水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第二章 (第二十六回)

2011年09月30日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第二十六回

「ええ、それはいいんですが、そのマヨネーズと同じ物質と私達の問題と、どんな関係が?」
「ははは…、だから、マヨネーズだよ。君達にマヨネーズを、と思ってな、ははは…」
 滑川(なめかわ)教授は俄(にわ)かに陽気な声を出して笑った。
『マヨネーズを僕達にどうするって云うんですか?!』
 幽霊平林が思わず口を挟んで突っかけた。もちろん、その声は教授には聞こえていない。
「そうだよな。そら、私もそう思うよ」
「えっ? どうした? 何を云っとるんだ君は…」
「ああ、すいません。ここに浮かんでいる平林が、マヨネーズを私達にどうするんだ、と訊(き)いたんですよ」
「おお、そうだったな、そこに君が云っとった幽霊の部下がいるんだった…。で、マヨネーズを君達にどうするかって? そんなの簡単なことじゃないか。食うんだよ! 君達が…。マヨネーズなんてすぐ手に入るだろうし、どこの家だってフツ~、一本くらいはあるだろうが…」
「はあ、それはまあ…。サラダとかいろいろと、よく使うものですしね」
「だから、それを君達に食べ続けてもらおうっていう寸法だ。それでデータを日々、私がつけさせて戴こう、ということさ。恐らく、私が睨(にら)んだところ、なんらかの手掛かりは掴(つか)めるんじゃないかと…」
 滑川(なめかわ)教授は存念を上山に披瀝(ひれき)した。
「あのう…、どれくらいの量を、どれくらいの間隔で?  …それに、平林は幽霊ですよ? どうやって食べんです?」
『そうですよ。僕は食べたりはしませんし、出来ません。あの世の者なんですから…』
「ああ、そうだな」
「んっ? なんだっ?」
「いえ、別に…。こちらのことです」
「ああ、そうか…。まあ、幽霊の部下の方は確かに食べれんだろうから、霊磁波を照射する手段を佃(つくだ)教授に頼むことしよう。君の方は兎も角、そうしてくれ。ああ、そうだった。朝晩の食後、三十分以内に…」
「霊磁波?」
「今は君らに分からんことだ!」


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第二十五回)

2011年09月29日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第二十五回

「いや、そりゃそうじゃ。私が悪かった。どうも最近、気短になってな。いかん、いかん…」
 滑川(なめかわ)教授は自問自答した。上山は教授の言葉に敢(あ)えて返さなかった。
「マヨネーズの成分と同じ、ってところを、もう少し詳しくお願いします。ここに平林君もいますので…」
「なに?! 死んだ平林とかいうのも、おるのか?」
「はい、少し前に現れたとこです。すぐ傍(そば)に浮いております」
「浮いておるのだな? ふーむ…、私には見えんが、ちょうど好都合だ。その平林とかにも聞いてもらってくれ」
「はい…」
『もう、聞いてますよ』
「マヨネーズが乳化製品だということは君も知っとるだろ?」
「ええ、まあ…」
『そりゃ、フツー、誰だって知ってますよ』
「油と卵とその他の物質を攪拌(かくはん)することで出来た乳化製品だ」
「その成分と舞台寺(ぶだいじ)の土骨粉の成分が同じだなんて、とても信じられません」
「そら、そうだろう。私だって俄かには信じられんかったよ。だが、どういう経緯があったかは不明だが、これは紛(まぎ)れもない事実なんだよ、上山君!」
 滑川教授は切々と話した。
「あの…、すみません。平林が両腕組んで考え込んでますので、もう少し具体的にお願いします」
「ああ、幽霊の部下か…。分かった! もう少し簡単に云おう。要は、生命の原点っちゅうやつだ。分かるか?!」
「いえ、…まったく分かりません」
「だから、生と死は、云わば表裏一体ということだよ、君!」
「はあ…、なんか哲学的というか、抽象的というか、さっぱり分かりませんが…」
「まあ、分からんでもいい…。同じ細粒物質が分かった、ということだ」


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第二十四回)

2011年09月28日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第二十四回

「マヨネーズなんだ…」
「はっ? …もう一度、お願いします」
「だから、マヨネーズだったんだよ」
「…、細粒物質が、ですか?」
「ああ、細粒物質が、だ」
「ははは…、ご冗談でしょ。で、なかったら、何かの間違い、としか思えません」
「いや、上山君。これは事実なんだよ…」
 滑川(なめかわ)教授の声が荘厳さを増した。
「マヨネーズって、あのマヨネーズなんですよね?」
「そうそう、あれだよ、あれ!」
「食べるやつ、ですよね? サラダなんかに使う…」
「ああ、それそれ!」
「まさか! …」
「いや、本当なんだ。あっ! 誤解しちゃ、いかんぜ。飽くまでも、細粒物質が、だぜ。その成分がマヨネーズと、まったく同じだってことだよ」
「ははは…、嘘でしょ?」
 上山は俄(にわ)かに信じられず、そう云った。
「君に嘘を云っても仕方なかろうが・…」
「ええ、…そりゃ、まあ」
「細粒物質を分析した結果、マヨネーズと同じ成分が検出されたと、こう云った方がよかったようだのう、ははは…」
「そりゃ、そう云ってもらえば、妙な話ですが、それもアリかな? と、得心、出来ますから…」


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第二十三回)

2011年09月27日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             
    
第二十三回

『はは~ん。だから、でしたか。だったら、消えますよ』
「いや、いいよ。ことのついでだから、君も傍(そば)で聴いていてくれ」
 そう云うと上山はドアを開け、第一会議室へと入った。入ったのは上山が先だが、入ってドアを閉じた時には、すでに幽霊平林は透過して室内に現れていた。
「ここなら気がねなく話せるな。実は、滑川(なめかわ)教授から午前中に電話が入ってな」
『何か分かったんですか?』
「ああ、どうもそのようだ。周りに課の者がいたから、あとでこちらから、かけ直すと云ったんだ。どうも、君と私の奇妙な現象に影響する物質が、あの土から発見されたらしい」
「舞台寺(ぶだいじ)の土ですね?」
「ああ、そうだ。なんでも細粒物質とか云っておられたが…」
『それで、これから電話を?』
「まあ、そういうことだ」
 上山は、ことの仔細を幽霊平林に説明し、携帯を耳にした。
「おお、上山君か。もうそろそろ、かかってくるだろうと、蕎麦(ソバ)にしたよ」
「えっ? なんです? ソバ?」
「いや、ハッハッハッ…。ザルソバだよ、食べる~」
 教授が汁(つゆ)に付けて啜(すす)っているのだろう。その音が上山の携帯に伝わってくる。別に蕎麦にしなくてもいいんじゃ…とは思えたが、変人の滑川教授の機嫌を損(そこ)ねては拙(まず)い、と瞬時に思え、「ははは…、そうでしたか」と、上山は軽く応じた。
「ところで、昼前にお話になった細粒物質なんてすが、どういったものなんでしょう?」
 上山は核心に迫った。幽霊平林も、プカリプカリと離れて漂っていた位置から、スゥ~っと近づいて、耳を欹(そばだ)てた。


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第二十二回)

2011年09月26日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               
    
第二十二回

「おお、本当だとも! 詳しくは、昼休みにでも電話してくれ」
「はい!」
 上山はひと言、云うと、部下の手前、すぐ携帯を閉じた。相も変わらず、上から目線の滑川(なめかわ)教授だった。
 昼休みといっても社員達は上山の目の届くところに必ず何人かはいる。無人となれば、籠れるところが使われていない会議室、倉庫、屋上の一部などに限られていた。籠れるところといえば、トイレをおいて他にはない。手頃だが、社員に聞かれる恐れは多分にあった。そんなことで、上山は閃(ひらめ)いた第一会議室を選んだ。空いているのを知ってのことで、食堂でいつものように定食の食事を済ませ、人目を気にながら上山は中へ入った。スムースにいったのは、幽霊平林が現われないからだった。同じグルリと回す合図でも、肩凝りから癖になている首と、新(あら)たに決めた手首とでは雲泥の差かあった。
 上山は第一会議室へ入ろうと、右手に携帯を持ち、ドアのノブを回そうとした。だが生憎(あいにく)、右手に携帯を持っていたものだから、左手を使って回してしまった。これがウッカリミスで、幽霊平林がスゥ~っと姿を現した。
『はい、何でしょ?』
 瞬間、上山は、しまった! と思った。というのも、左手をグルリと回せば…が、合図だったからだ。グルリではないが、小さく回したことに違いはなかった。
「…、なんだ、君か」
『なんだ、君か、とは、ご挨拶ですねえ』
「いや、悪い悪い。そういうことじゃなく、呼んだんじゃなかったんだ」
『だって、左手を態々(わざわざ)、回されたんでしょ?』
「いや、それが違うんだ。…まあ、左手を回したことにゃ変わりないんだけどね」
『だから、回されたんじゃないですか』
「回したってことじゃなく、ノブを握って捻(ひね)っただけだよ」


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第二十一回)

2011年09月25日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               
    
第二十一回

「機械が故障した? …いや、そんなことは考えられん。昨日(きのう)、点検したばかりじゃからのう。どうもその辺りに何かあるような気がしてならん」
「はい、私もそう思います…」
 二人は腕組みをすると沈黙した。幽霊平林も遅れて腕組みをした。
三人は妙な具合に意気投合したのだった。その後、上山は滑川(なめかわ)教授に、「一週間ほどしたら電話しますから…」と云って研究所を出ようとした。当然、幽霊平林も追随した。
「いや! 何かあれば、こちらからも電話しよう!」
 教授は古めかしいダイヤル式の黒電話を指さして、そう云った。以前にもあった、今ではもうレトロ的価値が相当高くなっている非製造の電話機だった。
 上山は教授の声にギクッ! として立ち止まると、「はあ、よろしく…」とだけ返した。幽霊平林は止まらず、プカリプカリと不安定に浮かんでいるだけである。まあ孰(いず)れにしろ、今の彼は完璧に停止出来ない状況にあるのだから、同じことなのだが。
 言葉どおり、教授から電話が入ったのは、その二日後だった。上山としては、半分方は駄目だろう…と踏んでいたから、正(まさ)しく、案に相違して、と云えた。
「おお、いたいた…。上山君かね?」
 そりゃ、いますよ! と、喉(のど)まで出かかった上山だったが、そこはグッ! と堪(こら)えて携帯を握った。生憎(あいにく)、仕事中で、目の前には部下の社員達が仕事をしていた。
「はい。…何か」
「何か? とは、偉くよそよそしいじゃないか。ははは…分かったんだよ、分かったんだ」
「えっ? よく分からないんですが…。仕事中ですので、要点を纏(まと)めてお願いします」
「ああ、そうだったか…、こりゃ悪かったな。あの土に、君と、それ誰だったかな、…そうそう、平林君だったか。その彼と君との因縁を起こしている細粒物質が発見されたんだ」
「細粒物質ですって? 本当ですか?」


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第二十回)

2011年09月24日 00時00分00秒 | #小説

  幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 
    
第二十回

「そうなのか?」
「はい、まあ…」
 上山は事実のままを云った。
「私が云えることは、…やはり霊が発する霊波が我々人間の心と何らかの周波数が合った時、君が云うような現象が起こり得る、ということだ」
「それは相当、確率の高いことなのですか?」
「ああ。確立というようなものではない。百パーセント起こり得る、と断言しておこう」
「偉い自信ですね。だったら、起こる! でいいんじゃ?」
 上山は悪戯(いたずら)っぽく笑った。
「なにっ!私の云うことが出鱈目だとでも云うのかね、君は!! 心霊学では百パーセントのことが九十九になったり百一になることがあるんだ!」
 滑川(なめかわ)教授は俄かに沸騰し出した水のように、ボコボコと怒りだした。上山は慌(あわ)てて、「いや、そういう意味で云ったんじゃないんです!」と、急遽(きゅうきょ)、弁解して返した。
「まあ、いい…。そうだな、一週間ほど、この土、預からせてもらおう。私なりに何か、いい閃(ひらめ)きが起こるかも知れんでのう。君も、そのナントカいう幽霊との因縁を解明したいじゃろう」
「平林です。…ええ、もちろん」
『ひとつ、よろしくお願いします、教授!』
「平林が、よろしくと申しております」
「ほう、まだ、ここにおったんじゃな。それにしても、妙なのは霊動感知機じゃ。今日に限ってウンともスンとも反応せん!」
「そういや、一度も赤ランプが点滅しませんし、針も振れません。この前とは全然、違います。妙ですよね」


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第十九回)

2011年09月23日 00時00分00秒 | #小説

  幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 
    
第十九回

「落ちついたとは?」
「はい。彼は興奮したとき、青火が灯るシステムになっているようなのです」
「システムか…。上手く云いおるのう。まるで、ここにある霊動探知機と同じではないか、ハッハッハッ…」
 滑川(なめかわ)教授は珍しく大笑いした。
「その平林とかは今、ここにおるんだな?」
「ええ、私のすぐそばに。青火が灯っていたすぐ真下です」
「ほお、そこにのう…。で、私には姿や声は見聞き出来んが、君には出来るという訳か?」
「はい、そのとおりです」
『そうですよ、教授。僕は教授に生前、何度もあったんですから』
「そうだよな」
「んっ? どうだと云っとるんだ」
「生前、教授に何度も会った、と申しております」
「そうか…、生前にのう。安眠枕の頃だな?」
「はい、そうだと思います。それ以前や以降は教授と我が社の接点はありませんから…」
「まあ孰(いず)れにしろ、その土を心霊学の見地から研究材料にしよう。今までは、この霊動探知機内のゴーステンでしか見ておらんからのう。しかも、ゴーステンは、この土を使って加工されたものじゃからなあ」
「そういうことです…」
「ところでこの土は、佃(つくだ)君のところへ持っていったのかね?」
「いえ、まだです…」
「順序としては、心霊学の私より霊動学の佃教授だろうが、普通は」
「はあ、それはそうなんですが、佃教授には、もう私と平林君のことは云ってありますから、話は認識されておられると思います…」


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第十八回)

2011年09月22日 00時00分00秒 | #小説

  幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 
    
第十八回

「はい…。実は、佃(つくだ)教授が名づけられたゴーステンなのですが、この土と密接な関係があり、これと粘土で作られるそうなんです」
「それが、どうかしたのか?」
「はい。そのゴーステンで私達の、…いや、私達の、と云いますのは、先ほど申しました死んだ部下の平林君と私のことなんですが、二人の奇妙な現象を解き明かしてくれるのではないか、と期待しているのです」
「ほお…。君も今の科学を否定しておるのか?」
「いえ、そんなことでもないんですが…。そのことを教授にもお考え願おうと思い、こうして寄せて戴いたようなことです」
「そういうことか…。なるほどのう…」
 滑川(なめかわ)教授は理解出来たのか、机に置かれたハンカチを手にし、包まれた土をシゲシゲと見ながら、そう云った。
「それで、この土が、そのなんとか…、そうそう、ゴーステンになぜなるのか? という謎なんだな?」
「いえ、なるならないは私達にはどうでもいいことなんですが、要は、このように細粒化した人骨の含まれる土が、ご研究されている心霊学と、どういった関係にあるのか、ということをお訊(たず)ねしたいのです」
「小難(むずか)しい質問だな。しかと、すぐには答えかねるがのう…」
「それはもう…。いつでも結構でございます。何かヒントが分かれば、お伝え願えませんか?」
「うむ! 分かった。そうしよう…」
 滑川教授は思ったよりスンナリと了解した。そのとき、研究室に浮かんでいた青火が、何の前ぶれもなくフッ! と消えた。
「おっ、消えたな…。これは、どういうことじゃ?」
「はい、ご説明すると長くなるんですが、掻い摘(つま)んで申しますと、私の部下の平林君が落ちついたんです」


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第十七回)

2011年09月21日 00時00分00秒 | #小説

  幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 
    
第十七回

「そうだが、怖くないのかね、君は? 科学者の私だって、こんな夜分にゃ、少し怖いぞ」
 まったく怖がらない上山に、教授は、━ この男、ただ者じゃないぞ ━ と、少し不気味さを感じた。「いやあ…、この前云ったと思うんですがね。あっ! すみません。あれは佃(つくだ)教授でした」
「…どういうことかね?」
「実は、私には死んだ部下の霊が見えるんですよ」
「ははは…。馬鹿を云っちゃいかん。心霊学を科学で解明しようと研究しておる私にだって、そんな子供の作り話のような、まやかしは信じられんよ。霊動学の佃君は、どう云っとったんだ?」
「佃教授は信じて下さいました。ちょうど、霊動反応があり、霊動探知機の針が振れた、ということもあったからなんですが…」
「佃教授のところにある霊動探知機は、うちのものより格段と性能がいいからなあ。日々、ゴーステンの配合が研ぎ澄まされるように変化しておるでのう…」
「はあ、それはまあ、そのようですが…」
「少し解けてきたぞ。と、いうことか…。おお、恐怖心も少し引いていくのう。こうして落ちつくと、その青火も、どこか神秘的に美しく感じるから不思議だわい…」
「多少はお分かりになって戴けたかと存じます」
「ああ、まあな…。で、今日の用件は何じゃ? 暗うなってきおったから、そろそろ終(しま)おうと思っておった矢先でな」
「はい。今の話と関連があるのですが…」
 上山は手に持った鞄(かばん)から、ハンカチに包んだ舞台寺(ぶだいじ)の土を取り出した。
「なんだね、それは?」
「…土です」
「土は分かっとる。その土が、どうかしたのかを訊(き)いとるんだっ!」


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