水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 秋の風景(第二話) 吊るし柿 <推敲版>

2010年02月28日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      秋の風景
 
     
(第二話)吊るし柿 <推敲版>            
 
   登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

○ 裏庭 朝
   蒼々と澄み渡った青空。オレンジ色の実をたわわにつけた一本の柿の老木。見上げる正也。剪定用長鋏で柿を収穫する恭之介。    
  正也M「僕の家には、かなり古い柿の木がある」
  正也  「じいちゃん、この柿、いつ頃からあるの?」
  恭之介「ん? ああ・・これなあ(しみじみと木を見て)。儂(わし)の子供時分には、もうあったな、確か…」
  正也  「ふう~ん。大先輩なんだね」
  恭之介「そうだな…(小笑いして)」 
  正也  「温泉にでも、ゆったり浸かって休んで貰いたいね」
  恭之介「(小笑いして)正也は優しいなあ…。柿の木が喜んでるぞ」
   大笑いする恭之介。釣られて笑う正也。実のついた枝を切り落とす恭之介。一生懸命、柿を籠へ入れる正也。

○ メインタイトル
   「秋の風景」

○ サブタイトル
   「
(第二話) 吊るし柿」

○ 茶の間 昼
   柿の皮を剝く恭之介。熟れた実を選別する正也。廊下から入ってくる恭一。
  恭一   「今年も嫌になるほど出来ましたね…」
  恭之介「フン! いい気なもんだ。お前に手伝って貰おうとは云っとらん! なあ、正也(剥きながら見上げ)」
   しまった! と、口を噤む恭一。
  正也   「ん? うん…」
   下を向いて聞いていない素振りで選別する正也。
  正也M「気のない返事で曖昧に暈し、飛んできた流れ矢を僕は一刀両断した」
   茶の間へ入ってくる未知子。
  未知子「これでいいんですね?」

○ 籠に入れられた熟し柿の山

○ 茶の間 昼
  恭之介「はい、それを持ってって下さい。熟れてますから…」
  未知子「美味しいジャムが出来そうですわ」
   恭之介と正也の作業を、ただ、無表情に眺める恭一。
  正也  「吊るして、どれくらいかかるの?」
  恭之介「ひと月もすりゃ食えるが、正月前には、もっと美味くなるぞ(正也の顔を見て、微笑みながら)」
  恭一  「毎年、我が家の風物詩になりましたね」
  恭之介「ああ…、それはそうだな…(恭一の顔を見ず、穏やかな口調で)」
  正也M「今日は荒れないなと安心したのも束の間、父さんが、いつもの茶々を入れた」
  恭一  「吊るし柿は渋柿じゃなかったんですか?」
  恭之介「やかましい! 家(うち)のは、こうなんだっ!」
   駕籠の柿を持ち、笑って台所へ去る未知子。ふたたび、氷になる恭一。
  正也M「じいちゃんは、これが我が家の家風だと云わんばかりに全否定した。よ~く考えれば、この二人の云い合いこそが我が家の
       家風なのである」
   西日が窓ガラスから射し込んで、恭之介の頭を吊るし柿のように照らす。神々しく輝く恭之介の頭。それを見て、ニヤッと笑う正也。

○ エンド・ロール
   沈み往く夕陽と、そのオレンジ光を受けて輝く恭之介の頭。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 秋の風景☆第二話」をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《教示①》第十七回

2010年02月28日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《教示①》第十七回
 道場へ左馬介が戻ると、長谷川と鴨下が掛かり稽古の真っ最
であった。左馬介の姿が廊下越しに見えると、
「あっ! 左馬介さん。偉く早かったですねえ! 夕餉辺りかと思って
ましたよ!」
 と、鴨下が大声を投げ掛けた。
「それにしても早かったな、秋月!」
 長谷川も鴨下に続いた。二人共、左馬介は散々に打たれ、這(ほうほう)の態で夕刻遅く戻って来るに違いない…と、少し小気味よく踏んでいたのである。それが疲れも見せず、昼前の今なのだ。驚
愕(きょうがく)とはいかない迄も、驚くのは当然であった。
「昼餉はどうされます?」
「食べずに持ち帰った握り飯がありますから…」
「そうですか…。こちらもこれからでして」
 鴨下と左馬介の淡々とした会話が続いた。二人の会話を笑いながら聴く長谷川は、首筋の汗を手拭いで何度も拭い取る。そして、徐(おもむろ)に足を運んで、井戸のある方向へと消えてい
った。
 堂所で笑い声が響いたのは、それから四半時も経たない頃であった。勿論その声は、左馬介、長谷川、それに鴨下の三人が発したものである。


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シナリオ 秋の風景(第一話)キノコ採り <推敲版>

2010年02月27日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      秋の風景
 
     
(第一話)キノコ採り <推敲版>           

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

○ とある山道 朝   
   蒼々と澄み渡った青空。黄橙に色ずく山の遠景。心地よい朝の陽射し。山道を歩く正也、恭之介の遠景。山道を長閑に歩く二人の
   近景。    
  正也M「今日は天気がよいので、裏山へキノコ採りに出かけた」
  正也 「よく晴れたね、じいちゃん!(ウキウキした口調)」
  恭之介「ん? そうだな…(青空を見上げて)」
  正也 「僕、初めてだよ、山は…」
  恭之介「ほお、そうだったか? 儂(わし)が元気なうちに、正也に、いろいろ教えておいてやろうと思おてな…」
  正也M「何を? と訊くと、じいちゃんはキノコのことを語りだした」
   笑って歩く二人の近景。笑って歩く二人の遠景。
   朝日を浴びる山の木立。小鳥の囀り。広がる青空。

○ メインタイトル
   「秋の風景」

○ サブタイトル
   「
(第一話) キノコ採り」

○   同  朝
   蒼々と澄み渡った青空。黄橙色に色ずく山の遠景。心地よい朝の陽射し。緩やかな山道の傾斜を登る二人。
  恭之介「この辺りは、シメジだ。ずっと登った向うの赤松の一帯はマツタケがよく出るな…」
  正也 「そうか! なるほど…」
   真剣に聞く正也。講釈する恭之介。
  正也M「一生懸命、さも、専門家きどりで得意満面なじいちゃんの鼻を、へし折るのも如何かと思え、僕は、そ知らぬ態で聞き上手に
       なった」
   足を止める二人。辺りを見渡す恭之介。
  恭之介「どれ、ここから入るか・・」 
  正也 「うん!」
   山道から木々の茂みに分け入る恭之介。後方に従う正也。

○ 山中・木々の茂み 昼
   キノコを散策する二人。なかなか見つからない正也。すぐ見つけ、収穫する恭之介。それを見て、恭之介に駆け寄る正也。楽しそうに
   話す二人。
  正也M「僕達は、快晴の蒼々と広がる空と澄みきった空気を満喫しつつ散策を楽しんだ」

○ 山中・平坦地 昼
   下界の展望が利く山の平坦地に座り、弁当に舌鼓を打つ
   二人の姿。青空にポッカリ浮かぶ秋の雲。
   O.L

○ 家の洗い場 昼下がり
   O.L 
   青空にポッカリ浮かぶ秋の雲。洗い場でキノコを洗う正也。
 正也M  隣りで身体を冷水で拭く恭之介。
  「じいちゃんは年の功というやつで、キノコ採りの名人と思えた。収穫量は、まずまずだった」
   部屋の外窓を突然、開ける恭一。正也か洗う下の洗い場を見下ろす恭一。
  恭一 「おお…、随分、採れたじゃないか!」
   手を止め振り返り、見上げる正也。
  正也 「松茸に黄シメジ、…ナメコもあるよ」
  恭之介「お前も来りゃよかったんだ…(身体を冷水で拭きながら)」
  恭一 「今日は生憎(あいにく)、会社から持って帰った仕事がありましたから、ははは…又(また)。又、この次に…(軽い笑いを交え
       て)」
  恭之介「お前のは、いったいどういう又なんだ?又、又、又、又と、又の安売りみたいに…(少し怒り顔で)」
   洗いながら、二人の遣り取りを眺める正也。
  正也M「上手いこと云うが、じいちゃんは相変わらず父さんには手厳しい。父さんも只者ではなく、馴れもあって、そうは気に留めてい
       ない」
  恭一 「安売りと云やあ、この不況で私の会社の製品、値下げなんですよ」
  恭之介「そんなこたぁ、誰も訊いとりゃせん!(怒って)」
   返せず、沈黙する恭一。台所の戸を開けて出てくる未知子。
  未知子「ナメコとシメジは汁物にして、松茸は炊き込み御飯と土瓶蒸しにでも…(キノコを眺めながら)」
  恭一 「偉く豪勢じゃないか…(未知子に向って)」
  未知子「あなたの給料じゃ、手が出ないわ(窓を見上げて、嫌味っぽく)」
  正也M「母さんは珍しく嫌味を云った」
  恭之介「…その通りだ、恭一。未知子さん、上手いこと云いました。これはタダですからな」
   しくじったか…という態で、窓を少しずつ閉じる恭一。

○ 台所 夜
   四人の食事風景。賑やかに語らう恭之介、未知子、正也の三人。テレビを見つつ、一人、黙々と箸を動かせる恭一。
  正也M「その晩は賑やかにキノコ料理を堪能した。でも、父さんだけは一人、黙々と箸を動かせていた」

○ エンド・ロール
   テーブルに並べられたキノコ料理を食べながら談笑す
   る家族四人。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 秋の風景☆第一話」をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《教示①》第十六回

2010年02月27日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《教示①》第十六回
 その証拠に、先に投げ落とされて摑んだ木刀が、しっかと手に握られ金縛りに遭遇したかのように離れない。これが、左馬介自らの
意志ではないことを如実に物語っていた。
━ このお方は、人の動きまでも自由に操れるのだろうか… ━
 そんな素朴な疑問が、ふと左馬介の脳裡を過った。焚き木は相
変わらずパチパチと音をたて勢いよく燃え続けている。
「一太刀、相手をしようと思うがのう…。その前に云っておくことが
ある」
 幻妙斎の白髭が、ふたたびモゾっと動いた。左馬介は一瞬、ギ
クッ! とした。
「この世に長居致したが、この儂(わし)もそう長くはない。何れは、この妙義山に朽ち果てるであろう。故にのう、汝にはそれ迄に堀川の
流儀を全て伝えたいと、ここに呼んだ次第じゃ」
 左馬介は耳を欹(そばだ)てて幻妙斎の声に全神経を集中した。
「今日はこれ迄にする。もう山を降りい。明後日より今、遣わした木刀を持ち、ここへ来るがよい。一日に付き、一(ひと)太刀を遣
す」
 左馬介は言葉が出ず、黙って頭(こうべ)を垂れ一礼した。そして、ゆったりと腰を上げると一目散に岩場を駆け下りていった。


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シナリオ 夏の風景 特別編(下) 怪談ウナギ(2) <推敲版>

2010年02月26日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景

       特別編
(下)怪談ウナギ(2) <推敲版>       

  登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ

○ C.I とある野原の道 早朝 
   ポチと散歩する正也。
  正也M「ポチを散歩させ、(①に続けて読む)」

○ C.I 玄関 外 早朝
   首から出席カードをぶら下げ、玄関から走り出る正也。
  正也M「(①)ラジオ体操へ行き、(②に続けて読む)」

○ C.I 玄関 内 朝
   ポチに餌をやる正也。
  正也M 「(②)帰って、ポチや(③に続けて読む)」

○ C.I 台所 朝
   小忙しく朝食の準備をする道子。タマに餌をやる正也。
  正也M「(③)タマに餌をやって、朝食となる」

○ 台所 朝
   食卓を囲み、食事をする四人。
  恭一  「父さんに聞いたんだが、悪い夢を見たんだってな、正也」
  正也  「んっ? まあね…」
   沈黙して食べる四人。
  正也M「夢の話は既に、じいちゃんから父さん、母さんへと伝わっていた。ここは云わザルだな…と思え、単に一語で片付けることにし
       た」
  恭一  「ふ~ん、そうか。寝苦しかったからな…」
   箸で胡瓜のお新香を摘み、バリバリっと噛る恭一。

○ C.I 玄関 外 朝
   背広姿の恭一が出勤していく。見送る未知子。
  正也M「父さんが出勤し、(③に続けて読む)」

○ C.I 子供部屋 朝
   机で夏休みの宿題をする正也。
  正也M「(③)僕は宿題を済ます(④に続けて読む)」

○ C.I 玄関 外 朝
   畑の見回りに出る恭之介。
  正也M「(④)じいちゃんは家の前の畑の見回りだ」

○ 台所 朝
   炊事場で雑用を熟(こな)す未知子。テーブル椅子に座り、道子の様子を見遣る正也。
  正也M「母さんは? と見ると、家の雑用をしている。僕は、夢で見た小川へ早速、行ってみることにした」
   椅子を立つ正也。下にいたミケが美声でニャ~と鳴く。玄関へ向かう正也。

○ 玄関 内 朝
   靴を履く正也。台所から道子の声。
  [道子] 「暑くならないうちに戻るのよぉ~!」 
  正也  「は~~い!(可愛く)」
   戸を開ける正也。ポチがクゥ~ンと鳴く。戸を閉める正也。
  正也M「目敏(ざと)い母さんは、レーダーで僕を見ているようだった」

○ とある小川 朝
   子鰻(うなぎ)を探す正也。干上がりかけた水溜りにいる子鰻。気づく正也。両手で掬(すく)い本流へと逃がしてやる正也。泳ぎ去る
   子鰻。
  正也M「夢に現れた小川へ行くと、確かに…お告げのように一匹の子鰻が、干上がりかけた水溜りにいた。僕は急いで本流の方へと、
       その子鰻を両手で掬うと逃がしてやった。勢いよく子鰻は泳ぎ始め、そのうち、、どこかへ姿を消した」

○ 台所 朝
   食卓テーブルの椅子に座る恭之介と正也。話す二人。
  恭之介「そうか…、まあ、いいことをした訳だな。正夢だったか、ワハハハハハ…(豪快に笑い飛ばして)」
  正也  「それはいいけどさ、枕元が濡れてたのが…」
   今朝、起きた時の超常現象について語る正也。近くで洗濯機を回す未知子の声。
  [未知子] 「あらっ! それ、私なの。うっかり、掃除をした時、バケツをね…慌てて…」
  恭之介「そうでしたか…(大笑いして)」
   釣られて笑う正也と道子。道子の携帯が鳴り、出る未知子。電話の恭一と話す道子。笑って電話を切る未知子。  
  恭之介「恭一からでしたか…」
  未知子『なんだ、そうだったか…』って、笑ってましたわ」
   笑う恭之介、未知子、正也。三人の続く雑談。
  正也M「これが、この夏、起きた我が家の怪談ウナギである。ただ一つ、夢の子鰻は確かに小川にいた…」
○ エンド・ロール
   炎天下の青空。湧水家の遠景。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

   
※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「夏の風景 特別編(下) 怪談ウナギ」 をお読みさい。


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残月剣 -秘抄- 《教示①》第十五回

2010年02月26日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《教示①》第十五回
「おおっ! 受けおったのう…。流石は儂(わし)が見込んだたけの
ことはある、見事じゃ! 早う上へ参れ…」
 幻妙斎はそう掠れ声で云うと、微かに笑った。実のところ左馬介は木刀を手にしている自分に驚いていた。秘められた自らの腕前を初めて自身で知ったからである。予期せぬ幻妙斎の行動に、それを受け止めた俊敏さは、左馬介が今迄に体感していない己が能
力であった。
 左馬介は漸く平坦な上部まで登りきった。するといつの間にか、幻妙斎はふたたび杖を傍らへ置き、静かに座していた。左馬介が幻妙斎のほん手前まで近づいて立ち止まる。束の間の静寂(しじま)が二人を包み込んだ。焚かれる朽ちた木枝のみがパチパチと弾(はじ)けて唯一の音を奏でている。左馬介の内心は、恐れ多いとい
う気持で、とても自分から声は掛けられないのだ。
「上がったと見えるのう。…まあ、そこへ腰を下ろし、暖を取るがよ
かろう」
 瞼を閉じたまま不動の姿勢で座し、幻妙斎は白髭をモゾっと動かせながら告げた。恰(あたか)も、全て見えるが如きであった。左馬介は云われるままに操り木偶(でく)のように座した。自らの意思ではなく、身体が勝手に動かされたのである。


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シナリオ 夏の風景 特別編(下) 怪談ウナギ(1) <推敲版>

2010年02月25日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
       特別編
(下)怪談ウナギ(1) <推敲版>              

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
 
  その他   ・・猫のタマ、犬のポチ、妖怪鰻(うなぎ)[正也の夢に登場]

○ 湧水家の全景 昼
   灼熱の輝く太陽。屋根の上に広がる青空と入道雲。

○ 洗い場 昼
   日蔭で寝そべり、涼を取るタマとポチ。滾々と湧く冷水。

○ 離れ 昼
   恭之介の部屋の定位置で昼寝をする正也。蝉しぐれ。
  正也M「今日も茹(う)だっている。外気温が優に三十五度はある。僕は洗い場で水浴びをした
後、昼寝をしよとしている。滾々と湧き出
       る冷水のお蔭で僕の体温は、かなり低くな
り、生温かい畳が返って心地よいくらいだ(◎に続けて読む)」
   熟睡する正也。

○メインタイトル
   「夏の風景」

○ 
サブタイトル
   「特別編
(上) 怪談モドキ」

○ 書斎 昼 
   書斎の長椅子に横たわり、顔を本で覆って眠る恭一。スイッチの入ったままのクーラー。
  正也M「(◎)父さんは日曜ではないが、夏季休暇で書斎へ籠り、恐らくはクーラーを入れた
まま読みかけの本を顔に宛行いつつ、長
       椅子で寝ている筈だ(◇に続けて読む)」

○ 離れ 昼
   うらめしそうに外を見ながら、団扇をバタバタ扇ぐ恭之介。時折り、流れる汗を手拭いで拭
く。
  正也M「(◇)じいちゃんも、たぶん離れで団扇バタバタだろう」

○ 玄関 内 朝 回想
   出かけようと靴を履く盛装した未知子。見遣る正也。犬小屋で薄目を開け、また閉じるポチ。
  未知子「役員だから仕方がないわ…。正也、あとは頼むわね(バタついて)」
  正也  「うん…」
  正也M「母さんだけはPTAの集会で昼前に家を出たが、御苦労なことだ」
   玄関を出た未知子。閉じられた表戸。
   O.L

○ 玄関 内 昼
   O.L
   開けられる表戸。玄関を入る未知子。台所から走ってくる正也。
  正也M「母さんは五時前に帰ってきた。途中で鰻政に寄ったようで、手には鰻の蒲焼パックを
袋に入れて持っていた」
  正也  「お帰り!(可愛く)」
  未知子「今日は土用の丑だから、夕飯は鰻にしたわ…。それにしても高くなったわね…」
  正也M「そんな苦情を僕に云ったって、物価が高くなったのは僕のせいじゃない。まあ、そんな
ことは夕飯の美味しい鰻丼を賞味して忘
       れたのだが…」

○ 子供部屋 夜
   リフォームされた部屋。布団で眠る正也。
  正也M「その夜、僕は怖い夢を見た。熱帯夜だったこともあり、寝苦しさから一層、夢を見や
すい状況だったと推測される。状況は兎も
       角として、夢の内容は実に怖いものだっ
た。今、思い出しながらお話ししても、身体が震えだすほどである」

○ ≪正也の夢の中≫ 武家屋敷 玄関 夕方
   江戸時代。侍姿の恭之介。その後ろに従う侍姿の恭一。
  正也M「夢で見た僕の家は江戸時代のお武家だった。じいちゃんは二本差しの颯爽とした武
士の出で立ちで、城から戻った風だっ
       た。じいちゃんの直ぐ後ろには、小判鮫のよう
に、これも武士の身なりの父さんが細々と付き従っていた」
  恭之介『今、立ち戻った!』
   出迎える武家の奥方の容姿の未知子。稚児姿の正也。
  未知子『お帰り、なさいまし…』
  正也  『お帰り、なさい? …』 

○ ≪正也の夢の中≫ 同 部屋 夜
   膳を囲んで夕餉を食べる家族四人。鰻の乗った皿。賑やかに笑う侍姿の恭之介。
  恭之介『この鰻は、実に美味じゃのう…(笑顔で)』
   楽しそうな四人。

○ ≪正也の夢の中≫ 同 子供部屋 夜
   布団で眠る稚児姿の正也。妖怪鰻が現れ、正也を揺り起こす。目を開ける正也。正也を驚
かす妖怪鰻。
  妖怪鰻『ヒヒヒ…お前が食べた鰻は、この儂(わし)じゃあ。このままでは成仏、出来ず、化け
て出たぁ~』
  正也  『僕の所為じゃない~!(喚いて)』
   問答無用と、正也の首を両手で絞めつける妖怪鰻。
  正也M 「これも今、思えば妙な話で、鰻に手がある訳もなく馬鹿げているのだが、夢の話だか
ら仕方がない」
  正也  『ど、どうすれば許して貰えるの?』
  妖怪鰻『儂の息子が斯(か)く斯くしかじかの小川で干上がりかけているから、助けてくれるな
らば一命は取らずにおいてやろう…(偉
       そうに)』
  正也  『そ、そう致します…』
  正也M「鰻に偉そうに云われる筋合いはない、とは思ったが、息苦しかったので、そう致しま
す…などと敬語遣いで命乞いをしたよう
       だった。怖かったのは、その小川を僕が知っ
ていたことである」

○ もとの子供部屋 夜
   うなされ、目覚める正也。目覚ましを見る正也。二時半過ぎを指す時計。また目を閉じ、布団
を被る正也。眠る、布団の中の正也。
   O.L

○ 子供部屋 早朝
   O.L
   目覚める、布団の中の正也。
  正也M「その後、寝つけなかったものの、早暁には、まどろんで朝を迎えた。枕元は気のせい
か、多少、畳が湿気を帯びて生臭かった」

○ 洗面所 早朝
   パジャマ姿で歯を磨く正也。離れから手拭いを提げて現れる恭之介。
  恭之介「おっ! 今朝は儂(わし)と互角に早いぞ、正也」
  正也  「なんか、よく寝られなかったんだ…」
  恭之介「そうか! 昨日は、熱帯夜だったからな。実は儂も、そうだ(笑って禿げ頭を片手で、こ
ねくり回し)」
  正也  「それにさ、怖い夢を見たよ…」
  恭之介「ふーん…、どんな夢だ?」
   昨夜、見た夢の子細を恭之介に話す正也。
  正也M「僕は昨日の、おどろおどろしい夢の一部始終を洗い浚(ざら)い、じいちゃんに語っ
た」
  恭之介「ほう…、それは△§Φ▼フガ…。√∬▲フガフガガした方が◆★フガだろう」
  正也M「じいちゃんは顔を洗って入れ歯を外したから、こんな口調となった。入れ歯語の通訳
をすれば、『ほう…、それは怖かったろう
       な。そのお告げのようにした方がいいだろ
う』と、なる」

                                   ≪つづく≫


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残月剣 -秘抄- 《教示①》第十四回

2010年02月25日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《教示①》第十四回
 声か響いて間もなく、左馬介の眼前に幻妙斎の座す姿が小さく現れた。距離からすれば、そう離れているようにも思えないが、それでも間近かというのでもない。左馬介は師の姿を見て歩を速めた。それに伴い、幻妙斎の姿は次第に大きさを増していく。やや慢な上り勾配の前方に、焚き木を燃して暖をとる幻妙斎の白髪の
姿が橙色に浮かんで揺れていた。
 そして遂に、左馬介は幻妙斎が座す平坦な岩場まであと十数歩の所へ近づいた。幻妙斎と対峙する為には、石段状に上へと続く天然の岩場を登れば事は足る。が、その時、左馬介の気配を察知した幻妙斎が静かに両瞼を開けると、立ち上がって下の左馬介を見据えた。岩場を上がろうと仰ぎ見た左馬介の目線が、その見据えた師の眼差しと一瞬、合った。距離にして二間(けん)ばかりである。そして次の瞬間、幻妙斎は腰を低くして傍らに置いた木刀を鷲摑みにすると、下より少しずつ岩場を踏みしめて登る左馬介に向け勢いよく投げつけた。それも一瞬の出来事であった。驚いたのは左馬介である。上から速さを増して落ちる木刀を、咄嗟(とっさ)に素手で摑んでいた。恐らく他の門弟ならば身体を避け、木刀は岩場に転がって激しい音を発していたに違いなかった。それは矢張り、永年に渡る隠れ稽古の成果だといえた。


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シナリオ 夏の風景 特別編(上) 平和と温もり(2) <推敲版>

2010年02月24日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
 
      特別編
(上)平和と温もり(2) <推敲版>      

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
 
  その他   ・・恭一の上司と同僚社員、猫のタマ、犬のポチ

○ 洗い場  昼
   空に広がる入道雲。日蔭で涼んで寛ぐタマとポチ。水浴びを終え、衣類をつける正也。滾々と
湧く水。蝉しぐれ。
  正也M「入道雲が俄かに湧き起こり、青空にその威容を現すと、もう夏本番である」

○ 離れ 昼
   恭之介の部屋の定位置で横になる正也。蝉しぐれ。
  正也M「恒例となってしまった湧き水の洗い場で水浴びを済ませ、昼寝をした。恒例になって
しまったのは二年前のリフォーム工事か
       らのことで、母屋では工事音が五月蠅くて
寝られず、じいちゃんの離れで寝る破目に陥ったせいだ。リフォーム工事が済んだ去
       年の夏も、僕は水浴びを終えてから母屋で昼寝をした。…その訳は、味をしめたか
らである(最後の一節は可愛く)」
   片手で団扇を扇ぎながら部屋へ入る恭一。もう片方の手に持つラジコンの模型セットを枕元
へ置く恭一。
  恭一  「よく寝てるな…(小声で呟いて)」
  正也M「未だ眠っていないとも知らず、父さんは約束したラジコンの鉄道模型セットを僕の枕
元へ置いた。冬のサンタじゃあるまいし、シ
       ャイで直接、手渡せない性格が父さんを
未だに安定したヒラとして存続させている原動力なのだろう。出世、出世と人は云う

       れど、そんな人ばかりじゃ、偉い人だけになってしまうから、父さんは貴重な存在
だと僕は思っている。それに…(◎に続けて
       読む)」

○ (フラッシュ) 料亭 夜
   頭へネクタイを巻き、得意の踊りを披露する、赤ら顔の恭一。その芸に浮かれる膳を囲む同
僚社員や上司。
  正也M「(◎)自分の父親を弁護する訳ではないが、適度に優しい上に宴会部長だし…、(◇
に続けて読む)」

○ (フラッシュ) 台所 昼
   勢いよく、包丁で西瓜を一刀両断する恭之介。それを怖々と見る恭一。
  正也M「(◇)今一、じいちゃんのように度胸がない点を除けば素晴らしい父親なのだ(△に
けて読む)」
   隣で小皿をテーブルへ置く道子。
  正也M「(△)勿論、母さんは、その父さんを管理しているのだから、文句なくそれ以上に素晴
らしい」
   西瓜を見事に切り割った恭之介。恭之介の光る頭。
  正也M「更には、光を発する禿げ頭のじいちゃんに至っては、失われた日本古来の精神を重
んじる抜きん出た逸材で、そうはいないと
       思える」

○ もとの離れ 昼
   恭之介の部屋の定位置で熟睡する正也。蝉しぐれ。目覚める正也。枕元に置かれた鉄道
模型セットの箱に気づく正也。手に取り、喜
   ぶ正也。駆けだす正也。
  正也M「気にはなったが、枕元の箱はそのままにして寝入ってしまい、起きると欲しかった鉄
道模型セットの箱が存在した。ここはひと
       言、愛想を振り撒かねば…と思えた」

○ 居間 昼
   長椅子に座り、本を読みながらカルピス・ソーダを飲む恭一。喜び勇んで駆け入る正也。
  正也  「父さん…有難う!(笑顔で、可愛く)」
  恭一  「ん? ああ…(シャイに)」
   離れから着替えを持って現れた恭之介。正也が持つ箱に気づく恭之介。足を止める恭之
介。   
  恭之介「正也、買って貰えたようだな。・・よかったな(弱々しく)」
   ふたたび歩き出し、洗い場へ向かう恭之介。
  正也M「じいちゃんは、洗い場で身体を拭く為に来たのだが、それだけを流れる汗で弱々しく
云うと、父さんには何も云わず、通り過ぎ
       た」
   台所から声を投げる未知子。
  [未知子] 「お義父さま、お身体をお拭きになったら、西瓜をお願いしますわ」
  恭之介「オッ! 未知子さん。それを待っていました(元気な声に戻り)」
  正也M「俄かに、じいちゃんの声が元気さを取り戻した。やはり、達人はどこか違う…と思っ
た。平和と温もりを感じる我が家の一コマ
       である」

○ エンド・ロール
   よく冷えた西瓜。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「夏の風景 特別編(上) 平和と温もり」 をお読みさい。


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残月剣 -秘抄- 《教示①》第十三回

2010年02月24日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《教示①》第十三回
 円広寺の鐘も遠方の為、耳を欹(そばだ)てないと聞き逃す微音だったから、左馬介にとっては、恐らくその頃合いとだけしか分か
らなかった。
 足元が悪く、ゴツゴツと起伏に富む洞窟を少し進むと、まず通路は左右に分岐した。しかし左馬介が迷うことはなかった。というのは、既に幻妙斎が翳(かざ)した蝋燭が通路を明々と照らしていたからである。それ故、左馬介としてはその灯りを頼りに進めばよかったのである。幻妙斎は来たる月に洞窟へ来るよう自分に云ったことを憶えていた…と、左馬介は或る種の心の昂(たかぶ)りを覚えるのだった。そして奥へ奥へと無心に進んでいく。春先だが山腹の外気は晩冬の冷たさを含んでいた。それが今、更に洞窟へと分け入っているのである。左馬介は次第に疼くような冷えを全身に感じつつあった。だが上手くしたもので、左馬介は身体に
襲いかかる苦痛をそう永く感じないで済んだ。
 五十数歩、左馬介が足を進めた時、洞窟に響く聞き馴れた声
が耳を捉えた。正(まさ)しくそれは幻妙斎の声であった。
「よう参ったのう。もう少しじゃ…。儂はすぐ近くにおる。朝早うか
ら首を長うして待っておったぞ…」
 辺りに谺して響く掠れ声は、どこか神懸っていた。


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