水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

愉快なユーモア短編集-70- 浮気(うわき)

2018年10月31日 00時00分00秒 | #小説

 夫婦間でチマチマと遣(つか)われる浮気(うわき)という言葉がある。だが、浮気という言葉は、なにも男女間のそういったチマチマとした縺(もつ)れ話(ばなし)を指すだけの言葉ではない。あのお方は浮気っぽい人だ…と言った場合、普通に考えれば、女癖(おんなぐせ)が悪いのか…と捉(とら)えられがちだが、よく気移りする人・・という意味でも遣われる言葉なのだ。まあ、ほとんどの場合、男女のチマチマとしたややこしい縺れ話になる方が多いのだが…。^^
 行楽の季節、自然の景観が心を和(なご)ませる、とあるキャンプ地である。二つのテントが隣り合う中、それぞれの家族が自然を満喫(まんきつ)している。お互いのテントが距離にして数mしか離れていないからか、双方の様子は手に取るように自然と目に入る。
「あれっ? あちら、ご近所の豚尾(ぶたお)さんじゃないかっ?」
「あらっ! 偶然ってあるのねっ」
「ああ…。おっ! あちらも気づかれたようだ。頭を下げておられるぜっ!」
「そうね…。ご挨拶(あいさつ)だけでもしておいた方がよくないっ?」
「そうだな…俺が行ってくるよっ!」
 鳥目(とりめ)は、そう言うと折りたたみ椅子(いす)を立ち、豚尾のテントへと近づいていった。
「やあ、豚尾さん! お宅もこちらへ?」
 鳥目は豚尾の妻に声をかけた。
「はいっ! ほんとっ、世間は広いようで狭(せま)いですわねっ、ほほほ…。あっ! この前はどうも…」
「えっ? ああ! アノことですか。ははは…いやいや、私のほんのちょっとした浮気ですよっ!」
 鳥目は悪びれて豚尾の妻に笑顔を見せた。その様子をテントの中で豚尾が聞いていた。豚尾は鳥目の浮気という言葉に、よからぬ思いを働かせた。鳥目はテントから出ると鳥目に言った。
「あんたっ! 私の妻にっ!」
「ち、違うのよっ、あなたっ!」
「そ、そうですよっ! 誤解しないで下さいっ!」
「どういうことですっ!」
「浮気性で気分が変わり、道を変えたんですが、偶然、奥さんにお出会いしまして、ゴロツキに絡(から)まれていた奥さんをお助けした・・というだけの話ですよっ!」
「ああっ! 鳥目さんは刑事さんでしたね! これはこれは、とんだ早とちりをっ!」
 豚尾は平謝(ひらあやま)りに謝った。
「いやいや、分かっていただければいいんですよっ! 私の言い方も悪かった。ははは…」
 二人は愉快な笑顔を見せ、一件は落着した。
 浮気は、誤解を招(まね)く危険な言葉なのである。^^

                                 


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愉快なユーモア短編集-69- 理屈(りくつ)

2018年10月30日 00時00分00秒 | #小説

 人は自分の立場を正当化しようとして、間違っているにもかかわらず理屈(りくつ)を捏(こ)ねる。何が何でも! と、意固地(いこじ)に自分の理窟を押し通そうとする無理な理窟は屁(へ)理窟と言われる。孰(いず)れにしろ、自分の主張が正しく、相手が間違っている・・とする一方的な考え方だ。この間違った理窟を頭脳的にやれば、人を欺(あざむ)いたりする犯罪行為ともなる。今の政治は…まあ、そういうことだ。^^
 とある蕎麦(そば)屋である。椅子席に座り、美味(うま)そうな中華を啜(すす)りながら二人の男が話し合っている。
「いや、ここの中華が一番、美味いんだよっ!」
「ああ、確かに美味いが、この前の店の方が美味いさっ!」
「そうかい? 麺の歯ごたえといい、味といい、そりゃ断然、こっちさっ!」
「いやいやいや、それはどうだろ。俺は前の店の歯ごたえと味が好きだっ! だいいち、こっちは焼き豚が一枚じゃないかっ! 向こうは二枚だぜっ!」
「それは理窟だろ。枚数が多いからって、いいもんでもないさ。その分(ぶん)、こっちは、ぶ厚いぜっ!」
 二人の遣(や)り取りを聞いていた店の主人は、いい気分ではない。
「お客さんっ! あっちも私の店なんですがねっ!」
「…」「…」
 二人は、たちまち押し黙り、麺を慌(あわ)てて啜った。
 理窟を言い 人は自分の立場を正当化しようとして、間違っているにもかかわらず理屈(りくつ)を捏(こ)ねる。何が何でも! と、意固地(いこじ)に自分の理窟を押し通そうとする無理な理窟は屁(へ)理窟と言われる。孰(いず)れにしろ、自分の主張が正しく、相手が間違っている・・とする一方的な考え方だ。この間違った理窟を頭脳的にやれば、人を欺(あざむ)いたりする犯罪行為ともなる。今の政治は…まあ、そういうことだ。^^
 とある蕎麦(そば)屋である。椅子席に座り、美味(うま)そうな中華を啜(すす)りながら二人の男が話し合っている。
「いや、ここの中華が一番、美味いんだよっ!」
「ああ、確かに美味いが、この前の店の方が美味いさっ!」
「そうかい? 麺の歯ごたえといい、味といい、そりゃ断然、こっちさっ!」
「いやいやいや、それはどうだろ。俺は前の店の歯ごたえと味が好きだっ! だいいち、こっちは焼き豚が一枚じゃないかっ! 向こうは二枚だぜっ!」
「それは理窟だろ。枚数が多いからって、いいもんでもないさ。その分(ぶん)、こっちは、ぶ厚いぜっ!」
 二人の遣(や)り取りを聞いていた店の主人は、いい気分ではない。
「お客さんっ! あっちも私の店なんですがねっ!」
「…」「…」
 二人は、たちまち押し黙り、麺を慌(あわ)てて啜った。
 理窟を言い 人は自分の立場を正当化しようとして、間違っているにもかかわらず理屈(りくつ)を捏(こ)ねる。何が何でも! と、意固地(いこじ)に自分の理窟を押し通そうとする無理な理窟は屁(へ)理窟と言われる。孰(いず)れにしろ、自分の主張が正しく、相手が間違っている・・とする一方的な考え方だ。この間違った理窟を頭脳的にやれば、人を欺(あざむ)いたりする犯罪行為ともなる。今の政治は…まあ、そういうことだ。^^
 とある蕎麦(そば)屋である。椅子席に座り、美味(うま)そうな中華を啜(すす)りながら二人の男が話し合っている。
「いや、ここの中華が一番、美味いんだよっ!」
「ああ、確かに美味いが、この前の店の方が美味いさっ!」
「そうかい? 麺の歯ごたえといい、味といい、そりゃ断然、こっちさっ!」
「いやいやいや、それはどうだろ。俺は前の店の歯ごたえと味が好きだっ! だいいち、こっちは焼き豚が一枚じゃないかっ! 向こうは二枚だぜっ!」
「それは理窟だろ。枚数が多いからって、いいもんでもないさ。その分(ぶん)、こっちは、ぶ厚いぜっ!」
 二人の遣(や)り取りを聞いていた店の主人は、いい気分ではない。
「お客さんっ! あっちも私の店なんですがねっ!」
「…」「…」
 二人は、たちまち押し黙り、冷えて伸びた麺を慌(あわ)てて啜った。
 理窟を捏ね合うと、何もいい結果が得られない・・というお話だ。^^
 
                                 


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愉快なユーモア短編集-68- 名月

2018年10月29日 00時00分00秒 | #小説

 日々、悩まされたムッ! とするような暑気(しょき)が遠退(とおの)き、過ごしやすくなると、なぜか愉快な気分になってくる。汗ばまなくなる・・といったことも多分にあるが、取り分け、気分を愉快にさせるのが秋の到来(とうらい)だ。食欲の秋、行楽の秋、芸術の秋・・と、秋は何でもござれである。とくに、秋の夜長(よなが)、澄み渡った空の名月を愛(め)でながら美味(うま)い団子(だんご)、美酒に憩(いこ)う・・となれば、これはもう、幸せの極致(きょくち)といっても過言ではないだろう。思わず、フフフ…と笑(え)みが浮かぶというものだ。
 とある家庭である。名月を愛でながらご隠居とその息子が寛(くつろ)いでいる。
「いい月ですね…」
「ああ…、お前が言うと、いい月が曇るがなっ! ははは…」
「いやぁ~」
 頭を掻きながら、ご隠居の息子が悪びれる。肴(さかな)に出された秋刀魚(さんま)の刺身(さしみ)に箸(はし)をつけながら、美酒に酔いしれる二人。当然ながら、二人とも愉快、この上ない気分である。そこへ、飼い猫のタマが現れなくてもいいのに忍者走りのような速さで現れ、二人の肴を咥(くわ)
えると、たちどころに姿を消した。二人の愉快な気分は、たちまち消え去り、不愉快、極(きわ)まりない気分となった。

 名月でも、美味いものが消えれば、愉快な気分も消え去るようだ。^^

                                 


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愉快なユーモア短編集-67- 整える

2018年10月28日 00時00分00秒 | #小説

 どうも、乱雑に散らかってる…と気になり、それなりに満足できる形にすることを整えるという。いや、自分は乱雑に散らかっていた方が気分が落ち着いていい…と思われる方もおられるだろうが、まあ、普通程度には整っていた方がいいに決まっている。^^ もちろん、汚れている場合も同じで、掃除が行き届いていない状態も整っていないといえるから、整えられれば整えたいものだ。^^
 女性の生け花教室がビルの一室で開かれている。多くの生徒が女性の家元(いえもと)の指導の下(もと)、ああでもない、こうでもない…と、こねくり回して花を活(い)けている。
 一人の生徒のところで家元の足が止まった。
「… あらっ! 整っていませんわねっ! 整えましょう、ねっ!」
 そう言いながら、家元は次の生徒の場所へと移動した。分りよく、こうしなさいっ! と言われなかったものだから、言われた生徒は、どこが整っていないのかしら? …と手が止まり、考え込んでしまった。
「あらっ! いい風情(ふぜい)に整ってますわねっ!」
 家元は直前に指導した生徒の顔を、整えるってのは、こういうのよっ! …とでも言うかのように見る。
 直前の生徒は次の生徒の活け花をジィ~~っと見守る。そして、余り変わらないのにっ! …と違いが分らず、首を傾(かし)げる。
 整えるというのは、形がない感性なのだ。^^

                                 


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愉快なユーモア短編集-66- 興奮

2018年10月27日 00時00分00秒 | #小説

 興奮すれば、愉快な気分が阻害(そがい)され、何も得することがない。それどころか、角(かど)が立ち、物事が悪い方向へと流れることになる。こうなるのが魔に刺されるという現象だ。相手がある場合だと片方が興奮しなければ物事は最小限、悪くはならないが、それでも何らかの悪い影響は出る。当然ながら双方が興奮すれば、これはもう悪いどころかド偉いことになる危険性が大きい。場合によっては、拗(こじ)れて取り返しがつかない事態にも立ち至る。この現象が人間世界では事件・・と呼ばれる性質のもので、非常に始末が悪い。
 とある肉屋の店先である。二人の客が透視ガラス棚に並んだ肉を物色している。
「おっ! 大将、いいのが入ってるねっ! それに、安いっ!」
「ははは…でしょ! 本日のサービス特価ですからっ!」
「ああ、そうなんだっ! じゃあ、300gほど貰(もら)おうかっ!」
「はいよっ! 300ねっ!」
 店の主人が肉を竹の皮で包み、秤(はかり)にかけたときだった。もう一人の客がその秤の針を何げなく見ていた。注文した客が常連なのか、肉屋の主人はニタリと笑うと、20gほど多めに包んだ。見ていた客は、しめたっ! と思った。
「同じのを300!」
 見ていた客は同じ肉を注文した。
「はいよっ! ありがとうございましたっ! また、どうぞっ!」
「どうもっ!」
 店の主人は先の客に肉を手渡し、代金を受け取った。そして、あとの客の肉を竹の皮に乗せた。ところが、である。包んだ秤の肉は300gちょうどだった。これがいけなかった。客は思いが外(はず)れ、興奮し始めた。
「重さが違うじゃないかっ!」
「えっ!? 300ですよねっ?」
「ああ、300だっ! 300だから320だろっ!」
「…?」
「さっき、320、乗せたじゃないかっ!」
 あとの客は益々(ますます)、興奮してきた。店の主人は瞬間、見られていたかっ、これはいかんっ! …と思った。その次の瞬間、場数(ばかず)を踏んだ馴れた客あしらいが炸裂(さくれつ)した。
「あっ! 前のお客さんのですかっ! アレは前回、肉がなくなったもんで、280しか包まなかったんで、そのお返しですっ!」
「… ああ、そうなの?」
 あとの客の興奮は収まり、事態は事なきを得た。
 興奮は冷静に対処すれば鎮火(ちんか)し、魔の火は収まるようだ。^^

                                 


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愉快なユーモア短編集-65- なんとかしたいっ!

2018年10月26日 00時00分00秒 | #小説

 読者の方々は、アレだけは、なんとかしたいっ! とお思いになられたことはないだろうか? ^^
 なんとかしたいっ! という気持は、かなり逼迫(ひっぱく)した気分で、その人物をして行動させずにはいられなくする感情である。
 とある街の通りを二人の男女が反対方向から接近し、擦(す)れ違った。擦れ違わなくてもいいのに…である。^^ というのも、接近した途端、男は女に一目惚(ひとめぼ)れしてしまったからである。男は擦れ違った直後、なんとかしたいっ! と思った。が、女の方はそうは思っていなかったから、要は空振り三振になった。
「行っちまったか…」
 ふり向いた男は独(ひと)りごちると、無念そうな顔で踵(きびす)を返し、歩き始めた。これでは、なんとかしたいっ! も、なんともならないっ! のである。^^ 相場では、ここで『あのっ…』とかなんとか男が女に声をかける・・としたものだが、なんといっても擦れ違いの時間速度は微妙に早く、男は女を見失ってしまった。ここで、なんとかしたいっ! という男の気持が叶(かな)うのは、どういう場合だったのか? を考えてみることにしよう。別に考えなくてもいい訳だが、暇(ひま)だから考えるのである。^^ 
 男は、なんとかしたいっ! と思った。ところが女の方は、それほどでもなかったのである。要は、ここに問題がある。手の平と手の平を近づけるように叩(たた)けば音がする原理がある。片方の手の平をもう一方に近づけても、もう一方の手の平が近づく手の平を避(さ)けようとすれば、肩透(かたす)かしの格好で音はしない・・現象に似通(にかよ)っている。ということは、である。なんとかしたいっ! という気持が叶うのは、もう一方もなんとかしたいっ! あるいは、なんとかなりたいっ! と思う他はないのである。これが縁[えん、えにし]と呼ばれるものだ。これだけはどうしようもなく、人智(じんち)の及ぶところではない。なんとかしたいっ! という気持が叶えられ、愉快な気分となれるよう、皆さんに幸(さち)多からんことをお祈りする他はない。^^

                                 


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愉快なユーモア短編集-64- 頼(たよ)りない

2018年10月25日 00時00分00秒 | #小説

 どうも、任(まか)せられない…という場合を頼(たよ)りないと人は言う。当然、その逆もあり、あの人なら間違いがない…と信用に足る場合を頼りになると言う。
 恒例の老人会が行われる前日である。老人会有志による余興は、お決まりのメンバーの余り上手(じょうず)ともいえない寸劇(すんげき)だ。だが、始末の悪いことに、彼らは少しも下手(へた)とは思っていない。それよりむしろ自慢げで、劇団名まで付けているくらいだ。その名も劇団長寿という。むろん、他の老人達はお決まりのように観たくもない劇を観せられる訳で、終われば拍手までしなければならないから、内心では誰もがお冠(かんむり)だった。劇が下手なのには一つの理由があった。なんといっても座長が頼りなかった。取り分けボケた老人でもなかったが、これも始末が悪いことに耳が、かなり遠かった。要するに難聴(なんちょう)である。耳が遠いにもかかわらず、自分の耳は遠くないっ! と意固地で、補聴器を付けないものだから、劇は様(さま)になった例(ためし)がなかった。劇団員達は頼りない…とは思っても言えず、意固地で耳が遠い座長に従う他なかった。それでもまあ、老人会前にはなんとか形になるのだから、不思議といえば不思議な劇団だった。
 そしてこの日も最後のラン・スルー(通し稽古)が舞台で行われていた。
「そうそう! そこで見得(みえ)を切って下され。で、『知らぁざぁ~言って聞かせやしょ~!!』」
「はいっ! 知らぁざぁ~言って聞かせやしょぅ!!」
「『行ってきやしょ~!!』 じゃないっ! どこへ行かれるんですかなっ!」
「座長! そうは言ってませんぞっ!」
「はぁ!!? 掃除に行ってられないっ!? …そういや、今週は私達の掃除当番でしたなっ!!」
 ラン・スルーは急遽(きゅうきょ)、取りやめとなり、全員が掃除をする破目になった。
 トップが頼りないと、変化が激しくなるのである。^^

                                 


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愉快なユーモア短編集-63- 手順前後

2018年10月24日 00時00分00秒 | #小説

 プロの囲碁や将棋の世界でよく使われる手順前後という言葉がある。この言葉は何も囲碁や将棋に限って使われる言葉ではなく、日常の私達の生活でもよく使われる。
 将棋の対局場面である。プロの棋士が、ああでもない、こうでもない…と先読みをしながら駒を指している。
「熊黒(くまくろ)九段、残り、二分です…」
 記録係の若い男性棋士が、か細い声で残り時間を言う。熊黒は、ウッ! と気づき、記録係を食べそうな目つきで一瞥(いちべつ)した。次の瞬間、少し慌(あわ)てたのか、熊黒は不用意に桂馬を盤面へと打った。その駒が惜しまれる手順前後で、敗着となった。形勢は一気(いっき)に劣勢の鮭川(さけかわ)九段を勢いづかせ、逆転勝ちへと導いたのである。
 大盤解説が将棋愛好家達を前にして、別室で行われている。解説をするのは川山名人と青空女流二段である。
「先生、ということは、この桂馬が、ですか?」
「ええ、急がずともよかったんですよ。好きなだけムニエルに出来たんです…」
「はあ?」
「いや、詰(つ)んだんです。香(きょう)を先に通して、そのあとの桂馬でした。これでは食べられません」
「はあ?」
「いや、詰みません…」
「なるほどっ!」
 将棋愛好家達も納得したのか、皆、聞き入って頷(うなず)いた。
 手順前後になると、美味(おい)しく食べられないのである。^^

                                 


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愉快なユーモア短編集-62- 頭がいい人

2018年10月23日 00時00分00秒 | #小説

 頭がいい人は知識が豊富で物分りもよく、ズバ抜けて他の人より抜きん出た人である。とはいえ、頭がいい人が世の中をよく出来るのか? と問えば、必ずしもホニャララなのである。^^ むろん、頭がいいに越したことはなく、世間を愉快で明るく出来る最低限の条件なのだが、問題はそう出来る応用力が有(あ)りや無(な)しや? という問題に他ならない。分りやすい例を挙(あ)げれば、外国語の成績がいいからといって、必ずしもその生徒が頭がいい! とは言えないということだ。外国語で話された場合、理解して受け答え出来る人が成績が悪いとき、その人は頭が悪いのか? と問えば、実はそうではない。頭がいい可能性がある人なのである。可能性がある人とは、外国語が流暢(りゅうちょう)に話せるだけでは頭がいい人・・とは特定出来ないことを指す。逆のケースも当然、成立する。成績がいい生徒が外国語で話されたとき、 ? と押し黙ってしまう場合、成績は良くても頭がいいとは必ずしもホニャララなのである。^^ ということは、超有名大学を合格し、国家公務員のトップ試験を経(へ)て国や地方の頂点に立った超エリートが、いい国家経営や政治をなし得(う)るか? ということだ。その結果は自(おの)ずと明らかで、今の赤字国債の山に喘(あえ)ぐ我が国の経済状況をご覧になれば、自(おの)ずと愉快な気分でホニャララと笑っていただけることだろう。^^
 とある賑(にぎ)わいのある名店街である。二人のサラリーマン風の若者が歩いている。どうも、昼食に来たようだ。
「あの店がいいんですよっ!」
 後輩風が断言する。
「そうかなぁ~? あの店よりそっちの方がいいんじゃないっ?」
 先輩風が異論(いろん)を唱(とな)えた。
「そっちですかぁ~?」
 不満げに後輩風が返す。
「ああ、そっち! 俺の計算だと美味(うま)いし安いし内容も多いっ!」
「それなら、あの店の方も変わりませんよっ!」
 後輩風は意固地(いこじ)になった。
「甘い、甘いっ! 君は甘いぞっ!」
「なぜですっ? よく分りませんっ!」
 二人は人通りの激しい往来(おうらい)を避(よ)け、立ち止まった。
「君は頭がいいが、先が読めないっ! 確かにどちらも美味いし安い。内容だって多いっ! しかしだっ! 出来るまでの速さが違うっ! そっちだと、これから10分だが、あちらの店は優(ゆう)に30分はかかる。そうなれば、どうなるっ?」
「どうもなりません…」
「頭がいい君が何を言ってるっ! 次のプレゼンの準備があるだろっ! 20分の差は大きいぞっ!!」
「あっ!!」
「何が何でも他社には負けられんだろっ!! ははは…まあ、そういうことだっ!」
 愉快な気分で先輩風が言う。二人はその後、そっちの店へと入っていった。
 頭のいい人は応用が利(き)き、さらに加えて、先読みに長(た)けているのである。^^

                                 

 ※ 超有名大学やエリートの方々を僻(ひが)み根性(こんじょう)で愚弄(ぐろう)するつもりは毛頭(もうとう)ありませんので、その点だけは誤解なきよう、お含み置き下さい。^^


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愉快なユーモア短編集-61- 達成感

2018年10月22日 00時00分00秒 | #小説

 人はやっている事が無事になし終えられると達成感が得られ、満足げな愉快な気分となる。逆に、やっている物事が中途半端に終わったり失敗することにより達成されないと、気分が落ち込んだりする。もしかすると、人の人生はそうした連続なのかも知れない。これは公私を問わず言えることである。例えば私事(わたくしごと)だと、応援しているチームや人物といった対象が勝つと、自分のことでもないのに達成感が得られる。この逆もまた然(しか)りで、負ければ気落ちする。仕事でもノルマが達成出来たり契約が取れたりすると達成感に満たされ、愉快な気分が得られる。
 二人の老人が話をしている。
「どうされました・ そんなに落ち込んで…」
「いえ、なに…。ほんのつまらんことで…」
「と、申されますと?」
「実は、いつもよりパックの数が少なかったんです」
「はあ?」
「いえね、いつもは五切れ入っている白身魚フライが四切れで…」
「ははは…それはお店の都合じゃないんですか?」
「いえ、私は五切れでないとダメなんです!」
「五切れでないとダメ? なぜです?」
「二(ふた)切れはビールのツマミ、で、二切れは晩のオカズです。さらに残った一(ひと)切れは次の朝のガーリック・トーストに挟(はさ)むんですっ!」
 聞いていた老人は、好きにやってりゃいいさっ! と思ったが、そうとも言えず、暈(ぼか)して笑った。
「明日(あした)の朝はその分がないっ! ぅぅぅ…」「一日ぐらい、いいじゃありませんかっ」
「いや、ダメなんです。私、それを食べないと達成感が得られず、一日が始まらんのですっ!」
「海老フライじゃダメなんですか?」
「海老フライ…海老フライ? 海老フライもアリか…」
 大相撲の立会い変化と同じで、達成感は違う代用の方法で得られることもある。^^

                                 


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