら話をしている。
「お札(さつ)が変わるらしいなっ!」
「よく知らねぇ~人だなっ!」
「なにも、人にしなくったっていい訳だろっ! 花とか鳥とか建物とかさぁ~」
「ああ。まあ、決まりはないが、表は人物で、裏がそうなってるなっ!」
「明治天皇とか聖徳太子とかさぁ~、誰でも知ってる人がいいんじゃねえのっ!」
「お上(かみ)の方で勝手に決めてんだから、俺達にはどうしようもねぇ~さっ!」
「知らねぇ~人では、給料もらっても、めげちまうなぁ~。働く気がしなくなったよっ!」
「キリがいいところで去るか…」
「そうだな…。どうせこの先、何年も残ってねぇ~し、そう出世も出来そうにねぇ~からなっ!」
「若い頃はよかったなっ!」
「ああ、あの頃はバブルでいい思い出が多い時代だったなっ!」
「だなっ! あの頃の気分で、どうだ一杯っ!」
「おっ! いいなっ!」
 愚痴を思い出で吹き消しながら、二人は、いつもの小料理屋へと向かった。
 人々は、いい思い出があるから、辛くても、めげないで生き続けられるのである。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (90)令(れい)

2022年12月30日 00時00分00秒 | #小説

 令(れい)とは不均衡な関係を指し示す。上から下を示せば、命令、発令などとなり、下から上を示せば、令嬢、令息などとなる。要は、フラットな関係を示さず、両者は決して和(なご)むことがない。双方が平等な立ち位置に存在しないからである。どちらか一方が相手より上か下の位置にある訳だ。これは外面的な地位、名誉といったものから内面的な心理にも及ぶ。人は生まれながらにして平等ではない・・ということにもなる。^^ 令で人の世が良くなるとは到底、思えない(※ 考え方には個人差があります^^)。令に人々は逆(さか)えず、懐(ふところ)具合を案じながら、めげないで支払わねばならない訳だ。^^
 とある将棋会館である。二人の老人がヘボ将棋をいつものように指している。
「ええっ! あなたにも来ましたかっ!」
「ははは…こればっかりは抗(あらが)えません。行政の令ですからな。支払う他ありませんっ!」
「まあ、税金ですからな…」
「お上(かみ)の令には逆らえませんっ!」
「ですなっ! 令は、どうも和みませんなっ!」
「ははは…では、王手っ!」
「い、いや…それは…ちょっと待ってください…」
「いや、ダメですな。令ですから…」
「このあと、一杯、奢(おご)りますから…」
「肴(さかな)はっ!?」
「お好きなものをっ!」
「まあ、仕方がないっ! 王手はなかったことにして、和みましょう、ははは…」
 二人は将棋をやめ、会館をあとにした。
 令を和ませるには、相手にフラットにする何らかの見返りの必要がある訳だ。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (89)夢

2022年12月29日 00時00分00秒 | #小説

 夢は本当にやってくる・・とか何とか、よく言われる。ドリーム カム トゥルーというやつだ。^^ しかし現実は、夢どころか今ある状況さえも悪くする機会をつけ狙(ねら)っているから、実に過酷(かこく)なのである。そのギャップに人々は、めげないよう、より一層、大きな夢を追うのかも知れない。そしていつしか夢破れ、多くの人々は年老(としお)っていく。夢を現実に出来る人というのは、ごく僅(わず)かな限られた人に過ぎない訳だ。私も前者の一人なのだが…。^^
 とある時代のとある中学校である。ホームルームの時間中だ。担任の馬崎が一人の生徒を指さした。
「尾牛君、君の将来の夢は何だいっ? …たとえば、ナニになりたいとかさっ!」
「先生、僕は夢を見ないことにしてるんですっ!」
「ほう! それは現実的だなっ!」
「だって、夢は夢でしかないしょ! 現実になりっこないんだから…」
「それを言っちゃダメだろっ! 夢も希望もない…」
「それはそうですが…」
「だろっ! 現実にめげないために夢は必要なんだっ!」
「… はいっ!」
 人は、めげないために夢を追うようだ。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (88)天候

2022年12月28日 00時00分00秒 | #小説

 天候は人の力で変えられない自然現象だ。だから一喜一憂する必要はないのだが、その日に目的があったりすれば、いい天気であって欲しい…と、願うものである。ところが、その願いを挫(くじ)くかのような悪天候だと、テンションも下がり、ガックリと、めげてしまうことになる。めげないためには、悪天候のときの心構えをしておけば、ショックも最小限に食い止められるだろう。ははは…やはり降ったか…くらいの、めげない気分で朝を迎えられるに違いない。^^
 とあるレストランで二人の中央政界の代議士が話をしている。
「どうですか?」
「なにがですっ?」
 訊(たず)ねた代議士は、席からガラス越しに映る空を指さした。
「えっ!? ああ、天候は午後から下るそうですよ。降るとは言ってませんでしたが…」
「そうじゃなくっ!」
「○○さんの雲行きですよ…」
「ああ、○○さんですか。○○さんは○○さんのままじゃないんですか…」
「○○さんのままとはっ?」
「だから、○○さんのままってことですよ。鳴かず飛ばず…」
「大山鳴動して・・ってことですかっ?」
「probably,likely,perhaps,maybe,possibly …」
「出ない方が得策ってことになりますが…」
「よくは分かりませんが、出る以上は天候が崩れちゃマズいでしょう…」
「なるほど…」
 二人はゴージャスな会食を終えると勘定を済ませ、レストランを去った。
 めげないためには、先の天候をシミュレーションする能力に長(た)ける必要があるようだ。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (87)邪魔

2022年12月27日 00時00分00秒 | #小説

 邪魔はこの世にウジャウジャといる。この邪魔にも、いろいろと存在し、アニメにも登場したお邪魔虫などという愛嬌(あいきょう)ある邪魔から、殺気立って犯罪を犯す悪どい邪魔まで千差万別である。孰(いず)れにしろ、私達はこの邪魔にめげないよう日々を過ごしている訳だ。見えない邪魔にめげれば、自分をダメにし、時には人生を失う奈落の底へと落ちることもあるから油断ができない。^^
 とある大食い饅頭競争の会場である。進行役の司会がマイク片手に興奮してガナっている。
「さあ、鍋川(なべかわ)さんっ! あと三個食べれば優勝だっ! …おおっ、二個いっきにっ! 釜岡(かまおか)さんのぺースが上がった! ぎ、逆転かっ!?」
 司会のボルテージが上がる。釜岡は鍋川を追い越そうと二個一緒に饅頭を口へ詰め込んだのである。これが邪魔の仕業(しわざ)だった。しかし邪魔は釜岡を甘く見ていた。結果、邪魔は釜岡にした邪魔を逆にし返されることになり、その後、自滅したのである。
「お見事っ! 釜岡さんの逆転優勝ですっ!!」
 十分後、司会が喚(わめ)くように宣言した。そして、その後の優勝インタビューである。
「釜岡さん、おめでとうございますっ! 優勝のお気持はっ!?」
「はあ、念願の饅頭大食い杯のトロフィーを手に出来て光栄です。苦節二十五年、めげない二個食いの練習をした結果が、今日、ここに実りましたっ! ぅぅぅ…」
「念願の優勝、釜岡さんでしたっ!!」
 司会は、泣くほどのこたぁ~ないじゃないかっ! …とは思ったが、そうとも言えず、釜岡をヨイショしてインタビューを終えた。
 めげないで続ければ、邪魔の方が、めげるようである。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (86)予備

2022年12月26日 00時00分00秒 | #小説

 予備が多ければ、いざというときに、めげないで済む。チェッ! と、舌打ちする必要がなくなるからだ。予備がなく舌打ちするという状況は、やろうとしている行動の意思を挫(くじ)くことになる。挫ければ、誰だってめげる。だから、めげないためには予備が多ければ多いほどいい・・という結論に至る。^^
 とある河川敷きに敷設された運動公園である。サッカーの早朝練習が終わった二人の小学生がベンチで話をしている。
「いやっ! 僕は塩はいつも持ち歩いてるよっ!」
「変わってるなっ! そんなもの持ち歩いてどうすんだっ!」
「父ちゃんが一に水、二に塩って言ってたから…」
「ははは…そんな場合は、まあ、今現在、ほとんどないだろっ!」
「予備だよ予備っ! 薬も、いろいろ持ってるっ!」
「そうか…予備が多いと安心だもんなっ! 僕もそうするよっ!」
「うんっ! そうした方がいいよ…」
「ありがとう!」
「うんっ!」
 予備は、めげないための必要な手段ということになる。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (85)イロイロ

2022年12月25日 00時00分00秒 | #小説

 やることがイロイロある場合、つい、めげてしまうことが出てくる。めげないでおこう…としても、イロイロあれば、ああ、イロイロあるのか…と、気持がめげる訳だ。めげないためには、責任感が問われる。大関と横綱の差くらいのものだ。^^ イロイロあるのは、ああ嫌だ嫌だっ!^^
 関西の、とある家庭である。洗い物を台所でする母親に息子が遠くから声を投げた。
『母ちゃん、チャリンコの鍵、知らんかっ!?』
「なんやのっ! お母ちゃん、今、忙(いそが)しいねんっ! イロイロあるからっ! 自分で探したらええやろっ!」
『イロイロ探してんねんけどなぁ~。歩いて、どっかへ行きよったんやろかっ!』
「なにゆぅ~てんのっ! 鍵が勝手に歩く訳ないやろっ! 自分で探しいなっ!!」
『ああ、分かった…』
 二人の会話が途切れた。
「ああ、いややわっ! イロイロあったにゃけど、何すんにゃったんやろっ!」
 母親は、すっかりめげて、台所の椅子に座ってしまった。
 イロイロが多いと、めげる要素が増え、めげない心構えが必要となる。イロイロは侮(あなど)れない曲者(くせもの)なのである。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (84)強気(つよき)

2022年12月24日 00時00分00秒 | #小説

 強気(つよき)で物事に処せば、上手(うま)くいき、めげずに済む・・という一過程が成立する。とはいえ、強気で臨(のぞ)めば全(すべ)てがめげないで済むのか? と問えば、必ずしもそうはならないのだから世の流れは複雑怪奇といえる。私は? と自問自答すれば、場合によって変化している。^^
 コロナ危機が去った、とある本場所の大相撲である。久しぶりの満員御礼の垂れ幕に場内は大いに賑わっている。土俵は幕内の後半戦が始まったところだ。
 アナウンサーと解説者が話をしている。
「強気・・これ大事ですねっ! 気持が立ち合いに出てしまうっ!」
「ということはっ?」
「至って簡単っ! 出足が違いますっ!」
「まあ、強気には、よく見て立つ・・という警戒感の前提が求められますっ!」
「というとっ?」
「肩透かし、とったり・・まあ、いろいろ相手も技をくり出しますからっ!」
「西の富士さんも、そうでしたかっ!?」
「はい、私も、そんな立ち合いが多かったですねっ! 強気で出て、めげるのは嫌ですからなっ!」
 強気で出る場合は、めげないための警戒感が求められるようだ。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (83)とりあえず…

2022年12月23日 00時00分00秒 | #小説

 とりあえず…と、最低限の物事を片づけておけば、めげる気分が緩和(かんわ)され、めげないでいられる。所謂(いわゆる)、プロの世界の方々が遣われる保険をかける・・という手合いである。私達、一般社会に生きる人々にとっても、とりあえず…は、生きる上で大事な思考の一方法だ。コレをやっておかないと、あとあと偉いことになる場合が結構、多いから困ったものだ。^^
 とある家庭の朝の出勤風景である。夫婦がキッチンで会話している。
「お父さん、どうしますっ!? 快晴で、今日は降りそうにありませんよ…」
 奥さんが、やんわりと言った。
「うむ…。そうは言うがな。天気予報では、所により俄(にわ)か雨・・とかなんとか言っとったからなぁ~」
「そうですかっ? それじゃ、鞄(カバン)の奥に、折り畳み入れておきますよ…」
「ああ、そうしてくれ。とりあえず…なっ!」
 ご主人が勤めを終えた夕方、天候は俄かに怪しくなり、雨がポツリ、ポツリ・めと降り出したかと思うと、ザザァ~!! と激しい豪雨が降り出した。ご主人が、まさに会社を退社しようと思った直後で、ご主人は濡れずに済んだ・・というお話である。
 とりあえず…は、私達が生活していく上で、めげない大事な思考法なのである。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (82)恐怖

2022年12月22日 00時00分00秒 | #小説

 夏になれば、怪談やホラーといった恐怖ものの類(たぐい)が話題となる。恐怖が暑気を忘れさせる効果があるからかは分からないが、昔から、どういう訳かそうなっている。^^ 恐怖は誰も嫌なのだろうが、どういう訳か、めげないでその恐怖を求める。人とは奇妙な生き物なのだ。^^
 とある町のシャッター通りである。大型スーパーが出来た関係からか、いつの間にか閑古鳥が啼くようになった商店街の一角に敷設された休憩場で二人の店主が話をしている。
「昼間は、まだ通られますけん…」
「そうそう! 夜はサッパリです。まあ、地元の私らでも怖いですばいっ!」
「ですなっ! うちの家内ほどではありませんがのう…」
「私の店も今年限りで…」
「うちも、そうです。息子が来いと便りをくれよりましたけに…」
「そら、よかでしたっ!」
 こうしてこの街は、恐怖の商店街へと変貌(へんぼう)を遂げるのであった。
 めげないで商売を続けるといっても、一番の恐怖は客足が絶えることだろう。笑えない、笑えない。--

                   完


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