水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

☆お知らせ☆

2011年12月29日 00時00分00秒 | #小説

年末につき、お休みを戴きます。休館日(12月29日~1月9日)です。皆さ

ん、よいお年をお迎え下さいますように…。\(^^)/


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第百十五回)

2011年12月28日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第百十五回
『はい、そういうことです』
 上山は無言で腕組みし、幽霊平林も真似るように追随して腕組みした。幽霊が腕組みしながらプカリプカリ漂っているというのは、図にならんな…と、上山は思わずニヤリとしたが、すぐさま顔を素に戻した。
「で、分かりやすく云えば、どうしろと云われたんだ?」
『いや~、それは今、云ったように、漠然と、なんですよ。あとは、お前達が考えろ、みたいな…』
「そうか…。じゃあ、君が持っている、その如意の筆を使ってということだな。その方法を考えにゃならんな」
『また、ケント紙に書かれますか?』
「いや、ノートでいいだろう…。ほれ!」
 上山は机の下から買っておいたノートとボールペンを取り出して、卓袱台(ちゃぶだい)の上へ置いた。
『なるほど…。この方がコンパクトでいいですよね。貼り付けてマジックで箇条書き、ってのも、なんか大げさですしね』
「ああ、そういうことだな…」
 上山は、空白のノートを開けながら頷(うなず)いた。
『なんか、僕と課長の新しい展開が期待出来そうですね!』
 幽霊平林は、にこやかな顔で云った。
「ああ、私達は世の中の正義の味方にならなきゃな、ははは…」
『ヒーローですよね!』
「そうだ、ヒーローだよ。子供の頃、憧(あごか)れたヒーローだよ、私と君は!」
 二人(一人と一霊)は、互いの気持を鼓舞した。
『さてと…、具体的には、どうします?』
「まあ、待てよ。今、書くんだから…」
 上山はボールペンを手にして考え始めた。
「如意の筆の霊験は荘大なんだから、私達の念じる内容次第で、事の成否は決まるって寸法だ」
『ええ…、そうですね。内容を詳細に詰めないと、いけませんね』
「思ったとおりになる、ってのも、そら恐ろしいな」
『はい、まったく…』
 地球上の人類と二人に、新(あら)たな展開が始まろうとしていた。

                                           第二章  終


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第百十四回)

2011年12月27日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第百十四回
「どれどれ、一度、呼び出すか。こちらから呼び出さんから、君の方から現れてくれ、とは云ったが、無しの礫(つぶて)だからなあ…」
 戸惑(とまど)った上山だったが、やはり気になるとみえ、背広を脱ぎ、セーターに着替えると、幽霊平林を呼び出すことにした。卓袱(ちゃぶ)台を前に、上山がグルリと左手首を回すと、たちまち幽霊平林が出現した。パッ! と現れるとは、正(まさ)にこのことか・・と思わせる現れようである。
『はい! お呼びですか!』
 決めのポーズも板についた幽霊平林が格好よく現れ、上山にそう云った。
「おお、来たか…。約束じゃ、こちらからは呼び出さないってことだったけど、無しの礫(つぶて)だらら、現れてもらったよ」
『いや~、僕はどちらでもいいんですよ。それよか、丁度、課長に云っておこうと思ってたとこだったんですよ』
『何かあったのか?』
『ええ。課長に云われた武器の売り手の国家上層部の動きを探ろうと、下準備の調べ物をしてますと、売り手側の国のなんと多いことか…』
「そんなに多いのか?」
『ええ、世界で武器売却している国は十ヶ国以上なんですよ』
「十ヶ国以上だって?! そんなに…」
『はい。課長も驚かれたでしょ? いや~、僕だって霊界万(よろず)集を見たときは、びっくりしました。これじゃ、とても僕ひとりの力じゃ・・って、思いました』
「云っておきたい、って、そのことか?」
『はい、まあ…』
 幽霊平林は霊界番人に相談したことなど、一連の経緯を上山に話し始めた。
『ですから、僕の力というより、この如意の筆の荘厳な霊力を有効に利用せよ・・ってとこじゃないですかね』
「そうか…、霊界番人さんが、そんなことをな…。確かに君が云うように武器の売り手国家がそんなに多けりゃ、いちいち国家単位でやってられんわな」


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第百十三回)

2011年12月26日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第百十三回
『口籠(くちごも)りおって…。はっきり申さぬか。いつまでも聞いてはおれぬのじゃ。儂(わし)は忙しいのよ』
『ははっ! 返す返す申し訳ございません。その暴動や紛争の武器がなれば、そうしたことは起こらないのでは・・と課長、いや上司が申しまして…』
『それが、いかがした?』
『はい! ですから、その武器を売っている国に売らせなくすることが出来れば・・という話になり、僕が、…いやこの私めが霊界万(よろず)集でいろいろ検索したのでございますが…。余りにも武器輸出国が多いもので、とても私一人ではと、途方に暮れておったようなことでございました』
『それで、この儂を呼び出したと申すのか?』
『はい、さようにございます』
『ははは…。そのように細かなことを考えておったのか。そなたが申すことは、すなわち、人の心が為(な)す行いであろうが…。要は、もうひとたび如意の筆の荘厳な霊力を用いることに目覚めるがよかろう』
『…とは、いかがすれば?』
『そなたは実に嘆かわしい奴じゃ。そのようなことも分からぬか? 荘厳な霊力とは、すなわち、念が思いのままになる、ということよ。…あとは、自ら考えてみよ。ではのう…』
 そう告げると、霊界番人の光輪は、跡形もなく消え失せた。
『この荘厳なる霊力か…』
 幽霊平林は、胸元に挿(さ)した如意の筆を手にして、シゲシゲと見ながら、そう呟(つぶや)いた。
 その頃、人間界の上山は、通勤を終えて我が家に辿(たど)り着いたところだった。
「何も音沙汰ないが、あいつ、上手くやってんだろうな…」
 云うでなく漏らすと、上山は玄関ドアの施錠を解き、家中へ入った。


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第百十二回)

2011年12月25日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第百十二回
『なになに…。売り手の輸出量上位国は、多い順にアメリカ、ロシア、ドイツ、チャイナ、イギリス、フランス、スウェーデン、イタリアの順か…。結構、輸出している国は多いんだ…』
 霊界万(よろず)集には、人間界の本のような発行年月日はなく、終始、最新の内容が浮き出るのだ。そもそも、印字ではなく霊字であり、人間界の印刷された本とは、まったく本質が異なり、一線を画(かく)した。下手なギャグではないが、正(まさ)に、本の質の本質である。
『これだけ輸出国が多いと、個々に念じないとゾーンでは駄目みたいだ…』
 また、幽霊平林は呟(つぶや)くと、溜め息をついた。そして、しばらくすると、ついに決心したかのように呟(つぶや)きの声を漏らした。
『とても、課長に云われたようには出来ないぞ。よし! ここは一つ、霊界番人様にお伺いしてみよう』
 胸元の如意の筆を手にした幽霊平林は、両瞼(りょうまぶた)を静かに閉ざした。その状態が一、二分ばかり続き、両瞼をふたたび開いた幽霊平林は、如意の筆を軽く振った。すると、たちまち霊界番人が現われる前兆の一筋の光が彼方(かなた)より住処(すみか)目指して降り注いだ。次の瞬間、光輪がその道を伝うように降下し、幽霊平林の前へ現れた。
『いったい何事じゃ! 儂(わし)は忙しいのだ。このような呼び出しを受けたのは、ここ最近、なかったことじゃ。…どうした?』
『申し訳もございません、霊界番人様。実は、早急にお訊(たず)ねしたき儀がございまして…』
『ほう、早急にのう。…そなたは如意の筆を授けられし者じゃな?』
『はい、さようで…。霊界司様のご意志でございました。実は、社会悪を滅せよ、との厳命につき、いささか分からないことが生じまして…』
『ほう…、何が分からぬ?』
『はい。実は僕、・・いや私と上司で社会悪に立ち向かっていたのでございますが、その一つとして、起こっている国々の暴動、紛争の撲滅を考えた訳でして…』


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第百十一回)

2011年12月24日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第百十一回
 霊界へ戻った幽霊平林は、住処(すみか)でプカリプカリと漂いながら、霊界万(よろず)集を前に、どうしたものかと思い倦(あぐ)ねた。だが、いくら考えても、これという方法は見つからず、まったく要領を得ない。ただ一つ、上山が云っていた国の利権追求の意志が、武器を輸出、援助させている点だとすれば、その辺りを探ればいいことだけは間違いがないか・・と幽霊平林には思えた。さらに考えれば、武器売却となれば、大型兵器から小型兵器に至るまで、かなりの金額が動くのである。それが、利権との交換条件になっているとすれば、その方針が了承されるのは、その国の立法府であり、発議が行政府のトップであることは、ほぼ明白だった。まず、そこら辺を調べてみるか…と、幽霊平林は思った。調べるとは、そうした国家情勢の知識をまず得ることである。武器輸出大国といえばアメリカ、ロシア、チャイナなどを中心とした経済立国だ。有難いことに現時点の日本では論議があるものの、武器輸出三原則で武器輸出行為は制限されており、その心配は無いようだった。幽霊平林は霊界万集を開き、それらの国々の利権の構図を調べることにした。詳細までは載っていないものの、ある程度の知識は、この霊界万集で得られるのだ。要は、索引する言葉に尽きた。的(まと)を射(い)ていなければ枝葉末節に流れてしまい、知り得ないのである。幽霊平林は索引する言葉を何にするか・・と、考え始めた。すると、━ 武器輸出 ━ が、まず第一に閃(ひらめ)いた。霊界万集は、人間界でのパソコンといった類(たぐい)のもので、恰(あたか)も、検索入力するようなものなのだ。幽霊平林は、その言葉を索引し始めた。


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第百十回)

2011年12月23日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第百十回
『…って、最終段階ってことですよね?』
「そうだが」
『いちばん、おいしいとこですね?』
 幽霊平林は陰気にニタリと笑みを浮かべた。
「君はまた、そういうことを云う。私にとっては何の見返りもないことだぞ。おいしい訳がなかろう」
『すみません…。つい、冗談が出ました』
 幽霊が人間に謝っている光景など、恐らく前代未聞に違いなかった。
「いや、謝らんでもいいが…。まあ、ともかく、今云った武器売り手上層の動きを探ってくれ。で、そうなるメカニズムを入手したら、私に報告してくれ。今回は、こちらから呼び出さんから、つきとめ次第、君の方からこちらへ現れてくれ。時と場所は選ばんから…」
『なんか、007みたいで格好いいですね』
「…、君は格好いいのに弱いからな。まっ! 冗談はともかく、そういうことだ」
『はい! 真夜中でもいいんですか?』
「ああ、二時頃までなら別に構わんが…。それ以降は、早朝ということで頼む」
『分かりました』
 幽霊平林は素直に頷(うなず)いた。
「そろそろ、課へ戻るか…」
 上山は腕時計をみながら、そう呟いた。
『あっ! もう、そんな時間ですか? それじゃ、そういうことで!』
 スゥ~っと格好よく消える前に、幽霊平林は、わざとらしく、そう云った。
 二人(一人と一霊)は別れたあと、それぞれの生活に戻った。上山はエレベーターで業務第二課の課長席へ戻り、幽霊平林は、霊界の住処(すみか)へ、ひとまず戻ったということである。


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第百九回)

2011年12月22日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第百九回
 喉(のど)に詰めるほどの早さで、上山は、うどんを啜(すす)り、昼を済ませると、トレーを配膳台へ返した。そして、バタバタとエレベーターに向かった。
「なんか、忙しそうね…」
 吹恵は、そんな上山の姿を遠目に見ながら、誰に云うともなくそう呟(つぶや)いた。
 屋上に昇り、上山はすぐさま左手首をグルリと回した。その一瞬前、腕時計を見ると、十二時十五分過ぎを指していた。要するに、食堂で費やした時間は十三分ばかりで、配膳の時間を引けば十分内外で、きつねうどんを食べてしまったことになる。いつもは半過ぎになるから、所要タイムが約半分という超スピードだったのだ。それはともかくとして、上山が手首を回した瞬間、幽霊平林は自動セットされた機械のようにパッ! と、格好よく躍(おど)り出た。その格好のよさも、最近では決めのポーズをつけて現れたり消えたりするのだから始末が悪い。他に見られる者もなく、見ているのは、というか、見えるのは上山一人なのだが、なんか幽霊平林は格好よさを意識している節(ふし)があった。そんな、つまらないことを、上山としては、何故(なぜ)? と訊(き)けないから、無視していた。
「…で、だ。朝の続きだが、その国々のメカニズムを調べてくれないか。君は自由自在に動けるんだから、それくらい出来るだろう」
『…って、よく分からないです。もう少し、分かりやすくお願いしますよ』
「だから! 武器を売る利権目当ての企業国家が、武器を貧しい国々に売るメカニズムだよ。つまり、アフリカとか中東アジアなどの低開発国が武器を得るには、それらの国にオイルとかの魅力的な資源や物質があるってこったろ?」
『はい。まあ、そうなりますかね…』
「君さ…、なりますかねって、そうなんだよ。だから君にそれを頼みたい。私は、その結果次第で君が念じる内容を考えよう」
『はい、分かりました。僕で出来るかどうか分かりませんが、やってみます』
「ああ、頼むよ。最後の詰めは、私も同行するから」


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第百八回)

2011年12月21日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    
    
第百八回
『あっ! はい…。じゃあ、会社で…』
 悟ったのか、幽霊平林はスゥ~っと格好よく消え失せた。何事もなかったように上山は田丸工業に出社し、いつもの課長席へ、どっかと座った。そこへ珍しく岬が出社してきた。
「あっ! おはようございます、課長。今日は十時からじゃなかったんですか、プレゼンテーション?」
「んっ? ああ、そうだったそうだった。うっかり忘れるところだったよ、ははは…」
 朝方、幽霊平林は、このことを云っていたのだが、つい、うっかり忘れてしまっている。上山は、もう年かな…と、いささか意気消沈した。むろん、考え込むほどではない。仕事は普段と変わりなく進んでいく。しかし、上山が幽霊平林との話を忘れていたのかというと、そうではない。手先はスムースに仕事を進めてはいるが、頭の中は如意の筆の効果により世界首脳の武器売却を…という発想に及んでいた。よ~く考えれば、もの凄く稀有(けう)で壮大な発想なのである。もちろん、幽霊平林を呼び出すタイミングは、やはり昼休みが適当…いや、その時をおいてないな…と、上山は判断した。
「あらっ! 珍しいわね、上山ちゃん。今日はB定じゃないの?」
 食堂賄いの江藤吹恵が怪訝(けげん)な表情で上山の顔を窺(うかが)った。上山が注文した食券は、きつねうどんだった。
「ちょっと、急ぎの仕事があってさ~」
 上司や部下と違い、気遣(づか)いのない話が出来るのは、上山にとって社内でこの吹恵だけだった。
「そぉ~。部長、狙ってんじゃないの」
「ははは…。吹恵ちゃんには、かなわんな~。そんなんじゃないさ」
 上山は笑って暈(ぼか)した。
「まあ、いいけどさ…」
 吹恵はそれ以上、訊(き)かず、上山は弁解せずに済んだのでホッとしながら出来たうどんをトレーに乗せ、いつも座るテーブルへと急いだ。


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第百七回)

2011年12月20日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第百七回
 上山は号外を手に左右を見回し、人の気配がないことを確認して普通の声量で語り出した。
「これ見ると、効果はあったようだな…」
『そのようですね!』
 幽霊平林としては、まんざらでもなく、得意げな、したり顔で云った。
「見出しだと超常現象か? と、あるな…」
『世界各地の紛争や戦いがすべてなくなったんでしょうから、僕でもそう書きますよ』
「…だな。まずはOKか」
『これで、ひとまず争いごとは世界から消えたんでしょうね』
「…そうなのかなあ? いや! そうじゃないぞ! 問題は、武器を売る利権目当ての国家じゃないか? その発想をなくさにゃなあ~。また、起こるぜ」
『そうですね。僕の念力の継続性までは分かりませんから。一過性なら、確かにまた争いが始まりますね』
「そういうことだ…」
 二人がベンチ話していると、ホームへ電車が入ってきた。上山は徐(おもむろ)に立つと、鞄(かばん)を手に速度を落として止まろうとする電車へ近づいた。幽霊平林はというと、どういう訳かいつになく積極的で、上山の前方をスゥ~っと流れるように進み、電車のドアが開く前に透過して乗り込んだ。上山は一瞬、これが出来れば便利なんだがなあ~と思った。ドアが開いて上山も乗り込むと、幽霊平林が話しかけてきた。いつやらも、こうした状況はあったが、あの時はゴーステンの影響のせいか、上山は人間界と霊界の間(はざま)に迷い込み、人の姿が見えなくなっていたのだ。当然、電車の中は上山一人で、幽霊平林以外の存在はなかった。それが今は、人々の姿が周囲にあった。だから、安易に幽霊平林との会話は出来ない。
『先ほどの続きですが…』
「… …」
 上山は顎(あご)で周りに人がいることを幽霊平林にジェスチャーした。


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