水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

逆転ユーモア短編集-34- 理論と現実

2017年11月30日 00時00分00秒 | #小説

 精密に考え出された理論も、現実にやってみると上手(うま)くいかない・・ということがよくある。要は、理論と現実は違うということに他ならない。
 今から50年以上前の公園である。二人の子供が竹籤(たけひご)に張られた木製紙ヒコーキのプロペラに輪ゴムをセットし、回転させて巻いている。
「その輪ゴム、結構、持ちがいいな…」
「でも、もうそろそろ切れると思うよ」
「いや、まだまだいけるんじゃないか」
「そうかな? 僕の巻き数理論だと、もうそろそろ切れる頃さ」
「なんだ? その巻き数理論ってのは?」
「父ちゃんが言ってた理論だよ」
「紙ヒコーキが理論か?」
「そうじゃないのが理論だけどね」
「どういうのが理論だ?」
「1+1=2だろ。そうなるというのが理論だよ」
「なるほど! で、お前の巻き数理論ってのは?」
「何回、巻いたら切れるかをノートにつけといたんだ」
「それで?」
「数だと、そろそろ切れるんだ」
「いやぁ~、それはどうだろ。まだまだ、いけそうに思うよ」
 逆転したその予想は当たっていた。現実には、全然切れなかったのである。切れたのは数ヶ月先だった。
「やっと、切れたよ」
「だろ?」
 理論は現実にならないと、逆転してただの考えに過ぎなくなる訳だ。

                               


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逆転ユーモア短編集-33- 最強の男

2017年11月29日 00時00分00秒 | #小説

 プロの格闘家である黄金(こがね)は、最強の男・・の名を欲しいままにし、国内に敵などいなかった。世界の異種競技格闘試合はドローに終わったが、それはそれで全世界に名声を高められたのだから、黄金としては満足できる試合だった。巷(ちまた)では、もはや黄金の右に出る者などいないだろう…と噂(うわさ)した。ところが、どっこいである。右に出る者はいなかったが、左に出る者が一人いた。その男は、黄金と同じプロの格闘家だった。黄金とは逆転して実にひ弱で、出る試合出る試合に負け続けたから、この男が勝つ日は、もはや来ないだろう。早く引退したほうが…と誰しも思った。
 しばらくして、この男の話が偶然、最強の黄金の耳に入らなくてもいいのに入った。
「ほう! そんなに弱いやつがいたか…」
 黄金は同じプロとして、なんとかしてやろう…と、思わなくてもいいのに上から目線で思ってしまった。そして1勝をさせるため、鍛(きた)えてやろう…と、男が所属するジムを訪ねた。
「強くしてやろう! かかってきなっ!」
「はいっ! それじゃ、よろしくお願いいたしますっ!」
 男はヨタヨタと黄金に近づくと、なんの前触(まえぶ)れもなく黄金をぶっ飛ばしていた。黄金としては、こんなはずじゃねぇ…である。フラフラとマットから立ち上がると身構えた。
「おお! なかなか、やるじゃねえかっ! 今度は手加減しねえぞっ!!」
「はいっ! よろしくお願いいたしますっ!」
 男は黄金に近づくと、躊躇(ちゅうちょ)なく黄金を打ちのめした。黄金はマットから立ち上がれないまま、意識が遠退(とおの)いた。
 気づくと、黄金は病院のベッドに寝ていた。ひ弱で名が通った男に打ちのめされた・・とは絶対、言えず、黄金は病休とだけマスコミに伝えさせた。
『やつこそ最強だぜ…。なのに、なぜ負ける?』
 黄金には男がなぜ負けるのかが理解できなかった。原因は簡単明瞭(かんたんめいりょう)だった。男は有名になりたくなかった・・ただ、それだけの理由で負け続けていたのである。ならばプロになど・・と話はなるが、黄金が後々(のちのち)訊(き)いた話では、ジムから貰(もら)える僅(わず)かな金が楽しみだったそうである。この変わった男こそ最強の男だ…と黄金は逆転して思った。

                               


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逆転ユーモア短編集-32- A→B→C→D→A

2017年11月28日 00時00分00秒 | #小説

 厳(きび)しい仕打ちをした側は、回り回って自分が厳しい仕打ちをされる。これは必ず逆転して派生する三次元現象なのだが、世の中は上手(うま)く出来ているな・・と、世間では偶然(ぐうぜん)のように簡単に片づけられやすい。苦労[-]して[+]を世の中に起こせば、回り回って[+]が手に入って報われるという原理に他ならない。汗水を流すという[-]で働けば、必ずその代価となる収入[+]が手に出来るという仕組みだ。これは、三次元空間の理屈抜きの原理なのである。
 大手のA社が子会社のB社に突然、生産量の削減(さくげん)という厳しい仕打ちを言い渡した。
「そ、そんな…。ラインはすでに稼動(かどう)しておりますっ! 今からでは在庫を抱(かか)えることに…」
『それをなんとかするのが君の手腕(しゅわん)じゃないか。分かったね! じゃあ、そういうことで…』
 膠(にべ)もなく、ガチャリ! と電話は切れた。B社の社長は、ただちにラインを停止、孫会社のC社へ納品する部品量削減の電話をかけた。
「えっ! それは、いくらなんでも…。ええ…半減ですかっ?! 無茶なっ! すでに、いつもどおりの見込み量を作らせとりますっ! それでは、材料費の支払いが…」
『そう言われてもねっ! A社からの指示なんだから君、仕方ないだろっ! 悪く思わんでくれ。じゃあ…』
 B社の社長は厳しい仕打ちをC社に命じ、膠もなく、ガチャリ! と電話を切った。電話が切られたあと、C社の社長はただちに部品生産ラインを停止し、ひ孫会社のD社に部品の部品となる部品の納入をストップする電話をかけた。
「ええっ! 半減ですかっ! それじゃ、うちは潰(つぶ)れますっ! お宅からの儲(もう)けで従業員の給料と材料費の支払いを、ギリギリでやっとるんですからっ!」
『そう言われてもね…。B社からの指示なんだから仕方ないじゃないかっ、君!』
 C社の社長は厳しい仕打ちをD社に命じ、D社はその数ヵ月後、倒産した。部品納入が完全にストップすると、それはそれで困るのである。C社は、またその数ヶ月後、連鎖倒産した。倒産は倒産を呼び、半年後にはB社も会社更生法の適用を申請し、事実上、倒産した。さらに一年後には親会社のA会社までもが経営状態の悪化により多国籍企業[コングロマリット]傘下に参入される運(はこ)びとなり、厳しい仕打ちを受ける憂(う)き目となった。A→B→C→D→Aである。
 厳しい仕打ちをした側は、回り回って自分が厳しい仕打ちをされる・・という結果を導く。

                               


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逆転ユーモア短編集-31- 分からない

2017年11月27日 00時00分00秒 | #小説

 人は見かけでは分からない。まあ、ある程度は雰囲気で分かるものだが、まったく逆転した出で立ちだと見損じることがよくある。
「あんたねっ! いい加減になさいよっ! これで何度目だね。私も終(しま)いには注意するだけじゃ済まなくなるっ!」
 尾頭(おかしら)巡査部長は、路地で寝込む浮浪者の阿羅(あら)に困ったような口ぶりで少し強めに言った。
「へへへ…旦那(だんな)、そのうち、他へ行きますから…」
「そのうち、そのうちって、もう何年になるんだっ?」
「かれこれ5年にもなりますかねぇ~」
「そうそう。私がここの赤鯛(あかだい)交番へ赴任(ふにん)した頃だったからねぇ~」
「そうでしたか…」
「君が懐(なつ)かしんで、どうするんだっ!」
「どうも、すいません。しかし旦那、今度のそのうちなんですがね、実は明日(あした)なんですよ。長い間、ご迷惑をおかけしました」
「明日?」
「ええ。詳しいことは言えないんですが、昨日(きのう)、それなりの目処(めど)がつきましたので…」
「そう…。とにかく、よかったじゃないか。私も来年は定年だからね。これで、問題が解決した、ははは…。それじゃ、元気でな…」
「はあ、旦那も…」
 尾頭巡査部長は知らなかった。何を隠そう、阿羅は公安警察の特別任務を帯びた特捜警部だったのである。密かに交番横のビルのマル秘情報を探っていたのだから、人は見かけでは分からない。

                               完                               


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逆転ユーモア短編集-30- 原因

2017年11月26日 00時00分00秒 | #小説

 物事が起こるには、なんらかの原因がある。原因がなければ何も起こらない。所謂(いわゆる)、そのままの状態だ。いいことが起こった場合は考える必要もないのだが、何か悪いことが起こったときは、逆転して過去を突き詰めれば、起こった理由と原因が判明する訳である。警察事件となるような悪いことが起こった場合は特にそうだ。
  鉞(まさかり)は日永(ひなが)一日、飽(あ)きもせず一人でウデェ~~ンと寝転がり考えていた。どうしても無(な)くした財布が見つからないのである。
 『昨日(きのう)はあった…』
 それは鉞の脳裏(のうり)にはっきりと記憶として残っていた。鉞は最後に財布を取り出したときの記憶を探った。無くすには無くすだけの原因があるはずなのだ。鉞は犯人を追うベテラン刑事にでもなったように巡った。そして、いつの間にかウトウトと眠り、気づけば夕方近くになっていた。
 『ははは…まあ、いいか』
  いい訳はないが、そう思ったとき鉞は、ふと、忘れていたことを思い出した。財布の中には何も入れていなかった…と。そして、財布を新しい財布に変えたんだった…と気づいたのである。
 『その新しい財布は…』
  鉞は棚(たな)の上に新旧、二つの財布を置いたことを思い出したのである。原因は財布の交換だった。
 『道理で寝そべっていたはずだ…』
 鉞はお足=お金(かね)と頭を巡らせたのである。鉞の発想だと、お足がないから動けない。で、寝そべって考えていた・・となる。確かにその考えも一理(いちり)ある。^^

                                   


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逆転ユーモア短編集-29- 山姥(やまんば)

2017年11月25日 00時00分00秒 | #小説

 旅人に宿を提供し、寝静まったところを食らう・・というのが山姥(やまんば)と呼ばれる妖怪だ。住処(すみか)は山奥だそうだが、現代の山姥は、逆転してヤマンバと呼ばれる若い娘達だ。都会に棲息(せいそく)していて、娘ながらも、その外見はド派手な化粧を塗りたくり、髪の毛も魔物じみたところからヤマンバと名づけられたそうだ。だが、その手の娘を好物とするさらに上の妖怪もいるそうだから都会とは怖(こわ)いところである。では、そのヤマンバが山奥で山姥に出会ったとしたら、どうなるのだろう?
 秋の行楽のシーズンとなったこともあり、都会に少し飽きたヤマンバ達が紅葉を楽しもうと山を散策する旅に出た。ところが、麓(ふもと)から登り始めた道を、どういう訳か間違い、獣道(けものみち)へと分け入ってしまったのである。秋の陽(ひ)は釣瓶(つるべ)落としである。たちまち陽は西山へと傾き、辺(あた)りには漫(そぞ)ろ寒い風が流れ、夕闇が迫(せま)ろうとしていた。
「大丈夫なのっ?」
 後ろを歩くヤマンバの一人が、先頭のヤマンバの背中越しに声をかけた。
「大丈夫よっ!」
 そう返した先頭のヤマンバだったが、どういう訳か突然、ピタリ! と止まった。
「どうしたの?」
「あらっ? この地図、道が消えてる…」
 先頭のヤマンバは地図を凝視(ぎょうし)して呟(つぶや)いた。
「消えてるって、どういうことよ?」
 後ろのヤマンバもそう言って駆け寄り、地図を凝視した。そのとき辺りは漆黒の闇に閉ざされ、なんとも生暖かい風が流れて山姥がスゥ~っと、どこからともなく現れた。
 『ヒッヒッヒッヒッ…いかがされたかな、旅のお方ぁ~~。宿ならありますぞぇ~。泊っていきなされぇ~』
 山姥は、ヤマンバの後ろから迫ると、ヤマンバの前へスゥ~~っと回った。そしてヤマンバに声をかけようとした。ところが、である。怖(こわ)がらそうとした山姥だったが、世にも怖(おそ)ろしいヤマンバの姿を見た途端、逆転して怖くなり、気絶してしまった。
「お婆さん、どうしたの? 泊めてくれるんでしょ?」
 ヤマンバは気絶した山姥を抱き寄せ、揺り動かした。山姥は揺り動かされ、パッ! と目を見開いた。
『い、いや、泊められんっ!!』
 そう言うと、山姥は慌(あわただ)しく風とともに、またスゥ~~っと消え去った。まさしく、有名小説[風とともに去りぬ]である。
 現代に蔓延(はびこ)るこういった部類は、山姥も逆転して怖(おそ)れるのだ。

                               


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逆転ユーモア短編集-28- 要求

2017年11月24日 00時00分00秒 | #小説

 簡単なことでも、アレコレと要求すればスンナリといかず、逆転の憂き目に合うことがある。注文をする方は取り分けて何も考えていないのだが、要求される方は自分のことではないから、失敗しないように…必死なのだ。それが要求する側には分からない。
 とある婦人服売り場の一場面である。ひと組の夫婦がドレスを見立てている。
「ああ! それがいいよ、それがっ!」
「そぉう? 似合うかしら…」
「ああ、似合うともっ! 似合う似合う、大似合いっ!」
 主人の方は腹が減っているから、早くレストランへ行きたい一心だ。 
「でも、値段が少し…。もう少し手ごろなのがいいわっ」
「少しぐらい高かってもいいじゃないかっ!」
 そこへ店の女性店員が現れた。
「お決まりですかっ?」
「コレ、いいんだけど、コノ感じでもう少し違うのないっ?」
 夫人は安いの・・とは言わず、別の品を要求した。女性独特の見えざる虚栄心が零(こぼ)れた。
「はあ、でしたら、アレなんかいかがでしょう?」
「ああ、アレね。アレいいわね、アレ。見せていただこうかしら」
 夫人は女店員に先導され、別の場所へと移った。主人は動かず、イラだって腕を見る。すでにランチ・タイムに入っていた。そして、ついにプッツンと切れたのか、主人は早足でツカツカ・・と、夫人の方へ歩いた。
「コレっ! コレでいいですっ! コレっ! コレにしてくださいっ!」
 主人の手には、最初に夫人が選んだドレスのコレが持たれていた。
「はいっ! かしこまりましたっ」
「ちょっと待ってよ、あなたっ! 着るのは私よっ! 私が選ぶわよっ!」
 ふたたび、女性の虚栄心が頭を擡(もた)げ、夫人を襲(おそ)った。
「俺は腹が減ってるんだっ! 腹が食い物を要求してるっ! これ以上、待てんっ!」
 主人の食物を要求する空腹も黙ってはいない。
「そう! なら、あなた一人でお行きなさいよっ!」
「ああ、分かった! そうさせてもらうっ!」
「まあまあ…」
 女店員は夫婦喧嘩(ふうふげんか)の仲裁(ちゅうさい)役に回ることになった。
 このように、要求はモノゴトの進行を邪魔(じゃま)する大きな原因ともなる。 

                               


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逆転ユーモア短編集-27- 嘆(なげ)き

2017年11月23日 00時00分00秒 | #小説

 生きていると、否応(いやおう)なく嘆(なげ)きの事態が起こる。それでもまあ、喜びの事態も当然あるから、双方(そうほう)が心の中で上手(うま)い具合に混ざり合って相殺(そうさい)され、苦にはならず生きられる訳だ。嘆きが相殺されず、不消化のまま心へ溜(た)まると、心理的な蟠(わだか)りとなり、最悪の場合は自殺という事態にもなりかねない。だが、嘆きを逆転した発想で自分を高めるための人生修行・・と捉(とら)えれば、苦も楽へと昇華(しょうか)され、消えることになる。
「いけませんなぁ~お客さん。この様子では、どうも間に合いそうにありません」
「そんなっ! 今日中に関原野に着かないと、契約に影響が出て、父に叱られるんですよっ!」
  忠秀(ただひで)は焦あ(せ)っていた。
 「いやぁ~、そう言われましてもねぇ~。事故! 事故ですから…」
「なんとか、なりませんかね?」
「降りられても構いませんよ。ただ、高速道の真ん中ですから、次のサービスエリアまで夜間、歩いていただかないとなりません。大丈夫ですか?」
「どれくらい、あります?」
「そうですね、約30Kmというところですか…」
「さっ、30Km!!」
「まあ、歩けない距離じゃないんでしょうが、もう夜の10時ですから…。このまま車の中で眠られた方が…。携帯で連絡は?」
「それが生憎(あいにく)、先に出た秘書のカバンに入れ忘れまして…。ああっ! あと30分、早く出るべきだった!!」
「ははは…30分ですか? 早いと、逆転して事故にお会いでしたよ。モノは思いよう、よかったじゃないですか、今のままで」
 忠秀は運転手の言葉を聞き、嘆きをやめ、しばらく沈黙した。そして、納得できたのか、また口を開いた。
「そうですよね! 死なないでよかったんですよね、死なないで。ははは…怒られるくらい、どうってことないですよね。どうってことない、どうってことない!」
 忠秀は自分に言い聞かせたが、そこは嘆くべきだった。次の日、事態が、どうなったかまでは敢(あ)えて書かないが、より忠秀の嘆きが大きくなったことだけはお伝えしたい。
 人は嘆くときには嘆き、鬱憤(うっぷん)を晴らすことが肝要(かんよう)ということになる。

                               


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逆転ユーモア短編集-26- 枯れる

2017年11月22日 00時00分00秒 | #小説

 植木が枯れれば大ごとである。だが、人の場合は逆転した意味合いで使われる場合が多い。
 垣根越しに初老の隣人同士がバッタリと顔を合わせた。
「おっ! 盆栽の手入れですか。茶木(ちゃき)さん、あなたも枯れましたな」
「ハハハ…そんな。たまたま、時間があっただけで…。私など、まだまた若僧(わかぞう)ですよ。そういう、若葉さんこそ」
「ハハハ…私ですか? いけません、いけません。食い気も色気も若いときのまんま、・・いや、それ以上ですからなっ!」
 そう言いながら、若葉は罰(ばつ)が悪いのか、片手を頭の後ろへ回し、残り少ない毛をボリボリと掻(か)いた。
「いや! それは、お互いさまです、ワハハハ…」
「ワハハハ…。人は枯れませんなぁ~、丈夫なもんです」
「そこへいくと、植木は弱い」
「はぁ…」
 二人は盆栽台に並べられた植木鉢を見ながら、さも枯れたような視線で見た。だが、二人の頭の中は、今夜の夕飯の料理は何なのか…だった。
 人は余程のことがないと、逆転して枯れる・・ということはない強(したた)かな生き物だ。

                              


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逆転ユーモア短編集-25- 結果

2017年11月21日 00時00分00秒 | #小説

 当初の予測を覆(くつがえ)す逆転の接戦に勝利し、当選した某(ぼう)候補はニンマリと満面の笑みで応援に集まった聴衆に手を振り続けた。時代遅れのパターンではあったが、こうすることが時代の最先端であることを某候補はシミュレーションによるデータ分析で読み切っていたのである。一方の対立候補は読みが甘かった。
「偉(えら)いことになりましたよね、天竺(てんじく)さん」
「ははは…私は恐らくこうなるだろう・・と読んでおりましたよ、長旅(ながたび)さん」
「ええっ! それはどうして?」
「考えてもみなさい。歴史的な深層心理がそうさせたんです」
「どういうことです? 分からないなぁ~」
「あなたが勤める会社は、ずっと男性でしたよね」
「ええ、まあ…。重役は女性もいますが…。うちに限らず、だいたい、どこでもそうでしょ?」
「それは、そうです」
「それが何か?」
{まあ、そういうことです…」
「んっ?」
「実は、それが逆転結果の真相ということです。別に異性を蔑視(べっし)して言ってるつもりはないんですよ。投票者は変化を求めたようで、実は求めていなかった・・ということでしょうか」
 天竺は話を崩(くず)した。
「はあ…。今一(いまいち)、よく分からないんですが…」
「いいんです、いいんです。分からなくて…」
 結果は深層心理で逆転したのだった。

                              


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