水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <33>

2024年07月21日 00時00分00秒 | #小説

 このとき、Й3番星から来た異星人は地球は人類に任せてはおけない…と考えていた。ただ。乗り移った鳩村には、その心理を伝えてはいない。鳩村がうっかり、そのコトの重大さを暴露でもしようものなら、Й3番星から命じられ偵察に来た自分の使命が果たせなくなるからだった。五体のミイラが車内から発見された一件でも、どのように人類が処理するかを観察する目的で放置したのである。元々、五体のミイラは古い遺跡から空間移動させたもので、警察が事件視するような遺体ではなかった。そのことを麹町署の庭取副所長、手羽崎管理官を始め、署内の誰もが考えてはいない。それも当然と言えば当然の話だった。奥多摩山中の庵に住む祈祷師の老婆も、実はЙ3番星から偵察に来た異星人の先遣者が乗り移っていたのである。
「あの…署長はラーメンお好きでしたっけ? 今までオカメへお入りになるの、見たことがなかったもので…」
「ああ、好きですよ。ただ、署員達の手前、大っぴらにはしてなかったんですがね…」
 鳩村に乗り移った[憑依した]Й3番星から来た異星人は一瞬、ギクリ! とした。Й3番星から来た異星人はオカメのラーメンが好物だったのである。^^
「ははは…そうなんですか」
 口橋は軽く受け流し、鳩村に乗り移った[憑依した]Й3番星から来た異星人は、ホッ! と安息の息を漏らした。
「それはそうと、消えたミイラがどうなったか? ですが、どうも公安が絡んでるようなんですよ…」
 真実は人間の反応の観察を終えたЙ3番星から来た異星人が、元の遺跡へ空間移動させたのである。
「消えたのも・・ですか?」
「ええ、検体からウイルスが発見され、秘密裏にとある地へ埋葬されたらしいんです…」
「署長はその情報をどこから?」
「んっ! ああ、まあ立ち話もなんですから、詳しい話はそこの茶店ででも…」
 三人は道近くにあった[お多福]と書かれた喫茶店へ入っていった。^^


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <32>

2024年07月20日 00時00分00秒 | Weblog

 ところが、どういう訳か鳩村署長は二人が後を追ってくることを予見していた。いや、鳩村が予見していたというより、鳩村に乗り移った[憑依した]Й3番星から来た異星人が予見していたと言った方がいいだろう。
『口橋君と鴫田君は間もなく来るな…。よし、ここで待っていよう』
 鳩村は警察から失踪した理由を考えていた。その理由とは、署長自らミイラが消えた真相を調べていた・・というものだった。無論、その理由は二人を欺(あざむ)くための異星人の詭弁(きべん)なのだが…。
 五分後、口橋と鴫田は鳩村に追いついた。
「やっぱり署長だっ! 署長~っ!!」
 鳩村の姿を遠目に認めた口橋は片手を振りながら走った。鴫田も当然、走った。
「やあっ! 口さんですかっ!」
「…いったい、どうされたんですっ!? 署内じゃ、署長が消えたって大騒ぎになってますよっ!」
「ははは…いや、申し訳ない。実は私も現場捜査に参加しようと思いましてね」
「現場捜査は私らがやりますからっ! 署長はドッシリ構えて陣頭指揮をお願いしますよっ!」
「口さんが言うのも、もっともなんですね。今回はフツゥ~の事件じゃないでしょっ! ですから…」
「公安がらみ、ってことですか?」
「さあ…私にはよく分かりません」
 Й3番星から来た異星人が乗り移った[憑依した]鳩村は逃げを打った。


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <31>

2024年07月19日 00時00分00秒 | #小説

 二人が特製大盛りラーメンをズルズル~っと音を立てて食べ始めて数分したところで、オカメの店主が訊ねるでなく声をかけた。
「確か…あんたら、警察の人だったね…」
「ああ、そうですが…」
「ほん今まで、ここに座っていた人も警察のお偉いさんでしたよ」
「警察の?」
「ええ、麹町署の署長さんとか言ってらしたが…」
「本当かいっ!!」「ええっ!」
 二人は思わず顔を見合わせた。
「どこへ行くとか言ってられませんでしたか?」
 口橋が箸を置いた。
「いや、そこまでは…」
「どっちへ行かれました?」
 鴫田は麵を啜りながら訊く。
「右手へ歩いて行かれたと思いやすが…」
「おい、行くぞっ!」
 口橋が鴫田の肩を軽く叩いて急かす。鴫田は名残惜しそうに半ば食べ終えたラーメン鉢を見ながら立った。
「親父さん、ここへ置いとくっ!」
 口橋は勘定をカウンターに置くとオカメを飛び出した。鴫田もあとに続いた。
「気の早いお方だ…。ほん今、といっても十分以上前なんだが…」
 オカメの店主はニンマリと哂(わら)った。


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <30>

2024年07月18日 00時00分00秒 | #小説

 その頃、鳩村は口橋がよく出入りするラーメン屋のオカメで特製大盛りラーメンを食べていた。だが、鳩山はハプニングさえ起きなければ、来年三月の人事異動で警察庁へ返れる・・という未来を忘れていたのである。鳩村はただの署長になり果てていた。鳩村の体内には彼の記憶の一部を喪失させたЙ3番星から来た異星人が潜んでいた。むろん、そのことを鳩村自身は認識していない。実のところ、五体のミイラが発見されたのも署内の霊安室から忽然と消えたのも、このЙ3番星から来た異星人が関与していたのである。
 口橋と鴫田がラーメン屋へ入ろうとしたとき、Й3番星から来た異星人が乗り移った[憑依した]鳩村は、ちょうど勘定を済ませて店から出た直後だった。
「…おいっ! あれ、署長じゃねぇ~か?」
「ははは…署長がこんなラーメン屋へ入る訳ないじゃないですか…」
「ああ、そう言われればそうだな…。後ろ姿がよく似てたが…」
「年恰好の似た男は大勢いますよ、口さん」
「そらそうだ。署長は制服だしな、ははは…」
 二人はオカメの暖簾を潜ると、どういう訳か鳩村が座ったカウンター席へ座っていた。これも、Й3番星から来た異星人が引き起こした小細工だった。
「婆さん、妙なことを言ってたな、鴫田…」
「ええ、署長さんに詳しいことは訊いて下さい・・でしたか?」
「だったな…」
「署長がコトの真相を知っておられるってことですよね…」
「ああ…」
「とすれば、とにかく署長を探すことに全力を尽くそう!」
「はいっ!」
「へいっ! 特製大盛りラーメンっ!」
 鴫田の返事と同時に、店の店主が特製大盛りラーメンを二人の前へ置いた。


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <29>

2024年07月17日 00時00分00秒 | #小説

「ミイラは消えるわ署長が消えるわでは、話にならないじゃないですかっ!」
 鴫田が突然、絶叫したような声を出した。 
「ともかく、全てが消えた地点はこの署内だってことは疑う余地がないっ!」
 口橋が理詰めの考えを呟いた。鴫田は、それは当たり前でしょ! とは思ったが、とてもそんなことは言えなかった。
「では今、ミイラや署長はどこなんですっ!?」
「鴫田、それは簡単な話だ。すべては俺達が想像もつかない無い地点に存在しているのさ…」
「無い地点って!?」
「ははは…それが分かりゃ~なっ。まあ、いいさ…おいっ! いくぞっ!」
 何がいいのか分からないが、口橋の脚は動き始めていた。^^
「口さん! 待って下さいよっ!」
 鴫田は口橋の後を慌てて追った。二人が立ち去るのを手羽崎は呆然と見送る他なかった。
『署長っ! かくれんぼ、してないで出てきて下さいよ…』
 これが手羽崎の偽らざる思いだった。
 その頃、忽然と消えた署長の鳩村は、国土地理院の地図上には無いとある地点で、署内で展開する騒動の一部始終を眺めていた。だが、その事実は口橋が仄(ほの)めかした以外、誰も知らない。それは異星人が作り出した実際には無い地点だった。
 さて、ここは麹町署の外である。口橋が向かったのは、よく出入りするラーメン屋、オカメだった。腹が減っていたのだ。^^
「口さん、どこへっ!?」
「どこへっ? って決まってるだろうが、オカメよっ! お前、よく腹が減らねぇ~な?」
「あっ! そういや、何も食ってませんでした…」
 鴫田はボリボリと頭を掻いた。


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <28>

2024年07月16日 00時00分00秒 | #小説

「様子を見るって、それまで私ら、どうしてればいいんですっ、管理官っ!?」
 口橋の鋭い追及に手羽崎はバタバタと羽根を動かすでなく、苦笑して片手で頭髪を撫でた。^^
「私に訊かれても…。ともかく、今後の捜査方針は庭取さんと詰めますよ…」
「それにしても署長、どこへ行かれたんでしょうね?」
 鴫田が口橋の横から訊ねた。
「そうだな…。まさか、神隠しに遭われたってことは…。いやいや、そんなことはないな、ははは…」
 口橋は小さく哂(わら)ったが、顔は引き攣(つ)っていた。
「ミイラの消滅といい、署長の行方知れずといい、私にはどう考えていいのか分かりません…」
「管理官が分からないんですから、私らにはサッパリです…」
「あなた達は刑事なんだから、目星とかそういうのは浮かばないんですか?」
「署長は行方知れずになる前、署内におられたんですよね、管理官?」
「はい、庭取さんからそう聞いておりますが、それが何か?」
「だって、怪(おか)しいじゃありませんか、署内で消えるっていうのは…。ここは治安の最前線の警察ですよっ! 最後に署員が署長を見た場所は?」
「煎餅を買って戻られたとき、エントランスで立哨警備していた署員が見たということです」
「ということは、署内におられたんだ…」
 鴫田が話に加わった。
「だな…」
 口橋は小さく頷いた。


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <27>

2024年07月15日 00時00分00秒 | #小説

 口橋と鴫田が麹町署へ戻ると、署内の空気は一変していた。
「偉いことだよ、口橋さん…」
 手羽崎管理官が口橋の姿を見るや、息を切らせて走り寄ってきた。
「どうされたんです、管理官?」
「署長が消えたんだよっ!」
「!? …消えたというと?」
「昼前は署長室におられる姿を見た者もいるんだが…」
「どこかへ急用で行かれたんじゃないですか?」
「それが…携帯でも連絡が取れないんだ」
「副署長は?」
「それが…庭取さんもご存じないんだ。弱ったよ…」
「はあ…」
 口橋は管理官のあんたが弱ってどうすんだよ…とは思ったが、そうとは言えず、取り敢えず短い相槌を打った。
「署長が行方不明というのも、いかがかと…」
 それまで二人の会話を聞く人になっていた鴫田が、重く口を開いた。
「鴫田が言うとおりですよ、管理官。現場の指揮にも関わりますし…」
 口橋が鴫田を援護した。
「ああ、そらそうなんだが…」
「副署長は何と言っておられます?」
「庭取さんは、もう少し様子を見ようかと…」
 手羽崎は小声で返した。


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <26>

2024年07月14日 00時00分00秒 | #小説

 口橋は覆面パトのエンジン・キーを捻った。
「はいっ!」
 鴫田(しぎた)は、急ぐって、運転してるのは口さんでしょ!? とは思ったが、とてもそんなことは言えず、素直に返事した。
「署長に訊けって、どういうことだ、鴫田」
「さあ…」
「署長が婆さんを知っていたとはな…。署では億尾(おくび)にも出さなかったぞ…」
「そういや、そうですよね。そこが妙だといえば妙なんですよ」
「だいいち、合同捜査本部の立ち上げを了承したのは署長なんだしな…。新任の鵙川(もずかわ)が捜査から外されたっていうのも気になる…」
「庭取さんは、どうなんですかね…」
「どうとは?」
「副署長なんですから、何か鳩村さんのことを知ってられるんじゃないですか?」
「婆さんに言わせれりゃ、署長は天から降りてこられた尊いお方ということになるからな、ははは…」
 口橋は祈祷師の老婆の言ったことを、まったく信じてはいなかった。
 覆面パトは一路、青梅街道を麹町署へと、ひた走った。


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <25>

2024年07月13日 00時00分00秒 | #小説

「あっ! もしっ!!」
 二人が庵(いおり)の外へ出た瞬間、老婆が大声で呼び止めた。二人の脚は今まで聞いたこともない老婆の大声に、ピタリ! と止まった。いや、止められたと言った方がいいのかも知れない。二人は後ろを振り返った。庵の前には老婆が立っていた。
「一つ、言い忘れましただ…。お帰りにならっしゃいましたら、鳩村様に老婆がよろしゅう言ってたとお伝え下せぇまし…」
「署長とは、どのような?」
「あのお方は全てをお知りになっておられる崇高なお方でしゅじゃ~」
「はぁっ!」「…」
 口橋は驚きの声を上げ、鴫田は無言で驚いた。
「なにもそのよう驚かれることはごじゃりましぇん。鳩村様はあの彼方から来られた尊い方ですじゃ。ミイラは今も生きておることをご存じのはずですじゃ」
「どういうことです? 消えたミイラが生きておるとは?」
「初めから五体のミイラなどいなかったということでごじゃりますよ」
「それじゃ、我々は何の捜査をしておるのですかっ!?」
「お婆さん・・いや、ご祈祷師様、ならば、署長はなぜ捜査本部を立ち上げたのですかっ!?」
 口橋が声高に訊ね、鴫田が続いた。
「フフフ…詳しいこたぁ、署長でいらっしゃいます鳩村様にお訊ね下せぇ~まし」
 老婆の怪しげな嗤(わら)いに、二人は背筋に悪寒が走る思いで凍りついた。


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ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <24>

2024年07月12日 00時00分00秒 | #小説

 老婆が指さした庵の斜め上空・・それは、いったい何を意味するのか? 口橋と鴫田は、しばし考え込んだ。だが、空の彼方へミイラが消えるなどということは、地球上の三次元世界の科学で起こる訳がなかった。
「お婆さん、どういうことです?」
 口橋は、しばらく考え込んだあと、訝(いぶか)しげに訊ねた。
「その、お婆さん・・という呼び方、やめて下しぇ~~まし」
「では、どのように?」
「ご祈祷師様・・で、よろしゅうごぜぇ~ましゅ」
「・・では、ご祈祷師様、上空とはどういうことでしょう?」
「フッフッフッ…怪(おか)しいことをお訊きになるお方ですのぉ~。遥か彼方の方向でごぜぇ~ますだ」
 刑事としては、そんな瞞(まやか)しを信用することなどとても出来ない。口橋は鴫田に視線を送ったが、鴫田も返す言葉がなく、二人とも押し黙ってしまった。
 老婆の話を信用すれば、五体のミイラは忽然と霊安室から消滅したことになる。これは地球科学を否定した超常現象で、捜査を否定する以外の何物でもなかった。口橋は、やはりこの庵へ来るべきじゃなかった…と後悔した。
「いや! ご祈祷師様が仰せになった内容は、よく分かりました。では、これで…」
「そうでごじぇ~~ますか…」
「口さんっ!」
「鴫田、いいんだっ! おいっ、行くぞっ!!」
 口橋は鴫田を促し、庵の外へ出た。


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