水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第八十二回)

2012年03月31日 00時00分00秒 | #小説

   幽霊パッション   第三章    水本爽涼                                              
                                              
    第八十二回

「ああ、なるほど…。記憶が消えたあとじゃ、私も上山さんとこんな話は出来ませんからねえ」
「ええ、そういうことです。よろしくお願いします」
「分かりました。まあ、お願いされるほどの話でもないんですが…」
 二人は顔を見合せて軽く笑った。
「さてと…。これで何が起ころうと安心できます」
「ところで、その幽霊さんの調子は、どうですか? 死んだ方に調子と云うのも、なんなんですが…」
「ははは…、平林ですか。彼の場合は、私と違って大変化ですよ」
「と、いいますと?」
「なんでも二段階アップなんだそうです」
「二段階とは?」
「ええ、私も詳しくは分からないんですが、なんでも一段階アップで幽霊から御霊(みたま)に、さらにもう一段階昇って生まれ変われるということらしいんです」
「生まれ変われる?」
「はい、そうです。霊魂が新しい身体を持って胎内に宿るということだそうです」
「妊娠した女性の身体に宿る、ということですね?」
「ええ、まあ…。らしいです」
「いや、このお話は、霊動学者の私としては非常に貴重です。なるほど…。そういう…。ああ、これは今、研究中の課題に大いに参考となる材料です。有難うございました。ふ~む、そうか…、なるほど!」
 佃(つくだ)教授は一人で納得して悦に入った。
「はあ…」
 上山は佃教授の言葉が解せぬまま、訝(いぶか)しげに頷(うなず)いた。佃教授は、さも当然のように、机上に置かれた長数珠(じゅず)を白衣の上に首からかけた。上山の目には、その姿が少し奇異に映った。


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第八十一回)

2012年03月30日 00時00分00秒 | #小説

   幽霊パッション   第三章    水本爽涼                                              
                                              
    第八十一回

「ああ、ゴーステンの幽霊のお方ですか?」
「はい、中位相マヨネーズを渡した、死んだ私の部下です」
 上山は、話を続ける都合上、素直に応答した。
「それで…」
「はい、実は私がその平林という部下の姿が見えるって云ってましたよね」
「ええ…。それで、中位相処理のマヨネーズでしたよね。効果があり過ぎたようですが…」
「そうです。それが、今は、もう見えなくなってるんですよ。声はまだ聞こえるんですが…」
「って、どういうことですか?」
「実は、この話は滑川(なめかわ)教授にもお話ししたんですが、霊界トップの意志らしいんです」
「えっ? 益々、分からないですが…」
「いやあ、私達の活動成果が認められた結果なんですが…」
「そうそう! 上山さんの話は滑川教授とも話してたんですが、すごいじゃないですか!」
「有難うございます。一応の成果というか、そんなのはあったようなんですが…。まあ、すべてが如意の筆の力なんですがね、ははは…」
 上山は笑って暈(ぼか)そうとした。
「いやいや、大したもんです。まさか、世界が平穏になるなどとは思いもしてませんでしたから。それに、武器輸出禁止条約も、すごかったですよね。ノーベル平和賞ものですよ、表立てば…」
「そんな…。私らの正義の味方活動の一環ですから…」
「それが霊界に認められた、ってことですね? 興味ありますね、この話は。私も一応、霊動学の研究者ですから」
「そりゃ、そうでしょう。で、今日の話は、私が孰(いず)れ、その平林の記憶を完全に忘れるようなんです。今のところ、いつか迄は分からないそうですか…。で、佃(つくだ)教授に記憶があるうちにそのことを云っておこうと思いまして…」


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第八十回)

2012年03月29日 00時00分00秒 | #小説

    幽霊パッション   第三章    水本爽涼                                              
                                               
    第八十回

「ええ、まあそういうことになりますかね、ははは…」
 愛想笑いをすると、上山は席を立ち、滑川(なめかわ)教授に軽い会釈をして研究所をあとにした。次に上山が向かったのは、佃(つくだ)教授の霊動学研究所である。佃研究所は大学に一応、認められていて、大学院施設内の一部分に存在していた。しかし、それも表向きは…という杓子定規的なもので、何の成果もない研究所として大学の中枢部からは白い目で見られていた。この点は滑川研究所と同様、ドングリの背比べと云えた。佃教授にはコンタクトを取って向かった上山だが、どう話したものかと頭を巡らせていた。滑川教授と違い、佃教授は理詰めの性格だと分かっているからで、恐らく細部まで訳を訊(たず)ねられるだろう、と思えたのだ。
「これは、上山さん。ご無沙汰しております」
 佃教授は滑川教授とは真逆の丁寧さで上山を入口で迎えた。さらに、研究室への通路を歩きながら、「何でしたでしょう?」と問いかけてきた。
「いえ、大したことじゃないんですが…」
 そう前置きし、上山は一端、口を閉ざした。
 研究室のドアを入ると、いつもいる助手達の姿は、まったくなかった。
「あの…、他の方は?」
「ああ、助手達ですか…。一段落しましたので、今日は休ませております」
 何が一段落したんだろう? …と、上山は怪訝(けげん)に思いながらも、「あっ! そうでしたか…」と、軽く返した。
「まあ、おかけ下さい。ところで、ご用件は?」
 佃教授の理詰めには馴れている上山だったが、いざ訊(き)かれると、どう切り出していいものか、と躊躇(ちゅうちょ)を余儀なくされた。
「ええ、まあ…。平林君と私のことで…」
 とり敢(あ)えず、上山は暈した。


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第七十九回)

2012年03月28日 00時00分00秒 | #小説

    幽霊パッション   第三章    水本爽涼                                              
                             
    第七十九回

「実は…、こんなことを云うと口幅ったいんですが、教授にお話しした平林のことは、聞かなかったこととして、忘れて下さい」
「平林? ああ…、君が見えるという幽霊のことかね」
「ええ、そうです…」
 上山は静かに肯定して、滑川(なめかわ)教授の隣の椅子へ腰を下ろした。
「その平林君が、どうかしたのかな? この前は、ゴーステン騒ぎだったが…」
「平林が、私にはもう見えないんですよ、実は」
「なに! そりゃ、大変化じゃないか! いったい、どうしたというんじゃ」
「どうした、ってことじゃないんですよ。霊界トップの意向で、そうなったんです。今のところは、まだ声は聞けるんですがね」
「ほう…。それで?」
「霊界トップの話ですと、私の平林に対する記憶は、孰(いず)れ、完璧に消えるそうです。もちろん、彼の記憶なんですが…」
「ああ、それでか…。消えれば、私が何を訊(き)いても駄目だからな」
「はい、そうなんです。これは平林が直接、霊界トップから訊いたことでして…」
「結局、何も起こらなかった元の状態になるということかな?」
「いえ、私と平林のやった世界変革の成果は、そのまま残るんですよ。それに、地球語も…」
「おお! そういや今、やっとるなあ、国連で…。なんでも、各国の義務教育で必須科目になると決まったと、朝のニュースが云っておったぞ」
「はい、それです…」
「君らは、ついに世界の正義の味方になったってことだな、わっはっはっはっ…」
 顎髭(あごひげ)を撫(な)でながら、滑川(なめかわ)教授は豪快に笑った。


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第七十八回)

2012年03月27日 00時00分00秒 | #小説

    幽霊パッション   第三章    水本爽涼                                            
                                               
   第七十八回

 上山が滑川(なめかわ)、佃(つくだ)の両教授へ一件の経緯説明に回り始めたのは、その週の土曜からであった。社長の田丸には前日の金曜、退社を少し遅らせて済ませた。
「ははは…。私も上山君のことは聞かなかったことにしよう。元々、彼は事故で随分、前に死んだんだからな」
「そうですよね。社長に訊(たず)ねられなかったら、云ってない話ですし…」
「そうそう。だいいち、この話は、他人の前じゃ話せんしなあ。君ばかりか、私まで変人扱いされちまうよ。取締役会で、すぐ解任動議だ、ははは…」
 田丸は豪快に笑い飛ばした。上山は軽く退室の挨拶をすると、社長室を出た。田丸が案に相違して妙な疑問を抱かなかったのは幸いだな…と、上山は思った。次に上山が向かったのは、滑川教授が籠る滑川研究所である。一応、大学の研究施設として建てられたようだが、研究の特異さのせいか、大学側も余り重きを置いていない感は否(いな)めなかった。それは、所々に見られる施設の老朽化のための破損箇所の放置によって窺(うかが)い知ることが出来た。上手くしたもので、誰も寄りつかないのが上山にとっては好都合だった。しかも、教授は余程のことがないと研究所を空けるということはなく、来訪のコンタクトを取る要が省(はぶ)けた。この日も上山は連絡を入れず直接、研究所へ足を運んだ。研究室のドアを開けると、教授はやはり塵(ちり)と埃(ほこり)に囲まれ、無防備に存在した。
「なんだ! 上山君じゃないか、久しぶりだのう。どうした?」
「いやあ~、どうってことじゃないんですが…」
「んっ? 難しいことは私には分からんぞ、わははは…」
「いえ、そうじゃないんです。報告、報告ですよ」
「報告? 報告って何だ?」
「まあまあ、そう急(せ)かさないで下さいよ。今、云いますから…」
「いや、すまん! そんなつもりじゃないんだがのう」


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第七十七回)

2012年03月26日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                           
   
第七十七回
「左様でございましたか。では、さっそく、上司にそのことを伝えることに致しましょう。いえなに…訊(き)いておいてくれと云われましたもので…」
『そうであったか…。他には、もうないな?』
『はは~っ!』
 上山が平服の姿勢へ体勢を90度、前回転させたとき、すでに霊界番人の光の輪は上方へ昇り去ったあとだった。
 ふたたび幽霊平林は人間界へ移動した。上山に煙たがられても、霊界番人に訊いたことだけは伝えねば…と思えたからだった。移動すると、上山はまだ寝室へは行かず、応接室のソファーで静かにワイングラスを傾けていた。
『課長! 訊いてきましたよ!』
「おお、君か! やはり現れたな。姿は見えんが、まだ声は聞こえる。しかし、姿が見えなくなると、なんかこう…、少し寂しいよ。もう一度、君を見ておきたかったって、いうか…」
『いやあ~、これだけは僕にも、どうこう出来ませんから、残念です。でも元々、死んだときから見えないのがフツ~なんですから…』
 幽霊平林は少し寂しげな声で、そう云った。
「ああ…そりゃ、そうだ。で、なんて?」
『ああ、そうでした。やはり、課長の記憶は完璧に消えるようです』
「そうか…。なら、社長や滑川(なめかわ)、佃(つくだ)の両教授には、そのことを云っておかないとな、今のうちに」
『ええ、それがいいと思います。課長の記憶が遠退くのは、まだ、すぐじゃないようですから…』
「ああ…。恐らく、君が現われなくなって以降だろうな」
『はい、僕もそう思います』
 声だけの電話のような会話は、夜の帳(とばり)の中で静かに続いた。


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第七十六回)

2012年03月25日 00時00分00秒 | #小説

  幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                               
   
第七十六回
『そりゃまあ、そうですが…。すぐに、どうのこうのってことはないと思いますし、次回までには…ってことで。こちらも出来るだけ急ぎます。僕の身も第二段階に入れば、もう課長とお話も出来ませんから』
『ああ、分かった。出来るだけでいいから、訊(き)ければ訊いといてくれ』
『はい!』
 幽霊平林の声だけが、上山の耳に響いていた。幽霊平林が去ったかどうかは、すでに上山には分からない。ただ、途切れた会話が続くことなく、静寂だけが半永久的で、その不確かさがふたたび確かさとなり、幽霊平林が去った事実を物語るだけなのだ。
「まあ、なんとかなるさ…」
 そう捨て置いて、上山は洗面所へ行き歯を磨いた。この行動は上山が日課としている個人行事である。その後、上山は寝室へ向かった。少し眠気がしてきたのが不思議だったが、疲れの所為(せい)だろう…と、この時の上山は軽く考えていた。
 一方、霊界へ帰った幽霊平林は、ふたたび霊界番人を呼び出していた。
『本当に!! その方(ほう)は、この儂(わし)を何だと思っておるのだ!! こうも簡単に呼び出されては、儂の諸々(もろもろ)に差し障りとなるゆえ、そなたに授けられた如意の筆を返させるよう霊界司様に頼まずばなるまいて…』
『いや、もうしばらく、お願い致します。私も昇華している身なれば、孰(いず)れにしろ、そう長くは、この筆を所持していることもないと思いますので…』
『ああ…、それはまあ、そうじゃがのう。して、今は何用じゃ。別れたのは、つい今し方ではないか』
『はい! 実は、先ほど上司のことを訊(き)き逃したもので、お訊(たず)ねしようかと…』
『ほう、どのようなことじゃ?』
『上司の記憶は、どうなるのでございましょう? 僕が…いや、私めが見えなくなったと今は申しておりますが。…私めが完全に二段階のショうかを終えたのちのことでございます』
『おお、そのことか…。そなたの記憶は、すべて消え去るであろう。そなたの方は、昇華を終え生誕したのち、しばらくは残る、と申したとおりじゃ』


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第七十五回)

2012年03月24日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                            
   第七十五回
 自分の身が変化しようとしている。このことを一刻も早く課長に伝えないと…と、幽霊平林は、ただちに人間界へと移動した。もちろん現れたのは、上山の家である。上山は軽く夕食を済まし、風呂に入ろうと浴槽に湯を張っていた。湯が適度に入ったのを確かめ、上山は脱衣を始めた。幽霊平林がそこへスゥ~っと現れたのは丁度、そのときである。だが上山には幽霊平林の姿はすでに見えなくなっているから、まったく眼中には入らない。ただ、如意の筆が目安とは、なった。
『課長! 僕です』
「んっ?!」
 そろそろ現れるだろうとは思っていた上山だが、姿が見えず声だけ急にすれば、さすがに驚かされる。
『済みません。また驚かせてしまいました。一刻も早く訊(き)いてきたことをお伝えしようと思いまして…』
「…ああ、そうか」
 上山は脱衣をやめ、声がする方向を見遣った。
『どうも僕の姿が課長に見えなくなっのは、僕が御霊(みたま)になりかけている過程だから、だそうです』
「えっ?! それって、もう君が二段階、昇ってるってことか?」
『はい…。そのうち課長も…』
「おいおい、脅(おど)かすなよ。私は人間なんだから、君と違って少し怖いんだけどさ…」
 上山は、そう云うと一端、キッチンの方へ戻り始めた。
『冗談ですよ、冗談。課長は、からっきしなんですから…。それに、課長の方は別に、どういう…あっ! 課長の記憶が、どうなるのか訊(き)くのを忘れました!』
「なにっ! 君という奴は…。それを訊いといてくれと頼んだんだろうが…、もう!」
『すみません。もう一度、戻ります!』
「もういい! どちらにせよ、私の身が、どうなるってことでもないんだし…」
『だって、僕の記憶ですよ?』
「いいさ、忘れたら忘れたで…。私が正常なら、初めから君の姿が見える訳ないんだしさ」


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第七十四回)

2012年03月23日 00時00分00秒 | #小説

  幽霊パッション   第三章    水本爽涼       
                                                              

   
第七十四回
『ひょっとすると、これは霊界のご意志なのかも知れませんよ。いや、恐らくそうでしょう。ちょっと戻って、霊界番人様に事情を訊(たず)ねてきます。またすぐ戻りますので、ひとまず…』
 幽霊平林は格好よく、いつものように消えたが、生憎(あいにく)、その姿は上山には見えなかった。

 霊界へ戻った幽霊平林は、すぐさま如意の筆を手にすると、いつものように念じたあと、二、三度、振った。すると、当然のように光が射し、その放射光に導かれるように光の輪が幽霊平林の近くへと降下した。
『なんじゃ! …また、お前か。世話のかかる奴じゃ。今度は、いったい何用ぞ!』
「はい、申し訳ございません、霊界番人様。実は人間界へ現れましたところ、僕の…いえ、私の上司が私の姿が見えないと申しまして…。それでお訊ねしたいと、お呼び致した次第でございます」
『おお、そのことか…。この前、確か云っておったろうが』
『いえ、左様なことは、お聞き致しておりませぬが…』
『そうじゃったか? まあ、儂(わし)も、いろいろと忙しいゆえのう…。おお! そうじゃ、云ったが詳しくは申さなかったようじゃのう。二段階は昇れる旨の話は、したであろうが』
『はい、それは確かに…』
『じゃろうて…。で、じゃ。そなたの姿が人間界で見えぬようになっておるのは、すでに、そなたの身が第一段階の御霊(みたま)へ変化しようとしている兆(きざ)しなのじゃ』
『えっ! すると、この僕、いえ私は御霊になるので?』
『そういうことじゃ。さらに、もう一段階、昇れるによって、そなたの霊は誰ぞの身に宿ることとなる。…誰とまでは云えぬがのう…。かなりの行いをなしたによって、そなたの知る身近なところへ落ちつくであろう。これ以上は、霊界の決めによって、云えぬが。まあ、儂から、そなたに伝えられるのは、それくらいかのう。安心したか?』
『はい、霊界番人様。有難うございました』
『もうよいか? …では、行くぞ。ああ、忙しい、忙しい!』
 霊界番人の声は次第に小さくなり、光の輪は上方へと昇りながら消えていった。


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第七十三回)

2012年03月22日 00時00分00秒 | #小説

  幽霊パッション  第三章   水本爽涼 
                                                                 

   
第七十三回
「そうだよ。何のことでしょう? なんて、云えないしさ。しかし、恐らく、その時の私は君の記憶がまったく消えているから、そう云うだろうしねえ…」
『はい、そうですよね…』
 上山と幽霊平林は、先の見えない想定を考え、押し黙った。二人(一人と一霊)が次に目標とすることもなくなり、地球上の正義の味方活動も最終段階に入ったなあ、などと話し合っていた頃、霊界では霊界司と霊界番人の問答が展開されていた。
『そう、なされますか?』
『ああ番人、それが、よかろうぞ』
『畏(かしこ)まりました。では、そのように取り計らうことと致しますゆえ…』
 霊界番人の光の輪は、さらに大きな光の輪から離れていった。何を、どうしようというのか分からないのが霊界なのである。つまりそれは、直接的な言葉や伝達手段
が一切、霊界支配者には必要ないということを意味する。では、霊界司と霊界番人がどんな遣り取りをしていたのか…ということだが、それは、上山と幽霊平林の身の上に、やがて起ころうとする霊界の意志であった。
 それが現われたのは、三日ほど経った頃である。まず、上山に異変が起きた。いつものように幽霊平林を呼び出したとき、幽霊平林の声は聞こえたが、その姿は見えなくなっていたのである。
『どうか、されたんですか? 僕は、ここにいますよ、課長。見えないんですか?』
「ああ…」
 上山は虚ろにそう云いながら、声がする辺りに目を凝(こ)らしたが、やはり幽霊平林の姿は見えなかった。
『今度は課長ですか。ここですよ! ここ!』
「そう云ってもなあ…。見えないんだよ」
 上山は何度も目を指で擦(こす)ったが、やはり幽霊平林の姿は見えなかった。


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