第百五十七回
「失礼します。第二課の児島です。入ってもよろしいでしょうか?」
「ああ…児島君か。どうぞ!」
ドアが開いて、新しく第二課長を拝命した児島君が明るく入ってきた。
「誰かと話してらっしゃいましたが、お電話でしたか?」
「んっ? …ああ、知り合いからだよ…。で、なにかあったのかい?」
「いえ、それがですね…。信じてもらえないと思うんですが、昨夜、変な夢を見たもので、ご報告だけでも…と思いまして…」
児島君は、係長当時とちっとも変らない口調で軽く云った。
「ほう…なんだろう」
「夢では部長があちこちと世界各地を回っておられるんですよ」
「それが変な夢かい? 国外旅行なんて今どき決して珍しいこっちゃない。そりゃ私だって海外旅行ぐらいするだろうさ」
「いや、それがただの旅行じゃなかったんです。テレビでよく映る国の大統領、首相といった人達と一緒ですよ、マジで」
「まあ、夢だからなあ…。そういう架空のことも起こる訳さ。現実離れしたなあ…」
話している私はお告げ以後、不思議なことが信じられるようになっていたから、児島君の云ったことがあるかも知れない…と思いながら話していた。児島君は沈黙して静かに聞いていた。