≪脚色≫
秋の風景
(第二話)吊るし柿 <推敲版>
登場人物
湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
湧水恭一 ・・父 (会社員)[38]
湧水未知子・・母 (主 婦)[32]
湧水正也 ・・長男(小学生)[8]
○ 裏庭 朝
蒼々と澄み渡った青空。オレンジ色の実をたわわにつけた一本の柿の老木。見上げる正也。剪定用長鋏で柿を収穫する恭之介。
正也M「僕の家には、かなり古い柿の木がある」
正也 「じいちゃん、この柿、いつ頃からあるの?」
恭之介「ん? ああ・・これなあ(しみじみと木を見て)。儂(わし)の子供時分には、もうあったな、確か…」
正也 「ふう~ん。大先輩なんだね」
恭之介「そうだな…(小笑いして)」
正也 「温泉にでも、ゆったり浸かって休んで貰いたいね」
恭之介「(小笑いして)正也は優しいなあ…。柿の木が喜んでるぞ」
大笑いする恭之介。釣られて笑う正也。実のついた枝を切り落とす恭之介。一生懸命、柿を籠へ入れる正也。
○ メインタイトル
「秋の風景」
○ サブタイトル
「(第二話) 吊るし柿」
○ 茶の間 昼
柿の皮を剝く恭之介。熟れた実を選別する正也。廊下から入ってくる恭一。
恭一 「今年も嫌になるほど出来ましたね…」
恭之介「フン! いい気なもんだ。お前に手伝って貰おうとは云っとらん! なあ、正也(剥きながら見上げ)」
しまった! と、口を噤む恭一。
正也 「ん? うん…」
下を向いて聞いていない素振りで選別する正也。
正也M「気のない返事で曖昧に暈し、飛んできた流れ矢を僕は一刀両断した」
茶の間へ入ってくる未知子。
未知子「これでいいんですね?」
○ 籠に入れられた熟し柿の山
○ 茶の間 昼
恭之介「はい、それを持ってって下さい。熟れてますから…」
未知子「美味しいジャムが出来そうですわ」
恭之介と正也の作業を、ただ、無表情に眺める恭一。
正也 「吊るして、どれくらいかかるの?」
恭之介「ひと月もすりゃ食えるが、正月前には、もっと美味くなるぞ(正也の顔を見て、微笑みながら)」
恭一 「毎年、我が家の風物詩になりましたね」
恭之介「ああ…、それはそうだな…(恭一の顔を見ず、穏やかな口調で)」
正也M「今日は荒れないなと安心したのも束の間、父さんが、いつもの茶々を入れた」
恭一 「吊るし柿は渋柿じゃなかったんですか?」
恭之介「やかましい! 家(うち)のは、こうなんだっ!」
駕籠の柿を持ち、笑って台所へ去る未知子。ふたたび、氷になる恭一。
正也M「じいちゃんは、これが我が家の家風だと云わんばかりに全否定した。よ~く考えれば、この二人の云い合いこそが我が家の
家風なのである」
西日が窓ガラスから射し込んで、恭之介の頭を吊るし柿のように照らす。神々しく輝く恭之介の頭。それを見て、ニヤッと笑う正也。
○ エンド・ロール
沈み往く夕陽と、そのオレンジ光を受けて輝く恭之介の頭。
テーマ音楽
キャスト、スタッフなど
F.O
※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 秋の風景☆第二話」をお読み下さい。