水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <7>

2024年06月25日 00時00分00秒 | #小説

「そ、その異星人とやらは、また現れるんですか?」
「そこまでは…。私も人の子ですからのう…」
「ええ、それは確かに…」
 口橋は、そんなことは当たり前だろっ! と一瞬、言おうとしたが、口にするのが憚(はばか)られ、思わず唾を飲み込んだ。
「では、これで…。お伝えしたいことは、ぜぇ~~んぶ、お話ししましたですじゃ…」
 老婆はそう言うと、椅子からのっそりと立ち上がった。
「ま、待って下さい! まだ、お訊(き)きしたいことがございますので…」
「何ですかいのう? 私ゃ、こう見えて、結構、忙しいもんでして…」
 老婆は、ノッソリと椅子へ腰を下ろした。
「あの…その異星人とは、いつでもコンタクトを取れるんですか?」
「フフフ…結構、目はいい方ですじゃ。コンタクトなんぞ嵌(は)めとりゃせんですが…」
 口橋は、そのコンタクトじゃないっ! と言いそうになり、また唾を飲み込んだ。^^
「ははは…お婆さん。接触する機会のコンタクトですよ」
「こう見えても祈祷師の端くれですじゃ。そんなことは容易(たやす)いことです」
「そうですか…」
「また、何ぞありましたら、庵(いおり)までお立ち寄り下せぇまし…」
 老婆は、ふたたび椅子からのっそりと立ち上がると、「オオォ…ッ、呼んでおる、呼んでおる」と意味不明な言葉を発し、面会室を出ていった。^^


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <6>

2024年06月24日 00時00分00秒 | #小説

「ミイラが申しますには、私どもは殺されたのではございません・・と…」
「ええっ!!? ミイラがそう言ったのですか?」
「はあ、申しましたとも、申しましたとも!」
「では、なぜ車中で死んだのか? ということになりますが…」
 口橋は半信半疑ながらも老婆の話を掘り下げた。^^
「はい…。その訳をこれから少しずつお話させていただきますだ。あのう…お時間は?」
「ははは…時間は気にされず、その話を包み隠さずお話願えれば…」
 口橋は老婆が話すにつれ、興味をそそられていった。
「では、申しますかいのう…。そのミイラが申しますには、私達は異星人に呪縛(じゅばく)され、身動きが取れないまま衰弱死したのだと…」
「今、何と申されました。異星人に、ですか?」
 口橋は異星人と聞いた瞬間、こりゃダメだな…と、老婆への信憑(しんぴょう)性がゼロになった。
「はい、異星人に、ですだ。呪縛されたとき、眩(まばゆ)い光線を浴び、頭が痛み、気づくと全員の額(ひたい)に星印の痣(あざ)が…」
 星印の痣・・と聞き、口橋の老婆に対する信憑性は逆転した。老婆の話が強(あなが)ち出鱈目とも思えなくなったのである。確かに、現場検証した五体のミイラの頭部には一致した星印の痣があったことを口橋は思い出した。^^


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <5>

2024年06月23日 00時00分00秒 | #小説

 合同捜査本部の会議が終わり、口橋(くちはし)は鵙川(もずかわ)から聞かされた老婆に面会した。
「あの…どのようなことでしたでしょう?」
 口橋は面会室の椅子で座って待つ見窄(みすぼ)らしい老婆に対し、椅子に腰を下ろしながら下手で訊ねた。その老婆は弥生時代の衣装を身に纏(まと)い、勾玉をあしらった首輪をしていた。^^
「あなた様が、こんとこの責任者様でござりますかいのう?」
「えっ!? ああ、まあ…」
 口橋は、自分はそんな偉い者ではないが…と思いながら、暈して肯定した。
「そうでしたかいのう…。実はですのう、奥多摩の庵(いおり)に住みよります私に、昨晩、不思議なお告げが舞いおりましたもので、そのことをお伝えしようかと伺わせていただいたようなことでしてのう…」
 老婆は、回りくどい説明を口橋にしながら、出された茶を啜った。
「不思議なお告げですか? …どのような?」
 口橋は、偉い婆さんに会っちまったぞ…と心で苦笑いしながら、さらに訊ねた。
「今、あなた様がお調べの五体のミイラが、私にコレコレシカジカ・・とお告げをしましてのう」
「はあ…」
 馬鹿馬鹿しい…とは思えたが、それでも一応聞いておくか…と、口橋は老婆に話を続けさせた。


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <4>

2024年06月22日 00時00分00秒 | #小説

 一喝されては、どうもすいません…と頭を下げるしかない。口橋(くちはし)が、まずペコリ! と無言で軽く頭を下げ、鴫田(しぎた)、鵙川(もずかわ)がそれに続いた。庭取副署長は一瞬、三人を見据えたが、まあ、いいか…と机の書類に視線を戻した。なにが、いいのかは、よく分からない。^^
「では、本件の概要を口橋さん!」
 鳩村に名指しで呼ばれた口橋は、想定外だったのか最初、アタフタとしたが、そこはベテラン刑事だけのことはあり、椅子から立ち上がるとスタスタと前方に歩いて刑事達に向きを変え、話し始めた。
「奥多摩の森林地帯に乗り捨てられた車中から発見された五体のミイラの身元は今のところ掴めておらず、鑑定の結果、事件性を臭わせるこれといった外傷もないことから、未だ死因は判明していないっ!」
 そこまで話すと、口橋は立ち位置を鳩村、手羽崎、庭取が座る方向へ向きを変え、話を続けた。
「ただ、五体のミイラの頭部には一致した星印の痣(あざ)があり、それが死因ではないものの、この一件と関わりがあるのか? を科捜研に依頼しているところであります」
 口橋が科捜研の研究所員、関礼子の方向へ視線を投げた。礼子は無言で直立すると軽く一礼し、着席した。

「そうですか…。どうされます、署長?」
 手羽崎管理官が小声で隣の鳩村に呟く。
「えっ!? ああ…まず、事件か? 事故か? の確証がいる以上、科捜研の鑑定結果を待つ以外にはないでしょう。それまでは身辺捜査の継続を続けて下さいっ!」
 平和的な語り口調の鳩村の判断を受け、刑事一同は黙諾すると各自、席を立った。^^


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <3>

2024年06月21日 00時00分00秒 | #小説

 そのとき、新任巡査長の鵙川(もずかわ)が合同捜査本部へ駆け込んできた。鵙川は場の雰囲気を察したのか静かにドアを閉め、後方に座る口橋と鴫田に抜き足、差し足、忍び足でゆっくり近づくと、耳打ちした。
『口さん、受付に妙な婆さんがやって来ましてね…』
『…妙な? …どうよ?』
 口橋は呟くように小声で訊ねた。
『この事件と関わりがあるようなんで急いできたんですがね…』
『…関わり?』
『どんな婆さんだ、鵙川?』
 口橋の隣に座る鴫田が話に加わり、ボソッ! と小声を出す。
『それが、自称、祈祷師らしいんです…』
『祈祷師? で、どうだと言うんだ?』
『私ゃ、分かる・・とか、なんとか…』
『何が分かるってんだっ?』
「おいっ! そこの三人っ!!」
 そのとき、ゴチャゴチャ話す三人の姿が目に付いたのか、正面最前列の席で刑事達に対峙する庭取副署長が声高に一喝した。^^


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <2>

2024年06月20日 00時00分00秒 | #小説

 捜査本部で何をゴチャゴチャ捜査しているのか? を説明しよう。^^
 五体のミイラが森林に乗り捨てられた車内から発見された。現場検証の結果、殺人と思えなくもない不可解な事件である。設置された[謎のミイラ・捜査本部]は鳩村にとっては有難迷惑な事件にも似た一件だった。自殺、他殺、その他の原因と、憶測は憶測を呼び、捜査本部は混迷していた。現場に残された車内の地図には国土地理院の地図にもない不思議な地名が多数、記されていた。現実には無い地点ばかりだったのである。
「まあ、とにかく捜査に当たってくれ…」
 捜査本部で指揮を執る新任の鳩村にすれば、そう言うのがやっとだった。
『それで、いいんですか? 署長…』
 右に座る庭取が小声で呟くように訊ねた。首は動かさず、正面の刑事達を見た姿勢のままである。
『? ああ…』
 鳩村とすれば、そう返すしかなかった。新任のため、まったく要領を得ないのである。恥を搔く訳にもいかず、ポカミスをする訳にもいかなかった。なにせ、無傷で来年の春を待てば現場を離れ、本庁へ返り咲けるのである。それは、本人の鳩村を含め、誰もが分かっていた。鳩村は、ああ…と返した後、何か拙かったか? と自問した。


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <1>

2024年06月10日 00時00分00秒 | #小説

 警察庁長官官房人事課長の肩書を持つ鳩村豆男は、疲れ果てた挙句、片足をベッドの下に垂れ、夢の中で足掻(あが)いていた。刑事部と公安部の捜査上の衝突にその原因があることは夢の中だけに当然、誰も知らない。^^ まあまあ、お二方・・とはいかない公安警察Vs.刑事警察という組織上の問題があった。加えて、次期公安部長の呼び声が高かったこともある。^^
 話は数年前に遡(さかのぼ)る。この頃、鳩村は制服組幹部の道を目指し、現場捜査の長として指揮を執っていた。掃き溜めに鶴・・とはよく言うが、掃溜めに鳩の鳩村もその一人で、一年後には現場を去り、本庁へ返り咲くことは、ほぼ確実視されていた。鳩村に限らず、過去の人事異動はそうした方向で発令されていたのである。制服組の若いトップの署長就任は年功を重ねた現場のベテラン刑事達にとっては痛し痒しで、ある意味、邪魔な存在だった。^^
「奴さん、春には、はい、さよならですか…」
「まあ、そう言うな、鴫田(しぎた)…」
 捜査を任された刑事の口橋(くちばし)が蚯蚓(みみず)を突っつくように鴫田を宥(なだ)めた。^^
「班長はそう言いますがねっ!」
 鴫田が鳴くように声高に返す。
「お前が思うのも分からんではないが、そうなっとるんだから仕方ねぇ~だろうが…」
 二人が後方の片隅で話し合う小声が正面最前列で刑事達に対峙して座るトップ三人に聞こえる訳がない。トップ三人とは、中央に座る鳩村[署長]、その左に手羽崎(てばさき)[管理官]、右に庭取(にわとり)[副署長]である。^^


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雑念ユーモア短編集 (100)作曲

2024年06月09日 00時00分00秒 | #小説

 有名作曲家の尾平は頼まれた新人女性歌手の作曲をしていた。前庭の手入れをしていたとき、ふと浮かんだ旋律を忘れないうちに…と部屋へ駆け込んだ。駆け込んで採譜したまではよかったが、浮かんだ最初の旋律の続きが浮かばない。尾平は書き始めた譜面を机に置き、はたと考え込んだ。浮かばないものは浮かばないのだから仕方がない。尾平はすっかり気落ちし、沈み込んでしまった。^^ 浮かばないから沈んだ訳である。^^ そのとき、電話が鳴った。
「はい、尾平ですが…」
『先生、もう出来たんじゃないかな? と思いまして…』
 音楽出版社の番記者からの電話だった。尾平は、牝鶏(めんどり)が卵を産むような訳にいくかっ! と一瞬、頭にきたが、そうとも言えず、「いや、まだだよ…」とだけ、幾らか気分悪げに返した。
『そうですか…。そいじゃ、早めに頼みますよ。なにせデビュー曲ですからね。ヒットをっ! と五月蠅(うるさ)いんですよ…』
「誰がっ!」
 尾平は、また少し腹立たしくなり、グッ! と堪(こら)えた。
「誰とは言えませんが、上の方が…」
 番記者は暗に会社の上役を暈した。チクッったことが発覚すれば立場が拙(まず)くなる…と判断したためだ。尾平はそれを聞き、雑念を浮かべた。
『上といえば、アレか…』
 尾平は目星がついた人物の姿を思い描き、雑念を湧かせた。担当部長は顔見知りの雀友(ジャンとも)で、飲み仲間でもあった。
『あいつの立場を悪くするのもなぁ~』
 そう思ったときである。尾平の脳裏に浮かばなかった続きの旋律がポッカリ浮かんだのである。
「浮かんだよっ! いったん切るよっ!」
 尾平は電話を切ると、浮かんだメロディーの採譜をすぐに再開し始めた。そして数十分後、新人歌手のデビュー曲が完成した。[ある晴れた日の出に]である。^^
 作曲の閃(ひらめ)きは雑念とは無縁で、浮かぶときには浮かぶもののようです。^^

                   完


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雑念ユーモア短編集 (99)さて…

2024年06月08日 00時00分00秒 | #小説

 齢(よわい)を重ね、年老いると物忘れすることが増える。脳細胞が、はぁ? と考え込むようになり、老化する訳だ。^^ これはもう、個人の問題ではなく、誰しも起きることなのである。なぜだ? どうして? などと雑念を挟む余地はなく、そうなるのだから致し方がない。^^
 野辺山は、やりかけていた残業を停止して考え込んでいた。
「どうしたんです? 野辺山さん」
「えっ!? いや、まあ…」
「私、先にやって帰りますよ。いいですか?」
 同じ残業をしていた鉾海は訝(いぶか)しげに野辺山を窺(うかが)った。
「はあ、どうぞ…」
 鉾海は首を傾(かし)げながら先に作業場を出て行った。野辺山が考え込んだのには理由があった。ふと、浮かんだ今夜の総菜である。朝、家を出るとき妻に頼まれた買い物が何だったのか? を忘れてしまったのである。さて…と、野辺山は椅子に腰を下ろすと腕組みをした。残業は出来なくても明日の朝にやればいいが、問題は差し迫った今夜の総菜だ。買えないと妻に何を言われるか分からないのだ。野辺山の脳裏に、思い出せない総菜の代わりに別の雑念が浮かんだ。
『結婚した頃は、あんなじゃなかったが…』
 若い頃の優しかった妻の笑顔が思い出されたのである。
「まあ、いいかっ!」
 何がいいのか分からないが、野辺山は残業をやめると、そのまま帰途に着いた。
 さて…と考え込むほど思い出せないときは、雑念に沈むことなく、いつまでも考えないことですね。^^

                   完


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雑念ユーモア短編集 (98)リミット

2024年06月07日 00時00分00秒 | #小説

 リミット・・平たく言えば限界である。だが、今ではすでに和製英語になっており、リミットと言っただけで誰もが限界か…と理解できる時代になっている。リミットが近づけば、雑念などを巡らせる余裕はなく、必死にその状況から解き放たれようとする一念だけになる。
 急に刺し込んだリミットの腹を押さえながら、管理者会から中途退席した田所はトイレの大便器に座りながらコトを済まそうとしていた。田所は大便器に腰を下ろし、ズボンを下げるとホッとした。その後、コトを済ませた田所は、腹具合のリミットが解消されトイレを出ようとトイレット・ぺーパーのボックスを見た。ところが生憎(あいにく)、トイレットぺーパーがなかったのである。管理者会には一刻も早く戻らなければならない。田所はどうしよう…と慌(あわ)てた。すると上手(うま)くしたもので、背広の内ポケットの中に数枚の紙があるではないか。田所はその紙でお尻を拭き、バタバタしながらトイレを出ると管理者会が開かれている会議室へと急いだ。
「おお、田所君、戻ったか…」
「すみません、専務…」
「いや、いいんだ。腹具合はいいのかね?」
「だ、大丈夫ですっ!」
「そうか…。それじゃ、君の案を聞こうか」
「はいっ!」
 田所は背広の内ポケットを探ったが、説明用に準備した原稿がない。田所はハッ! とした。先ほどトイレで流した紙が説明用の原稿だったのである。
 その後、田所が同管理社会を切り抜けたのか? 私は知らない。ただ、リミットに備えておく必要はあるようです。リミットのときは雑念が浮かびませんから…。^^

                   完


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