水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 秋の風景(第四話) 遺伝

2009年10月31日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      秋の風景
      
(第四話)遺伝

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  
   N      ・・湧水正也

1.居間 夜
   タイトルバック
   着物姿の恭之介。開襟シャツにズボン姿の恭一。どってりと畳上の座布団に座り、将棋を指す二
人。盤面に眼を釘づけにする二人。
   テーマ音楽
   タイトル「秋の風景(第三話) 遺伝」
   キャスト、スタッフなど
   唐突に、恭一の頭を見る恭之介。
  恭之介「お前…年の割には白髪(しらが)もなく、禿(はげ)もせんな」
  恭一  「えっ? ははは…。そのうち、父さんみたいになりますよ」
  恭之介「そうかぁ?」
  恭一  「ええ…間違いなく。遺伝的なものがありますから…」
  恭之介「そうとは限らんだろう…」
  恭一  「まあ…そうとは限りませんが。…王手!」
   突然、手を動かし、駒を摑むと音も高らかに盤面へ打ち据える恭一。ギクッ! として、盤面へ
眼を落とす恭之介。
  恭之介「ウッ! …しかし、相変わらず付和雷同だな、お前の性分は…」
  恭一  「そうかも知れません」
  恭之介「やはり、付和雷同だ。そこは、『いいえ、違います』だろうが?」
  恭一  「はあ…(恐縮して)」

2.台所 夜
   台所テーブルの椅子に座りテレビを観る風呂上がりの正也。テレビのスイッチを切る正也。恭之介
と恭一が将棋を指す様子を、美味
   そうにジュースを飲みながら遠目で眺める正也。冷蔵庫からビ
ール瓶を出し、ツマミ、コップ(2)とともに盆に乗せる未知子。盆を手に
   居間へ向かう未知子。
  N   「今夜も将棋の大一番が展開する居間である」

3.居間 夜
   盆を手に、居間へ入る未知子。
  未知子「お義父さま、ビールとおツマミ、ここへ置いときます」
   盆を長机に置く道子。
  恭之介「あっ、道子さん。いつも、すまないですねえ」
  恭一  「俺のコップは?」
  未知子「あなたの分も、あります!」
  恭之介「そんなこと訊くか? 普通…。忰(せがれ)とはとても思えん。儂(わし)なら当然、持ってきて下
さったと思う。これが双方の信頼
       関係だ。お前、儂の遺伝子を持ってる筈なんだがなあ…」
   渋い表情の恭一。聞いていない態で、微笑みながら台所へ向かう未知子。

4.台所 夜
   台所へ入る未知子。
  未知子「正也、もう寝なさいよ…」
   洗濯機を見ようと、そそくさと通り過ぎる未知子。
  正也  「うん…」
  N   「母さんがバタバタしているのは家事であり、遺伝によるものではないだろう」

5.居間 夜
   禿げ頭を手の平で、こねくり回す恭之介。
  恭之介「いや~、今日は参った、惨敗だ。頭がいいのも儂の遺伝か?(顔を赤らめ、笑顔で小笑いし
て)」
  恭一  「はい、そのようです…(小笑いして)」

6.台所 夜
   恭之介と恭一の笑顔で話し合う姿(無音)。それを見る正也。コップを手に椅子から立つ正也。炊事場
でコップを洗う正也。台所を去
   る正也。

7.居間 前廊下 夜
   前廊下を歩く正也。首筋を同じ仕草で撫でる恭之介と恭一。ニタリと笑いながら部屋へ向かう正也。
  N   「これは遺伝によるものに違いないと思った」
   電灯の光を受け、輝く恭之介の頭。
  N   「光沢を放つじいちゃんの頭。こんな頭に父さんがなるのが大いに楽しみだ」
   F.O
   タイトル「秋の風景(第四話) 遺伝 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「秋の風景(第四話) 遺伝」をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《修行③》第二十四回

2009年10月31日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《修行③》第二十四回
 木刀は左右の薪束の僅かな隙を衝(つ)いて、見事に振り下ろされていた。この寸分の掠(かす)りもない振り下ろしの剣筋は、その後
の左馬介の剣技に新たな展開を可能にすることとなる。
 この日の朝、堀川道場では一つの出来事が派生した。それは朝稽古が始まる前であった。魚板が鳴って四半時後、いつものように全員が道場に集まったとき、師範代役も少し馴染んだ井上が、七名を横一列に整列させ、口を開いた。相変わらず、偏屈者の樋口の姿は見えない。「稽古を始める前に、一つ、皆に伝えることがあるから、聞いて貰
いたい。…近く、道場へ新入りがくることになった」
 一同から、「おぉー!」と、驚きの喚声が上がった。
「樋口の話によれば、先生がそう仰せだそうだ。この話は以上であ
る。…おい、左馬介、よかったな。お前の下が出来たぞ」
 井上の言葉に皆が小さく笑った。新入りが道場へやってくるということは、一馬が新入りから抜け、新たに左馬介が新入り頭(がしら)に一段、昇格することを意味する。幻妙斎の影番を仰せ付かった樋口が井上に流した話なのだから信憑性は確かにある。だが、その新入りの門弟が、いつ姿を現すのか迄は、今のところ定かではない。


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シナリオ 秋の風景(第三話 )焼き芋

2009年10月30日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      秋の風景
      
(第三話)焼き芋

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  
   N      ・・湧水正也

1.裏庭 昼
   タイトルバック
   弱い北風が時折り吹く。落ち葉を掃く恭之介と正也。葉をすっかり落とした庭の樹木。
   テーマ音楽
   タイトル「秋の風景(第三話) 焼き芋」
   キャスト、スタッフなど
   唄いながら落ち葉を箒で掃き集める正也。
  正也  「♪~垣根のぉ 垣根の回り角ぉ~ 焚き火だ焚き火だ 落ち葉焚きぃ~♪」
  恭之介「よし! 正也、これくらいでよかろう」
   手を止める恭之介。同じように、従って手を止める正也。恭之介と正也の間に出来た、こんもりとし
た落ち葉の山。袋のサツマ芋を取
   
り出す正也。
  正也  「芋は四本だったよね?」
  恭之介「ああ…、恭一と道子さんの分も焼いてやろう(柔和な笑みを浮かべて)」
   四本のサツマ芋を落ち葉の山へ入れる正也。
  正也  「じいちゃん! バケツに水、入れておいた」
   片隅に置いた二つのバケツを指さす正也。   
  恭之介「おお・・よく気づいたな。偉いぞ、正也」
   照れる正也。一つのバケツを手にして、落ち葉の山の周りに軽く水を撒く恭之介。火を着ける恭之介。勢い
よく燃えだす落ち葉。
  恭之介「乾いているから、よく燃えるなあ、正也」
  正也  「そうだね…」
   燃える落ち葉に見蕩れる正也。落ち葉を継ぎ足す恭之介。煙を上げ、燃える落ち葉の山。
   O.L

2.裏庭 昼
   O.L
   ほぼ、灰になった落ち葉の山。木の枝で焼き芋を取り出す恭之介。
  恭之介「おう、焼けた焼けた。もうよかろう。正也、この新聞紙に包んで持ってってやりなさい」
   首を縦に振る正也。新聞紙に包む正也。
  N   「僕は、じいちゃんの命令に従った。隊長の命令は絶対、なのである」
   走り去る正也。

3.茶の間 昼
   卓袱台に座っている恭一と道子。テレビを見ている二人。新聞紙に包んだ焼き芋を手に、走って
入る正也。
  正也  「じいちゃんが、これを持ってってやれって…」
   新聞紙に包んだ焼き芋を示す正也。
  未知子「そう…、有難う(笑いながら)」
  恭一  「そうか…(感極まり、一瞬、目頭を熱くし)」
  N   「芋一本で父さんを釣り上げたんだから、じいちゃんは大した釣り名人だと思えた」
   茶の間へ入ってくる恭之介。
  恭之介「もう食ったか?」
  恭一  「いえ、これからです…(素直に)」
  未知子「今、お茶を淹れますわ」
  恭之介「あっ、ああ…そうして下さい、未知子さん」
   台所へ立って去る未知子。

4.茶の間 昼
   急須、三個の湯呑みが乗った盆を持って現れる未知子。卓袱台の上で急須の茶を、湯呑みへ注ぐ未知子
。卓袱台を囲み、焼き芋を
   食べ始める三人。誰からとなく笑いだす三人。西日を受け、光り輝く恭
之介の頭。
   F.O
   タイトル「秋の風景(第三話) 焼き芋 終」

 ※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「秋の風景(第三話) 焼き芋」をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《修行③》第二十三回

2009年10月30日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《修行③》第二十三回
 だが、この日の左馬介は、木刀を手にしたまま、暫し瞼を閉ざした。瞼を閉ざしたのは考えてのことではない。何故だか分からぬ、いつもとは少し違う気分が左馬介を襲ったのだ。その胸中には、昨日の素振り稽古の折り、心に受けた蟠(わだかま)りの余韻が未だ燻(くすぶ)っていたのである。瞼を閉じて無となれば、全てのことが氷結する。そして、そこに生じる平静の心は、かつて樋口静山が左馬介に放った ━━ 観見の目付 ━━ という言葉に集約される心境であった。━━ 観見の目付 ━━ とは、かつて二天一流の開祖、宮本武蔵が、“五輪書”に記(しる)した言葉である。全てを目で見るのではなく、心で見よ…という教えである。観の目を強くし、見の目を弱めよ…というのが真義だが、今の左馬介は、そうしようと瞼を閉じていた。そうすることによって、真新しい何かが掴めそうな気がしていた。息を静かに止め、木刀を中段(正眼)に構える。そして、上段へと瞬時
振り上げた木刀を、一撃のもとに振り下げた。
「ウムッ!!…」
 自然と吐息に声が絡んだ。左右に積まれた薪束の僅かな間隙(かんげき)に、左馬介の木刀は激しく振り下ろされていた。手先に掠(かす)った感触は無かった。左馬介が少しずつ瞼を開けると、暗闇に囲まれて揺れる手燭台の蝋燭の炎が、ぽつりとあった。


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シナリオ 秋の風景(第二話) 吊るし柿

2009年10月29日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      秋の風景
      (第二話)吊るし柿

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  
   N      ・・湧水正也

1.裏庭 朝
   タイトルバック
   蒼々と澄み渡った青空。オレンジ色の実をたわわにつけた一本の柿の老木。見上げる正也。剪定
用長鋏で柿を収穫する恭之介。    
  N   「僕の家には、かなり古い柿の木がある」
  正也  「じいちゃん、この柿、いつ頃からあるの?」
  恭之介「ん? ああ・・これなあ(しみじみと木を見て)。儂(わし)の子供時分には、もうあったな、確か
…」
  正也  「ふう~ん。大先輩なんだね」
  恭之介「そうだな…(小笑いして)」 
  正也  「温泉にでも、ゆったり浸かって休んで貰いたいね」
  恭之介「(小笑いして)正也は優しいなあ…
。柿の木が喜んでるぞ」
   大笑いする恭之介。釣られて笑う正也。実のついた枝を切り落とす恭之介。一生懸命、柿を籠へ入れる正也。
   テーマ音楽
   タイトル「秋の風景(第二話) 吊るし柿」
   キャスト、スタッフなど


2.家の茶の間 昼
   柿の皮を剝く恭之介。熟れた実を選別する正也。廊下から入ってくる恭一。
  恭一  「今年も嫌になるほど出来ましたね…」
  恭之介「フン! いい気なもんだ。お前に手伝って貰おうとは云っとらん! なあ、正也(剥きながら見
上げ)」
   しまった! と、口を噤む恭一。
  
正也  「ん? うん…」
   下を向いて聞いていない素振りで選別する正也。
  N   「気のない返事で曖昧に暈し、飛んできた流れ矢を僕は一刀両断した」
   茶の間へ入ってくる未知子。
  未知子「これでいいんですね?」
  恭之介「はい、それを持ってって下さい。熟れてますから…」
  未知子「美味しいジャムが出来そうですわ」
   恭之介と正也の作業を、ただ、無表情に眺める恭一。
  正也  「吊るして、どれくらいかかるの?」
  恭之介「ひと月もすりゃ食えるが、正月前には、もっと美味くなるぞ(正也の顔を見て、微笑みなが
ら)」
  恭一  「毎年、我が家の風物詩になりましたね」
  恭之介「ああ…、それはそうだな…(恭一の顔を見ず、穏やかな口調で)」
  N   「今日は荒れないなと安心したのも束の間、父さんが、いつもの茶々を入れた」
  恭一  「吊るし柿は渋柿じゃなかったんですか?」
  恭之介「やかましい! 家(うち)のは、こうなんだっ!」
   駕籠の柿を持ち、笑って台所へ去る道子。ふたたび、氷になる恭一。
  N   「じいちゃんは、これが我が家の家風だと云わんばかりに全否定した。よ~く考えれば、この
二人の云い合いこそが我が家の
       
家風なのである」
   西日が窓ガラスから射し込んで、恭之介の頭を吊るし柿のように照らす。神々しく輝く恭之介の頭。
それを見て、ニヤッと笑う正也。
   F.O
   タイトル「秋の風景(第二話) 吊るし柿 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「秋の風景(第二話) 吊るし柿」 をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《修行③》第二十二回

2009年10月29日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《修行③》第二十二回
 開けば直ちに床を抜け、いつもの小屋を目指す。着衣は既に昨夜のうちに身に付けて眠っているから、目覚めれば、即、行動を起こせる左馬介である。この習慣は、入門の日から始まったもので、左馬にとっては至極当然の所作となっていた。左馬介が堂所の裏手を抜け小屋へと至る道順も、慣れの所為(せい)か、今では暗闇の中でも何の躊躇(ちゅうちょ)もなく往き来が出来る。それは恰(あたか)も、脳内に描かれた鮮やかな図面のようなもので、緻密(ちみつ)に記憶されているから、灯りがなくとも暗黒の闇を躓(つまづ)くことな進めるのである。だから左馬介は、小部屋を出ると小屋へ一目急ぐのだった。小屋の中には、木刀や手燭台などが隠されている。小屋へ入るや、左馬介は薪束の後ろへ隠した手燭台を出し、器用に灯をつけた。火打ち石、火打ち金、火口(ほぐち)、付け木などは、小部屋の火打ち箱から出して懐(ふところ)へ忍ばせていた。火打ち石と火打ち金を打ち合わせると火花が飛ぶ。その火花をイチビの殻かせ製した火口に移し、さらには薄木片の端に硫黄(いおう)を塗り付けた付け木へと移す。この時点で、火花は小火の炎となって
る。それを左馬介は手燭台の蝋燭へと器用に移したのである。
 辺りが灯りで明るくなれば、あとは隠した木刀を手に取り、素振りを始めるのみである。


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シナリオ 秋の風景(第一話) キノコ採り

2009年10月28日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      秋の風景
      (第一話)キノコ採り

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  
   N      ・・湧水正也

1.晴れ渡った秋晴れの山道 朝   
   タイトルバック
   蒼々と澄み渡った青空。黄橙に色ずく山の遠景。心地いい朝の陽射し。山道を歩く正也、恭之介の遠景。山道を長閑に歩く二人の
   近景。    
  N   「今日は天気がよいので、裏山へキノコ採りに出かけた」
  正也 「よく晴れたね、じいちゃん!(ウキウキした口調)」
  恭之介「ん? そうだな…(青空を見上げて)」
  正也 「僕、初めてだよ、山は…」
  恭之介「ほお、そうだったか? 儂(わし)が元気なうちに、正也に、いろいろ教えておいてやろうと思おて
な…」
  N   「何を? と訊くと、じいちゃんはキノコのことを語りだした」
   笑って歩く二人の近景。笑って歩く二人の遠景。朝日を浴びる山の木立。小鳥の囀り。広がる青
空。
   テーマ音楽
   タイトル「秋の風景(第一話) キノコ採り」
   キャスト、スタッフなど

2.晴れ渡った秋晴れの山道 朝
   蒼々と澄み渡った青空。黄橙色に色ずく山の遠景。心地よい朝の陽射し。緩やかな山道の傾斜を登る
二人。
  恭之介「この辺りは、シメジだ。ずっと登った向うの赤松の一帯はマツタケがよく出るな…」
  正也 「そうか! なるほど…」
   真剣に聞く正也。講釈する恭之介。
  N   「一生懸命、さも、専門家きどりで得意満面なじいちゃんの鼻を、へし折るのも如何かと思え、僕は、そ知らぬ態で聞き上手にな
       
った」
   足を止める二人。辺りを見渡す恭之介。
  恭之介「どれ、ここから入るか・・」 
  正也 「うん!」
   山道から木々の茂みに分け入る恭之介。後方に従う正也。

3.山中・木々の茂み 昼
   キノコを散策する二人。なかなか見つからない正也。すぐ見つけ、収穫する恭之介。それを見て、恭
之介に駆け寄る正也。楽しそうに
   話す二人。
  N   「僕達は、快晴の蒼々と広がる空と澄みきった空気を満喫しつつ散策を楽しんだ」

4.山中・平坦地 昼
   下界の展望が利く山の平坦地に座り、弁当に舌鼓を打つ二人の姿。青空にポッカリ浮かぶ秋の
雲。
   O.L

5.家の洗い場 昼下がり
   O.L 青空にポッカリ浮かぶ秋の雲。洗い場でキノコを洗う正也。隣りで身体を冷水で拭く恭之介。
  N   「じいちゃんは年の功というやつで、キノコ採りの名人と思えた。収穫量は、まずまずだった」
   部屋の外窓を突然、開ける恭一。正也か洗う下の洗い場を見下ろす恭一。
  恭一 「おお…、随分、採れたじゃないか!」
   手を止め振り返り、見上げる正也。
  正也 「松茸に黄シメジ、…ナメコもあるよ」
  恭之介「お前も来りゃよかったんだ…(身体を冷水で拭きながら)」
  恭一 「今日は生憎(あいにく)、会社から持って帰った仕事がありましたから、ははは…又(また)。又、
この次に…(軽い笑いを交え
       て)」
  恭之介「お前のは、いったいどういう又なんだ? 又、又、又、又と、又の安売りみたいに…(少し怒り
顔で)」
   洗いながら、二人の遣り取りを眺める正也。
  N   「上手いこと云うが、じいちゃんは相変わらず父さんには手厳しい。父さんも只者ではなく、馴
れもあって、そうは気に留めてい
       
ない」
  恭一 「「安売りと云やあ、この不況で私の会社の製品、値下げなんですよ」
  恭之介「そんなこたぁ、誰も訊いとりゃせん!(怒って)」
   
返せず、沈黙する恭一。台所の戸を開けて出てくる未知子。
  未知子「ナメコとシメジは汁物にして、松茸は炊き込み御飯と土瓶蒸しにでも…(キノコを眺めなが
ら)」
  恭一 「偉く豪勢じゃないか…(未知子に向って)」
  未知子「あなたの給料じゃ、手が出ないわ(窓を見上げて、嫌味っぽく)」
  N  「母さんは珍しく嫌味を云った」
  恭之介「…その通りだ、恭一。未知子さん、上手いこと云いました。これはタダですからな」
 しくじったか…という態で、窓を少しずつ閉じる恭一。

6.台所 夜
 四人の食事風景。賑やかに語らう恭之介、未知子、正也の三人。テレビを見つつ、一人、黙々と箸を動かせ
る恭一。
  N  「その晩は賑やかにキノコ料理を堪能した。でも、父さんだけは一人、黙々と箸を動かせていた
 F.O
 タイトル「秋の風景(第一話) キノコ採り 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、こちらの「秋の風景(第一話) 茸[きのこ]採り」をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《修行③》第二十一回

2009年10月28日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《修行③》第二十一回
となると、左馬介の蟠(わだかま)りが何なのかは分からない迄も、少しでも和らげる機会があるとすれば、今のような稽古以外の状
でしかない。
「まあ、何ぞお困りのことでも有らば、私で宜しければ相談にのり
ますから…」
 そう堅苦しく一馬に云われても、明確に、このような仔細で困っております…とは云えない左馬介である。それは、迷い程度のこ
とだからである。
「はあ…有り難うございます」
 別に…などと云っておいて、有り難うございます、と矛盾した礼
を返す左馬介であった。
 夕餉の後、部屋へ戻ると、いつもならば暫くの間、坐禅の姿勢で冥想する左馬介だったが、この日はすぐに布団へ潜った。考えて答えが出ない思案を、あれこれ想っても仕方がない…と、思えたのである。早暁の隠れ稽古の際、もう一度、何かを掴めばいい…と左馬介は考えていた。その夜は案外、早く寝つけた左馬介であった。目覚めは、やはり夜明けには少し間がある早暁の闇中である。道場で飼っている鶏も未だ眠っている時刻だが、いつも瞼は定まった刻限になると開いた。


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シナリオ 秋の風景 特別編(下) 芸事(2)

2009年10月27日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      秋の風景
      特別編
(下)芸事(2)

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  
   N      ・・湧水正也
   その他   ・・丘本先生、生徒達、父兄達

8.小学校 教室 昼
   黒板前。台本を持ち、学芸会の練習をする生徒達。その中に正也もいる。指導する丘本先生。
  N「学芸会が間近に迫っていた。僕はこの中で、演目である浦島太郎に出演が決まっていたのだ。主役の太郎なら文句なくいいのだ
    が、生憎(あいにく)、僕は亀の役だった」

9.台所 夕方
   食卓テーブルの椅子に座ってテレビを観る恭之介と正也。なにやら話している。
  恭之介「先生に抜擢されたとは、大したものだ…」
  正也  「だって、じいちゃん、僕は亀だよ。嫌だなあ…」
  恭之介「おいおい、そうガックリするな、正也。準主役なんだからな、亀は…」
  正也  「そうか…」
  恭之介「ああ…」
   N   「じいちゃんは慰めのような、そうでもないような云い回しで僕を和らげた」

10.学校 講堂 昼
   学芸会。多くの父兄と生徒達が観客で劇を観る。演じる正也達。演目は浦島太郎。時折り客席から湧き起こる拍手と笑い声。ハリ
   ボテの甲羅を背負い、帽子風に作られた役絵キャップを被り懸命に演じる正也。観客の中にいて、声援を送る恭一と未知子。
  N   「僕の学校は明治時代に建てられた建造物で、県の指定文化財にもなっている立派な建物なのだが、その講堂で学芸会は行
       われた」

11.湧水家 遠景 夜
   秋の田舎っぽい夜景。薄闇に見える電気の灯り。虫の鳴く声。

12.台所 夜
   食卓を囲む家族四人。夕食中。和気あいあいと会話が弾む。笑い声。
  N   「兎に角、僕の亀役は無事終わったのだが、まあ、概してこんな程度で、そう大した話ではない。総じて、家族を芸事で語るな
       ら、抜きん出て、といった技量のプロ芸を熟(こな)す者はいない…と結論づけられる」

13.(フラッシュ) 馬場 昼
   手綱を握り、馬を走らせる凛々しい姿の恭之介。その雄姿を柵外から見守る正也。晴れ渡った青空。
  N   「あっ、忘れるところだった。じいちゃんには隠された、もう一つの芸事があった。馬術である。じいちゃんは、僕がもう少し大きく
       なったら教えてやると云った」

14.居間 夜
   蒼白く煌々と照らす中秋の名月。庭前の渡り廊下の小机。小机の上に飾られた三方の月見団子と花瓶に活けられたススキ。虫達
   の集き鳴く声。月の光に照らされ輝き光る恭之介の頭。月と恭之介の頭を比較して見遣る正也。
  N   「秋の虫達が賑やかに秋を唄っている。実に上手い。じいちゃんは蛸頭を照からせている。実に素晴らしい」

15.居間 夜
   渡り廊下で月を見ながら下手なハーモニカを奏でる恭一。
  N   「父さんはハーモニカを奏でている。実に拙(つたな)い」

16.(フラッシュ) 
居間 夕方
   ススキを花瓶に生ける未知子。見守る正也。
  N   「母さんはススキを花瓶に生けて飾る。実に見事だ。孰(いず)れにしろ、我が家の連中は少し素養がある程度のもので、まず
       マスコミに騒がれるような事態はないだろう。・・傍に置かれた三方(さんぼう)のお団子。この秋、もう一度ぐらいは食べられ
       るだろうか…。こんな下劣な計算をしている僕は実に、さもしい。もう少し高尚な存在になりたい…とは思っている」
   F.O
   タイトル「秋の風景 特別編(下) 芸事 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「秋の風景 特別編(下) 芸事」をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《修行③》第二十回

2009年10月27日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《修行③》第二十回
「どうかされたのですか? いつもの冴えがなかったようでしたが…」
朝稽古が終り、厨房から堂所へと朝餉の味噌汁入りの鍋を二人で
運びながら、一馬が口を開いた。
「いえ、別に…」と、口重く暈した左馬介へ、「そうですか…」と、敢えてそれ以上は訊ねなかった一馬だが、訝(いぶか)しい眼差(まなざ)しを左馬介に時折り投げ掛けた。左馬介は賄いに関して云えば、もう充分に手慣れていたから、心の蟠(わだかま)りがあろうと、なかろうと、それなりに熟(こな)せた。故に稽古以外では一馬にも左馬介の内心の乱れは分からなかった。賄いの腕前が、一年前では、とても朝稽古に駆けつける余裕などなかったものが、今では稽古が始まる迄に大方の準備を済ませ、皆と同じように稽古に加われる迄になっていた。相棒の一馬も、そうした左馬介の要領の手早さには助かっている。特に、謹慎蟄居を幻妙斎に命じられた正月のひと月は、膳を運んだ左馬介に忝(かたじけな)く思ったりもした。その左馬介は、一馬の観る限りにおいて、どうも不調に思える。で、朋輩として、一馬は何とかしてやりたいと考えた。だが、自分の今も、左馬介だけを相手にしている身ではない。長谷川とも対峙して稽古せねばならないから、正月までとは違い、稽古中に余裕はなかった。


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