ベテラン刑事の舟方(ふなかた)は、このところ持病の神経痛に悩まされていた。なんといっても困るのは、張り込み中にジワ~~っと痛み出すやつだ。
「舟さん、いいですよ。私が見てますんで、車で待機していてください」
若い底板はそう言って舟方をフォローした。
「おっ! そうか、すまんな。動きがあったら知らせてくれ」
舟方は、こいつも、ようやくモノになったな…と思いながら、助かった気分で覆面パトへ移動した。
犯人のトマト泥棒が捕まったのは、それから数日後である。その犯人は妙なヤツで、トマト好きが通り越し、一日中、トマトを食べていないと体調が悪くなるという、ある種の病気体質の男だった。
「さっさと吐けっ! お前が食べながら走り出たのを生産農家の一人が見てるんだっ!」
「いえ、私はそんなことはしやしません…」
男は頑強(がんきょう)に犯行を否認し続けた。
「なあ芋尾(いもお)、隠したって、いづれは分かるんだ。疾(やま)しい心の痛みは、吐けば消える! なあ芋尾」
舟方は落としどころを探っていた。そのとき、例の痛みがジワ~~っと舟方の腰にきた。舟方は一瞬、顔を顰(しか)めた。
「私が変わります、舟さん!」
敏感に察知した立っている底板が舟方に小声で言った。
「おお、そうか? …」
舟方は犯人と対峙して座る椅子から立つと隅の椅子へ移動した。舟方に変わり対峙した底板は、机をバン!! と一つ大きく叩(たた)いた。
「腰痛(こしいた)の年寄りを煩(わずら)わすんじゃねぇ!」
犯人は底板の態度の豹変(ひょうへん)に驚いてビビッた。
「す、すみません、つい…」
その自白を聞き、舟方は落としどころは、そこかい! と、少しムカついた。
完