水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

暮らしのユーモア短編集-46- 家庭冷却化

2018年06月30日 00時00分00秒 | #小説

 近年、地球温暖化の話題が、マスコミでよく取り沙汰(ざた)されている。温室効果ガスなどで少しずつ地球の気温が上昇している・・という現象らしいが、こうした現象は家庭内でもよく起こっているのである。ただ、家庭の場合は真逆(まぎゃく)で、次第に冷却化していく・・という性質のものである。正確に言えば、家庭冷却化と呼ばれる悲しげな現象だ。
 初老にさしかかった、とある中年夫婦の会話である。
「こんなんじゃなかったろっ!!」
「なにがよっ!!」
「着替えがなかったら、以前はちゃんと買ってたじゃないかっ!」
「仕方ないでしょ! 以前は以前! 今は年金暮らしなんだから、始末しなくっちゃ!! 家のローンも、まだ10年も残ってんのよっ!」
「それは分かってるさっ! 分かってるけど、これは、いくらなんでも…」
 主人は妻に綻(ほころ)びの継(つ)がれた下着を突きつけながら愚痴(ぐち)った。
「私だって我慢(がまん)してんだから、それくらい我慢してよっ!」
「下着ぐらい、そんなにしないだろうがっ!」
「ローンの支払いが終わるまでよっ!」
「ほんとかっ!」
「ほんとよっ!」
 どういう訳か、部屋の温度は1℃ばかり下がっていた。家庭冷却化の現象である。以前から、その予兆(よちょう)は見られたが、息子と娘が結婚して都会で暮らすようになるまではそうでもなかったのだ。だが、ここ最近、家庭冷却化は一層、深刻化を増していたのである。主人が唯一(ゆいいつ)、楽しみにしていた夕飯のおかずが三品(さんぴん)から二品(にひん)に減らされたのも、その一つの現れだった。あと数℃、冷却化が進めば、離婚調停ということもあり得た。
 そのとき、息子夫婦が、幼い子供を伴って、久しぶりに帰宅した。
「父さん、これ、土産(みやげ)だよ…」
「ほう!! 都会にはこんなものがあるのか…」
 家の中は笑声(しょうせい)が溢(あふ)れ、冷却化現象はたちまち止(とま)った。不思議なことに、家の温度は2℃ばかり、一気に上昇した。
 家族円満は冷却効果ガスを取り払う触媒(しょくばい)のようだ。^^

                                


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

暮らしのユーモア短編集-45- 分かれ道

2018年06月29日 00時00分00秒 | #小説

 暮らしていると、さて、どちらを…とか、どちらに…などと、選ぶべき道や方法、物で悩まされることがある。その分かれ道が多岐(たき)に分かれるほど、その悩みは大きくなる訳だ。
 棋院の会館でとある囲碁の棋戦(きせん)が行われている。和間の幽霊の間(ま)には[幽霊幻覚]と書かれた達筆の掛け軸がかかり、なんとなく怖(こわ)そうな雰囲気を辺(あた)りに漂(ただよ)わせる。
「猪掘(いのほり)名人、残りあと6回です…」
 時計係の芋川(いもかわ)二段が朴訥(ぼくとつ)に残り時間を告げる。猪掘は次の一手を、さて、どうしたものか…と悩(なや)みに悩み、熟考(じゅっこう)していた。
 別の大部屋では、全国から選抜された有段者を前に、棋戦の様子が大盤で解説されていた。
「どうなんでしょう?」
 若い女性棋士の千波三段がもう一人の老練な男性棋士の解説者、澤藤九段に訊(たず)ねる。
「ええ…なかなか、悩ましいところです。こういけば、こうなり、こういけば、こうなりますが、出られてサッパリです…」
「では、そちらから、というのは?」
「ああ、そちらからですか…。そちらからですと、こうなって、こうなりますから、当然、石は生き辛(づら)く、苦しくなります」
「苦しいですか?」
「ええ、きつい山道を登るように…。まあ、生きられなくもないですが、(つら)辛いですよね。強烈な努力! これが肝要(かんよう)となりますっ! ただ、生きるだけというのは…。その辛さを避(さ)け、こうですと、こうなり、前の手順で出られます。どちらも一局ですが、この局の勝敗を決める分かれ道でしょう」
 そのとき、対局場では、対戦相手の道山(みちやま)九段が、俄(にわ)かに便意(べんい)を催(もよお)し、トイレへ行くべきか行かざるべきか…の分かれ道に立たされていた。

                                


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

暮らしのユーモア短編集-44- 記憶

2018年06月28日 00時00分00秒 | #小説

 暮らしの中で物事の記憶は否応(いやおう)なく必要となる。
 とある老人ホームでね二人の老人がのんびりと庭園を散歩している。
「いい、お天気ですなぁ~!」
「…あの、どちらさんでした?」
「ははは…軽石(かるいし)さん、嫌ですなぁ、私ですよっ!」
「…はて、お見かけしない方ですが? どちらさんで?」
「ははは…、またまたまたっ! ご冗談をっ! 昨日(きのう)もここで、お出会いしたじゃありませんかっ! 重石(おもし)ですよっ、重石っ!」
「重石? はて…? 私は軽石ですが…。なんか他人とも思えません」
「そら、そうですっ! 私とあなたは同室ですから…」
「同室? 誰と誰がっ?」
「私とあなた…」
「ははは…ご冗談をっ! 私はこの老人ホームの管理人ですよっ!」
「二人とも5年前までは確かに…。でも、退職後、ここでお世話になられてるじゃないですかっ!」
「誰がっ!?」
「あなたがっ!?」
「誰と!?」
「私とっ!」
「…そうなんですかっ?」
「そうなんですよっ!」
 そのとき、老人ホームの館長が現れた。
「またですかっ!! ほんとに困りものですなっ! お二人のお家(うち)は前でしょ!!」
 二人の記憶は完全に飛んでいた。記憶は大事である。^^

                                


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

暮らしのユーモア短編集-43- 重力加速度

2018年06月27日 00時00分00秒 | #小説

 とある真夏の日のことである。鮭(さ)を獲(と)る訳でもなく、熊崎が川で水浴びをして帰宅すると、こんな番組がテレビから聞こえてきた。
『某国(ぼうこく)から打ち上げられたミサイルは高い弾道を描き、我が国の近海面に落下した模様ですが…』
『ええ、物凄(ものすご)い高さまで上昇して落下しましたから、当然、重力加速度により凄い落下スピードとなり、最新型のミサイル防衛網でも打ち落とせなかったでしょうねぇ~』
 熊崎は、フンッ! 野次馬気取りで気楽なこと言ってらっ! と野次馬的に画面を観聞きしながら思った。
『なんとか、ならないんでしょうか?』
『…あなたは、どう思われます?』
『いや、私には…』
 番組の進行役を務めるアナウンサーは思わず口を噤(つぐ)んだ。
 熊崎は内心で思った。馬っ鹿だなっ! 打ちあげられた直後か、遅くても最高高度到達点までに打ち落とせるシステムを開発すりゃいいだけのことじゃねぇ~か…と。
 確かに熊崎の単純な考えは一理あった。というのも上昇している間のスピードは、重力により、そう早くはならないからである。最高高度に到達するまでに感知して迎撃できる最高精度のシステム開発を秘密裏(ひみつり)に完成させればいい訳である。実弾射撃訓練の費用、その他の不必要な防衛予算を秘密開発へ回せばいいのさ…と偉(えら)そうに熊崎が思いながら家の外へ出たとき、空から小鳥の糞(ふん)が道へビチャッ! と落ちてきた。
「やはり、重力加速度は相当のもんだな…」
 熊崎は重力加速度を実感し、はっきりと口にした。

                                


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

暮らしのユーモア短編集-42- スカッ!

2018年06月26日 00時00分00秒 | #小説

 誰しもスカッ! とした気分になりたいものだ。ムシャクシャするような出来事でもあれば、尚更(なおさら)である。それは何も出来事に限ったことではない。暑さに向う季節の外作業や仕事は、どうしても汗が吹き出るから、スカッ! とするには、それ相応の事前工作、早い話、綿密(めんみつ)に練(ね)った用意周到(よういしゅうとう)な行動計画が必要・・ということに他ならない。
 鮨川(すしかわ)食品の営業一課である。
「暑い中を申し訳ないが、鯖味(さばみ)物産までひとっ走(ぱし)りしてくれませんか、飯洲(いいず)さん! そのまま帰ってくれて結構だから…」
「分かりました、課長」
 万年課長の根多(ねた)に頼まれた幹部候補生として新(あら)たに配属(はいぞく)された登路(とろ)は快(こころよ)く引き受けた。登路の脳裏(のうり)には、スカッ! とするための綿密な行動計画が一瞬で浮かんでいたのである。その計画とは、次のようなものだった。
 1.今が4時過ぎ→鯖味物産まで20分だから→4時半には着く→書類を渡して社内の挨拶回りに30分→5時に社を出られる。
 2.帰宅までが30分→風呂でスカッ! と、汗を流す→よく冷えた美味(うま)い生ビール→ツマミは鯖味物産前で買うジュ~シィ~な串カツ
 3.ほろ酔い気分で寛(くつろ)ぎ、完全にスカッ! とする。
 この1.~3.は一見(いっけん)、単純な発想に思えるが、そこはエリート幹部候補生の登路の立てた計画だから抜け目がなかった。
「あっ! 母さん? 俺。5時半頃には帰るから、バスにお湯、張っといてっ!」
『はい! 分かりました…』
 鯖味物産へ向う途中、登路は歩きながら母親へ携帯を入れていた。これも、スカッ! とするための無駄がない登路独自の行動計画の一つだった。
 まあ早い話、スカッ! とするには、それなりの準備工作が必要・・ということだろうか。^^

                                


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

暮らしのユーモア短編集-41- 修理

2018年06月25日 00時00分00秒 | #小説

 大工で棟梁(とうりょう)の板岸(いたぎし)は、家を修理中、ふとした弾(はず)みで、脚(あし)を打撲(だぼく)し、急遽(きゅうきょ)、病院へ直行することになった。
「こういうことは、初(はじ)めてですか?」
 医者の釘川(くぎかわ)は、やんわりと外堀(そとぼり)から板岸の診断に取りかかった。
「ははは…いやですよっ、先生! 初めてに決まってるじゃないですかっ! あっしは、そんなウッカリ者じゃありやせんぜっ!」
「いや、そういう意味じゃないんですがねっ!」
「どうなんですっ、先生!」
「まあまあ、そう慌(あわ)てないで…。どれどれ、ここ、痛みますかっ?」
「いいえ、ちっとも…」
「ここはっ!?」
「別に…」
「この辺(あた)りはっ!!?」
 釘川は、これ見よがしに押した。さすがにこれだけ押せば痛いだろっ! とでも言いたげな押しようだった。
「…まあ、痛いといえば、少し…」
「痛いですかっ!?」
「はい、まあ…」
 そら、そうだろっ! と釘川は板岸から一本、取ったようにニンマリと北叟笑(ほくそえ)んだ。
「大したこたぁ~ありませんっ! 軽い打撲(だぼく)、つまり、打ち身ですなっ! 貼(は)り薬と、念のための痛み止めを出しときますっ!」 
「あの…どれくらいで治(なお)りやすかねっ!? 今、家修理の大事なときで…」
「ははは…あなたの修理も大事でしょ?」
「はい、そらまあ…」
「心配いりませんっ! 普通に動けるようでしたら、明日はなんですが、そうですなっ…明後日(あさって)からでも…」 
「ありがとうごぜ~ました」
「あなたの家も、年相応にガタがきてますから、無理しないように…」
「分かりやしたっ!!」
 大きなお世話だっ! と板岸は言おうとしたが、思うに留(とど)めた。 
 家を軽く修理中の棟梁、板岸は、軽く自分の脚を修理することになった。すべての物は使っていると、多かれ少なかれ修理が必要となるのである。

                                


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

暮らしのユーモア短編集-40- やらねばっ!

2018年06月24日 00時00分00秒 | #小説

 日々、暮らしていると、どうしてもやらねばっ! と、思うことがある。そのときやっていることがあると、まあ、あとからでもいいか…と気になりながらも後(あと)回しにすることが多い。そうこうして、やっていることが済んだとき、すでに時間がない場合がある。次の生活時間に追われている・・という場合だ。さて、そのとき、どう対処(たいしょ)するかだが、これは人それぞれで、当然、異(こと)なってくる。
 とある家庭の一場面である。
「あなたぁ~~!! ご飯よぉ~~!!」
「分かってるぅ~~!!」
 夫(おっと)は妻(つま)の声がかかる前にキッチンへ向っていたのだが、ふと、やることを思い出し、それをガサゴソと居間でやり出したとき、妻の声が飛んできたのである。夫は、やらねばっ! と意気込むと、そのまま続けた。
「なによぉ~~! ちっとも分かってないじゃないっ!!」
 いっこうキッチンへ来ない夫に業(ごう)を煮(に)やした妻は、プツプツと小言(こごと)を言いながら居間へやってきた。
「それはそうなんだけどな…。お前、ここへ入れておいた小物入れ、知らないかっ?」
 夫は居間の押し入れを開け、四つん這(ば)いの姿勢で頭を暗闇(くらやみ)へ突っ込み、ガサゴソとやりながら言った。
「小物入れぇ~? そんなの、知らないわよっ!」
「そうかぁ~? 妙だなぁ~~?」
「あっ!! 思い出したっ! この前の掃除のとき、外の物置に入れたわっ、確か…」
「なんだっ! そうか…」
 夫は動きを止め、押し入れから出た。さて、その後、夫はどうしたかである。夫のやらねばっ! と食欲の鬩(せめ)ぎ合いが夫の頭の中で錯綜(さくそう)した。結果は水入りのあと、やらねばっ! の浴びせ倒しの勝ち・・であった。まあ、この夫のやらねばっ! は横綱の食欲には、まだまだ・・という程度の強さということになる。やらねばっ! 頑張れっ! と応援したい。^^

                                


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

暮らしのユーモア短編集-39- 焦(あせ)る

2018年06月23日 00時00分00秒 | #小説

 ふと、気がつくと、もうこんな時間かっ! と思わず舌打ちすることがある。もちろん、誰が悪い訳でもなく、自分の失態なのだから、小言(こごと)や愚痴を他人に垂(た)れることも出来ず、無性に腹立たしくなる。加えて、忘れていた目的を果たさねばならないから、当然、焦(あせ)ることにもなる。この焦る・・という気持の逼迫(ひっぱく)感は人によって様々(さまざま)で、おっ! こんな時間か…。まあ、遅れたら遅れたらで、そのときだ…的に、そう感じない肝(きも)の座った人もいれば、ぅぅぅ…どうしよう! 首かっ! …的に、ビクついて焦る、肝っ玉の小さい人もいるだろう。人によって千差万別(せんさばんぺつ)ということだが、ただ一つ言えることは、焦ることで物事が上手(うま)くいく・・というものでもないということだ。焦らず、ここは一つ…と、平常心でその先を考えた方が上手くいく・・というケースが多いことも事実なのだ。
 とある会社の営業部長室である。部長の肉尾(にくお)が腕を見ながら美味(うま)そうな赤ら顔で激怒(げきど)している。陽はすでに、とっぷりと暮れようとしていた。
「どうなっとるんだっ、鋤川(すきかわ)君! ちっとも先方から連絡がないじゃないかっ!!」
「はあ…妙ですなぁ~、5時前には・・ということだったのですが…」
「だったのなら、入るだろっ!! 明日の昼だぞっ、役員会はっ! どう説明するんだっ!」
 今年、役員待遇の部長に昇格した肉尾としては、面目躍如(めんもくやくじょ)のはずだった一件だけに、面子(メンツ)が丸潰(まるつぶ)れになることを恐れていたのである。焦りに焦る肉尾の顔からはジュ~シィ~な汗が滴(したた)り落ちた。それに比べ、別にドォ~でもいい気分の鋤川は、葱崎食品の白滝(しらたき)さん、どうしたんだろ? くらいの軽さで、少しも役員会のことなど気にしていなかった。
「部長、なんとかなりますよっ、ははは…」
「わ、笑ったなっ、君っ!!」
「いやいやいや、そういう訳では…」
「も、もういいっ! 帰ってくれたまえっ!!」
「…そうですかぁ? それじゃ、お言葉に甘えて…」
 今夜のスキヤキを思い出した鋤川は、スゥ~っと部長室から消え去った。
 焦れば、美味(おい)しく食べられない・・ということだろうか。^^

                                


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

暮らしのユーモア短編集-38- 空(あ)き時間

2018年06月22日 00時00分00秒 | #小説

 妙なことに、日々、暮らしていると、ひょんなことで空(あ)き時間が発生することがある。そんなときに限ってやることがなく、忙(いそが)しいときにアレコレとやることが多発して重なるものだ。これは、暮らしの中で生まれるある種の軋轢(あつれき)、柵(しがらみ)なのかも知れない。この空き時間を有効に使うには、二つばかり手法がある。その一つは、近々、処理しなければならないだろう…ということをメモって計画しておく・・という手法である。そしてもう一つは、とにかく仕事、やることを追う・・という手法だ。思いついたり気づいたことは時と場合を選ばず、やってしまうのである。と、どうなるか? といえば、空き時間が生まれても、やることがない・・というのは手法を考える以前と同じだが、そこには、ゆとり・・という気分が生まれる。すると、不思議なことに、思いもよらなかったやることを思いつく・・という奇妙な閃(ひらめ)きが生まれる。ゆとり・・が生み出す効果、いや有効、いやいや技(わざ)あり、いやいやいや…一本(いっぽん)なのである。
 地方ローカル線の列車旅行を楽しむ二人の旅人が無人駅に降り立った。
「弱ったな…。次の列車まで、まだ2時間もあるぞっ!」
「フフフ…なにも弱られることはありませんよ、砂底(すなそこ)さん。こういうこともあろうかと、事前に考えときました。この蛸墨(たこすみ)駅の前は、いい足湯があり、美味(うま)い味噌(みそ)田楽(でんがく)の店もあります。それを頬(ほお)張りながら冷たい生ビールでキュッ! と一杯やってますと、ほどよく次の列車に約30分となる計算ですっ!」
「緻密(ちみつ)だねぇ~、君(きみ)はっ!!」
「はいっ! これが唯一(ゆいいつ)の僕の取り得(え)ですから…」
 砂底は平目(ひらめ)の言葉に、いいのを連れて来たな…と思った。
 空き時間の有効利用は、人生を有意義に生きることにも繋(つな)がるようだ。^^

                                


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

暮らしのユーモア短編集-37- 心地(ここち)いい

2018年06月21日 00時00分00秒 | #小説

 春ともなれば爽(さわ)やかで気分のいい空気が流れる季節となる。暑くもなく、かといって寒くもない、思わずウトウトするような、恰(あたか)も猫じみた気分にさせる季節である。この気分を、人は心地(ここち)いい・・と表現する。
 二人の老人が、いつものように公園の木漏(こもれ)日の下のベンチで寛(くつろ)いでいる。爽快(そうかい)な風が時折り、二人の頬(ほお)を撫(な)でる。
「なんか、いいですね…」
「はい…心地いいとは、まさにこの気分ですなぁ~」
「はい、確かに…」
「これ、買っときました…」
「おお! 今日は魚フライ・デラックス弁当ですかっ!」
「お気に召(め)しましたかな?」
「ええええ、そらもう…。家(うち)では文句(もんく)が言えませんからな…」
「義父的には食べない訳にも参りません」
「ははは…そういうことです」
 二人はいつも、交互にお気に入りの弁当を買ってきて公園の下で食べるのが日課(にっか)だった。互いに金を請求しないのがルールとなっていた。曇りや雨、それに嵐の日は公園前の市立・憩(いこ)いの里と呼ばれる施設内で食べたが、それが飽(あ)きもせず、日長一日・・いや、日長一年続いていた。これが二人にとって唯一(ゆいいつ)の心地いい習慣だったのである。
 世の中の暮らしの中では、笑えるような心地いい場面が、いろいろと起こる。^^

                                


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする