水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <37>

2024年07月25日 00時00分00秒 | #小説

「ともかく、よかったです…」
「ええ…」
 手羽崎管理官と庭取副署長が顔を見合わせ、安堵の息を漏らした。マスコミに知られまいと、署内の全員に箝口令(かんこうれい)を敷いた矢先だった。
「このあと、どうします、副署長?」
「そうですね。取り敢えずは署長から詳しい話を聞くことに…」
「分かりました。合同捜査本部の会議は開く必要があるようですが…」
「科捜研の報告がありましたね」
「ええ…」
 二人はゴチャゴチャと話し合い、合同捜査本部と分化本部は関係署員達でザワザワしていた。^^ そのとき、三人を乗せた覆面パトが麹町署へ戻ってきた。三人が急ぎ足で署へ入ると、署員達はまるで有名人を見るかのように遠目で視線を三人に送った。
「署長っ!」
「ああ、どうも…。心配をおかけしました」
「どうされたんです?」
「いや、それが…。私にもよく分からんのです。署長室の椅子に座ったまでは記憶しておるのですが、そのあとが…」
 署長に乗り移った[憑依した]Й3番星人は、迂闊なことは言えないぞ…と語り口調がスローダウンし、慎重になった。


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <36>

2024年07月24日 00時00分00秒 | #小説

「ははは…若い人は、まあ、いろいろありますからね…」
 何がいろいろあるのか? 口橋や鴫田には分からない。鳩村に乗り移った[憑依した]Й3番星から来た異星人にとって、地球上には、いろいろと珍しい事象があった訳である。鴫田の空腹状態も、実はその一つなのだ。^^
「さて、一度、署へ戻りますか…」
「そうして下さい。署内では署長が消えた消えたで、偉い騒ぎになってますから…」、先に連絡して下さい」
「分かりました…。ははは…それじゃ、署へ帰還しますかっ!」
「はいっ! 取り敢えず、合同捜査本部を一度、開きませんと…」
「そうですね‥‥」
「僕のパスタは?」
「馬鹿野郎っ! そんなもの、いつでも食えるだろうがっ!」
「ですよね…」
 鴫田はオーダーを立って待つウエイトレスに片手を振ってキャンセルした。
 署長を乗せた覆面パトは一路、麹町署を目指した。
 同時刻の麹町署である。
「今、口さんから連絡が…。署長が見つかったようです」
 署内から消え去り、繁華街で見つかったというマジックのイリュージョンを絵にかいたような通報に麹町署は沸き返っていた。


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <35>

2024年07月23日 00時00分00秒 | #小説

「他愛もない話ですか…」
「ええ、公安がウイルス絡みで埋葬したという…」
「公安のウイルス絡みの話でしたか…」
 口橋は一応、納得した。鳩村の内心は、やれやれ…である。それは鳩村に乗り移った[憑依した]Й3番星から来た異星人だった。Й3番星の異星人は過去、百年近く前から交代で地球へ先遣者を送っていた。その理由は人類が地球上に生存し続けていいか? を見定める為だった。今までの経験値からすれば、人類はアホで地球を死の星にする輩(やから)・・という結論に達していた。五体のミイラの一件は、人類に最後のチャンスを与えるЙ3番星人の行為だった。麹町署の誰もが、そのような事実があろうとは夢にも思っていなかった。全員、アホだったということではない。^^ 誰もが想像もつかないSF的な事実が進行していたのである。
「そうです。実は…」
  鳩村に乗り移った[憑依した]Й3番星人は進行しつつある事実を、ふと漏らそうとした。
「なんです、署長?」
「いや、何でもありません…」
 口橋は鳩村の歯切れの悪さが気になったが、それ以上は訊かなかった。
「口さん、パスタいいですか? 腹ペコで…」
 そのとき、今まで二人の会話を聞く人になっていた鴫田が口を開いた。
「お前な…。好きにしろっ!」
 少しは場を考えろっ! と怒れた口橋だったが、鳩村の手前、言い出せず、許した。
「すみませんっ!!」
 鴫田は大声を張り上げ、ウエイトレスを呼んだ。口橋は食うことだけは達者な奴だ…と心でボヤいた。^^


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <34>

2024年07月22日 00時00分00秒 | #小説

 店内に客は疎(まば)らで、三人は周囲に客がいない席へ腰を下ろした。しばらくして、ウエイトレスが水コップをトレーに乗せて現れた。各自が注文を済ますとウエイトレスはオーダー書きを確認した後、楚々と去った。
「今どき、ハンディで注文、取らないんですね、この店…」
「いいじゃないか、レトロで…」
 鴫田が訊ね、口橋が軽く返した。
「口さんが私に訊いた話なんですがね。情報は公安内部のある署員から聞いたんですよ、実は…」
「とある地へ埋葬されたって言ってましたよね。それは?」
「公安に迷惑がかかるかも知れませんので、今のところ、ドコソコとは話せませんが…」
「そうですか…。それと、例の祈祷師の婆さんが、署長に訊けば分かるって言ってたんですが、何のこってす?」
 奥多摩の山深い庵で暮らす祈祷師の老婆に乗り移った[憑依した]Й3番星から来た異星人が老婆に言わせた話である。口橋には皆目、見当もつかなかったが、署長に訊けば分かると言ったのだから訊ねたのである。一瞬、鳩村はギクッ! とした。というより、鳩村に乗り移った[憑依した]Й3番星から来た異星人がギクッ! としたと言った方がいいのかも知れない。
「ああ、そうでしたか。いやなに、私がお婆さんに少しお話したことですかね?」
「と、いいますと…」
「ははは…他愛もない話です…」
 鳩村に乗り移った[憑依した]Й3番星から来た異星人は内心で『つまらんことを言う奴だ…』と、自身の存在がバレる危うさに気づき、先遣者の異星人を愚痴った。


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <33>

2024年07月21日 00時00分00秒 | #小説

 このとき、Й3番星から来た異星人は地球は人類に任せてはおけない…と考えていた。ただ。乗り移った鳩村には、その心理を伝えてはいない。鳩村がうっかり、そのコトの重大さを暴露でもしようものなら、Й3番星から命じられ偵察に来た自分の使命が果たせなくなるからだった。五体のミイラが車内から発見された一件でも、どのように人類が処理するかを観察する目的で放置したのである。元々、五体のミイラは古い遺跡から空間移動させたもので、警察が事件視するような遺体ではなかった。そのことを麹町署の庭取副所長、手羽崎管理官を始め、署内の誰もが考えてはいない。それも当然と言えば当然の話だった。奥多摩山中の庵に住む祈祷師の老婆も、実はЙ3番星から偵察に来た異星人の先遣者が乗り移っていたのである。
「あの…署長はラーメンお好きでしたっけ? 今までオカメへお入りになるの、見たことがなかったもので…」
「ああ、好きですよ。ただ、署員達の手前、大っぴらにはしてなかったんですがね…」
 鳩村に乗り移った[憑依した]Й3番星から来た異星人は一瞬、ギクリ! とした。Й3番星から来た異星人はオカメのラーメンが好物だったのである。^^
「ははは…そうなんですか」
 口橋は軽く受け流し、鳩村に乗り移った[憑依した]Й3番星から来た異星人は、ホッ! と安息の息を漏らした。
「それはそうと、消えたミイラがどうなったか? ですが、どうも公安が絡んでるようなんですよ…」
 真実は人間の反応の観察を終えたЙ3番星から来た異星人が、元の遺跡へ空間移動させたのである。
「消えたのも・・ですか?」
「ええ、検体からウイルスが発見され、秘密裏にとある地へ埋葬されたらしいんです…」
「署長はその情報をどこから?」
「んっ! ああ、まあ立ち話もなんですから、詳しい話はそこの茶店ででも…」
 三人は道近くにあった[お多福]と書かれた喫茶店へ入っていった。^^


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <31>

2024年07月19日 00時00分00秒 | #小説

 二人が特製大盛りラーメンをズルズル~っと音を立てて食べ始めて数分したところで、オカメの店主が訊ねるでなく声をかけた。
「確か…あんたら、警察の人だったね…」
「ああ、そうですが…」
「ほん今まで、ここに座っていた人も警察のお偉いさんでしたよ」
「警察の?」
「ええ、麹町署の署長さんとか言ってらしたが…」
「本当かいっ!!」「ええっ!」
 二人は思わず顔を見合わせた。
「どこへ行くとか言ってられませんでしたか?」
 口橋が箸を置いた。
「いや、そこまでは…」
「どっちへ行かれました?」
 鴫田は麵を啜りながら訊く。
「右手へ歩いて行かれたと思いやすが…」
「おい、行くぞっ!」
 口橋が鴫田の肩を軽く叩いて急かす。鴫田は名残惜しそうに半ば食べ終えたラーメン鉢を見ながら立った。
「親父さん、ここへ置いとくっ!」
 口橋は勘定をカウンターに置くとオカメを飛び出した。鴫田もあとに続いた。
「気の早いお方だ…。ほん今、といっても十分以上前なんだが…」
 オカメの店主はニンマリと哂(わら)った。


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <30>

2024年07月18日 00時00分00秒 | #小説

 その頃、鳩村は口橋がよく出入りするラーメン屋のオカメで特製大盛りラーメンを食べていた。だが、鳩山はハプニングさえ起きなければ、来年三月の人事異動で警察庁へ返れる・・という未来を忘れていたのである。鳩村はただの署長になり果てていた。鳩村の体内には彼の記憶の一部を喪失させたЙ3番星から来た異星人が潜んでいた。むろん、そのことを鳩村自身は認識していない。実のところ、五体のミイラが発見されたのも署内の霊安室から忽然と消えたのも、このЙ3番星から来た異星人が関与していたのである。
 口橋と鴫田がラーメン屋へ入ろうとしたとき、Й3番星から来た異星人が乗り移った[憑依した]鳩村は、ちょうど勘定を済ませて店から出た直後だった。
「…おいっ! あれ、署長じゃねぇ~か?」
「ははは…署長がこんなラーメン屋へ入る訳ないじゃないですか…」
「ああ、そう言われればそうだな…。後ろ姿がよく似てたが…」
「年恰好の似た男は大勢いますよ、口さん」
「そらそうだ。署長は制服だしな、ははは…」
 二人はオカメの暖簾を潜ると、どういう訳か鳩村が座ったカウンター席へ座っていた。これも、Й3番星から来た異星人が引き起こした小細工だった。
「婆さん、妙なことを言ってたな、鴫田…」
「ええ、署長さんに詳しいことは訊いて下さい・・でしたか?」
「だったな…」
「署長がコトの真相を知っておられるってことですよね…」
「ああ…」
「とすれば、とにかく署長を探すことに全力を尽くそう!」
「はいっ!」
「へいっ! 特製大盛りラーメンっ!」
 鴫田の返事と同時に、店の店主が特製大盛りラーメンを二人の前へ置いた。


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <29>

2024年07月17日 00時00分00秒 | #小説

「ミイラは消えるわ署長が消えるわでは、話にならないじゃないですかっ!」
 鴫田が突然、絶叫したような声を出した。 
「ともかく、全てが消えた地点はこの署内だってことは疑う余地がないっ!」
 口橋が理詰めの考えを呟いた。鴫田は、それは当たり前でしょ! とは思ったが、とてもそんなことは言えなかった。
「では今、ミイラや署長はどこなんですっ!?」
「鴫田、それは簡単な話だ。すべては俺達が想像もつかない無い地点に存在しているのさ…」
「無い地点って!?」
「ははは…それが分かりゃ~なっ。まあ、いいさ…おいっ! いくぞっ!」
 何がいいのか分からないが、口橋の脚は動き始めていた。^^
「口さん! 待って下さいよっ!」
 鴫田は口橋の後を慌てて追った。二人が立ち去るのを手羽崎は呆然と見送る他なかった。
『署長っ! かくれんぼ、してないで出てきて下さいよ…』
 これが手羽崎の偽らざる思いだった。
 その頃、忽然と消えた署長の鳩村は、国土地理院の地図上には無いとある地点で、署内で展開する騒動の一部始終を眺めていた。だが、その事実は口橋が仄(ほの)めかした以外、誰も知らない。それは異星人が作り出した実際には無い地点だった。
 さて、ここは麹町署の外である。口橋が向かったのは、よく出入りするラーメン屋、オカメだった。腹が減っていたのだ。^^
「口さん、どこへっ!?」
「どこへっ? って決まってるだろうが、オカメよっ! お前、よく腹が減らねぇ~な?」
「あっ! そういや、何も食ってませんでした…」
 鴫田はボリボリと頭を掻いた。


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <28>

2024年07月16日 00時00分00秒 | #小説

「様子を見るって、それまで私ら、どうしてればいいんですっ、管理官っ!?」
 口橋の鋭い追及に手羽崎はバタバタと羽根を動かすでなく、苦笑して片手で頭髪を撫でた。^^
「私に訊かれても…。ともかく、今後の捜査方針は庭取さんと詰めますよ…」
「それにしても署長、どこへ行かれたんでしょうね?」
 鴫田が口橋の横から訊ねた。
「そうだな…。まさか、神隠しに遭われたってことは…。いやいや、そんなことはないな、ははは…」
 口橋は小さく哂(わら)ったが、顔は引き攣(つ)っていた。
「ミイラの消滅といい、署長の行方知れずといい、私にはどう考えていいのか分かりません…」
「管理官が分からないんですから、私らにはサッパリです…」
「あなた達は刑事なんだから、目星とかそういうのは浮かばないんですか?」
「署長は行方知れずになる前、署内におられたんですよね、管理官?」
「はい、庭取さんからそう聞いておりますが、それが何か?」
「だって、怪(おか)しいじゃありませんか、署内で消えるっていうのは…。ここは治安の最前線の警察ですよっ! 最後に署員が署長を見た場所は?」
「煎餅を買って戻られたとき、エントランスで立哨警備していた署員が見たということです」
「ということは、署内におられたんだ…」
 鴫田が話に加わった。
「だな…」
 口橋は小さく頷いた。


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <27>

2024年07月15日 00時00分00秒 | #小説

 口橋と鴫田が麹町署へ戻ると、署内の空気は一変していた。
「偉いことだよ、口橋さん…」
 手羽崎管理官が口橋の姿を見るや、息を切らせて走り寄ってきた。
「どうされたんです、管理官?」
「署長が消えたんだよっ!」
「!? …消えたというと?」
「昼前は署長室におられる姿を見た者もいるんだが…」
「どこかへ急用で行かれたんじゃないですか?」
「それが…携帯でも連絡が取れないんだ」
「副署長は?」
「それが…庭取さんもご存じないんだ。弱ったよ…」
「はあ…」
 口橋は管理官のあんたが弱ってどうすんだよ…とは思ったが、そうとは言えず、取り敢えず短い相槌を打った。
「署長が行方不明というのも、いかがかと…」
 それまで二人の会話を聞く人になっていた鴫田が、重く口を開いた。
「鴫田が言うとおりですよ、管理官。現場の指揮にも関わりますし…」
 口橋が鴫田を援護した。
「ああ、そらそうなんだが…」
「副署長は何と言っておられます?」
「庭取さんは、もう少し様子を見ようかと…」
 手羽崎は小声で返した。


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