水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疑問ユーモア短編集 (56)金の斧(おの)

2020年02月29日 00時00分00秒 | #小説

 皆さん、よくご存知の童話に[金の斧(おの)]というのがある。語らなくてもいいのだが、掻(か)い摘(つま)んで語ると、^^ 正直ものの木こりが池へ仕事に使っていた汚れた鉄の斧を、うっかり落としてしまう。困っていると、池神様が現れ、『拾ってきてやろう』と言う。そうして池の中から金の斧を持ってふたたび現れ、『そなたが落とした斧はこれか?』と問う。木こりが『そんな立派な斧ではありません…』と言うと、池神様は別の銀の斧を取り出し、『それでは、そなたの斧はこれか?』と、ふたたび問う。木こりは、『いいえ、そんな綺麗(きれい)な斧でもありません…』と言う。すると、池神様は木こりが落とした汚(よご)れた鉄の斧を取り出し、『それでは、そなたの落とした斧はこれか?』と、また問う。『はいっ! 紛(まぎ)れもなく私が落としたのはその斧でございます…』と言って受け取る。池神様は、いたく感心し、『そなたは正直ものじゃ! この金と銀の斧もそなたに遣(つか)わそう…』とお告げになり、池の中へ姿を消す。その話を聞いた欲深な木こりが、わざと自分の斧を池の中へ落とす。すると、池神様が金の斧を持って同じように現れ、『そなたが落とした斧はこれか?』と問う。欲深な木こりが、『はい、その斧に間違いございませんっ!』と言うと、池神様はお怒りになり、『そなたのような欲深なものには落とした斧もやらん!』と告げられ、池の中へお消えになった・・という童話である。そんなことが世の中であるのか? は疑問だが、^^ まあ、正直に言った方が身のため・・ということはあるようだ。^^
 とある警察署の取調室である。二人の刑事が被疑者に尋問(じんもん)している。一人は被疑者に対峙(たいじ)して座っている。
「正直に吐(は)けっ! それじゃ、この大金(たいきん)入りの財布はなんだっ!」
「いえ、あっしは、そんな立派な財布は知らねぇ~んで…」
「ほお! なら、どうして、その財布がお前の家の中にあったんだっ!? あ~~んっ!!」
 すると、近くで立つ別の刑事が声を荒(あら)げ、椅子に座る刑事を援護(えんご)した。
「そうだっ! 財布が歩いて、『こんちわっ! ♪ぼっちゃん、いっしょに遊びましょ♪とでも歌ったって言うのかっ!!』
「ははは…旦那(だんな)ぁ~、上手(うま)いこと言いなさるっ! そのとおりでっ!」
「やかましいわっ!!」
 援護した刑事は、ついに、ぶち切れた。そこへ、別の刑事が取調室へ慌(あわ)てて入ってきた。
「ちょっと!」
「なんだっ!?」
 声をかけられた刑事と入ってきた刑事は取調室から出た。
「害者が息を吹き返し、告訴を取り下げましたっ!」
「なんだって!! それじゃ、ヤツの家から出てきた財布はどうなるっ!」
「ああ、財布ですか。財布は、いつぞやのお礼に、ソォ~~っと窓から落として差し上げた・・とかなんとか言ってます」
「とかなんとかじゃ、こっちが困るんだよっ!! もう、声を荒げたじゃないかっ! お前、適当に言い繕(つくろ)って、お引取り願えっ!!」
「は、はいっ!」
 このように、金の斧ではないものの、疑問が湧(わ)くような金の話も、あることはあるのだ。^^

                                


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疑問ユーモア短編集 (55)善悪(ぜんあく)

2020年02月28日 00時00分00秒 | #小説

 悪(あく)は栄える・・という。だが、果たしてそうだろうか? と、世の中の動きを見ていると思える訳だ。^^ 悪事を重ねて有頂天になって逮捕され、奈落(ならく)の底へと落ちる人も多い。誰がっ! とは言わないが、まあそういうことだ。^^ 自分自身は欺(あざむ)けないから、いくら世の中を誤魔化(ごまか)して否定したとしても、結局、悪事は事実として残ることになる。完全犯罪は成立しない・・ということだ。^^ とはいえ、善(ぜん)がいいの? と問えば、必ずしもそうはならないようだ。善の裏には悪が付き纏(まと)うという。世の中には完璧(かんぺき)な善も悪も存在しないことになり、世の中のすべての事象は、濃さの違いこそあれ灰色だということになる。と、いうことは、生きていく上で善悪は余り深く考えず、ファジー[曖昧(あいまい)]に生きた方がお利口・・ということに他ならない。そういえば、善が悪で、悪が善だった・・などと疑問が湧(わ)くような真逆(まぎゃく)の事実も多々ある。^^
 とある街の人通りである。身形(みなり)のいい一人の老人が大きな袋を肩にかけて歩いている。息切れがするのか、時折り立ち止まり、しばらくするとまた歩き出す。学生風の若者が、見かねて声をかけた。
「おじいさん、大変だねっ! 僕が持ったげるよっ!」
「これはこれは学生さん、ご親切に…。それじゃ、お言葉に甘えますだ…」
 老人は、ヨッコラショ! と袋を歩道へ下ろした。若者には少しの下心があった。『まあ、これならいくらかっ? ヒヒヒ…』という下心だ。
「おじいさん、どこまで行くの?」
「倅(せがれ)の家(うち)ですだっ!」
「分かった! どっち?」
「あの建物の向こうと聞いておりますがのう…」
 学生は大きな袋を背負うと老人とともに歩き出した。学生は、すぐそこだろう…と早合点(はやがてん)していた。ところが、歩いて20分経っても、いっこうに向かう家(いえ)が見えない。
「おじいさん、まだなのっ!?」
「これは妙だ…。はて?」
 二人は立ち止まった。学生は瞬間、『こりゃダメだっ! 早く遁(トン)ズラしないとっ!』と感じた。
「おじいさん、悪いんだけどさぁ~。僕、大学の講義があるんだよっ!」
「はあ! そうでしたかのう。ならば、あとは自分で…」
「そおう!? 悪いねっ!!」
 学生は大きな袋を下ろすとスタコラと来た道を戻(もど)っていった。
 学生の姿が消えたあと、老人は大きな袋を肩にかけ、ふたたび、ゆっくりと歩き出した。そしてその5分後である。
「おお! ここだ、ここだ…」
 老人はとある神社の大鳥居の前に立っていた。
「あの若者、もう少しじゃったが、惜しいのう…。福を授けてやろうと思うたが…」
 その言葉のあと、老人は大きな袋とともに跡形(あとかた)もなく社(やしろ)の中へと消え去った。皆さん、お分かりだろうか? この老人こそ、あのっ! あのっ! 有名な大黒様だったのである。^^ 若者は善の心を起こし、最後は悪い心へと傾いた結果、大きな幸せを逃(のが)したのだった。
 まあ、こんな出来事が起こるか? は疑問だが、思いつきの善悪は慎(つつし)んだ方がいいようだ。^^

                                


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疑問ユーモア短編集 (54)近頃(ちかごろ)

2020年02月27日 00時00分00秒 | #小説

 年齢を重ねると一日が早く過ぎていくようで、どうもいけない。ひょいと、テレビのリモコンを押すと、知らないタレントさんや男優、女優さんが映ることが、しばしばある。…? と考えながら画面を観ていると、結構、名前が出た人物だったりする。ほう! 近頃(ちかごろ)はこんな人が活躍しておられるのか…と、つくづく時の流れの早さを思ったりする訳だ。要は、自分がそれだけ年老いた・・ということに他ならないのだが。^^
 桜が満開のとある公園である。木々の下に設(もう)けられたベンチに座り、いつぞやも登場した、二人の老人が花見をしながら飲みつつ食べている。
「おやっ? 前に新しいお家(うち)が建ちましたなっ!」
「そうですな…。近頃の人間世界は景観(けいかん)がよく変わります」
「ははは…さよです。家は建っても家族が…」
「私のお隣の家など、ローンを返す必要がないナントカにお入りだそうですよっ!」
「リバースモーゲージですか?」
「…? なんです、それはっ?」
「不動産を担保(たんぽ)に融資(ゆうし)を受けましてね。死亡時など契約終了後に、その担保不動産を売却して融資残高を返済する制度・・ということです」
「よくご存知で…」
「ええまあ…。家裁の判事をしておりました頃、ソレ絡(がら)みの民事調停がありましたもので…」
「生きている間だけでも心身とも快適に・・ということですかな?」
「はあ、まあ…。近頃の風潮(ふうちょう)ですと、そうなります。核家族化にともなう一世代住宅・・ということでしょう」
「家はあっても家族がいなくなる・・侘(わび)しい我が国の現実ですな…」
「まっ! 起死回生(きしかいせい)の逆転ということもありますから…」
「崩(くず)れかかっていても、家族が多い楽しい我が家の方がいいようで…」
「ははは…さすがに崩れちゃ困りますが…。まあ、家とは建物ではなく、家族とは言えるでしょう」
「ははは…なるほど!」
 満開の桜の中、二人の笑い声が、いつまでも続いた。
 近頃の変化に合わせる方が幸せになれるのか? は疑問だが、近頃…と思える原因は、年齢を重ねたから・・とは言える。^^

                                


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疑問ユーモア短編集 (53)リフレッシュ

2020年02月26日 00時00分00秒 | #小説

 リフレッシュ・・この言葉もすっかり日本語化した言葉である。検索によれば、元気を回復すること・・とあるが、まあ、そういうことだ。^^ どうすれぱリフレッシュ出来るかは人それぞれだから疑問だが、まあリフレッシュ出来れば、どんな方法でもいい訳である。
 寒い北風が吹き荒(すさ)ぶ、とある海水浴場の砂浜である。一人の男が優雅(ゆうが)にビーチチェアで寛(くつろ)いでいる。そこへ一人の漁師(りょうし)が通りかかった。
「こんなとこで、寒いだに、何してるだがや?」
「はぁ~? 見て分かりませんか? 寛いでるんですよ」
「今は夏じゃねぇ~ぞ。第一(でぇいち)、寒くねぇ~んかね?」
「いいえ、ちっとも! このくらいの寒さだと、まだ少し冷えがたりません!」
「あんた、変った人だな。凍え死(じ)んでも、おら、知らねぇ~ぞっ!」
「ははは…死ぬ訳がない。身体が火照(ほて)ってポカポカと暖か過ぎるくらいですから…」
「そんな人、見たこたぁねぇ~!」
「そらそうでしょ! 私、昨日(きのう)、地球に来たばかりですからっ!」
「ははは…馬鹿、こくでねぇ~!」
「いや、ほんとにっ! リフレッシュにβ[ベータ]2番星からやってきたんですよ」
「そうかね…」
 漁師は、こういう男には関わらない方がいい…と思えたのか、軽くお辞儀しながら愛想笑いを浮かべ、立ち去った。
 しばらくした砂浜である。ビーチチェアと男は、なんの痕跡(こんせき)も残さず消えていた。
 こんな宇宙人がいるのか? という点は疑問だが、いるとすれば、宇宙人もリフレッシュしたいに違いない…とは思える。^^

                                


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疑問ユーモア短編集 (52)疲れ

2020年02月25日 00時00分00秒 | #小説

 疲れといっても二通りがある。身体(からだ)の疲れと気疲れだ。身体の疲れは休息や栄養を摂(と)ることでなんとかなるが、気疲れはメンタル(心理)面の見えない疲れだから厄介(やっかい)である。ただ、なぜ疲れるのか? という疑問には答えかねる。人それぞれで違うからだ。孰(いず)れにしろ疲れるということは、人が機械ではないという証(あかし)だろう。^^
 冬の季節、案山子(かかし)湯という謳(うた)い文句で多くの観光客を呼び込んでいるとある地方の温泉である。疲れが不思議なほど消えることで好評だ。早朝の駅近くで待機する温泉バスが一台、エンジンをかけながら観光客の到着を今か今かと待ち侘(わ)びる。バスの中は暖房が効(き)いて暖かい。
 温泉バスの中、運転手とガイドが話している。
「まだ、疲れるずら?」
「ああ、疲れが取れにゃあ。まあ、しょんないさぁ~」
「シィ~~!! 番頭さん、疲れは禁句ずらっ!」
「おっと!!」
 そこへ駅から下りた温泉客が乗り込んできた。
「このバス、案山子湯へ行くのん?」
「そうだら…。温泉、行かれるだか?」
「そらもぉ、疲れ、取らなっ! お~~い!! 皆、こっちやでぇ~~!!」
 ゾロゾロとあとから観光客の集団が乗り込む。温泉バスは全員を乗せると発車した。
「なんで[案山子湯]て、言うんどすか?」
「さ、さあ~? ははは…分からにゃ~」
「分からんのどすか。せんないどすなぁ~」
「でも、疲れは取れるよ」
「疲れは取れるそうどす、皆さん!」
 バスの中は賑(にぎ)やかな笑い声に包まれた。
 全国各地にある温泉の疲れを取る効果の差? は疑問だが、温泉に浸(つ)かることで疲れが取れるのは間違いないだろう。^^

                                


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疑問ユーモア短編集 (51)皮膚(ひふ)

2020年02月24日 00時00分00秒 | #小説

 皮膚(ひふ)というのは実に敏感(びんかん)で繊細(せんさい)なものだなぁ~~と、ここ最近、馬鹿のように意識し始めた。^^ というのも、どうも浴室の湯でゴシゴシ! と洗うのには程度がある? と実感したからだ。洗い過ぎて肌が荒れた・・という訳ではないと思うが、サッパリした気分で風呂を上がると、しばらくして肌がムズ痒(がゆ)くなってくる。ココが痒い! という訳ではなく、ドコとはいわず痒くなるのである。これには、さすがに私も参った。^^ どうも、肌の油脂が洗い流され、その結果、肌がカサつく・・とも思えた。検索の結果では、元々、皮膚の角質層にあるバリア機能が擦(こす)り過ぎや洗い過ぎで低下することがある・・とある。あっ! コレだっ! コレに違いないっ! と、ほぼ断定に近く思えている。ただし、正解かどうかは疑問だ。^^
 とある田舎(いなか)の一軒家である。縁側(えんがわ)で日向(ひなた)ぼっこをしながら二人の老人が話し合っている。
「最近、どうも皮膚がカサついて困っております…」
「ほう! それは難儀(なんぎ)なことで…。いつ頃からですかな?」
「ここ最近ですが…。どうも風呂の洗い過ぎではないかと…」
「洗い過ぎですか? 私もゴシゴシ! と、よく洗っとりますが、そのようなことはございません」
「左様(さよ)ですか、ははは…。他の原因ですかな?」
 肌が痒いという老人は、疑問が解けないまま笑って話を流した。
「皮膚は敏感ですからな。皮膚に訊(たず)ねてみてはいかがです。ははは…」
「ははは…ご冗談を。皮膚は、いい心持(こころも)ちにもさせますが、痛くも痒くもさせます」
「ですなっ!」
 二人はお茶を飲みながら、みたらし団子を頬張(ほおば)った。
 皮膚には疑問となる点が、いろいろある。^^

                                


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疑問ユーモア短編集 (50)格差

2020年02月23日 00時00分00秒 | #小説

 格差・・この問題は、世界の国々で大きな問題となっている一大事だ。生まれたときは誰も同じ姿で生まれてくるはずが、生まれた瞬間から誰もが格差という洗礼を受けることになるのは疑問だ。裕福な境遇に生まれられればまだしも、ユニセフの世話にならねばならない貧困層に生まれでもすれば、これはもう格差どころの話ではなくなり、命の危機として一大事どころか大きな社会問題となる。しかし、現在の世界各国は、確実にこの格差社会を歩み続けているのである。こんなことを気楽に書いている私は、まだ喜べる身の上で、神仏の前で平伏(ひれふ)さねばならないのかも知れない。まっ! そこまではしなくていいっ! 家の掃除でもしなさいっ! と、神仏は言われるだろうが…。^^
 受験が迫ったとある有名高の校門である。二人の生徒が話しながら出てきた。
「いや! そりゃいい大学を出ないと、出世で格差がつくぜっ!」
「格差なんて、どぉ~~ってことないじゃん! 健康で平凡に生きていけりゃ、俺はそれで十分っ!」
「明星のように出世したくねぇ~のかよっ!?」
「出世!? 出世なんて肩が凝(こ)るだけさっ! 馬鹿だよ、やめときなっ! ははは…」
「そうかなぁ~? 格差社会を生きるなら、出世した方がいいと思うけどな…」
「久しぶりに意見が分かれたなっ!」
「ははは…だなっ! まっ! 頑張れやっ!」
「ああ、お前もなっ!」
 二人は最高ランクと最低ランクの大学を志望していた。
 その後の二人の人生に、どのような格差が起きたか? は、読者の皆さんのご想像にお任せしたい。ただ一つ言えることは、格差には、変化する・・という疑問の未来が付き纏(まと)っていることである。^^

 ※ 懐かしいところで、雑誌の平凡と明星を掛けてみました。^^

                                


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疑問ユーモア短編集 (49)弱肉強食(じゃくにくきょうしょく)

2020年02月22日 00時00分00秒 | #小説

 AをBが食べ、そのBがCに食べられ、食べたCが、『食べた食べたっ!』と喜んでいると、そこへDがヒョッコリと現れ、『こりゃ、美味(うま)そうだっ!』とばかりにパクリ! とCを食べてしまう。^^ これが自然界における食物連鎖(しょくもつれんさ)だと私達は学校で教(おそ)わったものだ。この食物連鎖は弱肉強食(じゃくにくきょうしょく)といえる現象なのだが、何も食物に限ったことではなく、身近な私達の社会の中でも見受けられるのだ。この現象がいつ起きるのか? は疑問となる点だが、妙なタイミングで起きる場合がよくあるのは不思議といえば不思議な事実だ。まあ、世界七不思議にはならない疑問ではあるが…。^^
 とある会社の昼過ぎである。食事から戻(もど)った社員全員が仕事を始め、しばらくしたところだ。管理職は上がってきた書類に目を通し、決裁印を押している。一般社員はパソコンと格闘し、必死に午前中の事務処理を続けている。午後二時前、全員、眠さに耐えての時間帯だ。
「ファ~~、どうも今日はいかんっ! 実に眠いっ! 君、この書類を引き継いでくれたまえっ! これが決裁印。頼んだよっ!」
「分かりました…」
 部長室に入ってきた専務に分厚い書類を手渡され、部長はアングリした声で了承(りょうしょう)した。気分は『自分でしろっ!』なのだが、とてもそんなことは言えず、とりあえず顔だけ笑って引き受けた。声と顔のギャップはスキー競技の滑降なら間違いなく転倒する感じである。^^
 専務が消えると、部長は、「チェッ!」とひと声、発し、決済印を押し始めた。自分のノルマもあるから大変な量だ。だが、眠気(ねむけ)は容赦(ようしゃ)なく部長を襲う。
 その10分後である。
「アァ~~、どうも今日はいかんっ! 実に眠いっ! 君、この書類を引き継いでくれるかっ! これが決裁印。頼んだよっ!」
「分かりました…」
 課長席の前で部長に手渡された課長は、アングリした顔で「クソッ!」とひと声、発し、決裁印を押し始めた。自分のノルマ+部長の決裁+専務の決裁もあるから、とても無理な量だ。
 しばらく決裁印を押していた課長だったが、眠気も手伝ってか、『こりゃ、ダメだっ!』と諦(あきら)め、係長を呼んだ。
「少し頭痛がするから早退させてもらうよ。君、悪いがコレ頼むっ!」
「えっ!! 僕が決裁をするんですかぁ~~!?」
「分かりゃせんよっ! これが専務印。で、これとこれが部長と私の印だっ! 済んだら、決裁印はデスクのココへ入れておいてくれ。これが鍵(かぎ)だ。じゃあ、よろしくなっ!」
 課長が社屋から消えたその後が、どうなったか? は疑問だが、これがある種の弱肉強食の一例となる。^^

                                


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疑問ユーモア短編集 (48)義務感

2020年02月21日 00時00分00秒 | #小説

 誰に言われた訳でもないのに、やらねばっ! という気分・・人はこの感覚を義務感と呼ぶ。なぜ、そんな気分になるのか? という疑問が、お恥ずかしながら、ふと、湧(わ)いた次第である。^^ で、当然、その疑問をなぜか義務感に捉(とら)われ、解明しようと思う訳だが、^^これがどうしてどうして、なかなか厄介(やっかいな代物(しろもの)なのである。なにせ、個人の心理だからだ。心理は見えないから、難解、この上ない。^^ まあ、これは私に限ったことではないのだが…。^^
 とある家の庭である。一人のご隠居が、どういう訳か自宅に植えられた百日紅(さるすべり)の老木の幹(みき)を磨(みが)いている。その姿が見えたのか、お隣(となり)のご隠居が垣根越しに近づいてきた。
「どうして、そういつもお磨きになっておられるのか、一度、お伺(うかが)いしようと思いましてな…」
「いやぁ~どうってこともないんです。なんかそうしないといけないような…。義務感・・とでも申しましょうかな」
「義務感・・ですか?」
「ええ、義務感ですな。なにせ、この木は私の故郷から移植した唯一(ゆいいつ)の古い友なんです」
「古い友・・ですか?」
「ええ、古い友ですな。私の物心(ものごころ)ついた折りには、すでに植わっておりましたからな。他人(たにん)、いや、他木(たぼく)とは思えないんでございますよ…」
「そうでしたか…」
「ははは…馬鹿な話です。笑ってやってください」
「いや! とてもとても。ご立派なことです。では…」
 隣のご隠居は、疑問が解けたからか、晴れ晴れした顔で遠ざかった。
 義務感の奥底には、他人が疑問となる不可思議な心理が秘められているのだ。^^

                                


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疑問ユーモア短編集 (47)電話

2020年02月20日 00時00分00秒 | #小説

 電話は電話の機能が充足されていれば、それでいいように思える。まあ、便利で多機能もいいのだろうが、電話は直接、出会えない場合、出会いを可能にする電子機器なはずだからだ。携帯でゲ-ムするのが悪いというつもりは毛頭なく禿(は)げた頭の話だが。^^ まあ、そういう疑問が、ふと、浮かぶ。1.携帯画面に相手の姿が映り、その画面を見ながら話せる、2.『おかけになった電話は、電波の届かないところか…』、3.『…の場合は1を、…の場合は2を、…の場合は3を、それ以外の場合は4を、もう一度お聞きになりたい場合は5を押してください』→『それでよろしければ1を押し、#を押してください』→『大変混み合っております。もう一度おかけ直しになるか、そのままお待ちください』などという不便がなく、^^ どこにいようと電波が届いて通話が可能。待つ必要がなく、直接[ダイレクト]に継げる・・などといった機能が大事なのではないか? と思える訳だ。^^
 未来のとある場所と、違うとある場所に存在する二人の会話だ。
『いやぁ~少し太ったんじゃないか。もう大丈夫だなっ!』
 耳に宛(あて)がうことなく、手の平の上の携帯画面を見ながらAが言う。
『ははは…お蔭(かげ)さんで。やっと退院だっ! 一時は10キロ近く痩(や)せたよっ! 』
 Bは退院後、やっと帰ってきた自宅で寛(くつろ)ぎながら返す。
『いやぁ~結構、結構! そのうち一度、メシでもどうだ?』
『ああ。それにしても、汗まみれだなっ!』
『ああ! 今、仕事が終わったところだ。…それじゃなっ!』
『また、かけるっ!』
 A、Bは、どちらからともなく携帯を切った。
 その後、A、Bが出逢え、食事が出来たか? は疑問だが、電話の機能が枝葉末節(しようまっせつ)とならず高まることには疑問を挟(はさ)む余地は何もない。^^

 ※テレビ電話の機能は、すでに現在あるそうです。ただ、電話本体が、ということではないようです。^^

                                


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