水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 春の風景(第五話) あやふや  <推敲版>

2010年03月31日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      春の風景

      
(第五話)あやふや <推敲版>         

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]


○ 庭 昼
   庭に置かれた、陽光が射すスイレン鉢。鉢を観察する正也。鉢の中で泳ぐオタマジャクシ。
  正也M「最近、ツチガエルのオタマジャクシがスイレン鉢で元気な姿を見せ始めた。去年の秋
からご無沙汰しているので知らぬ態で挨
       拶だけしておいた。ただ、寒の戻りがあるか
も知れないから、今一、あやふやな泳ぎ方をしていて覇気もなく、あまり動かない
       ば
かりか時折り姿を隠して、あやふやだ」

○ メインタイトル
   「春の風景」

○ サブタイトル
   「
(第五話) あやふや」

○ 居間 夜
   渡り廊下近くの庭側の畳へ座布団を敷き、将棋を指す恭之介と恭一。盤面を注視し、凍結
状態の二人。ジュースが入ったコップを持
   って、風呂上がりの正也が居間へ入る。徐(おもむろ)
に長椅子へ座る正也。ジュースを飲みながら、二人の様子を窺う正也。
  正也M「どこの家でもそうだと思うが、あやふやな言葉でその場を取り繕う、ということはある
と思う。“あやふや”は、曖昧とも云われる
       が、外国に比べると僕達の日本は随分、
表現法が緻密で豊かなことに驚かされる」おもむろに顔を上げ、恭一を見る恭之
介。
  恭之介「お前な、休みぐらい家のことをな…(あやふやに云って、駒を指しながら)」
  恭一  「えっ? 何です(盤面を見る視線を恭之介に向けて)。家がどうかしましたか? お父さ
ん(あやふやに云い返して、駒を指す)」
  恭之介「そうじゃない! お前は、直ぐそうやって話の腰を折る。逃げるなっ!」
  恭一  「別に逃げてる訳じゃ…(微細な小声で呟いて)」
   将棋の駒を持つ恭之介の手が少し震え、怒りを露(あらわ)にしている。
  恭之介「未知子さんがな、そう云っとったんだ。道子さん、腰痛(こしいた)だそうじゃないか」
  恭一  「ええ…、まあ、そのようです」
  恭之介「そのようです、だと?! そ、そんなあやふやなことで夫婦がどうする!!」
   一瞬、顔を背(そむ)けて顰(しか)め、舌打ちする恭一。
  正也M「久々に、じいちゃんの眩い稲妻がピカピカッと光り、父さんを直撃した。父さんは逃
げ損ねた自分に気づいたのか、思わず顔
       を背(そむ)けて顰(しか)め、舌打ちした」
  恭之介「まあ、大事ない、ということだから…いいがな。家のことを少しは手伝ってやれ」
  恭一  「…はい」
   恭一の態度に溜飲を下げ、穏やかになる恭之介。
  正也M「父さんは観念したのか、今度はあやふやに暈さず、殊勝な返事で白旗を上げた。だ
が次の瞬間、不埒(ふらち)にも、じいちゃ
       んに逆らった」
  恭之介「大したこと、なさそうですしね…」
   顔を茹で蛸にして、対面の恭一の顔を睨みつける恭之介。
  恭之介「なにっ! ウゥ…ウウウ… … …(激昂して) 」
  正也M「じいちゃんは、激昂し過ぎた為か、声が上擦って出ず、後は黙り込んでしまった。高血
圧で薬を飲んでいて、自らの体調の危険
       を感じたからに違いない」
   風呂上がりの未知子が居間へと入り、恭之介に近づく。
  未知子「マッサージに行ってから、すっかり楽になりました。御心配をおかけして…」
  恭之介「ほう…それはよかった、未知子さん(笑顔を未知子に向け、心を込めた口調で)」
  恭一  「うん、よかったな…(盤面に視線を落したまま、上辺だけの口調で)」
   盤面から、ギロッ! と、視線を恭一に向ける恭之介。
  恭之介「お前の云い方はな、心が籠っとらん!!」
  正也M「母さんを見て微笑み、父さんを見ては茹で蛸にならねばならない、じいちゃんは、実
に忙しい。でも、それを見事に演じきるのだ
       から、じいちゃんは名優であろう」
   笑いながら居間を去りかけた未知子、立ち止まる。
  未知子「風呂用洗剤Yは、よく落ちるわねえ、あなた」
  恭一  「だろ? また買っとく…」
  恭之介「某メーカーの奴だな。…お前も、もっと光れ、光れ」
   氷結して沈黙する恭一。
  正也M「じいちゃんの嫌味が炸裂し、父さんは木端微塵になった」

○ エンド・ロール
   談笑する家族。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「春の風景(第五話) あやふや 終」 をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《教示②》第十八回

2010年03月31日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《教示②》第十八回
一刀両断の気合いで叩き斬る形(かた)を、果たしてこの息の乱れの中でも首尾よく捌ききれるのか…という不安が確かに左馬介の胸中に過っていた。
 接近して、頃合いの位置で停まり、左腰に差した木刀を素早い所作で抜き、中段の構えより上段、そして上段から居合いの如く斬り下げた。失敗すれば振り子となって遠ざかり、ふたたび叩き斬れる保障は全くなかった。左馬介の両手に激しい痺れが走り、同時に高く鈍い音が響いた。その瞬間、左馬介は無意識のうちに両瞼を閉ざしていた。そして開けた次の瞬間、両眼に映ったのは、緩やかに揺れる縄であった。その下には、へし折れた木切れの半分があり、もう片方は縄先に残ったまま小さく揺れている。だがその揺れは、振り子のような大きなものではなく、元の停止した状態からの微かな振動であった。首尾よくいった…と喜んでばかりはいられない。次々と待っている四か所があるのだ。左馬介は木刀をふたたび左腰へと差し、駆けだした。次の仕掛けを目指して駆けていると、駆けだした当初とは違う感情が心の奥底から湧き上がる。動きつつ縄先の木切れを一刀の下に両断できた安堵感であった。左馬介に少し余裕めいた安堵感が湧いたのは、功を奏した自信によるものに他ならない。


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シナリオ 春の風景(第四話) 催花雨  <推敲版>

2010年03月30日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      春の風景
      
(第四話)催花雨 <推敲版>         

    登場人物

   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]


○ 台所 夜
   夕食後。食卓テーブルの椅子に座ってテレビの天気予報を観る恭一と斜向かいの正也。画面の気象予報官
の声。

○ メインタイトル
   「春の風景」

○ サブタイトル
   「
(第四話) 催花雨」

○ 同  夜
   食卓テーブルの椅子に座ってテレビの天気予報を観る恭一と斜向かいの正也。画面の気象予報官の声。
  正也M「某局のテレビニュースが、いつもの天気予報を流した。その中で、予報官が、催花雨
(さいかう)という文言(もんごん)について
       説明した(◎に続けて読む)」
   テレビを消し、席を立つ恭一。居間へ向かう恭一。

○ 居間 夜
   居間へ入る恭一。庭側の畳上の座布団で将棋盤を前に、待つとはなしに待つ風呂上がりの恭之介。
その対面の座布団へ、待たした
   風でもなく座る恭一。居間へ入る正也。
長椅子に座り、新聞を大人びて読む正也。
  正也M「(◎)何でも、花の開花を促す雨だそうで、なんだか日本情緒がヒタヒタと感じられる最高の
言葉のように思えた。最高雨(サイ
       コウウ)と僕には聞こえたこともある」
   どちらからともなく、駒を盤上に並べ始める二人。
  恭一  「今年は、もう桜が咲き始めたようですよ(駒を並べながら)」
  恭之介「…だなあ。次の雨で上手くいくと咲くか(庭を見て、駒を並べながら)」
  正也M「最近、二人の将棋は急に駒を並べることで始まり、無言で駒を仕舞い始めて終わる
ことが多い。今夜もその類(たぐ)いで、どう
       も二人には暗黙の了解とかいう意思の疎
通が出来ているようなのだ」
   炊事場で洗い物をしながら話す未知子。
  [未知子] 「正也! 早く入ってしまいなさい!(少し声高に)」
  正也  「… …うん(新聞を読みながら渋々、立って)。無言で将棋を指し始めた恭之介と恭
一。恭之介と恭一の前を通り、縁側の渡り
       廊下へ出る正也。盤面に釘づけの二人。
  正也M「二度目の催促だから、母さんの声はやや大きさを増した。『催花雨じゃなく、催促湯
だな…』と不満に思いつつも僕は風呂場
       へと向かった。二人の横を通り過ぎると、
既に大一番は佳境に入ろうとしていて、じいちゃんの顔は、風呂上がりということも
       
あるが、茹(ゆだ)った蛸のように真っ赤で美味そうだった。父さんは? と見ると、い
つもの白い顔が、逆に蒼みを帯びていた」
   真っ赤な恭之介の顔と蒼白い恭一の顔。

○風呂場 夜
   ゆったりと心地よく、浴槽の湯に浸かる正也。終い湯で風呂の掃除をする正也。
 正也M 「風呂番は僕の月だった。去年と変わった点は、母さんも風呂番に加入したことだ。
そして、最後の者が風呂掃除をする仕組
       みだ。この議案は僕が提案し、採決の結
果、全員一致の承認を得た案件だから、今月の僕は終い湯の後、掃除という労働に
       
汗している」

○ 台所 夜
   風呂を上がり、台所へ入る正也。冷蔵庫を開け、ジュースをコップへ注いで飲む正也。
  正也M「さて、掃除を終えて風呂場を出ると、唯一の楽しみのジュースが僕を待っている」
   
飲みながら、居間へ向かう正也。

○ 居間 夜
   居間へ入り、長椅子に座る正也。
  正也M「居間へジュースを飲みながら戻ると、二人は未だ盤面に釘づけだった」
  正也  「今日は、どう? じいちゃん」
  恭之介「ははは…、一勝一敗で、これだっ…(盤面を見据えたまま)」
  正也  「ふ~ん…(無表情で、立ちながら)」
   コップを持ったまま立つ正也。二人を横切り、渡り廊下から子供部屋へ向かう正也。正也の
背後から声を掛ける恭一。
  恭一  「(正也を見て)おい正也、ビールのツマミを冷蔵庫から…。(恭之介を見て)ちょっと、
これ…待って下さい(頼み込んで)」
  恭之介「いや、待てん! 武士なら切腹ものだっ!」
   二人が云い合っている隙に、忍び足で居間を抜ける正也。
  正也M「じいちゃんも、かなり依怙地になっていて、一歩も譲らない。僕はその隙に忍び足で
居間を退去した」

○ エンド・ロール
   いつの間にか笑い合う恭之介と恭一の姿。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「春の風景(第四話) 催花雨」 をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《教示②》第十七回

2010年03月30日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《教示②》第十七回
ただ、ゆったりとした道幅で速駆けが利く山道もあれば、逆に獣(けもの)道とでも呼べそうな、かろうじて通行が可能といった細道もあり、この場合は足元に細心の注意を必要としたから、速駆けするなどは、もっての外で、必然的な無理があった。
 左馬介は兎に角、やってみようと思っていた。駆けに駆け、次第に呼吸が乱れれば少し停まり、同じ位置で軽く足踏みをした状態で乱れを戻す。そして、ふたたび徐々に駆け始めることを繰り返した。これは、幻妙斎がそうせよと忠言した訳でもない。かといって、左馬介が、そうしよう…と、考えた動きでもなかった。自ずと左馬介の身体が反応した結果である。考えるでなく、咄嗟(とっさ)に反応する身体…、これこそが幻妙斎が教示しようとしたその一ではないのか…。左馬介は足踏みをして荒い呼吸を整えながらそう思った。
 暫く駆け巡ると、幻妙斎が云っていた五つの仕掛けの最初と思われる樹の梢より吊り下げられた一筋の縄が行く手に見えてきた。疾駆するというほどの速さではないし、時折り呼吸を整えているから、そう息苦しいということはない。ただ、流れ滴る汗は拭わねばならないし、身体に纏わり付く不快感はあったから辛かった。額(ひたい)の汗を袖で拭い、前方に迫った縄先の木切れに神経を集中する。


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シナリオ 春の風景(第三話) 探しもの  <推敲版>

2010年03月29日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      春の風景

      
(第三話)探しもの <推敲版>              

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  
   その他  ・・猫のタマ、犬のポチ

○ 玄関(内)  朝
   起きた直後の恭一が、何やら探している。気配と物音に迷惑顔の犬小屋の中のポチが目
の開け閉じを繰り返す。靴箱、その他の場
   所をガサゴソとシラミ潰しに探す恭一。台所から
出てきた未知子。洗面所から様子を見に現れる歯ブラシを口に含んで磨く正也。また
   戻る正
也。
  正也M「朝から父さんの大声が玄関でしている。母さんと二人で何やら探している様子だが、
それが何なのか僕には分からない」

○ メインタイトル
   「春の風景」

○ サブタイトル
   「
(第三話) 探しもの」

○   同 (内) 朝 
  未知子「どこか、他に置いたんじゃない?(疑わしい目つきで)」  
  恭一  「違う違う! 絶対にここへ置いたんだ。それは百パーセント自信がある!(自信あり
げに)」
   台所から、痺れを切らした恭之介の声がする。
  [恭之介]「未知子さん、飯にして下さらんかぁ~」
  未知子「すみません! すぐ食事にしますから…(台所の方角へ、バタバタと小走りし
て)」
   ふたたび、バタバタと玄関へ戻る未知子。

○ 台所 朝
   食卓テーブルの椅子に座り、食事を待つ恭之介と正也。すっかり諦めた様子で力なく台所
へ入る恭一。その後ろに未知子。
  恭一  「怪(おか)しい…実に怪しい。確かに昨日、帰って置いたんだ!(声高に)」
  未知子「いいえ、そんなもの、戸締まりした時はありませんでしたっ!(声高に)」
   賑やかに、声の火花を散らす恭一と未知子。寝床の布団で、いい加減にして貰えませんか…とばかりにニャ~と鳴くタマ。
  恭之介「未知子さん、飯を!(御飯茶碗を手に持って差し出し、やや声高に)」
  未知子「あっ、はいっ!」
   慌てて恭之介が差し出した御飯茶碗を手にする未知子。話は途絶え、全員、沈黙。
  正也M「台所はパン食い競争の様相を呈してきた。僕は黙ってその様子を、さも第三者にで
もなったつもりで眺め、『春から運動会や
       ってりゃ、ざまねえや…』と少し悪ぶって思
った。結局、その日の朝は、父さんが何を探していたのかは分からずじまいだった」
   いつしか静音となる、殺風景な食事風景。
   台所に掛かった『 極 上 老 麺 』の額(が
く)。
   O.L

○ 台所 夜
   O.L
   台所に掛かった『 極 上 老 麺 』の額。
   炊事場で準備する未知子。食卓テーブルの椅子
に座る三人。テレビを見る恭之介と正也。新聞を読む恭一。
  恭之介「おい恭一、庭先にこれが落ちてたぞ…(手渡して)」
  恭一  「えっ? そうでしたか、庭に…(新聞を読むのを止め)。ははは…。見つからない筈
だ。どうも、すみません(受け取って)」
   新聞を置き、体裁が悪いのか、頭の後ろを手で掻く恭一。テレビを切る恭之介。食器や料
理を運ぶ未知子。  
  正也M「じいちゃんが手渡したもの、それはループ・タイだった」
   新聞を読む恭一。
   O.L
○ 料亭(内) 夜[回想]
   広間の宴会風景。得意の踊りを披露する恭一。酒も入り、赤ら顔の恭一。頭に巻いたループ・タイが踊りで揺れて簪(かんざし)風。な
   かなかの宴会芸。

  正也M「昨夜の宴会部長で活躍した父さんだったが、(◎に続けて読む)」

○ 庭先(外) 夜[回想]
   酔っ払って帰り、玄関へ直ぐに入らず庭をうろつく、恭一。首からループ・タイを、かなぐり外
し、落とす。
  正也M「(◎)酔いに紛れて玄関先の庭でループ・タイを外して落としたのを忘れ、それを玄
関へ置いたと思い込んだ節(ふし)がある
       (△に続けて読む)」

○ 玄関(内)  朝[回想]
   起きた直後の恭一が、何やら探している。
  正也M「(△)でも、そのループ・タイが何故、朝に小さな運動会をしなければならないほど重
要だったのかが今もって分からない(◇に
       続けて読む)」

○ もとの台所 夜
   O.L
   新聞を読む恭一。
  正也M「(◇)携帯とか財布、定期の類いなら、僕にも分かるのだが…。(×に続けて読む)」
   道子が運んだ食器や料理を、手際よく並べる正也。
  正也M「(×)要は、全くもって笑止千万で馬鹿な父親だということだろうか。じいちゃんがい
つか云った、『お前もピカッ! と光.る存
       在になれ』という言葉は、残念ながら彼に
は絵空事に思える。だから、そんな父さんを父親に持つ僕自身も、大して期待出来
       
ない代物(しろもの)のようだ…」

○ エンド・ロール
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「春の風景(第三話) 探しもの」 をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《教示②》第十六回

2010年03月29日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《教示②》第十六回
「山駆けは普通の者の足で大よそ二乃至三時(みとき)の行程じゃによって、何事もなく首尾よく叩き斬れた暁には、日没までにはふたたび戻ることができよう。仕掛けの吊るしは五ヶ所ある。一本道にて、ぐるりとひと巡りしている道ゆえ、迷うことはない。じゃが、不測の事態が起こるやも知れんよって、その呼び子を遣わす。何かあらば吹くがよかろう。但し、一身上の場合のみじゃぞ」
 立って見下ろし竹笛を投げ落とすと、幻妙斎は細部に至る説明を加えた。どうも左馬介の心配は、いらぬ取り越し苦労のようであった。
「戻れれば、ふたたびここへ?」
「そうよのう…。一応はのう」
「分かりました。では…」
 そう云って師に一礼すると、左馬介は洞窟の外へと退去した。
 山駆けといっても、どれほどの速度で駆け、そしてまた、疲れた折りには立ち止まっていいものか…などといった、そんな詳細までは告げなかった幻妙斎である。そんな先が読めない状況で駆け出した左馬介であった。
 山道は多少の起伏はあるものの、登り下りの難儀はさほどでもなかった。


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シナリオ 春の風景(第二話) 春の葱  <推敲版>

2010年03月28日 00時00分01秒 | #小説

≪脚色≫

      春の風景

      
(第二話)春の葱 <推敲版>          

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  
   その他  ・・猫のタマ、犬のポチ

○ 玄関  内 朝
   慌ただしく恭一が出勤しようとしている。框(かまち)に腰を下ろし、靴を履いている恭一。
  正也M「今日から春休みに入ったので、僕としては非常に喜ばしい。だから、有意義に楽し
ませて戴こうと思っている」
   玄関を開けて、出ていく恭一。ポチが一瞬目を開けるが、正也とは明らかに愛想の振り撒
き方が違う態度で、そのまま眼を閉じる。

                                  
○ メインタイトル
   「春の風景」

○ サブタイトル
   「
(第二話) 春の葱」

○ 洗い場 朝
   玄関を出て、洗い場の前の正也に気づく恭一。葱を洗っている正也。
  恭一  「正也はいいなあ…。ああ、父さんもゆったり休みたいよ。じゃあ、行ってくる(バタバタ
と表戸へ)」
  正也 「行ってらっしゃい! (洗いながら愛想よい笑顔で)」
   後ろ姿のまま手を振り、表戸を出ていく恭一。
  正也M「家計に生活費を運び入れる唯一の貴重な存在だから、必要上、そう云って愛想をふ
り撒く。この時、僕は家に昔からある湧き
       水の洗い場にいて、じいちゃんから母さん
に手渡された野菜、正確には葱なのだが、それを洗っていたのだ。僕は誠に感心で
       親孝行な息子なのだ。…と云いたいが、それほどの者でもない」
   進み具合を見に来た恭之介。恭之介に付いて現れ、陽だまりに寝そべり、日向ぼっこをす
るタマ。
  恭之介「おう、やっとるな。葱は身体にいい。味噌汁によし、葱味噌もよし、ヌタにも合う。そ
れ に、焼き飯やラーメン、うどんには欠か
       せんしなあ…(悦に入って)。だが、惜しいこ
とに、葱坊主が出来る時期になったから、種を取る分だけ残して全部、スッパリ切っ
       
てきた。ハハハ…(賑やかに笑って)」
  正也  「ふ~ん(葱を洗いながら、恭之介を見上げ)」
   恭之介の禿げ頭が朝日を浴び、ビカッと光る。その眩しさに眼を細める正也。裏戸を開け、
現れる未知子。
  未知子「食べきれない分は、刻んで乾燥葱にします。…だと、日持ちしますから」
  恭之介「そうですねえ、未知子さん。食べ物を粗末にすりゃ、罰(ばち)が当たります」
  未知子「ええ、そうですわ」
   軽く笑い合う恭之介と未知子。葱を洗いながら、二人を窺う正也。
  正也M「両者は相性がいいので、僕は大層、助かっている」

○ とある野原 昼
   そよ風に揺れる土筆が生えた野原。長閑に晴れ渡った青空。
  正也M「陽気も麗らかだし、(○に続けて読む)」

○ 恭一の会社のオフィス 昼
   時折り眠りそうになり、目を擦りながら机上の書類に目を通す恭一。
  正也M「(○)父さんは異動もなくこの不況下でも安定したヒラだし、(◇に続けて読む)」

○ 湧水家の畑 昼
   葱坊主を切られた後の畑。農作業に精を出す恭之介。
  正也M「(◇)じいちゃんの葱坊主の頭もよく光ってるし、(△に続けて読む)」

○ 子供部屋 昼
   鼻歌を唄いながら、庭に陽気に洗濯物を干す道子。机に座り窓からそれを見る正也。
  正也M「(△)母さんの機嫌もよさそうだし、僕は春休みだし、みんなほぼ健康だし…まあ、小
さいながらも幸せな家庭だから、有難い
       と感謝しよう」
   窓から視線を机上に移し、欠伸をする正也。

○ エンド・ロール
   畑の菜の花と湧水家の遠景。麗らかな陽気。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 短編小説を脚色したものです。小説は、
「春の風景(第二話) 春の葱」 をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《教示②》第十五回

2010年03月28日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《教示②》第十五回
「一日中、駆け巡るのですか? 私ならば、とても体が…」
 鴨下も不可能を見越したかのように云う。
「いや、詳しくは明後日、仰せでしょう。一日中などと、まさか左様なことは…」と否定はしたが、左馬介も心中、決して穏やかではない。幻妙斎の意図するところが摑めない以上、それも、やむを得なかった。
 左馬介の胸中が晴れぬまま、一日は瞬く間に流れた。そして山道を一歩、また一歩と洞窟を目指し進んでいく。この日は生憎、全天を灰色の雲が覆い尽くす冷んやりとした空だった。ものは思いようで、山駆けするならば、気温の上がらないこうした天候の方がいい…と、左馬介は陽の発想へ舵をきった。確かに、陰に籠ったとて仕方ないのだ。幻妙斎が与えた課題は乗り越えねばならなかった。洞窟の中はいつもと変わらず、左馬介が入った折りには幻妙斎は既に岩棚に座していて、燭台があちらこちらに明々と灯されていた。
「先生、左馬介です…」
「おう、来おったか…。ははは…、この言葉も紋切型になったのう。では早速じゃが、此度(こたび)のあらましを云う」
 幻妙斎は次に与える試練の概要を語り始めた。


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シナリオ 春の風景(第一話) 異動  <推敲版>

2010年03月27日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      春の風景

      
(第一話)異動 <推敲版>            そ

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ

○ 台所 朝
   食卓テーブルを囲み朝食中の家族四人。
  未知子「あなた、どうなの?」
  恭一  「どうなのって?」
  未知子「異動よ、異動。決まってるでしょ」
  恭一  「なに云ってる。全然、決まってない(話題にするな、と云わんばかりに)」
   二人、黙ってしまう。恭之介は夫婦間の雰囲気を察知したのか、話さない。正也も同様。
  正也M「朝から夫婦間の雲行きが誠に宜しくなく、じいちゃんも黙々と食べているだけで、ひ
と言も話そうとはしない。じいちゃんの場
       合は、黙々にモグモグを含んでいる」

○ メインタイトル
   「春の風景」

○ 
サブタイトル
   「
(第一話) 異動」


○ 玄関 内 朝
   朝日がサッシ戸に当たる快晴の朝。恭一が出勤しようとしている。框(かまち)を下りる恭一。
鞄を渡す未知子。
  恭一  「じゃあ、行ってくる」
   靴を履こうとしている恭一を追い越し、バタバタと正也が出てきて靴を履く。ポチの頭を撫で
る正也。ポチがクゥ~ンと愛想よく鳴く。
   玄関を出る正也。
  未知子「いってらっしゃい。車に気をつけてね!!」  
  恭一  「ああ、そんなこたぁ、分かってる!(道子の言葉を煙たそうに聞き、靴を履く)」
  未知子「あなたに云ったんじゃないわよっ…。正也っ!(少し、膨れて)」 
  恭一  「…!(返さず、黙って家を出る)」 

○  同  外 朝 
   玄関から家を出て行く恭一。膨らみ始めた木枝の蕾。
  正也M「いよいよ厳しかった冬の寒さから僕達を解き放つ春の鼓動が聞こえ始めた。僕は小学校へ一生懸命、通っている。父さんも一
       
生懸命? いや、これに関しては僕の方が長けているとは思うのだが、兎も角、会社へ
日々、通っている」
   青空(朝日)。
   O.L

○ 玄関 外 朝
   O.L
   青空(西日)。
   下校し、帰宅した正也。玄関を開ける正也。

○ 玄関 昼
   玄関を入る正也。
  正也  「ただいまっ!」
   足早に台所から玄関へ出てきて、正也に手招きする恭之介。
  正也M「学校を終えて家へ帰ると、珍しくじいちゃんが玄関へ現れ、招き猫のように僕を手招
きした」
   怪訝な表情で靴を脱ぎ、框を上がる正也。手招きする恭之介に従い、廊下を歩く正也。
  恭之介「正也、恭一には暫(しばら)くつまらん話はするな。奴は浮き足だっている…」
  正也  「…? うん!(訳が分からず、素直に可愛く)」

○ 居間 夜
   庭が見える縁側の廊下で座布団を敷き将棋を指す恭之介と恭一。長椅子(ソファー)に座り、二人の様子を眺める正也。控え目に王
   手を指す恭一。
少し考え、禿げ頭に手をやり、困り顔でこねくり回す恭之介。居間へ入ったタマが正也の膝
に乗り、ニャ~と鳴く。
  恭之介「いや、参った。お前、腕を上げたな(盤面を見た姿勢のまま、老眼鏡の眼鏡越しに恭
一を見て)」
  恭一  「ははは…、まぐれですよ(陽気に小笑いして)」
  正也M「たぶん、じいちゃんは将棋を態(わざ)と負けたに違いないのだが、父さんは仏頂
(づら)を崩して素直に喜んでいる。じいちゃん
       も、いいところがあるなあ…と、僕は二人
の様子を覗きながら、ふと、そう思った」
   盤面を見る姿勢から、急に姿勢を正し、恭一を正視する恭之介。
  恭之介「こういう風に、会社でも、ピカッ! と光る存在になれ(やや強い口調で)」
  恭一  「はいっ!(笑顔から、突然、素に戻って)」
  正也M「じいちゃんの物言いは、いつも、ひと言が多い(諦め口調で)」

○ エンド・ロール
   また、次の一局を指し始めた二人。何やら語り合う姿。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


 ※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「春の風景(第一話) 異動」 をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《教示②》第十四回

2010年03月27日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《教示②》第十四回
 この所作を、遥か上の岩棚から幻妙斎が見下ろすように観ていた。
「出来たようじゃのう…。これで左馬介、そなたの剣が一つ頼もしゅうなったわ」
 そう云うと、幻妙斎は声高に笑い始めた。滅多と笑わない幻妙斎の声が洞窟内に谺(こだま)して響き渡った。その笑い声が消えると、
「では、次に与うるは山駆けじゃ。この洞を出た山道を左へと行き、その道をひたすら駆けて進めばよかった。所々に、ここと同様の縄が梢より吊るしてある故、それを叩けばよい。斬れれば、ふたたび駆けよ。但し、縄の前で荒い呼吸を整えてはならぬ。…以上じゃ。今日はもういい故、帰って休むよう」
 と長々と告げ、幻妙斎は元の位置へ座し、また辺りの岩に溶け込み、動かぬ人となった。
「明後日、またここへ来れば宜しいので?」
「そのように…」
 珍しく、、妙斎が直ぐに返した。左馬介は座した師を仰ぎ見て黙礼し、洞窟より退去した。
 道場へ帰り、その話を二人に告げると、長谷川が大層、驚いて、
「まるで修験者ではないか、山駆けとは…」
 と、素っ頓狂な声を上げた。


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