水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -65-

2015年09月30日 00時00分00秒 | #小説

[だが、報道では得体の知れない侵入者が突然、現れたと言っていたぞ]
━ それは瞬間だったと[4]は言っている。ミスに気づき、すぐにシールドで顔を隠し、議場から消えた
そうだ ━
[そうか。ならば、いいが…]
━ 万一の場合は、お前を緊急避難させる ━
[それはいいが、城水の家族はどうなる]
━ どうもならない。お前が存在した記憶を消去する ━
[しかし、雄静(ゆうせい)という子供の存在はどうなる。里子は雄静の存在を、どう認識しているのだ]
━ 家族には別の記憶を植えつける。お前は死んだ記憶となる。お前の顔形は別人として修正され、遺影として安置される手はずだ。この段階で、お前の家族は今のお前を忘れている ━
[なるほど…。すでにそういうプログラムが出来上っていたのか。ならば、私は安心していい訳だな]
━ ああ、そういうことだ。余り遅くなると、家族が不審に思うぞ ━
 次の瞬間、テレパシーは途絶え、地球外物質は緑色の光を発するのをやめた。城水は書斎を出ると、そのままキッチンへ向かった。
「あら、着替えは?」
 背広姿の城水を見て、里子が訊(たず)ねた。
[食べたら、また出かける。知り合いが会いたいそうだ]
 城水は方便を使い、出鱈目を言った。
「そうなの? 珍しいわね、こんな時間から…」
 里子は不審っぽい眼差(まなざ)しで城水を見た。ただ、それ以上は訊(き)かなかったから城水は救われた。


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SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -64-

2015年09月29日 00時00分00秒 | #小説

 小忙(こぜわ)しく家へ着いた城水はテレビのリモコンスイッチを慌(あわ)てながら押した。
「あら、どうしたの? 息、切らして…」
[いや、なんでもない…]
 里子が怪訝(けげん)な顔つきで城水の顔を窺(うかが)った瞬間、城水の脳内に危険信号が点滅して浮かんだ。城水は、しまった! と思い、すぐテレビのリモコンを押して、スイッチを切った。ニュースで万一、クローンの姿が流れれば、具合が悪い。クローンの姿は自分の生き写しだからだ。いや、そればかりではない。城水の存在は世界に報じられ、家族ばかりか世間の誰もが知るところとなる。これは非常に危うかった。それよりも、大バレの事態は、悟られずという指令された城水の目的が果たせなくなる。
「怪(おか)しな人…。お風呂、沸いてるわよ。ゆうちゃんは、もう出たから」
[ああ…]
 今の城水に風呂などどうでもよかった。城水は普段着に着替えることなく書斎へ入ると、目を閉ざしてテレパシーを送った。その瞬間、城水が背広の外ポケットから出した地球外物質は、手の平の上で緑色の光を放ち始めた。
━ 何も心配することはない。確かに[4]はミスを犯したが、すぐ姿を消した。お前には言ってなかったが、人間が生み出した科学機器では私達の姿は映らない。そういうシールドを、それぞれが装備しているのだ ━
 地球外物質は城水にゆったりとテレパシーを送り返した。


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SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -63-

2015年09月28日 00時00分00秒 | #小説

[いや、別に何もないさ。少し疲れて採点とかが遅れただけだよ]
「ふ~ん…無理しないでね」
 幸いにも里子がそれ以上は訊(き)かず、城水は救われた。正直言って、家外だけでなく一挙手一投足に家内でも気を遣(つか)うのは、言ったとおり本当に疲れる城水なのだ。浴室で湯に浸(つ)かっている間とベッドで眠る時間が唯一、城水が解放され寛(くつろ)げる時間だった。なぜクローンのうち、自分だけがこの任務を帯びたのか・・が、未だに分からない城水だった。異星人達による地球調査と物質回収の事実は、彼等の高度な文明科学により人間社会から完璧(かんぺき)に隠蔽(いんぺい)されて進行した。だが、その事実が進行するさ中、異星人飛来の事実がひょんなことから明るみに出た。それはクローンの一人、[4]のうっかりしたミスによってだった。世界は驚愕(きょうがく)し、たちまちパニックに陥(おちい)った。
 それは、城水がいつものように放課後、地球物質の回収を終え、帰途に着いたある日のことだった。一学期の終業式で、城水は、異星人とバレずようやく生徒達から解放された安堵(あんど)感に包まれながら車を運転していた。城水が、なにげなくカーラジオのスイッチを押したときだった。
『ただいま、国会議事堂内の衆議院本会議場に得体の知れない侵入者が突然、現れ、突然消え去りました。この科学を否定した出来事は世界各地に広がっております』
 やや興奮気味のアナウンサーの声が城水の耳に入る。城水はギクリ! とした。ラジオだけならいいが、国会内の報道カメラマンがその瞬間を撮っていれば、ド偉いことになるからだ。


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SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -62-

2015年09月27日 00時00分00秒 | #小説

「遅かったわね…」
 キッチンで食器を出していた里子が城水な気づいたとき、城水の姿は、すでに消え去っていた。
「…返事もしないで、怪(おか)しい人」
 里子は訝(いぶか)しげに愚痴った。
 城水のそそくさとした動きはまだ続いていた。居間へ入った城水は、素早く背広を脱ぐとネクタイを外し、セーターと家用のズボンに着替えた。城水の脳は、行動速度を下げよと脳内数値で指示した。城水は速(はや)過ぎたか…と、自分の行動パターンを反省した。人間の目には見えない袋は城水だけには見えていた。中には収縮した動・植物の姿がはっきりと見ることが出来た。城水は、その袋と手の平サイズのゴツゴツとした地球外物質を着替えたズボンへ押し込んだ。
 城水はキッチンへ入る前、自室の書斎へと向かった。今日、採取した生物や死物は書斎でUFOへ瞬間移動せよと脳が指示していた。もちろん、脳内の解析数値が飛び交ったあとの指示された判断だった。クローンへ覚醒してからの城水の行動は、すべてが異星人としてマインド・コントロールされた行動なのである。城水は瞬間移動で袋をUFOへと送り終えた。
[ご苦労だった。次の袋を渡しておく。明日も頼む…]
 地球外物質は城水のズボンの中で緑色の光を発し、テレパシーでそう告げた。机の上には城水しか見えない無色透明の袋が置かれていた。城水は無言でその袋を何もなかったようにポケットへ入れた。
「今日は、何かあったの?」
 ようやくキッチンへ現れた城水に、里子がすぐ声をかけた。 


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SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -61-

2015年09月26日 00時00分00秒 | #小説

 城水の右ポケットに入った物質の緑色光が消え、城水は歩き始めた。城水の脳内では数値の乱数表とグラフで示された解析データが駆け巡る。どうも仲間達は世界各地に散らばっているようだ…という結論の解析データを得て、城水は無言で頷(うなず)いた。自分もその一員だと認識したのである。
 その日の放課後、城水は学校近くの空き地で最初の回収をした。動植物を含め、50種は、いとも簡単に採取出来た。城水は、それらを地球上にはない物質で出来た伸縮自在の捕獲袋へ収納し、伸縮させた。捕獲袋は異種多様な生物や死物を収納し、城水のテレパシーにより、一瞬にしてコンパクトな手の平サイズまで収縮された。
 一学期の終業式が近づいていた。雄静(ゆうせい)はウキウキ気分で帰宅した。城水の帰りは捕獲作業で遅れていた。
「パパ、遅いわね。どうしたのかしら? ゆうちゃん、学校で何かあった?」
「別に…。あっ! もうすぐ終業式だって先生が言った」
 雄静は先生が話した夏休みの過ごし方を詳しく話し始めた。里子は、訊(き)くんじゃなかった…と後悔(こうかい)した。
[ただいま…]
 城水が帰宅したのは6時前だった。コンパクトに収縮させた無色透明袋は背広の内ポケットのなかにあった。外ポケットには地球外物質が入っている。当然、着がえは一人でせねばならない…と城水の脳内で計数文字が飛び交い指示を出した。城水は玄関で靴を脱ぐと、そそくさとキッチンを通過してクローゼットがある居間へ向かった。


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SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -60-

2015年09月25日 00時00分00秒 | #小説

━ 城水よ、指令を伝える。人間の目には見えない無色透明の袋が私とともにポケットの中にある。その中へ一日に50種ずつ、動植物の種族を確保せよという指令である。詳細は、改めて伝える ━
[分かった…]
 城水は横たわったまま、物質へテレパシーで返した。城水の少し離れたベッドの上では、里子がなんの心配もないような平和な顔で寝息を立てていた。そういえば、最近、手に入れた知識の中に<知らぬが仏>というのがあったな…と、城水はニヤリと笑った。
 朝食が済むと、いつものように城水は家を出た。小学1年の雄静(ゆうせい)は通学パスに乗り遅れまいと、スキップを踏みながらすでに家を出ていた。
 坂道を車で下ると、城水はいつものように駐車場へ車を止め、駅へと歩き始めた。そのときだった。
━ この道のマンホールの下は、すでに昨日の深夜、我々が通路を確保した。今、その状態をお前に示しておく ━
 城水が着る背広の外ポケットが突然、異様な緑色の光を発すると、テレパシーを城水へ送り始めた。城水が足下のマンホールをに視線をやったとき、蓋はゆっくりと上昇し始めた。その中を城水が覗き込むと、不思議なことにスッポリと下水道が消え、トンネルが出来ていた。下方向へ緩(ゆる)やかな階段が付いていて、照明もないのに空間は不思議なオレンジ光に満たされ、明るかった。城水は、これがUFO編隊が着地している山麓に通じた穴か…と理解した。
[了解した]
 城水は、単にそうとだけテレパシーを返した。


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SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -59-

2015年09月24日 00時00分00秒 | #小説

 動植物の種族確保計画の統括責任をまかされているのが城水の住む街近くにへ着陸したUFO編隊の指令だとは城水も分かった。だが、なぜ自分にそっくりの指令が、そんな重要な任務をまかされているのかが分からなかった。城水とは、そんなに重要で偉い人物だったのか? という疑問が沸々とクーロン化した城水に湧き出ていた。異星人として見た今朝までの城水の生活には、それほどの価値があるとは、とても思えない城水なのだ。
[…返答がないが大丈夫なのか、0号]
[あっ! はい。少し考えごとをしておりましたので、申し訳ありません]
[そうか…。寝てしまったのかと思ったぞ。そんな訳で、君にも協力を頼みたい。詳細はクローン[1]が手渡したと思うが、その物質が指示する。では…]
 指令からのテレパシーは途絶えた。聞き終えた城水は、いつの間にかまた深い眠りへと沈んでいった。
 指令が城水に伝えたように、任務の内容はすでに城水が受け取った球体のゴツゴツした物資内へ伝えられていた。その方法は人間が考える電波、磁波、音波とかの低レベルの手段ではなかった。すべてがテレパシーなのである。飛来した星団の異星人は、すでに高度な進化を終え、脳波信号による意思の疎通を可能にしていたのだった。それは異星人同士に限らないあらゆる生物、死物を網羅(もうら)していた。
 次の日の早朝、家族がまだ寝静まっている頃、城水が受け取った球体の物質は背広のポケットで緑色の光を発しながら輝き始めた。その光に誘われるかのように、城水は両眼を開いた。


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SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -58-

2015年09月23日 00時00分00秒 | #小説

 彼等はそれぞれに捕獲袋を持っていた。この袋の繊維は地球上にはない物質で出来ており、伸縮自在で時空移動が自在な袋だった。袋が縮めば、確保された生物も縮むという具合である。その後、時空移動してUFO内に送られ、保管された。生物は動植物を問わず、異種の生物が対象になっていた。。城水がぐっすりと眠っている間にも、その地球規模の大異変が進行していたのだが、城水が住む街自体には何の変化の兆(きざ)しもなかった。街は静かに眠っていた。
[聞こえるか、城水0号]
 熟睡(じゅくすい)する城水に突然、テレパシーが送信された。城水は、ハッ! と目覚めた。
[はい!]
 里子に悟(さと)られては拙(まず)い。城山は横たわったまま微動せず、テレパシーを送り返した。
[就寝中、申し訳ない。緊急に伝えておくことが出来た。今、地球規模の変革が開始された。世界各地に下り立った各編隊への指令は、すべて私が行っている]
 城水は、そんなことはどうでもいい…と思えた。知りたいのは、地球規模の変革とは何なのか、だった。だが、そうは言えなかったから、思うに留(とど)めた。
 城水が知りたかった異星人による動植物の種族確保計画は、城水がUFO指令と会話している間にも、刻々と地球規模で進行していた。進行速度は人間が考えるほど緩(ゆる)やかなものではなかった。地球文明が目にしたことがない高度な文明が作りだした装置なのだから、それも頷(うなず)けた。


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SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -57-

2015年09月22日 00時00分00秒 | #小説

 ここは、城水家の家前にある坂の下である。城水の家前の坂道は歩道も含め幅員(ふくいん)が約10mほどあった。この坂が縦方向に下降し、下り切った所でT字路になるという寸法だ。このT字路は、やや狭(せば)めで、歩道はなく、幅員は7m内外である。このアスファルト路面のマンホールが突然、無音で跳ね上がった。中から次から次へと現れたのは城水のクローン達だった。この光景を見れば、恐らく誰もが卒倒しただろう。それは当然で、すべての者が城水だったからだ。城水の家を密かに隠れて観察したクローン[1]の姿も、もちろん、この中にあった。その数は、ざっと30人は下らなかった。彼等はすでに申し合わされたように、何の迷いもなく四方八方に散らばっていった。最後のクローンが出終わり指を一本回すと、マンホールの蓋(ふた)はフワリと浮き上がり、無音で元どおり閉じられた。まるで、マジックか神技のような光景が深夜、城水家の坂下で起きていた。
 最後にマンホールから出たクローン[31]は停止したまま静かに両眼を閉じた。他のクローンの姿はすでに誰一人、見えなかった。
[全員、各部署の調査に向かいました。…はい、任務を続行いたします]
 指令のテレパシーが送られたあと、クローン[31]も闇の中へと消え去った。計31名のクローンには、それぞれ番号が付いているのだが、人間が見た目には、まったく違わず、区別がつかない。だが、異星人達には何番のクローンなのかをすぐ判別出来たのである。その31名はそれぞれに課せられた指令を果たすべく散っていったのである。彼等の目的は地球に存在する生物分確保にあった。クローンそれぞれに50種ずつの確保が義務づけられていた。


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SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -56-

2015年09月21日 00時00分00秒 | #小説

 その日の夜半、城水の家から少し離れた山地に着陸していたUFO編隊の一部は、分散しながら飛び始めた。その姿を人間は視界に入れることはできず、シールドされた機影がレーダー網で追尾(ついび)される訳もなかった。その目的を城水は当然、知らない。知らされていないのは、城水に動揺を与えないよう・・という編隊指令の配慮である。その一部のUFOは山地伝いの別の場所へ集結し、密かに掘削(くっさく)を開始した。各UFOの前方部から照射された光線により、瞬く間に山地の樹木や地面は消滅していった。掘削されれば土や樹木が辺りに散乱するのが一般的だ。だが、その痕跡はまったく見えず、それまであった物質が跡片もなく消え去ったのである。その方向は城水の家前にある坂の下へと向かっていた。ポッカリと開いた山地の穴の中へUFOは少しずつ消えていった。早い話、UFOによるトンネル工事である。だが、騒音などは一切せず、静寂だけが深夜の山地を覆(おお)っていた。その目的が指令から城水にテレパシーで送られたのは、二日後、掘削が完成した後である。坂下への出口には階段状の通路が設(もう)けられ、マンホールから出られる構造に工作されていた。瞬時に完成されたその技法は、人間には不可能な高等文明のなせる業(わざ)だった。そんな大ごとが起きていることなど露ほども知らず、城水はすっかり疲れ切り、深い眠りの中にいた。公私ともようやく世間の生活に溶け込めるようになり帰宅した深夜だった。


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