水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第三百八回)

2011年04月30日 00時00分00秒 | #小説

 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第三百八
 それから十日後、煮付(につけ)先輩が云っていた第ニ次小菅(こすが)改造内閣が発足した。私はその様子をマンションの自室テレビで観ていた。呼び込みがあるとの事前情報が入った前回とは違い、この日は楚々とした気分で冷静に画面を眺(なが)められた。先輩から入閣はない旨を知らされていたからだ。そして、全閣僚の名簿が発表されたとき、私は一塊の国民へと戻っていた。なぜか虚(むな)しさとか寂しさはなかった。というのも、世界の、いや、人類のと云っていいかも知れない偉大な仕事をなし終えた…という充実感の方が数倍、勝(まさ)っていたからである。閣僚名簿を読んだ先輩は、言葉どおり官房長官を留任して内閣へ残った。農水相のときも体験済みの私だったから、Uターン準備も慣れた手際で進み、その二日後、私は東京を離れた。ただ、小菅総理から官邸へ直接、呼ばれ、内閣総理大臣賞と国民栄誉賞の菊紋入り銀杯と賞状、記念品を頂戴したのが前回とは大きく違った。私は、これですべてが終わった…と思った。
 久しぶりに故郷へ戻ったが、眠気の町はちっとも変わっていなかった。ただ、私は過去の一町民ではなく、町あげての歓待を駅前で受けたのだった。少なからず照れくさい気分で、私は花束を目覚彦一(めざめひこいち)町長から受け取っていた。
「いやあ、ははは…ご苦労さまでございました、塩山さん。あなたを名誉町民と致しましたからな…。近く、この駅前に、あなたの銅像も立ちます」
「えっ?! はあ、どうも恐れ入ります…」
 目覚町長にうやうやしい労(ねぎら)いの言葉をかけられ、私はそう返すのが精一杯だった。どういう訳か、国連演説のときよりも私は緊張していた。


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スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第三百七回)

2011年04月29日 00時00分00秒 | #小説

 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第三百七
 沼澤氏のことは、さておき、私は会見中継されたことにより、すっかり有名人になってしまった。日本国内ばかりか世界各国でも中継の様子はマスコミに報じられ、私は地球規模で有名になったのだった。ただ、そのこと自体は私にとって、どうでもよかった。気がかりだったのは、会見場で見た沼澤氏らしき人物のことだった。だが結局、沼澤氏はその翌日以降も現れず、会見場で見た、らしき人物の一件は地球語科目化後の諸事で私の記憶から薄れていった。
「どうやら改造へ傾くぞ、塩山。お前さんも今じゃ、世界の塩山だ。俺は留任らしいが、お前さんは外れるだろう…。まっ、この辺りが引く潮どきだろう…」
 官邸へ呼んだ煮付(につけ)先輩が私にそう云った。小菅(こすが)総理に官邸へ呼ばれ、私に伝えるよう指示されたらしかった。そんなことより、先輩が「お前さん」と「さん」づけで呼んでくれたのがピュアに嬉しかった。ついに私も「お前」から「お前さん」か…と感慨深かった。
「そうですね。地球語も片づきましたし、私も少し疲れましたよ、先輩。正義の味方は、ここら辺で疾風(はやて)のように消えないとね」
「ははは…、上手い! 最近、減ったからなあ、正義の味方が。自分さえよけりゃいい人間ばかりが増えちまったよ。また、そういう奴らがのさばれる悪世だからなあ…」
「はい、それは云えます…」
「ところで、どうする? 今後は。眠気(ねむけ)へ戻るか?」
「はい、そのつもりです。家がありますから…」
「そうか…。そうだな! お前さんも嫁でももらって小さく纏(まと)まれ! なっ! 今なら有名人だから選(よ)り取(ど)り見取(みど)りだぜ」
「またまた、悪い冗談を…」
 私達は久しぶりに大笑いした。


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スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第三百六回)

2011年04月28日 00時00分00秒 | #小説

 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第三百六
「その時になってみないと分かりませんが、たぶん、会社じゃないかと…」
 そう云いながら笑みを浮かべた。そして後方のガラス越しに中継を見る一般群衆へ何げなく目を向けた。すると、なんと! その中に、あの沼澤氏が混ざって私を見つめているではないか。一瞬、私は自らの眼を疑った。しかしどう見ても、風格、容貌は消えた霊術師の沼澤氏だった。いや、いやいやいや、沼澤氏が東京に今、いる訳がない! と、私はすぐ全否定した。だが、よく考えてみれば、眠気から消えた沼澤氏が偶然、東京のこの会場にいたとしても何の不思議もなかった。私はすぐ、立ちながら眺(なが)める群衆の方へ行きたくなった。しかし会見が終わっていない以上、急に立つことも憚(はばか)られた。
「よろしいでしょうか? …それでは、これで会見を終わらせていただきます。大臣、お忙しい中を、どうもありがとうございました」
 全国へ多元中継された会見は、これで終了した。ガラス向うの群衆は、蜘蛛の子を散らしたように消えていった。私は慌てて立つと、沼澤氏らしき人物を追ったが、その姿はすでに辺りにはなく、私は見誤りだったのか…と思う他はなかった。まあ、他人の空似という言葉もあるくらいだから…と、深くは考えないことにし、私は待たせた車へ乗り込んだ。


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スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第三百五回)

2011年04月27日 00時00分00秒 | #小説

 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第三百五
「…失礼しました。正直申しまして、過分の受賞でございまして…」
「…と、申されますと?」
「はい。ですから、私にとりまして、ノーベル賞などという賞を頂戴するのは誠にもって、おこがましい限りでして…。しかも、平和賞を頂いただけでも過分でございますのに、無学の身に医学賞を併せて頂けますとは…」
 多少、上がっていたこともあったのだが、それ以上に私は感、極(きわ)まっていた。進行役のアナウンサーが、「次の方、どうぞ」と云った。
「読富士(よみふじ)新聞の朝月(あさづき)です。近々、小菅(こすが)総理が内閣改造をされるとの情報が巷(ちまた)に流れておりますが、その点については?」
「いやあ…そうなんですか? こちらがお訊(き)きしたいくらいのもので、まったく知りません。皆さんの方がよくご存知ですねえ」
 私は嫌味をひとつ吐いた。これが功を奏したのか、それ以上、朝月さんは突っ込まなかった。私としては、やれやれで、してやったり・・だった。
「お時間も遅くなってまりました。これで最後にしたいと存じます。どなたか?」
「はい、毎回テレビの矢吹です。先ほどの質問に関連してなんですが、改造内閣で入閣されなかった場合、いかがされるご所存でしょうか?」
 核心を突く鋭い質問が私に浴びせられた。


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スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第三百四回)

2011年04月26日 00時00分00秒 | #小説

 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第三百四
 受賞式は年も押しつまった頃、とり行なわれた。そして式も滞(とどこお)りなく済み、私は東京へとUターンした。空港へ降り立つと、国外ではまったくなかったフラッシュの放列を浴びた。それは飛行場から移動した駐車場で、車から降りた直後の暗闇だった。記者会見場がセットされていたにもかかわらず、歩く通路で記者達から矢継ぎばやの質問が飛んできた。私は、「ああ…それは、のちほど…」などと口走りながら報道陣を押し退(の)けるように控え室へと退避した。もちろん、露払い役の秘書やSPが私の前後や横にいたことで直接、押されるとかはなかった。
 控え室のドアを閉じ、ようやく人心地つくことが出来た。その時お告げが舞い降りた。
『おめでとうございます。今日は会見があるようですから後日、改めて伺います』
 お告げとしては、もっともシンプルで短いものだった。こちらから返す間(ま)もなかった。その後、私はセッティングされた記者会見に臨んだ。大よその質問は予想できていた。備わった霊感が多少、向上したように自分にも思えた。
「PA通信の黒豆(くろまめ)です。W受賞のご感想をひと言!」
 私は思わず吹きだしそうになった。黒豆はないだろう…と笑えたのだ。


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スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第三百三回)

2011年04月25日 00時00分00秒 | #小説

 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第三百三
 ママの声がしなくなったと思ったら、今度は早希ちゃんの声が響き始めた。どうやら、ママが携帯を早希ちゃんへ渡したようだった。
「あっ! 私。おめでとう、満ちゃん。ほんと、すごいわ。私、惚れなおしちゃった」
「またまたまた…、上手いこと云うな、早希ちゃんは。その手は桑名の焼き蛤(はまぐり)だ」
「ワォ! 満ちゃんこそ上手いじゃない」
「もう…。これくらいで勘弁してくれよ。疲れてんだからさぁ~」
「分かった分かった、ゴメンゴメン。じゃあ切るわね~」
 ママの声も小さく聞こえたところで、早希ちゃんは携帯を切った。早希ちゃんに云ったのは本当で、私はすっかり憔悴(しょうすい)しきっていた。というのも、TSS免疫ワクチンの一件で忙殺されたことと、今度のノーベル賞決定によるメディアの取り巻きによるものだった。よく考えれば、ノーベル平和賞は、ともかくとして、何の医学知識もない私が医学賞も受賞するのは妙だ…と思えていた。私が玉のお告げをそのまま口にした結果、土壌よりTSS免疫ワクチンが開発されただけのことなのだ。いくらそれによって人類が救われたにせよ、少し騒ぎ過ぎのように思えた。しかも、初めてのダブル受賞ともなれば、これはもう完全に、地球上で私一人が浮き上がった存在になった気分だった。


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スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第三百ニ回)

2011年04月24日 00時00分00秒 | #小説

 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第三百ニ
「味見(あじみ)厚労大臣がおっしゃられたように、国民への必要本数は十分確保できる見込みですので、慌(あわ)てずにワクチン接種していただきたく存じます。私からは以上です…」
「そうですか。おふた方、本日はお忙しいところを、どうもありがとうございました。これにて報道特別番組を終わります」
 こうして放送は終了した。ゴールデンタイムの放送と差し迫った危機感からか、視聴率は、なんと80%を越える高率を叩きだした。これは国民の大多数がこの番組を観たことを物語っていた。
 とにかく、テレビやラジオ、新聞などで情報開示(ディスクローズ)することにより、国内のパニックは食い止められた。こうしたメディア報道で私の知名度は世界規模で益々、高まっていった。こうなれば、私はすでにただの一国民ではなかった。私の名声は、耐性ウイルスがTSS免疫ワクチンにより完全に世界から駆逐され、パンデミックスの終息宣言がWHOから出されるに及んで極限に達した。季節は春が過ぎ、夏が来て、秋も終盤の病葉(わくらば)が散り始めた頃だった。秘かに囁(ささや)かれ続けていたノーベル賞の受賞ニュースが耳に飛び込んできたのは丁度、その時期であった。
「満ちゃん、観たわよ、テレビ…。あんた、すごいじゃない! ほんと、あんたはすごい! ノーベル平和賞と医学賞のダブル受賞なんて、あんた前代未聞! 過去にあったかしら? …ないわよねえ~、たしか。あんたさ、ほんとにすごい、立派! もぉ~、うちのお客でよかった!」
 ママから携帯をかけられ、出たのが運の尽きで、私は、長々とベタ褒(ぼ)めされる破目に陥(おちい)っていた。「はあ、まあ…」、「ははは…」、「ありがとうございます」を何度となくサイクルで繰り返した。


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スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第三百一回)

2011年04月23日 00時00分00秒 | #小説

 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第三百一
 そうこうするうちにテレビ局に着いた。放送は対談形式で行われると車内で秘書が説明してくれていた。車を降りると、局長以下、担当プロデューサー、ディレクターなど錚々(そうそう)たるメンバーのお偉い方がエントランスで迎えてくれた。こんなにしてもらわなくても…と、少し照れくさかった。
「控え室は、こちらでございます…」
 うやうやしい態度でディレクターは私を控え室へ案内した。味見大臣はすでに到着し、座っていた。メイクとまではいかないハレーション避(よ)けの顔クリームを軽く塗り、放送に臨(のぞ)んだ。放送の十分ほど前だった。
「おふた方、思いどおりにお話し下さって結構でございます。特に、こちらからの指示などはごさいません。ただ、放送終了五分前にADがカンペを出しますので…」
 ADらしき青年がカンベ用紙を手で示し、ペコリと頭を下げた。ああ、この人がADだな…と思った。その後、質問をする女性アナウンサーが紹介され、収録が始まった。映される私にとっては、生番組でないのが唯一の救いだった。
 収録は順調に進んでいった。そして放送終了五分前となり、カンペがADから出た。
「最後に塩山大臣、国民の皆さんに対し、何かおっしゃられることがあれば…」


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スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第三百回)

2011年04月22日 00時00分00秒 | #小説

 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第三百
「えっ?! …ああ、まあ」
『今日は大玉様のご意思をお伝えしようと、現れたような次第です』
「はあ、それはどうも…」
 お告げと私の間の心話が始まった。心話だから前の座席で運転をする秘書には聞こえない。飽くまでも心の会話であり、口は閉ざされたままだ。
『大玉様が申されるには、ここまでの道筋をつけてやったのだから、あとは塩山さん、あなたの力でどうにでもなるだろう…ということです』
「それは分かりますが、だから私にどうせよとか、仰せになったのでは?」
『いいえ、そこまでは申されておりません。今までのあなたなら、そんなお言葉もあったのでしょうが…』
「大玉様は、もう私に関与されないということでしょうか?」
『その辺りは私には分りかねますが、この後はあなたの力次第だと申されたかったのでしょう、恐らくは…。私を呼び出せるようになった、あなたなのですから…』
「そういうことですか…」
『ええ。まあ、そういうことです』
 なるほどなあ~と、私は得心した。要するに、あとはお前次第ということのように第一感、思えた。ただ、それがどうだというんだ、と私は巡った。そんなことだけで態々(わざわざ)、私の前へ現れる必要などあるのだろうか? とも思えた。


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スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第ニ百九十九回)

2011年04月21日 00時00分00秒 | #小説

 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百九十九
 一躍、脚光を浴びるようになった私は、新聞だけでなく、週刊各誌、テレビを賑(にぎ)わせることになっていった。こうなれば、外出する場合にも人目を気にせねばならなくなる。スターではないが、ある時など、親子連れで歩く母親から、「あら! 塩山さんだわ、文部科学大臣の…。サイン下さい!」などと云われた。私はスターじゃないんだから…と思えたが、断る訳にもいかず、素直に応じる他はなかった。素早く書き終えて手渡すと、他にも数人の通行人がこちらを見ていた。私は逃げるように慌ててその場を去った。多くの芸能人の方々も、こんなご苦労があるんだろうなあ…と、ふと、思えた。
「大臣、お急ぎ下さい。テレビ対談が三十分後にセットされておりますので…」
「ああ! そうだったね…」
 車へ慌てて乗り込んだ私は、テレビ局へと向かった。むろん、私は後部座席であった。
「君、今日の話は何だっけなあ?」
「もちろん、TSS免疫ワクチンの話です」
「そうだった、そうだった…」
 思い出した私は、心を落ちつけようと、静かに両眼を閉ざした。その時、お告げが舞い降りた。
『なかなかお忙しくなりましたね、塩山さん』
 突然のことで、私は聊(いささ)か、面食らっていた。


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