水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

四方山(よもやま)ユーモア短編集 (3)いつものこと

2021年08月31日 00時00分00秒 | #小説

 いつものことが変化し、いつものことでなくなったら、あなたはどうしますか?^^ ある人は、おやっ? 変わったのかな…と、変化したことを認識した上で、その変わった内容に追随(ついずい)したり、その後の対応を考えたりするだろう。また、ある人は、おやっ? 妙だなぁ…と思い、その日まで続いていた状況の回復を試(こころ)みるだろう。おやっ? 困ったな…と単純に右往左往する人だってあるに違いない。いつものことが変化したとき、人が取る行動は四方山(よもやま)なのである。今日の三話は、そんなお話だ。^^
 店前に設置された自販機の前で一人の男が何やら買おうとしているが、いつものように機械が反応しない。
「弱ったな、誰もいないし…」
 男はそう呟(つぶや)くと、自販機の前に手持ちのハンカチを一枚、敷くと。ドッペリと、その上へ腰を下ろした。対応する相手が来ないのに待っても仕方ないのだが、男はいつものことの繰り返しを維持しようとしたのである。よ~~く考えれば、維持出来る訳などないのだ。男は腰を下ろしたあと、考えた。[1]機会が故障している。[2]店の都合で機械を停止させている。と、男はまず考えた。ただ、いつものように電源が入った状態でランプが燈(とも)っているのも怪(おか)しいといえば怪しい。ということは、[2]は全否定され、店の都合で停止させた・・ということはない訳になる。だとすれば、やはり[1]か…と、男は思った。そのとき、別の男がスゥ~っと現れ、数枚の貨幣を機械へ投入した。ガチャン!! と音がし、缶が取り出し口へ落ちた。別の男は、さも当然のようにその缶を取り出すと、プルトップを開けてグビリ! と、ひと口飲み干した。
「…どうされたんです?」
 訊(たず)ねられ、腰を下ろした男は罰悪くなった。
「いや…少し気分が…」
「それはいけませんねっ! 大丈夫ですかっ!?」
「は、はいっ!」
 腰を下ろした男の頭は混乱していた。俺だけが、なぜ出ない? …である。男は考えながら、ジィ~っと自分の手を見た。硬貨と思って自販機へ投入したのは、昨日、ゲームセンターから持ち帰ったゲーム・コインの残りだった。
「チェッ! 出ないはずだっ! それにしてもコインの大きさが同じというのも、どうなんだろう!?」
 男は妙なところで鬱憤(うっぷん)を晴らし、硬貨を投入した。ガチャン!! と音がし、缶が取り出し口へ落ちた。
「そら、そうだろう!」
 男はふたたび、妙なところで得心(とくしん)した。
 今日は、そんな、いつものことの四方山話でした。^^

                   完


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四方山(よもやま)ユーモア短編集 (2)開始

2021年08月30日 00時00分00秒 | #小説

 開始される前に、その場に到着しよう…とか、済ましてしまおう…と、考えるのは自然な流れである。しまった! と、うっかりして遅刻するという場合もあるのだろうが、フツゥ~は開始までに到着しよう! と少し早めにスケジュールを熟(こな)すものだ。私の場合も御多分に漏れない。開始までに早く到着すれば、当然、ゆとりめく気分となり、心もそうは乱れないだろう。と、なれば、四方山(よもやま)な予想外に起きる出来事にも冷静に対応や対処できるというものだ。まあ、時と場合によるのも確かだが…。
 今日は、第二話として開始にスポットを当てて描く四方山話(よもやまばなし)だ。^^
 とある試験会場である。
『…10:20だな…』
「はいっ!! 始めますっ! 問題用紙を開いて下さいっ!」
 呟(つぶや)きながら腕を見て開始時間を確認した試験官は、大声で会場全員の受験生に聞こえるような大声を発した。その声に呼応(こおう)するかのよう、長椅子へ横一列に着席している受験生達は一斉(いっせい)に裏返しされた問題用紙を引っくり返し始めた。試験の開始である。その中の一人の受験生、間抜(まぬけ)は、徐(おもむろ)に筆記具の入った筆箱をゴチャゴチャと選び始めた。他の受験生達は、待っていたっ! とばかりに、既(すで)に真剣な眼差(まなざ)しで筆記具片手に設問に取り組んでいる。だが、ゴチャゴチャしている間抜は未(いま)だに筆記具を選び切れないでいた。
『妙だっ! 確かに五本は入れたはずなのに、三本しかない…』
 これが、そのときの間抜の気分である。試験は既に始まっているのだから、筆記具に拘(こだわ)っている場合ではないのだ。それに、書ける筆記具が一本あればいい訳で、一度に数本、手に持って答案を書く必要はない。それが間抜には理解出来ない。いや、理解は出来ているのだが、五本に拘るあまり、試験が開始されされていることを忘れ去っていたのである。
 やがて試験は、経過時間の約半分、30分が過ぎ去ろうとしていた。半分が過ぎ去ったとき、間抜はようやく、あっ! と気づいた。それは消しゴムをフロアに落とした瞬間だった。
「しまった!!」
 間抜は、思わず大声を出していた。会場内の受験生達の視線が、一斉に間抜へ注(そそ)がれた。罰(ばつ)が悪い間抜は、思わずボリボリと頭を搔(か)き、愛想笑いを浮かべていた。そして、大声で、「ははは…試験は、もう始まってますよっ!」と言った。
 お前が言うんかいっ! である。皆さん、開始されれば、何事も! 集中してやりましょう!^^

                   完


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四方山(よもやま)ユーモア短編集 (1)暑いっ!

2021年08月29日 00時00分00秒 | #小説

 四方山(よもやま)とは四方(しほう)に展望できる山々のことである。要するに多くの山の意であり、四方山話といえば、多くのお話・・という意味になります。
 [四方の海 みな同朋(はらから)と 思う世に… (以下略)]  えっ! 最後まで詠(よ)まんかいっ! ですかっ?^^ では…。[など波風の 立ちさわぐらむ]と続く訳でして、そんな和歌をお詠みになったチョ~有名で偉いお方もおられた・・ということです。えっ!? そんなことは、どぉ~でもいいって?^^ …確かにそうです。では、その四方山話の最初として、第一話を書き始めることに致します。^^
 とあるどこにでも有りそうなフツゥ~家庭である。^^ この家の主(ぬし)である老人が流れる汗を拭(ふ)きながら、ブツクサと小言(こごと)を垂(た)れている。
「暑いっ! 実に暑いっ!」
 そこへ、現れなくてもいいのに老人の妻が現れた。
「夏が暑いのは、当たり前でしょ!」
「… まあ、そうだが…」
 老人は妻にからっきしで、頭が上がらない・・ということはなかったが、低かった。^^
「素麺(そうめん)が冷えてるうちに、ね…」
「ああ…」
 多くを語らなくても、両者には暗黙の了解が成立している。食べる物には目が無いのがこの老人で、腹が減っていたということもあり、一も二もなく従(したが)った。余談ながら、これは私にも言えることである。^^ 老人は風が時折りチリ~~ンと戦(そよ)ぐ座敷の縁側にドッペりと腰を下ろし、浴衣(ゆかた)を幾らか開(はだ)けたあと、パタパタと団扇(うちわ)を動かした。
「さあ! いただくとするかっ!」
 誰が聞くでもないのに、老人はひと言(こと)、そう呟(つぶや)いた。老人が箸に手を付けると、ガラス鉢の氷水(こおりみず)に浮かんだ素麺は、瞬く間に消え去った。恰(あたか)もそれは時代劇の居合抜きのようであった。お見事っ! という他はない早技(はやわざ)で、食べ終えたあと、老人はニンマリと、したり顔で北叟笑(ほくそえ)んだ。
「フフフ…まだまだ若い者(もん)には負けんわいっ!」
 まあ、そうなのだろう。^^ これが第一話の四方山な話である。^^

                  完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (100)程々(ほどほど)

2021年08月28日 00時00分00秒 | #小説

 甘(あま)くも辛(から)くもない程々(ほどほど)という加減が人の世では難(むずか)しい。格言(かくげん)めけば、━ 全(すべ)からく 中庸(ちゅうよう)をもって 良(よ)しとす ━ とかなんとか言うが、どうしてどうして、その程度が非常に難しいのである。時間だと頃合いと言うようだが、今日はこの短編集を終わるにあたり、甘くも辛くもない程々という得体の知れない程度を探ろうと思う。このクソ暑いのに…と思われる方は、水浴びなどされてはいかがだろう。^^
 とある関西の普通家族の一コマである。
「もうっ! 兄弟喧嘩(きょうだいげんか)は、ほどほどにしときっ! せっかく昼寝してんのに、寝られへんやないのっ!」
 母親の一喝(いっかつ)があり、小学生の兄弟二人は急に借り物の猫になってしまった。ニャ~~ァ…その後、沈黙ということである。^^
 五分後、弟が兄の耳元へ近づき、ボソッと小声で呟(つぶや)いた。
「兄ちゃんが悪いんやでっ! 数(かず)が奇数なら、フツゥ~余ったら自分が取るやろっ!」
「ほんなん誰が決めたんやっ! そこは『兄ちゃん、どうしよ?』やろっ!」
「どうしよて、余ったもんはどうもならんやんっ!」
「どうもならんかて、そこはひと言(こと)、訊(き)くべきやっ!」
 そこへ母親が団扇(うちわ)をパタパタしながら寝返り、ひと言、二人を攻めた。
「ほんまにもうっ! ほどほどにしときて言(ゆ)うたやろっ! お母ちゃんなっ! よう寝られんやったら、晩のオカズ作らへんでっ!」
「…と、ゆうことは、残りもんっ?」
「決まったぁ~るやないかっ!」
「兄ちゃん、決まったるみたいや…」
「…ほやな。ほどほどにしとこかっ!」
 ほどほどとはこんな感じで、甘くも辛くもなく収(おさ)まる人々の折り合いの程度なのである。
 私も、とうとう駄文を百話も書き連ねてしまったので、ほどほどにしよう! と思う。^^

                  完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (99)程度

2021年08月27日 00時00分00秒 | #小説

 程度も人によって、考え方の違いで甘(あま)い辛(から)いの差が出る。ある人ではこの程度なら…と、甘く大目(おおめ)に見てもらえた内容が、別の人だと、ダメダメッ! と叱責(しっせき)され、アウトになってしまう・・といった差になる訳だ。程度は、どの程度が…という線引きが難(むずか)しい目に見えない人の心だから、そのことをある程度考えた上で、ゆとりを持って臨(のぞ)む・・というのが、程度に怯(おび)えない私達の立ち位置だろう。ただ、その程度を考え過ぎるというのも程度がある。^^
 とあるコンビニ前である。二人の老人が今日もまた、飽きずにコンビニ弁当を買って店を出たところだ。
「やあ! よく、お出会いしますなっ!」
「そうですなっ! あなたもお弁当、買っとられましたなっ!」
「家の者(もん)に言われましたよっ! 『おじいちゃん、今日もコンビニ弁当!? 程度があるわよ!』ってねっ!」
「まあ身体を考えて、のことなんじゃないですかっ!?」
「ははは…。とは、思いますがねっ! 息子の嫁ですから、無茶なことも言えない。困ったものですっ!」
「いや、うちでも同じようなこと言われてますよっ! うちの場合は、言葉に険(けん)がありますっ!」
「『おじいちゃん、程度があるわよっ! 早死にしても知らないわよ!』って、こうですわっ!」
「辛(から)いですなぁ~」
「はいっ! もう、辛々っ!」
「なら、うちの程度だと、甘(あま)いってことですかっ?」
「はいっ! うらやましい限りですわっ! 程度を考えてっ! とも言えませんしなぁ~」
「ああ、はい。嫁舅(よめしゅうと)の関係が拗(こじ)れると厄介(やっかい)ですからなっ!」
「さようで…」
 二人は軽く頭を下げると左右に別れて歩き出した。
 程度は甘い辛いに関係なく、家庭問題にも波及(はきゅう)する訳である。^^

                   完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (98)望(のぞ)み

2021年08月26日 00時00分00秒 | #小説

 望(のぞ)みは、達成されやすい望みと達成されにくい望みに分かたれる。ただ、万分の一も望みがなくても、その望みが達成されないか? といえば実はそうでもなく、達成される場合もある訳だ。勝てる訳がないと思われた織田軍が今川の大軍を桶狭間[田楽狭間]で撃破した史実はそれを如実に物語る。逆に100%大丈夫と思えた望みが、儚(はかな)く潰(つい)えることもないとはいえないということだ。今日はクソ暑い最中(さなか)に、微(かす)かな涼(りょう)への望みを抱いて書き進めていきたい。^^
 とある銭湯(せんとう)である。二人の中年男が銭湯から上がり、冷えたコーヒー牛乳瓶を飲みながら、気分よく話をしている。
「いや、まだ、望みはあるだろっ!」
「相手は豚川(とんかわ)さんだよっ! 無理、無理っ!!」
「いやいや、こればっかりは分からんと思うがねっ、ははは…」
 そこへ、上がって服を着終えたもう一人の中年男が口を挟(はさ)んだ。
「… なんだか面白そうな話じゃないかっ! どういうことよっ!」
「いやなに…豚川さんがこのまま町に残るかって望みだよっ!」
「ああ、なるほどっ! まあ、餌(えさ)を撒(ま)きゃ、餌次第で分からんだろうなっ!」
「餌、次第か…」
「町長の決断次第だなっ! なにせ、大富豪の豚川さんだっ! 残ってもらえる、もらえないで、町の先が変わるからなっ!」
 三人は思わず沈黙し、冷えた瓶のコーヒー牛乳をグビグビっと飲み干した。
 辛(から)い望みも餌次第で甘(あま)く変わるようである。^^

                   完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (97)念

2021年08月25日 00時00分00秒 | #小説

 念が残れば残念となる。ということは、念が残らずスッキリと念じた自分の思いが通れば残念ではなくなる訳だ。^^ 念が無ければ、これはもう無念と呼ぶしかない。仕方ないか…と言える状態だ。^^ この念という心はいろいろな意味で良くも悪くも私達の生活に関係している。怨念(おんねん)と呼ばれる怖(こわ)ぁ~~い怨(うら)みの念もある。^^ まあ今日は、念の中でもいい話の念を書きたいと思う。^^
 とある小学校の校庭である。卒業を記念(きねん)して、生徒達の手による記念植樹が行われている。
「君達が大きくなる頃には、この下でいい花見ができるぞっ、きっと!」
「この木、そんなに大きくなるんですかっ!?」
「ああ。ほら、向こうの木なっ! あれは先生が君達の頃、植えた木だ…」
「そうなんだ…。じゃあ、全然、見えない向こうの向こうの木はっ?」
「あれかっ!? あれは、たぶん校長先生くらいが生徒だった頃に植えた木だな…」
「前の木に隠れて全然、見えませんねっ!」
「ははは…古くなりゃ、新しいのに隠れてしまうから、見えなくなるのさっ!」
「記念が薄まるんだっ!」
「薄まる? まあ、薄まりゃしないだろうが…。待てよっ! ははは…薄まるかっ! 年(とし)を取りゃ~ボケるもんなっ! 念を記しても年には…」
「先生! どう、ゆ~ことですかっ?」
「お前達には分からんでいい話だ、ははは…」
 辛(から)めに描いた念でも、年老いると甘(あま)めへと変化していく訳だ。^^

                   完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (96)歴史

2021年08月24日 00時00分00秒 | #小説

 今日は、お盆である。お盆の歴史がいつ頃から始まったのか? だが、そんなことはどうでもいいっ! ポクポクチンチンは、ちゃ~~んとやってるんだろうなっ! と言われる方もおられると思う。^^ まあ、確かにそうだな…とは思える。^^ 私も高校時代、古典サークルで部活をしていたこともあり、古典や歴史に関しては少し五月蝿(うるさ)いのだが、最近、テレビの歴史番組でもいろいろ登場しているところを見れば、歴史好きの方も結構、おられることが分かる。どういう訳か、やはり登場するのは、世界史ではなく日本史が多いのだが、観ていると、辛口の番組、甘口の番組があることに気づかされる。今日はその辺(あた)りを、のんびりと庵(いおり)で筆を運ぶように書いてみたいと思う。所謂(いわゆる)、吉田兼好法師の徒然(つれづれ)なるままに…の心境なのである。^^
 とある町にある多目的に使われる住民の集会場である。その中に敷設された長椅子に座り、老人二人がなにやら話をしている。
「どうなんでしょう?」
「なにがっ!?」
「歴史ですよ、歴史っ!」
「えっ? …歴史がどうかしましたかっ!」
「いや、最近の歴史番組を観てますとなっ! いろいろと耳よりな話が飛び込んできよりますが…」
「ああ、最近はどういう訳か、その手の番組が増えましたなっ! それが…?」
「いや、どうこうという訳ではないんですが、いろいろな説が飛び交ってますなっ!」
「ははは…甘口、辛口と、いろいろ飛び交ってますなっ」
「どう思われますっ!?」
「なにをっ!?」
「いや、いろいろな説を、ですよっ!」
「ははは…どうも思いませんなっ! 史実は一つですから…。私どもは過去に生きていませんから、知っている訳がないっ!」
「確かに…」
 訊(たず)ねた老人は得心(とくしん)したのか、頷(うなづ)いて黙した。
 歴史は辛くも甘くもなく、私達には分からない史実が存在するだけなのである。それにしても、いろいろな説を視聴するのは非常に面白い。^^

                   完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (95)妨害(ぼうがい)

2021年08月23日 00時00分00秒 | #小説

 今日は少しも面白くない話で恐縮です。^^;
 人はなぜ人の行為を妨害(ぼうがい)しようとするのか? が私には分からない。客観的に観ていると、そうしようとする意図(いと)がよく見えるからである。辛(から)く考えれば、作為のある犯罪だし、甘(あま)く捉(とら)えるなら、善意のために思わず良かれと思って成した行為となる。これとて、その人が果たして有難い…と思ってくれるかどうかは不透明なのである。迷惑に思っているかも分からないのだ。^^ だから、妨害するのはやめよう! という結論が導けることになる。妨害しても自分の値打ちを下げるだけで、何一ついいことはない筈(はず)である。^^
 とある病院の再診受付機の前である。一人の男が病院の中に入ってきた。目の前に見えるのは再診受付機である。男は瞬間、思った。
『あっ! 今日は、もう稼働しているな…』
 この男は土・日・祝祭日を除き、日々、病院へ通う患者だったから、再診受付機のことはよく知っていた。男は前に並ぶ人がいなかったから、馴れた手つきで診察券を受付機へと入れた。そのとき、一人の女性の声がした。
「おっちゃん! そんなことしたらあかんでっ! 待ったはる人があるんやから…」
 こんな経験をお持ちの方も、たぶんおられることだろう。^^ 男は、[1]並んでいる人がいない、[2]受付機が動いている・・という目の前の光景を瞬間、確認し、診察券を入れたのである。要は、何も間違った行為をしていた訳ではないということになる。座って待っていた老人、声をかけた女性を男は見たのだろうが、受付機が稼働しているのだから、もう受付を済ませた人か…と思っても致(いた)し方ない訳だ。
「すみません…」
 男は老人に謝(あやま)る必要がないにもかかわらず、思わず謝っていた。こうした場合の図式は、まあ、そんな大げさな話じゃない・・と言ってしまえば、それまでのことになる。ただ、犯罪構成の一要因ともなりますから、皆さんもご注意をお願い致します。^^

 ※ よくは分かりませんが、法学では、こうした行為を未必の故意と呼ぶそうです。^^

                   完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (94)職業

2021年08月22日 00時00分00秒 | #小説

 人の職業はいろいろとあるが、どの職業が偉(えら)いという性質のものではないとよく言われる。小難(こむずか)しく言えば、職業に貴賤(きせん)はない・・ということだ。汽船ということは船乗りかい? …などと軽く考えていただいても決して間違ってはいない。^^ 総理大臣だろうが店員さんだろうが、要は同じだということだ。だが、この差を世間は辛(から)く見る傾向があり、「あらっ! 財務省にお勤めでございますのっ!」と別世界の人間のように奉(たてまつ)る訳だ。派遣(はけん)くらいだと、「ふぅ~~ん…」くらいになってしまうのだから、腹立たしい。
 とある繁華街の一角である。メインストリートに堂々と店を構える老舗(しにせ)の尾猿屋(おざるや)は、江戸中期から続く格式高い和服[着物]の専門店として有名だった。
「いらっしゃいましっ! これはこれは、犬渕(いぬぶち)さまっ!」
 上得意の犬渕が店へ現れるやいなや、大番頭の水流(つる)は土下座するかのように頭(こうべ)を垂(た)れ、揉(も)み手で遇(もてな)した。
「いやいや…久しぶりに寄せてもらったよっ! 水流君っ! 何かいい出物はあるかねっ!?」
「犬渕様に気に入っていただける品がございますかどうか…」
 実のところ、水流は犬渕が大の苦手(にがて)だった。犬渕は今を時めく犬渕ホールディングスの総帥(そうすい)で、尾猿屋のオーナーでもあったからだ。
 そこへ入ってこなくてもいいのに、この街の小会社に出向してきた社員の芥川(ごみかわ)が入ってきた。
「あの…」
「はいっ! なんでございましょう?」
 嫌なときに客が現れたな…と鬱陶(うっとう)しそうな眼差(まなざ)しで水流は芥川を見た。
「私に合いそうな浴衣(ゆかた)は、ありますでしょうか?」
「浴衣でございますか? …私どもでは、そのような下世話(げせわ)な品は取り扱ってございません…」
 その男の服装から職業を査定し、見下すかのように水流は言い捨てた。大番頭の水流には、長年の間に培(つちか)われた職業勘が備わっていたのである。
「ああ、そうでしたか…どうもっ!」
 その男はペコリと頭を下げると店を出ていった。皆さん! ここで質問です。水流の取った態度は正解だったのでしょうか?^^ 実は不正解で、この男は犬渕ホールディングスのメイン出資者という別の一面の職業を持っていたのだ。
 私達の職業は、甘くも辛くも分かり得ない一面を有しているのである。^^

                   完


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