水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

甘辛(あまから)ユーモア短編集 (71)スンナリ

2021年07月31日 00時00分00秒 | #小説

 皆さんも日々、暮らしておられると、やっていることがスンナリいく日とそうでない日があると思う。かく言う私がそうで、あっ! しまった! などと、スンナリいかず手間取ることが時折りあるのだからしようがない。脇(わき)が甘(あま)い訳だ。^^
 やる物事に対し、辛(から)く考えているときは集中しているためか、そうした失敗をしない場合が多いように思える。皆さんは、いかがですか?^^
 村越(むらこし)はパタパタと小忙(こぜわ)しそうに団扇(うちわ)を扇(あお)ぎながら、渋面(しぶづら)で(すず)涼んでいた。
「チェッ! なぜ、こんなに暑いんだっ!」と愚痴ったところで、誰が慰めてくれるというものでもない。だが、愚痴りたくなるほど暑いのだからどうしようもなかった。そこへ、奥の間から村越の母親、静江が現れた。いつもは、現れなくてもいいのに…と思うのだが、この日はそうでもなかった。静江の手にはガラスの器(うつわ)に入れられた湯がいた素麺(そうめん)が美味(うま)そうに氷水(こおりみず)とともに泳いでいたからである。村越は、ふと思った。
『暑いときにスンナリこういきゃ、申し分ないなっ!』
 村越の渋面はたちまち緩(ゆる)み、満面の笑みが零(こぼ)れた。
「なんだいっ! 怪(おか)しい子だねぇ~」
 静江が訝(いぶか)しげに村越を見ながら呟(つぶや)いた。村越はスンナリいったことで、まっ! いいかっ! と甘くやり過ごすことにした。
「ここへ置いとくよっ!」
「んっ? ああ…」
 村越は黙ってるのもな…と珍しく素直に思い、ひと言(こと)、ポツリと口を開いた。
 スンナリいけば、辛い気分もなんとなく甘くなるのである。まあ、真逆の場合もある訳だが…。皆さんも、そういうこ
とってありませんか?^^

                  完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (70)出たとこ勝負

2021年07月30日 00時00分00秒 | #小説

 (43)で先読みの短編を書いたが、出たとこ勝負という手法めいたものもある。先々を辛(から)く思う先読みは相当、細かく読まないと、読みになかった変化が現れたときに弱いのだ。弱いとは、戸惑ったり苦慮(くりょ)することになる・・という意味である。なろうと、ままよっ! …と、度胸めいた甘(あま)い気分で堂々と進んでいく・・という態度も立派に思える。そうは言っても、内心でビクビク! しながら進むというのも気分が悪い。安定感、安心感があって進むに越したことはない訳だ。^^ 要は、甘い辛いにも程度がある・・ということだろう。^^
 とある読者、暇内(ひまうち)がこの短編集を欠伸(あくび)をしながらPC[パソコン]画面で読んでいる。
「なるほどっ! 読みにないことってあるよなっ…。俺なんか、いつもだっ!」
 暇内がそういうのも道理で、今日は黒番の棋士が勝つだろう…と読んでいた、とあるテレビの囲碁棋戦が、中押し負けのハズレだったのである。
「還暦過ぎると読み過ぎるからなぁ~、俺もそうだが…。出たとこ勝負でやった方がいい場合が多いからなぁ~」
 そこへ現れなくてもいいのに、暇内の今年で米寿を迎えた父親が散歩から帰って現れた。
「なんだっ! 起きてたのかっ! 少しは外へ出ろっ! 外はいい空気だぞっ!」
「はい…。先に食べてくださいっ!」
「食うのはいいが、この前の魚の干物(ひもの)、小骨(こぼね)だらけだったぞっ! 儂(わし)を殺す気かっ!」
「すみません…。注意しますっ!」
 暇内は出たとこ勝負で出した干物が裏目に出て、しまった! と気づいた。が、時すでに遅し、である。暇内は、父さんに出たとこ勝負は甘いな…と気づかされた。
 それ以降、暇内は父親に対しては全(すべ)てに辛(から)く生きている。

                   完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (69)模型(もけい)

2021年07月29日 00時00分00秒 | #小説

 若い頃、趣味の一環として模型(もけい)を組立てたものだ。完成させてしまえば、さほどの感慨(かんがい)は湧かなかったが、完成させるまでの過程[プロセス]は非常に楽しかったと記憶している。第三者として見ていると、辛(から)く拘(こだわ)る人は、細部の出来とか完成させるまでは…といった気分で作るものだから、どこか逼迫感(ひっぱくかん)のオーラのようなものが漂う。そこへいくと、甘く拘らない人は、おっ! もう昼か…などと、食べるものを脳裏に描くような軽い場合が多いから、どことなく和(なご)みの雰囲気が現れる。どちらの模型作りが正解か? などという解答はない訳だが、まあ、辛くも甘くも人それぞれ・・とは言える。^^
 とある美術館である。模型展覧会の開催に向け、予(あらかじ)めの賞を決定しておこうと、審査員が作品を見回っている。
「おっ! よく細部まで緻密(ちみつ)にっ!」
「そうですか? 私はこちらの方がいいと思いますが…」
「これですか? どうも見劣(みおと)りがするように思えますが…」
「いやいや、出来はそちらに比べれば不出来ですが、どことなく、和(なご)める雰囲気があります。そうは思われませんか?」
「ああ、そういや、どことなく…」
 金賞は一見(いっけん)、不出来に見える作品に決定した。
 辛く繊細に出来た模型でもダメなものはダメなのである。人は甘く和めるものの方が、いいようです。^^

 
                  完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (68)時流(じりゅう)

2021年07月28日 00時00分00秒 | #小説

 そんなことやってたら、時流(じりゅう)に取り残されるよっ! などと言われることがある。よくよく考えれば、時流に取り残されようが取り残されまいが本人の勝手で、大きなお世話な訳だ。逆に、そんなこと言ってたら、君の方こそ時流に取り残されるよっ! と反論したくなるだろう。^^ この時流という目に見えない流れだが、辛(から)く考えて上手(うま)く波に乗れば、いい人生を送れることになる。ところが、そうもならないから人の世は面白いのである。甘(あま)く考え、人は人、自分は自分さっ! というスタンス[立ち位置]でやっている人が成功したりする。こういう人は客観的に世の流れを達観できるから不思議だ。私が好きなとある超有名ロック歌手さんがいつやら、流行はローリングしている・・とかいう内容を言ってらしたが、私もそう思う次第だ。^^
 とある山奥に暮らすに時流に取り残された中年の男がいた。この男、機械化された世の中が嫌になり、会社を辞(や)め、山奥で仙人のような隠遁(いんとん)生活を送っていた。
 秋も深まったあるとき、腹も減ってきたのか、住み馴れた山へ食材を探しに出た。すると、不思議なことに松茸(まつたけ)、しめじ、山蕗(やまぶき)、山芋(やまいも)etc.の食材が次から次へと見つかるではないか。小一時間ほどの間に、背に負った竹籠一杯の食材が採れたのである。米は数か月に一度、下山したときに調達していたから間に合った。下界とは違い、菜食の日々が続いたが、どういう訳かその暮らしが中年男には馴染(なじ)んでいた。いつしか男は、時流に取り残されてよかった…と穏やかに思うようになった。その頃、下界は、進歩した時流の影響を諸(もろ)に受け、新型コロナウイルスに汚染され、人々は逃げ惑う不安な日々を過ごしていた。


 ※ 飽くまでもこのお話は、甘い辛いに関係がないSFです。^^

 

                   


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (67)仕上げ

2021年07月27日 00時00分00秒 | #小説

 目的を達成しかけたとき、仕上げは重要なポイントとなる。仕上げが甘(あま)いと辛(から)いとでは、同じ目的でも達成された質(しつ)が変化をする。仕上げが辛いと、なかなかの出来ですな…と褒(ほ)めそやされるだろうし、甘いと、なんだ、手抜きか…と小馬鹿にされるだろう。小馬鹿にされるのが嫌(いや)なら、甘い手抜きはしないことだ。場合によっては、神罰、仏罰を受ける場合があるとも言うが、私にはその辺のところは分からない。^^
 とある職人の工房である。親方が何やら作っている。その横には弟子がいて、親方の補助をしている。よぉ~~く見ても何を作っているのか? が分からないピカソ的な立体彫刻である。
「よしっ! 最後の仕上げだっ! おいっ! 粘土っ!!」
 親方は何やら分からない立体彫刻を見ながら、手を止めて弟子に大声で指図(さしず)した。弟子としては、親方、なに作ってるんだろう? …くらいの気分である。そこへ親方の大声である。
「はいっ!!」
 弟子は思わず我に返り、年度の塊(かたまり)を親方に手渡した。そして、数分が経過し、作品は完成した。
「どうだ! いい出来だろう! そうは思わんかっ!?」
「はいっ!」
 弟子としては何なのかが分からず、何ですか? と喉(のど)まで出そうな声を必死に堪えて返事するのが関の山だった。
「辛く仕上げたから、今回は特選だろう!」
「はいっ! そう思いますっ!」
 弟子は今回もダメだろう…とは思ったが、真逆(まぎやく)を言った。
 そして半月が経ち、発表の日が来た。
「親方っ! どうでしたっ!」
「いや、それがな…。どうも儂(わし)以上の作があったようでな…」
「ということは…」
「なぁ~~に! 特選を譲ってやったのよっ!」
「ということは、次点ですかっ!!」
「いや…まあな。それにしても今日は暑かった…」
 親方は暈(ぼか)しながら浴室へと消えた。審査結果は、かろうじて佳作の評価であった。
 このように、本人が辛く仕上げた…と思っても、他人目には甘い場合もある訳だ。^^


                   完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (66)見えないモノ

2021年07月26日 00時00分00秒 | #小説

 見えないモノは見えないから怖(こわ)ぁ~~い。^^ 当たり前だろっ! と言われればそれまでだが、最近、巷(ちまた)を賑(にぎ)わしている新型コロナウイルスもその一つだ。今朝、数年に一度のガスの漏洩検査に二名、来られたが、ガスも見えないから怖い。悪霊も取り憑(つ)かれれば見えないから怖い。放射能だって見えないから当然、怖い。よくよく考えれば、私達は多くの見えないモノに良い、悪い、便利、不便にかかわらず取り囲まれて生活している訳だ。電気、電波etc.他にもいろいろとある。見えないモノに対して辛(から)く捉(とら)えるか、甘(あま)く捉えるかで、私達の生活そのものが変化していくのだから怖ぁ~~~いっ!^^
 とあるマンションである。
「や、喧(やかま)しいなぁ~~!! お隣さんっ!」
 隣の住人が賑やかに好きな音楽曲を聴いている。音楽を聴くのはいいが、蒲鉾(かまぼこ)には好みの音楽曲ではなく、五月蠅(うるさ)くて仕方がない。防音壁でない安い物件を買い求めたのが蒲鉾の運の尽きだった。だが、買い求めた以上、その環境で生活しなければならない。『五月蠅いですよっ!』と足を運んで言おうとは思ったが、それもカドが立つから出来そうにない。音楽という見えないモノに俺はこれから付き合わされるのか…と思うと、蒲鉾は少しづつ気鬱(きうつ)になっていった。
「ははは…だったら、思いきって他のマンションをお探しになったらいかがですっ!?」
 思いきって入った病院の医師に、鬱病の初期ですねっ! と笑顔で言われ、何が面白いんだっ! と思わず怒れた蒲鉾だった。しかし、とてもそんなことは言えず、「はぁ…」と気の抜けたように返すしかなかった。
「私なら、耳栓(みみせん)するくらいで、そんなに気にしませんがね…」
 蒲鉾は、それはアンタだろっ! 俺は五月蠅いんだよっ!! と、また思ったが、当然、それも言えず、黙って首を縦に振りながら頷(うなず)いた。
 その後、蒲鉾がどうしたか? まで私は知らない。ただ、甘い辛いに関係なく、見えないモノは、人の思いようでいろいろな気分へと変化させるのである。^^


                   完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (65)軍配(ぐんばい)

2021年07月25日 00時00分00秒 | #小説

 新型コロナウイルスの関係でお相撲も観られなくなったのは誠に残念である。[後日、七月場所が開催されることになったようです。よかった、よかった!^^]まあ、お相撲ファンが辛(から)く愚痴ったとしても、こればっかりはウイルスさんに、そりゃ、悪いことで…と甘(あま)く引き下がってもらわないことにはどうにもならない話なのだが…。^^
 お相撲ではよく行司さんが軍配を差し違える・・という場面を目にする。軍配を間違えるのと間違えないのとでは偉(えら)い差で、目には見えないものの、力士さんのその後の星取りに大きな差を出すことになる。これは何もお相撲に限ったことではなく、組織の上に立つ人の軍配、要は判断だが、これを間違えれば組織がガタガタになったり壊れたりするから注意を要するということだ。今の日本は? と見てみれば、まあ、言わぬが花…といったところか。^^
 来年に先延ばしされたオリンピックの討論会が、とあるテレビ番組で行われている。
「大丈夫なんですかっ!」
「なにがっ!」
「だからっ! 来年ですよっ、来年っ!」
「そんなこと私に言われても、分かる訳(わき)ゃないでしょ!」
「そりゃ、まあそうですが…」
「まあ、中止にするという判断は出来なかったから、延期するという軍配になったんでしょうが…」
「相変わらず終息しそうにないですが…」
「私にどうしろとっ!」
「PCR検査とか緊急事態宣言とか、そんな生温(なまぬる)いことでは、ダメなんじゃ!?」
「では、どうしろとっ!」
「来年、開催するからには、完全に終息させるしか方法はないでしょ! 我が国の威信にかけて、全力で有効なワクチン、治療法の確立を推(お)し進めるべきです…」
「はあ、確かに…、しかし、私に言われても…」
 討論会は結局、結論を得られないまま意気消沈して終わった。
 生半可(なまはんか)な軍配は軍配の意味をなさず、正しい判断で強力に推し進めねば、いい結果は導けないのである。^^


                   完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (64)越すっ!

2021年07月24日 00時00分00秒 | #小説

 負けまいと先を越したくなるのが人の心情だ。ただ、この越すっ! という感覚には受け取り方に違いがあり、甘(あま)い感覚と辛(から)い感覚がある。越されたか、まあ、いいさ…と冷(さ)めた気分で甘く受け流す人と、チェッ! 越されたかっ! ちきしょう、越してやるっ!! …と辛く興奮する人の大まかな二通りのパターンに分かれる訳だ。私も年を取り、最近は枯れてきたからか、お茶をズズゥ~~と啜(すす)りながら、まあ、いいさ…と、甘く思うようになりつつある。^^
 とある町内運動会たけなわのグラウンドである。チーム対抗のムカデ競争が行われている。
「まっ! 負けるなっ! 追い越せぇ~~っ!!」
 先を追い越されたチームの代表は、最後尾(さいこうび)から興奮気味にチームを叱咤激励(しったげきれい)した。一チームが六名編成のムカデ競争である。足首を細いロープで互いに括(くく)りつけているから、個人的には動きが取れない。チーム代表に、追い越せぇ~~っ!! と言われても、残りの五人としては、そんなこと言われても…気分である。全員、気は急(せ)くが、こればっかりは一人が速度を上げたとしても、どうにもならない。返ってチームのバランスが崩(くず)れ、転倒する危険性もある訳だ。事実、このあと、このチームは転倒して最下位になってしまった。
 辛く越す! と意気込めば、気分では越しても、現実で返って越される・・という皮肉な結果になりますから、皆さん、注意しましょう、というお話です。心と身体は違う訳ですから…。^^


                   完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (63)渋滞(じゅうたい)

2021年07月23日 00時00分00秒 | #小説

 渋滞(じゅうたい)に対する人の考え方にも辛口(からくち)と甘口(あまくち)がある。辛口の人だと、またかよっ! …などと怒れ、イライラする気分を隠せなくなる。こういう人は自己中[自己中心的]な人が多く、世の中が全(すべ)て自分中心に回っている…と深層心理で思い込んでいるのである。困った人だ。^^ そこへいくと、甘口の人は、なんだ…などという平静な気分で、イライラすることもない。偉(えら)い人だ。^^ どちらが良い、悪いという訳ではないが、甘い人の方が世知辛(せちがら)い今の世の中だと健康面も含め、生きやすいのかも知れない。^^
 とある国道である。この日に限って朝から渋滞している。市道から国道へと出た谷底(たにそこ)は、おやっ? と、訝(いぶか)しげに凝(こ)った肩を揉(も)みながら首を回した。数珠(じゅず)つなぎの車の真っただ中で谷底は、まっ! いいか…と、平静に待つことにした。
 しばらくすると渋滞は解消し、車は少しづつ動き始めた。ゆとりを持って家を出たこともあり、谷底はイラつくことなく目的の場所へ到着できた。
 ゆとりをもって物事に処せば、気分の甘辛に関係なく、渋滞しても物事を達成できるようだ。^^

 
                  完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (62)ボケナス

2021年07月22日 00時00分00秒 | #小説

 怒られるときに言われるのが、「このボケナスがっ!」である。このボケナスという言葉を紐解(ひもと)くのも面白い。^^
 ボケナスとは、収穫期が過ぎているのにボケェ~~っと実ったナスのことである。このナスはすでに中に種が出来ていて、外面(そとづら)は食べられそうなナスなのだが、食べると口当たりが悪く、食べようにも食べられない[まあ、腐ってはいないから我慢すれば食べられなくもない程度の]ナスなのである。早い話、不出来なナスだ。甘(あま)く考える人なら、まあ、いいか…と我慢して食べるくらいのナスなのだが、辛い人だと、このボケナスがっ! と捨てられるようなナスな訳だ。半(なか)ばに考える人ならどうか? まで私には分からない。^^
「お前は、どうしてそうなんだっ!」
 朝からご隠居の恭之介が辛口(からくち)で息子の恭一を叱(しか)っている。
「ここは日本だっ! 人は右っ! 車は左だろうがっ!」
「ええ。まあ、そうですが…」
「なにが、そうですが、だっ! 法律で決まっとるんだから、自転車で右を走るなっ! お前は完璧(かんぺき)な犯罪者だっ!!」
「そこまで言わなくても…。たかが10mほどじゃないですかっ!」
「たかが10mとはなんだ、このボケナスがっ! そういう小事から犯罪は生まれるんだっ! 確かに警察に注意されることはあっても、捕まることはないだろう。しかし、だっ! ポイ捨てと同じ理屈で、ダメなものはダメなんだっ! 分かったかっ!!」
「はい、はい…」
「返事は一度っ!!」
「はいっ!! …それはそうと、これ、食べませんか? さっき買ってきたアイスですが…」
 恭一は危(あや)ういと話題を転じた。
「おう! 美味(うま)そうなアイスじゃないかっ!」
「右を走って、どうにかこうにか融(とけ)けずに…」
「なんだ、そうかっ! それを早く言いなさい。そういう緊急避難の場合は、まあいいだろう…」
 話題を転じれば、ボケナスも甘く美味しくなるのである。^^


 ※ 風景シリーズにご登場の湧水家のお二人に特別出演して戴きました。^^

 
                  完


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