水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

足らないユーモア短編集 (37)苦楽

2022年07月31日 00時00分00秒 | #小説

 人の世は苦が付いて回る。日々の苦を和(やわ)らげたり取り除いてくれるのが楽である。楽が足らないと苦が蓄積し、身体や心に障害を与えることになってしまう。だから、苦のあとは楽が必要になるという訳だ。だからといって楽ばかりだと身体がダラけて、いざというときに使いものにならいから困ったものだ。遊び癖(ぐせ)がつく・・というやつだ。^^
 どこにでもいそうな二人のお年寄りが語り合っている。
「最近は、なんか苦が多くなりましたなぁ~」
「そうそう! ウイルス騒ぎとか、いろいろありますからなぁ~」
「私らの若い頃は苦楽がいい具合に起こってましたが…」
「そうそう! 適度にでしたな。今は過激に起こりますからなぁ~」
「マスコミの情報が入りやすいからでは?」
「それは言えますっ! 知らないと苦にならないことが、知れてしまうから苦になる…」
「マスコミの情報が入らない離れ島ででも暮らしますかっ!?」
「ははは…それはそれで気分は楽ですが、身体が苦になろうかと…」
「ははは…それもそうですなっ!」
 苦楽が足らないのも多過ぎるのも、人の世では生き辛(づら)くなる訳である。^^

                   完


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足らないユーモア短編集 (36)怪談

2022年07月30日 00時00分00秒 | #小説

 怪談というのは怖さが足らないと今一つ盛り上がらない。かといって怖すぎてもやはり視聴しにくいから、その程度が難しい訳だ。重要無形文化財保持者、所謂(いわゆる)、人間国宝の方になると、その辺りの妙は心得ておられるから、視聴者側の反応によって微調整する話術をお持ちなのである。
 夏場のとある演芸亭である。一つ目の噺家(はなしか)が得意満面に一席を噺終え、舞台袖へと下がってきたところだ。客の反応は今一で、中にはウトウトと眠る者もいる。外は灼熱地獄だが、客席は空調が程よく利いているからだろう。噺家は楽屋へと軽やかな足取りでスイスイと入っていく。
「お前ねぇ~、あんな語り口調じゃダメだよっ! ちっとも怖かぁ~ないじゃないかっ! 客が呆(あき)れて笑ってたよっ!」
「はい、師匠っ! どうもすいませんっ!」
「私に謝(あやま)ってどうすんだいっ! 謝るならお客に謝りなっ! 怪談ってのはねぇ! 怖かなきゃ怪談とは言わないんだよぉ~」
「…」
 師匠に聴かれていた弟子は何度もお辞儀しながら、独楽鼠(こまねずみ)のように小さく身を竦(すく)めた。
「とても二つ目どころの騒ぎじゃないねっ! 帰ったら夜っぴいて稽古をつけるからねっ!」
「はい師匠っ! よろしくお願いしますっ!」
「話は変わるけどさぁ~、二人目が出来たんだって?」
「はい、お蔭さまで…」
「一つ目で二人の子持ちねぇ~、そういうのは上手(うま)いんだから、怖いよっ! まるで怪談だっ!」
 師匠がニタリと笑い、弟子もニタリと笑った。
 怪談は意外なところに存在するのである。^^

                   完


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足らないユーモア短編集 (35)寂(さび)しい

2022年07月29日 00時00分00秒 | #小説

 寂(さび)しい…と思える気分は、心に何かが足らないからである。何が足らないか? は、人それぞれだが、足らないその何かは何かで補わなければ寂しい気分は晴れない。人とは気分に左右されるから困ったものだ。^^
 とある温泉旅館である。新型コロナの影響からか予約のキャンセルが相次ぎ、いつもの人の賑わいが感じられない。辺りは寂しい限りだ。旅館の仲居頭と番頭の会話である。
「寂しいですわねぇ~番頭さん!」
「そうですか? 私は今までで一番、寛(くつろ)げておりますよ」
「でも、寂しいでしょ?」
「そらまあ、寂しいといっちゃ寂しいですがねぇ~。五十年…今までが忙し過ぎましたから…」
「五十年になりますか? それはそれは…」
「いつの間にやら五十年ですよ、ははは…」
 五十年続けると寂しい気分は消えるようである。^^

                   完


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足らないユーモア短編集 (34)視力

2022年07月28日 00時00分00秒 | #小説

 視力が足らないと運転免許取得はアウトとなる。視力が足りるよう眼鏡などで足るようにする訳だ。
 とある警察署の交通安全協会の窓口である。多くの免許更新者が列をなして並んでいる。
「熊肝(くまぎも)さん!」
 係員に呼ばれた熊肝が長椅子から立ち、視力検査台の方へと進む。係員が指示したとおり持ち物を籠に入れ、熊肝は椅子に座る。
「これはっ!」
「右です…」
「はい。これはっ!」
「これは…見えません。左ですか?」
「いえ、下です…」
 しばらくして、係員が静かに語り始める。^^
「残念ですが、両眼でも0.6あるか、なしですね。視力が足りませんので不合格です。0.7以上が合格ですので、眼鏡を作って、もう一度、出直して下さい」
「はいっ!!」
 熊肝は、俺は試験を受けてんじゃねぇ~! と一瞬、イラついたが、仕方なく警察署を出ていった。
 熊肝が怒るように、免許は既に取得しているのだから合格、不合格は関係ない訳です。検査員さんの脳内視力が足りない・・とまでは言いませんが、何かが足りないのです。^^

                   完


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足らないユーモア短編集 (33)収容能力

2022年07月27日 00時00分00秒 | #小説

 収容能力が足らない・・などと言う。今風に言えばキャパシティとかキャパとかいうのだろうが、収容能力が足らないからといって詰め込めるものではないから、当事者は困ってしまう訳だ。^^
 通勤ラッシュ時の、とある鉄道の鼻毛(はなげ)駅構内である。
『鼻毛ぇ~~です。耳垢(みみあか)線は乗り換えです。このあとは快速となります』
 駅員が構内アナウンスをいい声の鼻声で流暢(りゅうちょう)に流す。滑らかに列車が到着し、ドアがスゥ~っと開く。列車内は通勤客で鮨詰め状態である。そこへ、何がなんでも乗ろうとする必死な通勤客達。
「つ、詰めて下さいっ!!」
 駅員は彼らの背中を押して、必死に詰め込もうとする。明らかに列車の収容能力を超え、乗車率130%である。乗ろうとしている通勤客達はどうにか詰め込まれ、ドアがなんとか閉まる。そして、静かに列車が走り出す。
「ふぅ~昨日に比べりゃ、まだいい方か…」
 帽子を脱ぎ、ハンカチで汗を拭(ぬぐ)う駅員が呟(つぶや)く。昨日は150%だったからである。こうして、鼻毛駅の日々は続いていくのだった。
 収容能力が足らない場合でも、人々は収容されるよう耐えねばならないのです。^^

                   完


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足らないユーモア短編集 (32)風の存在

2022年07月26日 00時00分00秒 | #小説

 風の存在は、いろいろな場面や状況、気候etc.で、いろいろと遣(つか)われる言葉である。例えば、少し風が足らない・・と言った場合、気候の場合も当然あるが、吹いていないのに遣う場合もある訳だ。この場合は自分に不利な状況を指す。
 とあるテレビ局の天気概況を気象予報士が馴れた口調でペラペラと解説している。^^
『え~~、ですから明日は大陸から春の高気圧が張り出しますので全国的に晴れ渡るでしょう。ただ、中国から黄砂が飛んできます。偏西風により生じる現象です。困った風の存在ですが仕方ありません』
 この天気概況をテレビをで観ていた、とある家庭のご主人が独りごちた。
「風の存在か…。そういや、俺には、いい風の存在がある。なにせ、この春から部長に昇格したからなっ! 吹く風が足りてよかった、ははは…」
 ご主人はニンマリ笑いながら残ったジョッキの生ビールを飲み干した。
 このように風の存在は吹けば悪い場合もあるが、いい場合もある訳だ。^^

                   完


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足らないユーモア短編集 (31)頭(あたま)2

2022年07月25日 00時00分00秒 | #小説

 (23)頭に続き、頭(あたま)2である。^^ 君は頭(あたま)が足らないと言われれば、誰だって腹が立つだろう。だが、頭の良し悪しは生まれ持っての天分だから、こればっかりはどうしようもない。^^
 とある会社である。
「瓦(かわら)君はいるかっ! これのコピー、頼むっ!」
 課長の雨漏(あまもり)が、書類を手に課長補佐代行の瓦を大声で呼んだ。そのとき、瓦はデスクで急ぎの書類を作成中だった。瓦にすれば、『頭がいい課長補佐の樋(とい)がいるだろっ!』くらいの拗(す)ね気分である。というのも、前回の人事異動で同じ課長補佐代行だった樋に出世コースで先を越されたからだ。まあ、分からないでもない。^^
「すみません! 課長。今、急ぎの書類をやってますので…」
「こっちだって急いどるんだっ!」
「常務に頼まれた書類なんですが…」
「…常務の板戸(いたど)さんから?」
 頭がいい雨漏は、次の異動の次長昇格をふと、思った。
「ああ、それならいいんだっ。ははは…」
「いいんですか?」
「ああ。いい、いいっ! 樋君、頼むっ!」
 樋にすれば、チェッ! 気分である。頭がいい雨漏は方便を使い、樋を追い抜いたのである。
 頭が足らないと、地位に関係なく仕事がしづらくなるのである。^^

                   完


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足らないユーモア短編集 (28)花見

2022年07月24日 00時00分00秒 | #小説

 花見に欠かせないものや状況は幾つかある。[1]いい場所、[2]美味しい酒や料理、[3]天候、[4]メンバー、[5]日時調整、[6]社会の諸事情etc.である。しかもそれらの要素が一つでも足らない場合、花見は成功裏に推移しないのだ。2021年の今年だと、コロナ騒ぎで[6]が足らないから、花見で賑わう有名どころも通り抜けとなったようだ。
 とある桜並木である。年老いた花見の常連二人が語り合っている。
「いい天候に恵まれましたなっ!」
「しかし、今年は通り抜けで、残念です…」
「コロナ禍では仕方がありません。まっ! こんな年があってもいいじゃありませんか…」
「毎年は困りものですが…」
「そうですなっ! まあ、今年は出費が少ないということで…」
「ですなっ! どうです? これから、軽くお茶でも?」
「いいですなっ! 花見ができるいい店がありますっ!」
 二人はとある店へと向かった。
 花見に足らないものが生じた場合は、知恵がその不足を補うことになる。ということは、よい知恵が浮かぶか浮かばないか、がいい花見の分水嶺ということになる。^^

                   完


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足らないユーモア短編集 (29)収入

2022年07月23日 00時00分00秒 | #小説

 家へ入る収入が足らない場合は、出費を切り詰めるか、副収入を考えるしかない。生活に困窮(こんきゅう)するほどでない場合は、切り詰めて出費を少なくしようとするだろう。経済学者のエンゲルは、この状況を把握(はあく)しようとした。皆さんもよくご存知のエンゲル係数と呼ばれる数値である。この数値は、全収入額に占める食費の割合を示すものだ。食費に占める率が高ければ高いほど貧困である・・と彼は説いた。収入が足らないのだから、その家のご主人以下、家族の方々に頑張ってもらう他はない。まあ、ハチマキを巻いて・・と、までは言わないが…。^^
 とある中央官庁である。課長の蕨(わらび)が深刻な顔でジィ~~っと収入調停簿と予算差引簿を交互に見つめている。
「課長どうされましたっ!?」
 気づいた課長補佐の筍(たけのこ)が、茹(ゆ)でて食べれば美味(おい)しい春めいた顔で蕨に訊(たず)ねた。
「収入調定額をもう少し高めに要求すべきだった…」
「そうですよね…全然、足らないです」
 筍は、そんなことを言ってもあとの祭りですよっ! …とは思ったが、そうとも言えず、蕨に同調した。
「全然、ということはないんだよ。もう少しなっ!」
「はあ、もう少しですよね…」
「もう少しってのは、君の腕次第だという意味だよ」
「はあ…」
「歳費の収入がコレだけなんだからさぁ~、あとは歳出をどう抑(おさ)えるか、これが君の肩にかかってるんだぜ」
「はあ…」
 筍は今にも蕨に湯がかれ、美味しく食べられそうな顔になった。
 収入が足らないと、支出担当者は管理者に美味しく食べられる危険性が高まる訳だ。^^

 ※ 年度末、筍さんは予算残額を出し、美味しく蕨さんを食べ返したということです。めでたし、めでたし…。^^

                   完


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足らないユーモア短編集 (30)決断力

2022年07月22日 00時00分00秒 | #小説

 決断力が足らないと物事は成就しなかったり中途半端に終わってしまう。特に、集団や組織になると、頂点に立ち、全てを動かすリーダーの決断力は重要となる。
 またしても、^^ とある中央官庁である。(29)で登場した課長の蕨(わらび)が、またしても深刻な顔で予算差引簿を眺めている。とある与党の仕分けによって減額を余儀なくされた足らない予算をどう捻出(ねんしゅつ)するか? に悩んでいるのである。
「課長どうされましたっ!?」
 気づいた課長補佐の筍(たけのこ)が、炊いて食べれば美味(おい)しくなる春めいた顔で蕨に訊(たず)ねた。
「予算が削られちまったよっ! さてと…筍君、君ならどうする?」
「どうするも、こうするもないじゃないないですか、課長。減額されたものは復活させればいいんですよっ! そこまでの法的強制力はないんですから…」
「と、いうと?」
「はい、これ…」
 筍が蕨に手渡したもの、それは一枚の流用充当通知書だった。
「ああ! その手があったかっ!」
 蕨の顔が一瞬にして明るくなった。
「足らなくなっても足りるでしょ、課長っ!」
「ああ…」
 二人はニンマリと笑った。
 減額され足らなくなったとしても、法的強制力がなければ、このように科目を変えて予算は復活する訳だ。これを止める決断力は残念ながら政党にはない。政官は癒着(ゆちゃく)もするが、決断力の構造は完全に異質なのである。^^

                   完


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