残月剣 -秘抄- 水本爽涼
《教示③》第十四回
左馬介は、鴨下や長谷川が試した時の映像の記憶を呼び起こし、その図を懐紙へと書き留めた。更には、綿密に詰めて、寸分の誤りも起こらないように動作を細分化する。そして、それを何度も脳裡に想い描いて頭へと叩き込む。身体で覚える実践が不可能な以上、ここは頭に覚えさせるしかないのだ。
何やかやと失敗のない動きを頭に描いて書き記(し)しているうちに、陽は疾うに傾いて暮れようとしていた。未だ僅かに明るさが残る空を見遣り、まあ、やるだけはやったか…と、左馬介は思った。
「左馬介さん、夕餉の準備が整いました。あっ! それとも、風呂へ先に入られますか? もう沸いてますから…」
鴨下は一人で賄いをするようになってからというもの、すっかり賄い番が板についてきた。
「どうも…。少し疲れましたので、風呂を先に…」
そうとだけ、左馬介は軽く返した。頷くと、鴨下は直ぐ背を向けて、去ろうとした。その後ろ姿に、
「あのう…」
とだけ左馬介は短く声を掛けていた。自分でも何故、掛けたのかは分からず、無意識がそうさせたのだった。鴨下は直ぐ振り返り、「何でしょう?」と、立ち止まった。左馬介は次の言葉に窮した。