水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

分からないユーモア短編集 (8)争(あらそ)い

2020年07月31日 00時00分00秒 | #小説

 人の歴史が人と人、国と国との争(あらそ)いの中で進んできたことは否(いな)めない事実である。だが私には、両者がなぜ争わねばならないのか? が、どうしても分からない。新婚当初はあれだけ仲の睦(むつ)まじかった夫婦が年を重ねて争い[この場合は軽い口喧嘩だが ^^]に明け暮れるのは一番、分からない。^^
 定年後、暇(ひま)をもて余した初老二人が、今日も同じ公園の同じベンチに座り、これも同じようにコンビニ弁当を食べている。
「来年は、いよいよオリンピックですなっ!」
「そうですなっ! アレは平和でいいっ! 争いではないですからなっ!」
「そうそう! 勝ち負けではなく技量(ぎりょう)を競(きそ)う訳ですからっ!」
「はい、競技(きょうぎ)ですっ! 結果として上位、下位の差は出ますが…」
「決して争いではないっ! …なんとかいう♪湖畔の宿♪の人も歌ってましたっ!」
「…♪湖畔の宿♪? はて?」
「懐(ナツ)メロですよっ!」
「ああ! 古いところを、よくご存知でっ!」
「ははは…お恥ずかしいっ! ♪きのうのぉ夢とぉ~~ 焚(た)きぃ捨(す)ぅてぇるぅ~~♪ …焚き捨てるを関西では?」
「くべる・・ですかな?」
「そう、それっ!! くべる・・クーベルタン男爵(だんしゃく)っ!」
「ははは…かなり時間がかかりましたなっ!」
「ははは…さようで」
「参加することに意義がある・・でしたかな?」
「そう! 争いでは決してないっ!」
「確かに…」
 争いになる原因を探(さぐ)るのは容易(ようい)ではなく分からないことも多いが、平和的にやってもらいたいものである。^^ 
 
                               完


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分からないユーモア短編集 (7)寂(さび)しい信号

2020年07月30日 00時00分00秒 | #小説

 都会に住まいされる方々には理解していただけそうにない話で誠に申し訳ないと、まずお詫(わ)び申し上げておこう。^^ というのも、この話の設定が地方道だからである。私には誰も通らない細道と市道の交差点に信号が敷設(ふせつ)されていること自体、未(いま)だに理解できず、分からない社会現象の一つになっている訳だ。誰も通らない田畑の中の細道・・それを縦断する市道に次々と猛スピードで走り抜ける車の数々・・そこに申し訳なさそうに立つ寂しい信号。今日はこの寂しい信号が主人公である。^^
 自転車で通りがかった男が知り合いの農夫と立ち話をしている。
「この信号、立ったのいつでしたかなぁ~?」
「そうですなぁ~。もう、かれこれ五年にもなりますか…」
「もう、そんなになりますか…」
「早いもんです。しかし、私らにすれば、ムダでいらんように思えますな」
「ムダですか?」
「はい、ムダです。誰も通らんのですから、ははは…信号にしてみりゃ、無用の長物のように誰も通らん道に立ってるだけですから、嫌になりますぞ、きっと。私なら堪(たま)ったもんじゃありません」
「確かに…。寂(さび)しいでしょうなっ!」
「ええ、そらもう! 寂しい信号そのものです…」
「立てなきゃ、地方債がわりの財源にでもなりましたか?」
「なりますなります、なりますとも! 信号は寂しくっちゃ~いけませんっ!」
「ははは…確かに! しかし、なぜこんなところに? それが私にはよく分からない」
「さよですなっ!」
 寂しい信号は信号らしくなく、賑(にぎ)やかな場所に立つのが相応(ふさわ)しいようだ。これで分からない問題が一つ解決される。^^
 
                               完


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分からないユーモア短編集 (6)平等(びょうどう)

2020年07月29日 00時00分00秒 | #小説

 暑い夏も煮詰(につ)まり、日没の早さを少し肌で感じるようになると、またお盆の季節がやってくる。[関東地方はひと月、早いようです。^^]そうすると、お坊さんが名調子で、『♪平等(びょぉ~どぉ~~~)施(せぇ~~)一切(いぃっ~さぁ~い)♪』などと、賑(にぎ)やかにお唱(とな)えになる。^^ その平等(びょうどう)だが、何をもって平等とするのか? が、どうも私には今一、分からない。仕方なく、一万円札ではなく十円玉を数えつつ、描かれた平等院の模様をしみじみと見る訳だ。^^
 とある家庭の夜である。4K放送テレビが賑やかな映像を鮮明に映し出している。風呂上がりの夫がダイニングのソファーに座り、冷えたピールを飲みながら画面を見入る。
「ほう! アフリカじゃ餓死者か…」
「飽食のこの国じゃ、毎日、残飯の山で、家畜の餌(えさ)なんでしょ!?」
 キッチンに立つ妻が夕食の準備をしながら上から目線の夫に追随(ついずい)する。
「そう! いったい、平等ってのはどの辺(あた)りのことを指(さ)すんだっ!?」
「私に言われても…」
「まっ! こんな話が出来るだけ、俺達はゆとりがあるってことかっ! 有り難いと思わんとなっ!」
「そうね…」
「国会議事堂の前が芋畑(いもばたけ)だったなんて、今の若い者(もん)は信じられんだろうな…」
「そんな時代がこの国にもあったのよね」
「そうそう! あの頃はゴミを捨(す)てる時代じゃなく拾(ひろ)う時代だった…」
「物がなければ捨てられないわよね」
「そう! 拾う訳さっ!」
「あっ! 捨てて拾えば等しいな。で、平等かっ!?」
「なに馬鹿なこと言ってんのよっ! 夕食にしましょ!」
「はいっ!」
 上から目線の夫は素直に妻に従い、平等になった。
 平等は、いろいろな意味を含む分からない言葉ということになる。^^
 
                               完


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分からないユーモア短編集 (5)夏(なつ)

2020年07月28日 00時00分00秒 | #小説

 夏は氷人間になりたい私にとって、最(もっと)も苦手(にがて)としているものの一つだが、^^ 年々、暑くなる夏の猛暑には辟易(へきえき)している昨今(さっこん)である。なぜ年々、暑くなるのか? その温暖化の真の原因が、温室効果ガスなどの科学的なものによるためなのか、あるいは地球の気象異変によるものなのかは分かっていない。もちろん、私には全然、分からない。^^ ただ一つ、夏は暑いもの! と言われれば、返す言葉がないのは確かだ。^^
 梅雨が明けたばかりのとある町通りで、二人の老人が足を止め、立ち話をしている。
「今年の夏も暑くなりそうですなぁ~」
「ははは…まあ、夏は暑いものですから、覚悟して暮らすしかないでしょうな」
「なぜ、こんなに暑くなったんでしょうな? 私には分からない」
「昭和30年代は日射病でしたからな。今は熱中症! 病名まで暑くなっとります」
「確かに…。これから、どうなるんでしょうな?」
「さぁ~。私には、さっぱり分かりません」
「ははは…私だって分からない。まあ、年々、夏が暑くなろうと、焼け死ぬことはないでしょうが…」
「ははは…それはないでしょうなっ!」
 結論が出たところで二人は、また歩き出した。  夏は年々、暑くなりそうだが、焼け死ぬようなことにはならないようである。^^ 

                               完


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分からないユーモア短編集 (4)宇宙(うちゅう)

2020年07月27日 00時00分00秒 | #小説

 科学者の方々は、宇宙がビッグバンで膨張(ぼうちょう)したっ! とかなんとかのお話を、さも見てきたかのように力説されている。^^ 私には、そもそも宇宙という途方もない大きさの存在が分からないから、ああ、そうなの? 程度の気分で拝聴している。^^ ただ一つ、完全に分からないのは、点が爆発的に膨張して宇宙が大きくなった・・という点だ。^^ というのも、それじゃ、その点は何処(いずこ)に存在していたのっ? と思える素朴(そぼく)な疑問である。私には、その点を取り巻く何処の存在が分からないのである。^^ 要は、私達が生きる三次元の科学と宇宙の科学は、異次元理論も含めて別なのではあるまいかっ? と思える訳だ。^^
 刈り取りが終わった秋の田園風景が広がる、とある田舎の畔道(あぜみち)である。ところどころの休耕地には季節を思わせるコスモスが咲き乱れている。老いた農夫が一人、刈り取り後の田を整地している。そこへ散歩中の一人の老人が、犬を連れて通りかかった。
「やあ、慕情(ぼじょう)さんっ! ご精が出ますなっ!」
「これはこれはっ! うちの妹の連れ合いの従兄(いとこ)の前の家にお住まいの知床(しれとこ)さんっ!」
「はいっ! お宅の妹さんの連れ合いのお従兄さんの前の家に住む知床です。あの…一つお訊(き)してもよろしいかなっ?」
「はあ、どうぞ…」
「そこに咲いておるコスモス畑はお宅のっ?」
「ああ、あのコスモス畑はうちのですが、それが何か? 休耕地ですから雑草除けにもなっとりますっ!」
「要するにコスモス、宇宙ですなっ!」
「咲いておるコスモスが宇宙ですか?」
「はい! 秩序がある調和のとれた宇宙です…」
「私にゃ、そういう小難(こむずか)しい話はよく分からんのですがな。そうなんですかな?」
「ええ! まさしく、あの綺麗(きれい)に咲き乱れるコスモスは宇宙その物ですぞ…」
「そうですかな?」
「はい、そうなんですな…」
 咲く花のコスモスが果(はた)して宇宙なのかどうか? 私には分からない。^^ 
 
                               完


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分からないユーモア短編集 (3)選挙(せんきょ)

2020年07月26日 00時00分00秒 | #小説

 いつの間にか、また国政選挙が行われようとしている。別に私が、「選挙、お願いしますっ!」と頼んだ訳でもないのに、である。^^ まあ、憲法やそれに基づいた公職選挙法の規定がある以上、仕方のないところだが…。これは「憲法を改正してくださいっ!」と国民が発議した訳でもない話とよく似通っている。^^ それはさておき、今回の選挙もそうだが、個人名は知っていたり好感が持てる候補者に投票すればいい訳だが、誰も知らず[この場合は当然、好感が持てる候補者はいないことになる]、誰に投票していいか分からない場合は困る。そこで、政党名は? ということになるが、多数ある政党で、コレっ! という政党がなけれぱ、やはり分からない。^^
 とある家庭のテレビ画面に選挙速報が映っている。
『当選確実が出ましたっ! 湯舟歌雄、2,236票 当選確実!』
 その画面を観ていた夫の会話である。
「ほう! よほど歌が上手(うま)いんだろうな…」
 そこへ、ひょいと現われた妻のひと言(こと)が加わる。
「分からない人でも、なんかいい感じ、じゃないっ?」
「そうだなっ! だから、当選確実か…。俺は今一、開票率5%で当選確実ってのが分からないんだが…」
「そうね…」
 選挙は国民サイドの分からない疑問を投げかける場でもある訳だ。^^ 
 
                               完


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分からないユーモア短編集 (2)歩道(ほどう)

2020年07月25日 00時00分00秒 | #小説

 道路に歩道(ほどう)が敷設(ふせつ)されていれば、誰だって歩道を歩くに違いない。いや、自分の場合はそうしないっ! と断言する人は、まあ少なからず世間離れした風変わりな人・・と言わざるを得ないだろう。^^ ここではフツゥ~の人の場合を例に挙(あ)げて考えてみたいと思う。^^
 歩道を歩くときに問題となるのは、道路の左右(さゆう)どちらか片方に歩道が敷設(ふせつ)されている場合である。左右両方、あるいは歩く右側に敷設されている場合は右を歩いて前進すれば何の問題もない。日本では[人は右!]だからである。^^ だが、これが左に敷設されていれば、どうなんだろう? という疑問が私の脳裏(のうり)に漠然(ばくぜん)と湧く訳だ。^^。 あんた、暇(ひま)だな…と言われても仕方のないところだが、湧くものはどうしようもない。^^ この場合、左側に敷設された歩道があるのだから、左側を歩いてもいいのか? いや、そうすれば左を歩いてしまうからダメだろう…とも思える。私にはどちらが正解なのか、どうしても分からない。^^ 警察関係の方にご意見を拝聴(はいちょう)したいところだが、50km速度制限の国道を40kmでトコトコ走る車があったとしよう。当然、国道は渋滞することになる。そんな場合は、どうよっ!? みたいな話に似ていなくもない。私にはどちらが正解なのか、どうしても分からない。^^
 とある片田舎の町に、堅物(かたぶつ)で潰(つぶ)しの利かない男がいた。この男、人が間違いを常識とする社会で、ただ一人、間違いを非常識とし、非常識が常識なんだっ! と常識論をぶちまけて実践(じっせん)する男だった。自転車を止め、その男を見守る二人の交番巡査の会話である。
「あの人、歩道があるのに、いつも右側を歩いてますねぇ~」
「そりゃまあ、[人は右、車は左]なんだからさぁ~、左の歩道を歩きなさいよっ! とも言えないでしょ!」
「ああ、まあ…。言われてみればそうですっ!」
「どちらが正解なんですかねぇ~?」
「歩道がある右側、この場合、歩く人から見れば左側に敷設された歩道ですが、その歩道を歩いて戻(もど)るか? ってことですかっ?」
「ええ。私には分からないっ!」
「分からないって、警官(コップ)がそんなこと言って、どうすんですっ!」
「はあ、どうもすいません…」
「まあ、言われてみりゃそうなんでしょうけどね…」
「でしょ!」
「はいっ! でもまあ、運用(うんよう)で…ということもありますからっ!」
「運用だと、左側の歩道を歩いてもいいとっ!?」
「いい! とは言ってませんが、まあねっ! ははは…運用、運用っ!」
 二人の巡査はギコギコと自転車を漕(こ)いで去った。
 歩道は運用で左右とも通行が許されるようだ。^^ 
  
                               完


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分からないユーモア短編集 (1)分からない

2020年07月24日 00時00分00秒 | #小説

 世の中は、えっ! それが正解なのっ!? と首を傾(かし)げる分からない内容が正解として罷(まか)り通っている場合がある。明らかに間違っているっ! と分かる内容だとしてもだ。^^  これからお話する100話の短編集は、現代社会で起きているに違いない、そんな出来事の数々である。
 ここは、とある小学校である。
「はい、先生っ!」
「おっ! 猪芋(いのいも)くん。相変わらず、元気がいいですねっ! 関心関心! で、なにか分からないことでも?」
「先生、僕、分からないんです…」
「ですから、なにがっ?」
「1と1を足すと、なぜ2になるんですかっ?」
「えっ!? それは、1と1を足せば2になるからですよ」
「1と1を足せば2になるって、いったい誰が決めたんですか?」
「それは先生も知りません。知りませんが、先生もそうだと教わりました」
「そうなんですか? じゃあ、僕がそれとなく調べておきます」
「猪芋くんが?」
「はい! 分からないことは分かるようにしないといけないとパパとママが言いました」
「ははは…先生も、そう思います」
「じゃあ、分かったら発表したいと思います」
「それは楽しみだなぁ~、先生。よろしくお願いします」
「はいっ!」
 そのとき、授業が終わるチャイムが教室内に響き、算数の授業は終わった。
 このように、常識となっている正解が、なぜなのか? と首を傾(かし)げる分からない内容は、この世に数限りなく存在するのである。^^

                               
 


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忘れるユーモア短編集 (100)お金(かね)

2020年07月23日 00時00分00秒 | #小説

 お金(かね)・・これはもう、皆さん、無くてはお困りになるだろう。^^ 現に国会議事堂でご活躍中の諸先生方さえ財源の捻出(ねんしゅつ)にお困りのご様子で、口から手が出るほど欲しい代物(しろもの)の一(ひと)つに違いない。^^ 世の仕組みを考える上で、お金の本質を知ることは、皆さんが億万長者におなりになる秘訣(ひけつ)[一番の近道]とお考えあれ。^^ そのことを忘れるから、私達はいつまでも貧乏なのである。^^
 とある繁華街にある一軒の店前で、一人の客が買おうか買うまいか…と、♪思案橋ブルース♪を歌うでなく、思案に暮れていた。^^
「どぉ~されました? お客さん」
 ひょいと奥から店前へ出てきた店員が、その客を窺(うかが)った。
「いや、流動性選好(りゅうどうせいせんこう)の動機がね、今一つ…」
「はあ?」
 店員は意味が分からず、首を傾(かし)げた。
「ですから、流動性選好ですよっ!」
「何を言っておられるか、よく分かりません。流動性線香ですか?」
「そう! その流動性選好の動機です」
「蚊取り線香でしたら店の中です…」
 店員は流動性を渦巻(うずま)き、選好を線香と早合点(はやがってん)していた。
「もうっ! そうじゃなくっ! 流動性選好ってのは、早い話、、私が今、財布に持っているお金を好んで手離(てばな)そう…と思う動機のことですよ。使えば手元を離れますよねっ!」
「はいっ!」
「お金にすれば、『やれやれ、これで他へ移動できるんだっ!』くらいの気分ですよっ!」
「そうなんですか?」
「ええ、そうなんですっ! 移動するってのは流動するってこってしょ!?」
「ええ、まあ…」
「要するに、これが流動性選好です。この気分になる動機には、取引的、予備的、そして投資的動機の三つがありましてねっ! 因(ちな)みに、株券、パチンコ、競馬、宝くじなんてぇ~のは投資的動機になります」
「? はあ…」
 店員は、まさか店前で大学の講義を教わろうとは…くらいの気分だ。偉(えら)いのに捕(つか)まった…と、心で悔(く)やんだが、もう遅い。
「それが、この品なんですよ…」
 客は悩んでいる品を指さし、やっと誰もが分かる話に戻(もど)した。店員としては、やれやれ…という気分である。
「この品は少し値が張ります。まあ、お財布の中身のご都合次第ですが…」
「いや、お金は十分、あるんですが…」
「あるんですか? あるんでしたら、この品ですっ!」
「いやいや、あることはあるんです。あるんですが、予備的動機が今一…」
「はあ?」
 店員は小難(こむずか)しい話に、ふたたび首を傾げた。
「ですから、予備的動機がね…。いや、この品と似たのが家にあることはあるんです。ただ、まだ十分、使えるんです。ですから予備的に買っておこう…と思う動機がね。今一つ…」
 聞いた店員は、好きにすればっ! …と怒れたが、そうとも言えず、笑って暈(ぼか)した。
「ははは…さようで。それじゃ、ごゆっくり」
  ここは逃げの一手と思えたのだろう。店員は足早にスゥ~っと店奥へと姿を消した。
 その後、どうなったか? まで私は知らない。
 お金は使おうか、使うまいか…と迷う得体の知れない存在で、使おうとする決断力を忘れると、いつまでも宿便(やどべん)のように財布の中に留(とど)まるから使おうとする積極性が必要だ。但(ただ)し、遊興費も必要経費も使途が不明にならないようご注意をっ!^^
 
                               


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忘れるユーモア短編集 (99)生きる意味

2020年07月22日 00時00分00秒 | #小説

 なんか哲学的で小難(こむずか)しい話になりそうだから端折(はしょ)るが[詳しいことは聖職の僧侶(そうりょ)、神主(かんぬし)、神父(しんぷ)さまなどにお訊(たず)ねください^^]、生きる意味を考えることは決して人生の無駄にはならないだろう。無意味に生きるのはもったいない話で、長生きするだけが能ではない! とかなんとか偉(えら)そうに言われそうだ。まっ! そんな死魔が誘(いざな)うような戯言(ざれごと)は、右から左へと受け流せばいい。もちろん、左から右でも、いっこうに構わない。^^ 折角(せっかく)こんないい国に生まれたのだから、その恩に報(むく)いるためにも有り難く生きねば罰(ばち)が当たる。などと言えば、馬鹿かお前はっ! そんなこたぁ~どぉ~でもいいんだっ! この世は、楽しめばいいだけのところさっ! 楽しんだ者勝ちっ! などと言われるお方も当然、お有りだろう。それも当然で、そういうお方は温泉に浸(つ)かり、美味(おい)しいお酒とお食事でお寛(くつろ)ぎ願えれば、それで結構である。^^
 ここは、とある温泉保養地である。退職後の元社員二人が、のんびりと露天風呂に浸かっている。程よい風が頬(ほお)を撫(な)で、辺(あた)りの景観に相まって、気分は高揚している。
「豚野(ぶたの)さんとこうして旅するのも、これで何回目になりましょうな?」
「そうですな、牛岡(うしおか)さん。かれこれ、三十回近くにもなりますか…」
「ははは…そんなになりますか…。いや、毎回、お世話になっとります」
「いやいや、こちらこそ…。最近は、旅をして自宅へ戻(もど)りますと、なんか空(むな)しゅうなりましてな。ははは…いけません、いけませんっ!」
「ははは…私もです。生きる意味を考えたりなんかします」
「生きる意味ですか? 旅するのが生きる意味でないことは確かでしょうが、ははは…」
「まあ、私らは十分、働いてきたんですから、意味なく生きてもいいんじゃないでしょうか」
「ははは…これからも有り難く生き続けさせてもらいますかな」
「そうしますか、ははは…」
 二匹の茹(ゆ)でダコの笑い声が湯煙(ゆけむり)の中に谺(こだま)した。
 生きる意味など忘れることにして、軽く生きればいい・・という、ただそれだけのお話である。^^

                                     


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