水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

短編小説集(12) 狐狗狸[コックリ]さん

2013年10月31日 00時00分00秒 | #小説

  中学1年のときでした。職員室へ呼ばれた須藤君と桜庭(さくらば)君は生活指導の教師、川沼先生に注意されました。
「まあ、今日のところは大目にみよう。次回からは、ご家族を呼んで厳しく指導するぞ! もう、帰ってよろしい」
 二人は、ぺコリと頭を下げると職員室を出ました。須藤君と桜庭君が怒られていたのは、放課後に教室で五目並べをしていたからです。担任の山村先生には、それほど好きなら部を作れよ、といわれていた二人でしたが、放課後に残る者が十人を超えたところで・・と密かに決めていたのです。それが、あと僅(わず)かのところで、生活指導の川沼先生の耳に入り、呼び出された・・という訳です。おそらく、クラスの誰かがチクったに違いない・・と二人は廊下を歩きながら語りあいました。
「いや、木瀬だよ、きっと…。あいつは怪(あや)しい」
「そうか? 僕は安岡だと思う」
 二人の推理は違っていました。校門を出ると、いつも二人が立ち寄る公園がありました。
「よし、コックリさんだ! コックリさんに訊(たず)ねてみよう」
「コックリさん? なんだ、それ?」
 須藤君は首を捻(ひね)りました。
「まあ、僕に任せろよ。十円硬貨、あるか?」
「あるけど…」
「よし! それなら訊(き)けるよ」
 桜庭君は、カバンから画用紙を出すと半切りにしました。続けてその上へ鉛筆で「はい」「いいえ」と書き込み、その間に鳥居を描きました。そして、その下へ五十音の平仮名と数字を書いたのです。
「それじゃ、始めるよ。僕のいうとおりにしてくれよ」
「うん…」
 分からない須藤君は桜庭君に従うことにしました。桜庭君は鳥居の上に十円硬貨を乗せると人差し指を硬貨の上へ置くよう指示しました。須藤君がそうすると、その上へ桜庭君も人差し指を重ねて置きました。
「コックリさん、コックリさん、どうぞおいで下さいませ。もし、おいで下さいましたら、{はい}へお進み下さいませ」
 桜庭君がそういうと、十円硬貨は不思議にも動きだし、「はい」と文字の位置へ移動して答えました。
「チクったのは誰ですか」
 桜庭君は続けました。すると、ふたたび十円硬貨は不思議にも動きだし、「か・わ・ぬ・ま」と動いて示したのです。二人はギクッ! としました。「か・わ・ぬ・ま」とは生活指導の教師、川沼先生をおいて他にはいないからです。二人は思わず、顔を見合わせました。辺りには夕闇が迫っていました。
「コックリさん、コックリさん、どうぞお帰り下さいませ」
 桜庭君は丁重(ていちょう)にそうお願いすると、指の下の十円硬貨が動きだして鳥居へと戻(もど)りました。
「ありがとうございました」「ありがとうございました」
 それを見届けた桜庭君は、そういいました。須藤君も桜庭君に合わせていいました。
「おい! 川沼先生だよ」
「ああ…。ということは、先生が僕達を見てたってことかな?」
 少し怖くなった二人は、急ぐように公園をあとにしました。
 二人がその後、それとなく川沼先生に訊(たず)ねますと、川沼先生は「よく分かったな? そのとおりだ!」と、いったそうです。
 …実は、この話には続きがあるんです。三日ばかり過ぎた頃、急に桜庭君が熱をだして学校を休んだのです。それだけではありません。時を同じくして、須藤君も足を捻挫(ねんざ)して学校を休みました。一人だけならそういうこともあるのでしょうが、二人同時でしたから怖い話です。
「僕、あの紙と十円硬貨、まだそのままにしていたよ…」
 翌週の月曜日、二人は登校し、校庭で話し合いました。桜庭君が調べてみると、紙は48分割に細かく破り捨て、10円玉は三日以内に使って下さい・・と、あったそうです。桜庭君は、ついうっかり、あと始末をしていなかったのでした。桜庭君と須藤君は、その紙を放課後の下校のとき公園で破ると屑かごに捨て、十円硬貨は缶ジュースに使ったそうです。その後は、そういうことは起こっていません。これは、すべて僕が二人から聞いた話です。皆さんもコックリさんをやるときは注意しましょう。崇(たた)りは怖いですから…。

                      THE END


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短編小説集(11) 知らない花[ばな]

2013年10月30日 00時00分00秒 | #小説

 今日も暑い日になりそうです。今、ふと思い出したのですが、そう…あのことがあったのも、こんな暑い日だったと思います。それはもう、20年以上も前のことなのですが、かつて私が勤めていた会社での出来事でした。
 その日、私は残った仕事を終え、ようやく解放された気分で自分のデスクで背伸びをしておりました。ビルの窓ガラスの向こうは、すっかり暗闇です。残っている者といえば、私と係長の野坂(のさか)の二人でした。野坂は私から少し離れたところで明日のプレゼンテーション用の書類コピーをしておりました。やがてそれも終わったようで、野坂は私の席へ近づいてきました。
「課長、そろそろ帰りましょうか?」
「そうだな…」
 私は野坂から書類を受け取り、疎(まば)らに確認しながら頷(うなず)きました。そして、なにげなく隅(すみ)の卓袱台(ちゃぶだい)上に置かれた花瓶に視線を移しました。その花瓶には、女事務員の三崎(みさき)が生けた花が飾ってありました。三崎は感心な子で、常々(つねづね)、自費で花を買って飾っておりました。そこまでするのは、なぜだろう? と疑問に思えたものですから何気(なにげ)なく訊(たずね)ますと、私の趣味です・・と、可愛く申します。即答されてはそれ以上、言葉を返すこともできず、以後はそのままにしておりました。しかし、私と野坂が見たその日の花は、今までに見たことがない私の知識外の花でした。毎度のことですから、課員の誰もが見過ごし、私も見過ごしていたようです。
「珍しい花だな。…君、この花の名、知ってる?」
「えっ?! いえ…。明日(あす)、訊(き)いておきましょうか?」
 野坂は振り向きながら、卓袱台に置かれた花瓶の花を見ていいました。花は電光に照らされ、不思議な輝きを放っておりました。
「いや、いいよ…」
 私は慌(あわ)てて打ち消しながら、席を立ちました。
 次の日、出勤しますと、先に来ていた野坂が血相変えて、私の課長席に迫ってきました。他の課員達もその異常さに驚いて、私達に視線を走らせました。
「課長! その花、名前がありません…」
「なんだって?! そんな馬鹿な! 調べりゃ分かるだろうが」
「いえ、本当なんです。気になったので寝ずに調べたんですが…」
 私と野坂は三崎のデスクを見ました。彼女は出社しておりませんでした。それ以降、次の日もまた次の日も、三崎は出社しませんでした。一人暮らしの彼女と音信もとれぬまま、ひと月が経ちました。不思議なことに花瓶のその花は枯れずにそのままの姿を保っておりました。科学的には誰が考えても有り得ない事実でした。話は農水省、学術機関、植物新品種保護国際同盟[UPOV]まで及びましたが、とうとう花の名は分からずじまいでした。課員の誰もが、少しずつ怖(おそ)れるようになったのもこの頃からです。私はこれ以上、放置すれば仕事にも影響し、課内の統制を乱す恐れがあると判断し、その花瓶と花を破棄するよう野坂に命じました。野坂は最初、身に危険が及ぶのを怖れたのか嫌がりましたが、仕方なく私の指示に従いました。
 次の日の朝、私が出勤しますと、デスクの上に1通の手紙が置かれていました。会社の私あてに届いた三崎の実家の親からのものでした。封を切りますと、今朝、三崎が息を引きとった・・とありました。私はその文面に、ギクッ! といたしました。といいますのも、それなら会社へ来ていたのは誰…ということになります。その話を課員達にしますと、課内は凍りつきました。以後、課員から異動の希望届が頻繁に出るようになったのは当然といえば当然でした。私も困りますから慰留に忙殺される日々が続いたのでございます。そうした働き辛(づら)い日々が続きましたが、さすがに数年もしますと、課員の怖さも薄らいだようで、私はやれやれ気分になっていきました。課ではその後、誰彼となく話が出るごとに、その花を知らない花(ばな)と呼ぶようになっておりました。そんな不思議な出来事が20年以上も前にありましたよ。未(いま)だに、その花の名の学術名は判明しておりません。

 

             THE END

 


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短編小説集(10) お気の毒  

2013年10月29日 00時00分00秒 | #小説

 無宗教のお別れの会が、しめやかにとり行われていた。ちょうど、某有名人のお別れの辞が読み終えられたところだった。ここは、とある私営葬祭場のホールである。会場は故人の遺徳を偲(しの)ぶかのように、多くの弔問者でごった返していた。その数、ざっと数百名。映画やテレビでよく知られた有名人も多く列席していた。祭壇に飾られた遺影の壇田(だんだ)は、彼らを見ながら、こんな俺のために態々(わざわざ)、来なくてもいいのにな…と、ぶつくさいいながら、餅を齧(かじ)っていた。
━ ご遺族さまに続きまして、順次、ご献花をお願いいたします ━
 馴れた名調子で、葬儀社の進行係がマイクへ声を流す。遺影の向こうにいる死んだ壇田には、葬祭場の模様がテレビ画面で見るかのように克明(こくめい)に映し出されていた。むろん、献花する者達から見れば、ただの遺影でしかなかったのだが…。
「ほんとに、お気の毒なことでした…」
 後方に立つ稲首(いなくび)が、白菊の花を手にして、隣に立つ顔見知りの陸稲(おかぼ)にそういった。
「残念なことです…」
 陸稲もポツンと返した。
『ふん! なにいってやがる、あいつら! 俺が死んで清々(せいせい)したって思ってるに違(ちげ)えねえんだ! どうしてくれようか。よし! アレだな!』
 憤懣(ふんまん)やるかたない壇田は、そういうとガブリ! と餅を齧ってニンマリした。
 列は進んで次第に稲首と陸稲の献花する順が近づいてきた。そのとき異変が起きた。有り得ない異変だった。稲首と陸稲が最前列に来た瞬間、二人が手にした白菊の花がポロッ! と花の部分が折れ、床へ落ちたのである。それも二人同時だった。一瞬、多くの者の目が二人に浴びせられ、ホールは凍りついた。二人は慌てて床に落ちた花を拾い、手にする茎に添えて献花した。格好悪い無様(ぶざま)さだった。稲首と陸稲はソソクサと後方へ下がった。
『ははは…ざまぁみろってんだ!』
 そういうと、壇田はまた、ひと口、餅をガブリ! と齧った。
「ほんとうに…。いい方でございましたのにね」
「ええ…、お気の毒でございますわ~」
 銀座の高級クラブのママ、百合(ゆり)と菖蒲(あやめ)が呟(つぶや)いた。
『なにが、お気の毒だ! 今度は、あの金盗り虫のクソ婆(ばばあ)どもか!』
 壇田はニヤリとして残った餅を頬張ると、手にしたあの世の水をグイ飲みした。そのとき、光が射して厳かな声が壇田に届いた。
『そのとおりなのですが、それは私にお任せなさい。あなたが、そういうことをしちゃいけません! お気の毒な方だ…』
 壇田はいい返せなかった。最前列まで来ていた百合と菖蒲は、その瞬間、合掌したまま同時に、くしゃみをした。

                 THE END


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短編小説集(9)  鞄[かばん]

2013年10月28日 00時00分00秒 | #小説

「あのう…もし。これ、忘れ物ですよ」
 鳥山住夫は電車を降りようとして隣の座席の男に呼び止められた。男が手にしていたのは鞄(かばん)だった。住夫が男との境に置いた鞄をうっかり忘れていたのには、それなりの理由があった。結果、住夫は呆然(ぼうぜん)として、鞄を持って乗ったことすら忘れていたのだった。住夫はギクッ! と驚いたように振り返った。
「あっ! どうも…」
 軽い会釈で鞄を受け取ると、住夫は乗降扉の方へ歩いた。こんなヘマやっちまって、なにやってんだ、俺は…と、自分自身が腹立たしかった。
 小一時間前、ちょっとした手違いで課長の丸岡から、こっぴどく叱責(しっせき)され、住夫はすっかりテンションを下げていた。
「駄目じゃないか! 鳥山君! 我々は公僕なんだぞ。間違えました・・では済まないんだ! 幸い、先方さんが気づいてくれたからよかったものの、そのままだったら訓告以上だぞ! …まあ私がいるから、そこまではいかないだろうがな」
 丸岡は自分を少し高く見積もり、偉ぶった。住夫が意気消沈して席に戻ったとき、定刻のチャイムが鳴り、気落ちしながら役所を出た。駅へと歩く道すがら、失敗の原因を辿(たど)ったが、どうしても分からないまま電車へ飛び乗っていた。そして、なお想いに耽(ふけ)って鞄を忘れた…ということだ。
 駅の前に小さなラーメン屋台があった。住夫は常連で、いつも決まりのニンニク入り葱(ねぎ)ラーメンを注文し、冬なら熱燗をコップ一杯、以外は小瓶のビール一本と決めていた。屋台の親父も馴れたもんで、住夫を見ると、注文を聞かずに準備を始めて、出した。
「今日は元気がありませんね、鳥山さん」
 住夫が座った途端、慰めるような眼差(まなざ)しで優(やさ)しく親父が声をかけた。
「ああ…つまらんことで、怒られちまったんだ。ははは…、今日はどうかしてるよ、俺」
 住夫は笑って返した。そのとき、小さな声がした。
『明日(あした)から、逆のいいこと、ありますよ、住夫さん』
 住夫は辺りを見回した。客は自分一人で、親父以外、誰もいない。
「親父さん、今、なにかいったか?」
「へえっ? いや、ぺつに…」
 親父は鉢の麺に具を添えながら、顔を上げていった。
「そうか…。気のせいか」
『気のせいなんかじゃありませんよ、住夫さん』
 ふたたび、住夫の耳に、はっきりと声が聞こえた。
「誰だ!」
 住夫は思わず立って叫んでいた。
「鳥山さん、大丈夫ですか?」
 心配そうな顔で親父が住夫を見た。
「ははは…、どうも。俺、疲れてんだな、きっと」
 バツわるく、住夫は座りながら声を小さくした。その後はなにもなく、残ったコップのビールを飲み干すと住夫は屋台を出た。
「また、どうぞ…」
 置かれたお愛想を手にして、親父は決まり文句をひとつ吐いた。住夫は心地よく歩いて家路を急いだ。今日のことは忘れよう・・と思った。そのとき、また声がした。
『場所がらも考えず、先ほどは失礼しました。いったことは本当です。明日になれば分かりますよ』
「誰だ!!」
 住夫は立ちどまり、辺(あた)りを見回した。だが、だれもいない。漫(そぞ)ろ歩く通行人が驚いて、振り返った。
「いや! 別に、なにもありません」
 住夫は笑って誤魔化し、また歩き始めた。
『私は、あなたが持つ鞄です。この前は修理して下さって有難うございました。では…』
 住夫は、また立ち止って、手に持つ鞄を見た。捨てようとしたが思いとどまり、昨日、修理した鞄だった。
 次の日、辞令が出た。住夫は課長補佐に昇格していた。
「ははは…、おめでとう。昨日のことは忘れてくれたまえ鳥山君。君も管理職だ、よろしく頼むよ」
 うって変わった態度で、丸岡がいった。

                 THE END

 


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短編小説集(8)  夜闇提灯[よいやみぢょうちん]

2013年10月27日 00時00分00秒 | #小説

 いや~、こう暑いと堪(たま)りませんな。ははは…私なんか、めっぽう暑さには弱いもんで、どこか涼しげな外国で暮らしたいのですが…。能書(のうが)きはこの辺にして、話を進めて参ります。
 私の実家はとある片田舎なんですがね。夏ともなれば蝉が我が世とばかりに集(すだ)く、今考えれば、いい風情の村でございました。私も今では大都会で暮らしておりますが、社会人になるまでは、この片田舎で暮らしておったというようなことでして…。
 話は私の子供時代へと遡(さかのぼ)ります。村は戸数が二十軒ばかりの山奥の小さな集落でしたが、ここには古い風習がありましてね。村の社(やしろ)の祠(ほこら)に年番で一年間、夜中参りをする・・という変な風習なんですが、そういうのがありました。私の家も来年、その年番が回って来るというので、父は、そろそろ精進潔斎しないとな・・なんていっておったもんです。と申しますのは、年番に当たった当家は翌年、他家へ引き継ぐまでの一年間、精進潔斎をして身を清め、神や仏に仕(つか)えるということなんでございます。神や仏といいますのは、古い神仏混交の思想からきておるようでした。
 そんなある日、私の家へ駆け込んだ一人の男がおりました。この年の年番の村人でございました。私は九才ばかりの子供でございましたが、父とその男の会話は、今でも手にとるように、はっきりと憶えております。話の内容は来年、引き継ぎを受ける家の者が、俄(にわ)かの病(やまい)で亡(な)くなったから私の家で引き継いでもらいたい・・という内容でございました。父はまだ一年あると思っておりましたから、心の準備ができておらず、最初は少し躊躇(ちゅうちょ)しておりましたが、仕方なく引き受けたようでございます。亡くなった村人の送りも済み、その後は、こともなく翌年の正月となりました。当然、父は話を聞いた翌日から精進潔斎で身を清め、正式な引き継ぎに臨んでいたのでございます。
 夜中参りは仏滅の日の子(ね)の下刻に提灯(ちょうちん)に灯りを灯(とも)し、山中の祠(ほこら)まで参って帰るという、ただそれだけの行事なのでした。で、引き継いだ父もそのように始めた訳でございます。昔からの風習でございますから、やめればなにか、よからぬことが起こるのではないかと、村の誰もが思うところは同じだったようでございます。
 仏滅が巡ったある夜のこと、父はいつものように提灯を灯して山道を歩いていたのでございます。すると、ふと夜闇(よいやみ)の彼方(かなた)に、父と同じような提灯の灯(あか)りが見えたそうにございます。深夜のことですから、そのようなことがあるはずもありません。父もそう思ったものですから、その灯りの方へ近づいていった訳でございます。すると、提灯を持って歩く確かに死んだはずの村人が灯りに照らしだされ、一瞬、見えたそうにございます。父は余りの恐ろしさでその場に蹲(うずくま)り、顔を覆(おお)いました。そして、恐る恐るもう一度、その灯りを見ますと、死んだ村人の姿は、すでに失(う)せ、灯りも次第に遠退(とおの)いてスウ~っと消えたそうでございます。父は、しばらく呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしたと申しておりました。ふと、我に返った父は、いつものように祠へのお参りを、なんとか済ませ、家へ帰ったそうにございます。その後のお参りは、そのようなこともなく、父は無事に翌年の引き継ぎを終えた訳でございました。父があとから聞いた話によりますと、その村人は信心深かったそうでして、かなり精進潔斎をしていたという話でございます。どうも、その男の執念が霊の姿で参ったらしいのでございます。そんな怖い話を九才の頃、聞かされた記憶が残っております。

 

                   THE END


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短編小説集(7)  価値[value]

2013年10月26日 00時00分00秒 | #小説

 派手な衣装と高価なネックレスで身を纏(まと)い、厚化粧を塗りたくった老齢の貴婦人と、頭髪に似つかわしくないティアラを飾(かざ)った老齢の貴婦人二人が、高級宝飾店の店内でガラスケースを覗(のぞ)き込んでいた。「ホホホ…これなんか、安くて手頃ざ~ますわ、奥さま」
 ティアラ貴婦人が厚化粧貴婦人にアドバイスした。
「あら! そうざま~すわね。高々、1億2千万…」
「それに、なさ~ましな」
「ええ、じゃあ…。あの~う! これね」
 厚化粧貴夫人はガラスケースを指さし、まるで召使いのように後ろに従って直立する若い女性店員に指示した。
「かしこまりました…」
「お支払いは、いつものようにね」
「はいっ! あの…お付けになられますか?」
「えっ? 今日はその気分じゃないの。包んでちょうだい」
「分かりました…」
 何度も通う常連と見え、話は滑(なめ)らかに進んで、なんの違和感もなく10分後には二人は店の外を歩いていた。ティアラ貴婦人は買い求めた小袋を提(さ)げ、自慢げだった。皆さん、見てちょうだい、とばかりにわざと振るその袋も、ただの紙袋ではなく、純金+ダイヤモンド装飾の袋である。これだけでも軽く数百万は越すと思われた。老貴婦人二人が歩く前方には二名、後方にも二名の黒サングラスをした頑強なガードマン達が黒背広服で貴婦人達を守っていた。まばらに通り過ぎる人々は、まるで有名人を見るかのように立ち止まり、二人に視線を向けた。
「お食事にしましょうか? いつものお店で・・」
 買物でテンション高めの厚化粧貴夫人がティアラ貴夫人に提案した。 
「ホホホ…左様でござ~ますわね」
 二人はしばらく歩き、馴染(なじ)みの、とある高級料理店へと入った。店頭には会員制の看板がかけられていた。一般客は入れない店だった。決められたかのように四人のガードマンは店前で立ち止まり、一歩も動かずガードした。
 約1時間後、超A級の食事を終えた二人は満足げに店を出た。氷のように店前で立ち尽くしていたガードマン達は、まるで機械が再起動するかのように前後二名づつに分かれ、貴婦人達をとり囲んで歩きだした。やがて二人の老貴婦人達は、待たせた高級車に乗り込むと、街をあとにした。
 時は流れ、三年が経過したとき、世界の情勢は一変していた。人類は食糧不足の飢餓状態へと突入していたのである。すべてが文明という名のもと、食糧生産を軽(かろ)んじ、飽食を続けた末の代償(だいしょう)ともいえた。
 街は荒(すさ)み、人々は飢えに苦しんでいた。食べ物の物々交換が当たり前の世界に変化していた。街路には浮浪者の姿が溢(あふ)れていた。その中に、ティアラ貴婦人、厚化粧貴婦人の姿もあった。だが、ボロ着を身につけた窶(やつ)れた姿には、かつての輝きを見てとることはできなかった。ただの老婆の姿がそこにはあった。当然、過去にいた4人の頑強なガードマン達の姿も消えていた。二人の老婆は露天でパンを買い求めていた。
「商売の邪魔だ! 食い物もってねえなら、さっさと立ち去りな、ばあさん!」
「まあ! なんざま~す!! ばあさん、ですって? 失礼な!!」
「だって、あんたら、ばあさんだろうが! ばあさんにばあさんっていって、なにがいけねえんだ!」
 荒(すさ)んだ露天商の男に二人は言い返せず、沈黙する他はなかった。
「あの~、お願いですから、そこのロールバンを一袋、いえ、二個だけこの宝石と換えて下さ~まし。これ、1億2千万いたしますことよ」
「1億2千万だと!? 馬鹿いっちゃいけねえ! こんな宝石100個、200個積んだって、このパン1個の価値もありゃしねえよ。ほら、そこに落ちてる石ころと同(おんな)じさ」
 二人。意気消沈し、トボトボと、その場を去ろうとした。
「待ちな。ほれ、これひとつ、くれてやるよ。俺も助けられたことがあるからな。さあ、早く行きな!」
 二人はパンを受け取ると涙を流しながら立ち去った。男の足元の石ころの横に、一つの宝石が転がっていた。                     THE END


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短編小説集(6)  ストップウオッチ

2013年10月25日 00時00分00秒 | #小説

 陸上部コーチの末松教諭はグラウンドを周回して戻った生徒の高輪進に声をかけた。
「よし! 1分50秒02だ。コンマ04早くなったぞ。フゥ~、暑くなってきたな。今日は、これまでだ! 隣の北洋商業みたいに熱中症で倒れられたら、ことだからな」
「…はい! …」
 進は荒い息を鎮めながら、そういった。湧き立つ積乱雲が俄(にわ)かにその勢いを増しながら全天を占拠し始めた。同時に遠雷が鳴った。二人はグラウンドを歩きながら空を見上げた。
「進よ、こりゃ、ひと雨来そうだな」
「そうですね…」
 ようやく乱れた息が静まり、進はタオルで顔を拭(ぬぐ)いながら返した。校舎へ入ると末松は職員用更衣室へ、進は部室へと別れた。
「お疲れさま!」
 部室に残留していたマネージャーの藤崎有里香が元気よく、ペットボトルのスポーツドリンクをさしだした。
「おう! 有里香か。気がきくな!」
 進は冷えたボトルを手から受け取りながら笑っていった。
「どうだった?」
「んっ…まあな。04早くなった」
「よかったじゃない」
「ああ…。だが、県体優勝は800の場合、48秒ぺースじゃないとな」
「まだまだって訳ね」
 進は黙って頷(うなづ)きながら、シャワー室へと消えていった。
 次の朝は強化合宿で進だけの特訓だった。進が200mのグラウンドを4周してスタートラインへ戻ってきたとき、末松が口を開いた。
「妙だな…」
「先生、どうかしました?」
「いや、気のせいだろう。…また、38秒30か。新しいの買った方がいいな。壊れちまったらしい」
 末松はストップウオッチを振ったり弄(いじ)ったりしながら愚痴った。
「38秒30! 1分38秒30ですか!?」
「ああ、1分38秒30だ…」
「はは…そんな、馬鹿な!!」
 進は誰にいうでなくニヤついた。進がいったとおり国内高校男子の記録では1分48秒台が最高だった。進はそれより10秒ほど早く走った計算だ。いや、そればかりか、陸上男子800mで1分40秒の壁を破る世界記録は未(いま)だかつて出ていなかった。
「進、今日はやめだ、明日(あす)にしよう。備品で買ってもらわんとな」
「それしか、ないんですか?」
「ああ、この学校はケチだから部費落としで買えるのは一ヶ月待ちだ。そんなにせんから、これから自腹で買ってくる。大会前だ、のんびりと待っとられんからな、ははは…」
 そういうと末松は進の肩をポン! と軽く叩き、笑い飛ばした。
 翌日の朝になった。準備運動を済ませた進がグラウンドで待っていると末松が現れた。手には真新しいストップウオッチを持っていた。
「準備は、いいな?」
「はい! OKです」
 進は軽く身体を動かしながらいった。
「よし、それじゃ始めるぞ!」
 進は位置に着き、末松の合図で走り始めた。そして4周し終え、息を切らせながら口を開いた。
「先生、どうですか?」
 末松の顔から血の気が失せていた。
「おかしい…」
 末松は呻(うめ)くような小声で呟いた。真新しいデジタル式ストップウオッチは、またも01:38:30を刻(きざ)んでいた。進は末松が手にするストップウオッチを覗(のぞ)き込んで絶句した。
「進…これが本当なら、お前は世界のトップランナーだぞ!」
「まさか…」
「ああ、俺も、まさかとは思うが…」
 二人は凍りついたまましばらく、その場に立ち尽くした。そこへ有里香が校舎から出てきた。
「先生~、差し入れです~」
 二人は唖然(あぜん)として、走って近づく有里香を見た。有里香の手には鮮やかなオレンジ色の布に包まれた手料理が持たれていた。二人にはそれが手料理だと分かった。昨日とまったく同じ朝が繰り返されていた。
 二人の目の前に有里香が来たとき、二人はふたたび唖然として、言葉を失った。鮮やかなオレンジ色の布には01:38:30の黒文字が描かれていた。

 

                          THE END


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短編小説集(5)  底なし沼 

2013年10月24日 00時00分00秒 | #小説

 皆さんは底なし沼というのをご存知でしょうか。実は、これからお話しするのは、その底なし沼に纏(まつ)わる不思議な出来事なんですがね。まあ、信じる信じないは、あなたの勝手、私は語るだけ語って退散しようと…思ってるようなことでね。なにせ、これだけ暑けりゃ、早く退散したくもなるってもんで…。
 かつて私が住んでおりました田舎は山村でして、今では廃村になっております。近年、この手の過疎化はどこでも見られる訳で、別に珍しい話でもなんでもないんですが…。しかし、私の村が廃村になった訳というのには、実は別の理由があったんですよ。と、申しますのは、もう随分と前、そう…私が赤ん坊の頃のお話なんです。過疎化とかが問題になるような時代では決してございませんでした。かく申します理由といいますのは、そう! 最初に申しました沼に起因するんでございます。
 私の村には昔から語り伝えられる話がございました。それは、いつの日か必ず田畑が窪(くぼ)み、そこが底なし沼となって村人を誘うから、そうなったときは村を棄(す)てて逃げよ! という俄(にわ)かには信じられないような言い伝えなんですよ。私がまだ乳飲み子の頃、地が揺れ、ぽっかりと田畑が陥没したらしいんですよ。これもね、今なら地震の陥没だろ? と冷静に訊(き)かれると思うんですが、それがそうとも思えなかったんです。といいますのは、わずか十日ほどで水が溜(た)まって小さな池に、そして半月ほどで水が引くと、言い伝えの沼が出来たんです。まあ、村の者達も、すぐには言い伝えの沼とは誰もが思わなかったんですがね。
 そんなことがありまして、あるとき、一人の村の若い者(もん)が、怖いもの見たさで近づいた訳です。すると、どう見ても底なし沼には見えない。なにせ、水が引いてますから、表面はまだ湿ってますが普通の地面に見えた訳です。で、向こう見ずだったんでしょうね。裸足(はだし)になると、どんなもんだとばかりに、ひと足ふた足と入ってみた。別になんともない。これは大丈夫だと思ったんでしょうね。さらに足を進めた途端、…もうお分かりと思うんですがね。そうなんですよ。その男、ズブズブ…っと跡形もなく沼に飲み込まれたんですよ。いや、私はそう聞かされただけで、見た訳じゃないんですが…。えっ? なぜ分かっていたってですか? それは、その男が自慢たらたら他の若い者に吹聴(ふいちょう)していたからなんですよ。で、男を助けに数人の男が沼に近づいた。村では帰りを待ったんですがね。その男達も帰ってこなかったんです。そうなると、村人も気味悪くなり、他の村へ出ていく者が出始めました。私の家もその一軒でしてね。なんでも、二十軒ばかりあった村は、その後しばらくして村人がいなくなり、廃村になったようなことらしいんです。。いえ、これは諄(くど)いようですが私が親から聞いた話でしてね。乳飲み子の私が断言できる訳がございません。作り話か、どうなのか…。真偽のほどを明確にすべく、私は、いつやらその田舎へ行ってみました。…沼らしきものは確かにありました。私は怖くなり、すぐさま駅へ、とって返しました。
                        THE END


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短編小説集(4)  大きな蜘蛛(くも)

2013年10月23日 00時00分00秒 | #小説

 怪談には、ちょっと季節外れの話なんですがね。その日の朝は雪が降りしきる寒い朝でした。私は、いつものように起きますと顔を洗い、それから歯を磨きました。前の日と何も変わらない平凡な日だな…と、思うでもなく縁側の廊下を歩いておりました。日本家屋でしたから、廊下の向こうはガラス戸を通して庭が見える訳です。カーテンを開けますと、当然、雪明りで明るくパァ~! っと目が眩(くら)む一面の銀世界が広がっています。おお、積もったなぁ~と、しばし見ておりますと、なんか風情があるんですよね。深々と雪は降っております。ふと、いつもの手入れしております盆栽鉢がどうなっているだろう…と、なにげなく置かれた辺りに目を遣(や)った訳です。すると、たぶん私の目の錯覚だろうと最初は思ったんですがね。いや、これは今考えても私の目の錯覚だったんでしょうが…。といいますのは、あまりにも常識では考えられない大きさの透き通った黄色い蜘蛛が一匹、その盆栽鉢の上に乗っていたんです。動くでもなく、ただじっとして乗っている訳です。先ほども申しましたように、朝起きたばかりですから身体(からだ)は次第に冷えきっていきます。しかし、妙なもので全然、寒くないんですよ。そりゃ、そうですよね。常識ではこの世に存在しない大きさの蜘蛛を目の当たりにしている訳ですからね。で、私は、もう一度、ジッとその大きな蜘蛛を見ました。すると、やはりいます。私も少しずつ気味悪くなってきましてね、その場を離れて台所へ向かった訳です。そのとき、妻が台所から出てきて、「どうかしたの?」って訊(き)くもんですから、「いや~別に…」と暈(ぼか)しました。すると、「そう? 顔色悪いからさ… 大丈夫?」って、また訊き返すんですよ。「余り寝れなかったからだろ…」って、誤魔化すしか私は出来ませんでした。原因は分かってましたが、妻に話す訳にもいきませんしね。で、妻が「そう…」と訝(いぶか)りながら台所へ戻ったあと、もう一度、縁側の廊下へ戻りました。そして、先ほどの盆栽鉢へ目を遣りますと、あの蜘蛛はもう跡形もなく消え去っていました。しかも不思議なことに、その乗っていた痕跡がまったくないんですよ。普通は重みで足跡とか残りますよね。それがまったくない訳です。しかしまあ、深々と雪は降り積もっていますから、その足跡を隠したんだろう…とは考えました。それで、もう一度、顔を近づけて目を凝らしましたが、不思議なことにその痕跡がないんです。といいますのは、雪が降り積もっているとしても、妻と話していたのは、ほんのわずかですから、そうは積もっていないですよね。あとが隠れた場合でも、少しは跡の部分が凹んで分かるはずなんです。それがなかったんです。フワッ! と山のように積もった形がそこにはあったんです。なんか、信じられない話なんですが、これは本当にあったお話です。こういう科学では説明できないことって…あるんですよね。
                        THE END


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短編小説集(3)  消えた羊羹(ようかん)

2013年10月22日 00時00分00秒 | #小説

 私の子供の頃の話なんですがね。その当時は終戦後の物資がまだ出回ってない頃でして、食い物にも事欠く有りさまだったんです。
 そう、あれは夏の暑い盛りでしたよ。私の父親の故郷へお盆に帰るってのが毎年の夏の恒例になってまして、この夏も帰った訳です。私は子供でしたから、田舎の従兄弟と遊べるのと昆虫採集とかが出来るってので、もの凄い楽しみにしておった訳です。それもそうなんですが、それ以上に楽しみだったのが美味しい食べ物の数々でした。なんといいましても、田舎の畑にはマクワ、トマト、スイカ、トウモロコシとかがいろいろありましたし、白い米だけのご飯が腹いっぱい食べられましたから…。そんなで、私は田舎の古びた茅葺屋根の従兄弟の家へ行った訳です。両親は私を連れて手ぶらで毎年、帰るのが、なんか心の蟠(わだかま)りになってたんでしょうね。ある時から隣町の老舗の菓子屋で少し値の張った菓子鉢を買い求めるのが通例になっておりました。で、この年の進物は小箱に入った羊羹でした。母はその羊羹の入った小箱を大事そうに携え、父は扇子をパタパタと小忙しく動かしておったのを今でも憶えております。
 帰りますと、お盆ということもあったんでしょうが、両親は必ず仏壇に手を合わせておりました。当然のように、私も両親に従い、意味も分からないままそう致しました。まあ、いろいろあって、その日は遊び疲れで昼過ぎにはウトウトしておりました。そう、あれは三時過ぎだったでしょうか。目を覚ましますと、母が仏壇の前で首を傾(かし)げてるんですよ。私が、「どうかしたの?」と訊(たず)ねますとね。母は、「ここに置いてあったお菓子の箱、知らない?」って言うんですよ。私は従兄弟と外で遊んでましたからね、知ってる訳がない。だから、単に、「知らないよ」って返したんです。母は、「じゃあもう、美佐枝さんが下げたのかしら…」って言うと、奥の間の方へ行ってしまいました。美佐枝というのは、父の兄の嫁さんなんですがね。
 その晩は大勢の楽しい夕飯となったんですが、私は腹が減っていたもんで勢いよく食べておりました。そうしますとね、母が何を思ったのか、ふと、「お義姉さん、お仏壇の…下げられました?」って訊(き)きましてね。美佐枝さんは、「えっ?!」って驚くんですよ。するとね、父がニタリと笑って、「そういや、父さん、甘いものが好きだったからなあ。持ってきた羊羹は特に好きだった…」と、しみじみ言うと、仏壇の方をじっと見たんですよ。伯父さんも「そうそう、そうだったなあ…」って話を合わせ、「たぶん、食っちまったんだろ」って二人で大笑いしたんですが、とうとうその羊羹の行方は不明のままで出てこなかったんです。いやあ、あとから聞いたんですが、そんな箱が置いてあったことも知らなかったって美佐枝さんは言ったそうですが…。そういう夏の怪談なんですが、いかがでしょう?
 実は、この話にはオチがありましてね。本当は父と伯父さんが話をしながら、こっそり食べてしまったようなんです。子供の私と従兄弟は食べてない訳ですから、大人の悪知恵で誤魔化したんでしょうねえ。とんだ怪談でした。
                        THE END


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