水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

明暗ユーモア短編集 (25)調子(ちょうし)

2021年12月31日 00時00分00秒 | #小説

 人とは妙なもので、調子(ちょうし)がいいときは出来ることが、調子が悪いときには出来ない・・といった場合がある。要は、完璧(かんぺき)に出来ない訳だ。^^ 完璧に出来れば調子がいい悪いに関係なく、出来るはずなのである。
 調子がいいときは気分も明るく、ポジティブである。その逆で、調子が悪いときは気分も当然、暗く沈みがちで、ネガティブに違いない。失敗ばかりして調子が悪いにもかかわらず明るい場合を、人は天然と呼んでいる。^^
 とある医科大学の都川研究室である。
「先生、そろそろ帰りませんかっ! 終電、間に合わなくなりますよっ!」
 完成する見込みもないのに、朝からア~でもないコ~でもないと試験管を弄(いじく)っている都川教授に、呆(あき)れ果てた声で助手の山村助手が口を挟(はさ)んだ。
「んっ!? ああ、どうも今日は調子が悪い…」
 都川教授は山村助手を一瞥(いちべつ)もせず、試験管に入った液体を軽く指先で振った。
「僕、帰っていいですかぁ~?」
 山村助手は、今日はじゃなく、今日もだろっ! とは思ったが、とてもそんなことが言える訳もなく、軽く往(い)なした。
「んっ!? ああ、いいよ…。明日には完成すると思うから…」
 都川教授は山村助手を一瞥(いちべつ)もせず、ふたたび試験管に入った液体を振り続けた。
 帰りの歩道を歩く山村助手は思った。僕はこれで教授になれるんだろうか…と。^^
 その頃、都川教授の開発したワクチンは偶然が偶然を呼び、完成していた。
 調子がいい悪いにかかわらず、出来るときは出来る訳である。^^

                   完


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明暗ユーモア短編集 (24)採用

2021年12月30日 00時00分00秒 | #小説

 一流企業の採用通知を受け取ったとしても、将来の人生が必ず明るいという訳ではない。逆に、不採用通知だったとしても、将来が明るくなる場合だってある・・ということになる。
 二人の大学生がキャンパスで話をしている。
「お前、鳥目物産、ダメだったんだってなっ!」
「ああ、お先、真っ暗だよ…」
「馬鹿野郎! その逆さっ! 明るい明るいっ!!」
「どうしてっ!!」
「昨日の新聞、読んでなかったのかっ!」
「馬鹿野郎! 新聞をとる金はねえよっ!」
「そうだったか? 鳥目物産、倒産らしいぜ…」
「ほんとかっ!」
「お前に嘘(うそ)言ってどうすんだよっ!」
「ああ、それもそうだ。ということは、暗くない。ってことは明るいってかっ?」
「ああ、めげずに次探せっ!」
「そうするかっ! ところでお前は、抜毛商事、受かってたなっ!」
「ああ、俺のとこは大丈夫だっ! ははは…」
 その数ヵ月後、抜毛商事は会社更生法を申請し、事実上、倒産したのである。前途洋々の新入社員の将来は、一瞬にして暗いものになってしまった。鳥目物産を落ちた学生は別会社の腰痛通商に採用され、前途洋々の暮らしを満喫(まんきつ)している・・ということである。
 採用で先々の明暗は決まらない・・という結論になる。^^

                   完


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明暗ユーモア短編集 (23)いいこと

2021年12月29日 00時00分00秒 | #小説

 誰だって暗い悪いことより明るいいいことの方がいいに決まっている。先々、明るいと思っていた年の初めが、年末には暗い世相になると誰が予想できただろう。予想できていれば対応も出来たのだろうが、予想出来なかったのだから仕方がない。いや、仕方がないとは言えない。そういうこともあ(起こ)ろうかとっ! と、有効な予防ワクチンを全国規模で接種したり、治療法を確立しておく・・というのが、いいことに直結するのである。残念ながら、後手を踏んでいる現状では、悪いことが起きても致し方ないのかも知れない。先手は大事ですよっ! 先手はっ!!^^
 とある小学校である。
「先生っ! 最近、僕、ちっともいいことがないんですがっ!」
「そうか…いいことがないかっ! まあ、そんな暗い顔をするなっ! なけりゃ、いいことを考えりゃいいじゃないか、豚崎(ぶたざき)っ!」
「その考えは、どうすりゃ浮かぶんですか、先生?」
「それを自分で考えろ、豚崎っ!」
「はい、考えてみます…」
「ああ、考えろ考えろっ! いいことをいっぱい考えろっ!」
「先生のいいことって何ですかっ!?」
「ははは…これから食う、一杯の、かけうどんだっ!」
 いいことは、割合と身近なところにある訳である。^^

                   完


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明暗ユーモア短編集 (22)未来

2021年12月28日 00時00分00秒 | #小説

 未来が明るいか暗いかは、私達の今の発想にかかっている。地球を汚してもなんとも思わない人々が増えれば、未来は暗くなるだろうし、なんとかせねばっ! と奮起する人々が増えれば明るい未来になることは明々白々である。にもかかわらず、人々は事なかれ主義で、その日がいい暮らしならいい…という人達が増えている現実は嘆かわしいという他はない。夢のパラダイスのような未来が誰だっていいに決まっているのだが…。困ったことに少しも実行されない。
 大衆食堂である。食べ終えた二人の男がテレビを観ながら話している。
「ウイルスの特効薬か…」
「研究してる人は研究してるんだなっ! スタッフの数が少ないそうだっ!」
「そういや、カニ? いや、カニじゃない。エビなんとか言ってたが、独立行政法人が待った! かけたそうだぜっ」
「ははは…あの人達はコロナじゃ死なないんだろっ!」
「だなっ! 悠長な話だっ! イギリスじゃ、感染力が強いコロナの変異種が発生したとかで偉い騒ぎだそうだぜっ!」
「らしいなっ! このままだと、未来は暗いなっ!」
「ああ…。一つ、なんとかしよう!」
「お前がっ?」
「ああ、俺がっ!」
「ははは…一つ、頼むよっ!」
 二人は席を立つと勘定を済ませ、外へ出た。
 人類が全力を傾注(けいちゅう)し、未来が明るい社会になることを祈りたい。飽くまでも希望的観測です。^^

 ※ 眠れ弟子…じゃないレムなんとかは承認されているようですが、それも配布数に限りがあるようです。

                   完


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明暗ユーモア短編集 (21)景気

2021年12月27日 00時00分00秒 | #小説

 景気の先行きが明るいと、人々は明るくなる。要は、生活のゆとりが出来ることにより、暮らし向きが何かと明るくなる・・といった寸法だ。ところが景気の先行きが暗いと、世の中全体が暗くなってくる。景気を明るくしたり暗くしたりするのは経済の動向だけではない。数年先の一万円札のお方でも、これだけはどぉ~~しようもないに違いない。具体的には新型コロナの蔓延(まんえん)といった一例だ。
 とある繁華街の商店主二人が話をしている。
「明日は首を括(くく)らにゃならんかもなっ!」
「ははは…冗談がきついぜっ! お前が首括るんなら、俺は崖から飛び込むさっ!」
「ははは…まあ、冗談はさておいて、仕入れも半減、売れは四分の一だぜっ!」
「お前とこは毛皮屋だからなっ! 今どき、景気よくても売れねぇ~だろっ?」
「いやいや、それがなっ! 変わったお客もいらっしゃってなっ!」
「フェチ・・ってやつかっ? そういうの増えたなっ!」
「ああ、この前の奥さんなんか、『毛皮でマスク作りたいのっ』って、こうだっ!! 奥さん、いくらなんでも毛皮のマスクは…とも言えねぇ~からなっ!」
「売れたのかいっ!」
「ああ、牛革のマスクだってよっ! あんたの皮を鞣(なめ)したらどうです? とも言えねぇ~しなっ!」
「ははは…そりゃ、言えねぇ言えねぇ!!」
「景気はともかく、牛革のマスクで予防になるのかねぇ~?」
「予防より見栄なんだろうな…」
「俺達と違ってよぉ~、景気を気にしない明るい方々もいらっしゃるってこった!」
「だなっ!」
 景気の冷気は、暮らし向きが暗い、弱いところ弱いところへと流れ込むようである。^^

                   完


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明暗ユーモア短編集 (20)世の中

2021年12月26日 00時00分00秒 | #小説

 世の中には明るい出来事から暗い出来事まで、いろいろと起きている。隣の家でチィ~ンと小鉦(こがね)が叩(たた)かれ、誰ぞがお亡(な)くなりになっていたかと思えば、そのまた隣の家ではオギャ~オギャ~と赤ん坊がお生まれになっていたりして、暗い出来事と明るい出来事が混存する・・それが私達が暮らす人間世界なのである。^^ 禍福(かふく)は糾(あざな)える縄(なわ)のごとし・・とは、上手(うま)く言ったものだ。
 とある街はずれである。二人の男が立ち話をしている。
「ええっ! 一億円の宝くじが当たって外国旅行に行かれたって聞いたぞ…」
「明るい話だったんだがなっ! だが、そのあとがいけない。行かれたのはいいが、交通事故だっ!」
「暗転だなっ! それでっ!?」
「幸い、処置が早かったそうで大事には至らなかったというんだが…」
「最悪だっ!」
「いや、それがそうでもないようなんだ」
「どういうことっ!?」
「事故に合われず、予定通りの旅をされたとすりゃ、帰りに飛行機事故だっ!」
「一巻の終わりか…」
「そういうこったなっ!」
 このように、私達の暮らす世の中は、明暗が入り混じる訳である。^^

                   完


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明暗ユーモア短編集 (19)十五夜

2021年12月25日 00時00分00秒 | #小説

 十五夜は煌々(こうこう)と照らす、月が最高に明るい夜である。当たり前の話だが、実はこれが当たり前の話でもないのである。^^
 とある田舎の一家庭である。やがて夜になろうとする時間帯で、居間のご隠居が団扇(うちわ)片手にお団子が盛られた三方(さんぼう)をソロリ・・ソロォ~~リと庭先前の板廊下へと運ぶ。十五夜の月がいい具合に明々と板廊下を照らす。すでに花瓶に生(い)けられた芒(ススキ)が小棚に飾られている。まるでスポット照明が照らすような白い光である。
 ひと通りお供えが終わったご隠居は、板廊下の上に出された座布団の上へゆったりと座る。そこへ、現れなくてもいいのにご隠居の息子であるご主人が現れる。ご主人が無造作にパチリッ! と居間の電灯を点(つ)ける。次の瞬間である。
「こらっ!!! 明るくするヤツがあるかっ! いい具合の光が台無しだっ!!」
「すみません。ちょっと暗いかなと思ったもんで…」
 ご主人は慌ててスイッチを切った。たちまち、元の月の白い光が辺りを覆う。
「馬鹿野郎っ!! お月見ってのは、なっ! この光、この光なんだっ! よぉ~~!く、覚えとけっ!!!」
「はいっ!!」
 ご主人はご隠居には青菜(あおな)に塩(しお)で、サッパリだった。
 十五夜は明るくせず、暗い部屋で静かに眺(なが)めるのがいいようだ。自然の彩光に敵(かな)う人工の光はないのかも知れない。^^

 ※ ご存知、風景シリーズから、お二人の特別出演でした。^^

                   完


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明暗ユーモア短編集 (18)前倒し

2021年12月24日 00時00分00秒 | #小説

 物事を前倒しでやる場合、状況は明るいのか暗いのか? を、暇(ひま)に任せて考えてみよう。この暮れのクソ忙(いそが)しいときにっ!! 他にやることはないのかっ!! と怒られる方がいらっしゃるかも知れないが、病気療養中で暇なのだから、どうしようもない。無理をしないで養生しよう…と決めたからだ。体重も微減微増くらいで推移しているのは有難い…と神仏に感謝しながら、この文を書いて[keyを叩いて]いる訳である。
 とある普通家庭である。会社の同僚が来訪して、居間でこの家の主人と話している。
「おいっ! 世間がコロコロ泣いてるときだから、来年のアレは前倒しでやっといた方がいいんじゃないかっ!?」
「いやいや、こういうときだからこそ、じっくりと腰を下ろして、後(あと)倒しでやった方がいいんだっ! 世間やマスコミの風潮に動じちゃダメだっ!! 来年、どうなるか分からんだろっ?」
「ああ、それもそうだなっ! ゴー トゥ トラベル じゃなく、ステイ ホーム ってことか…」
「ああ、辛(から)くなっ! 国は甘過ぎんだよっ!!」
「確かに…。見えんモノは甘く見ちゃいかんっ!」
「そういうこと…」
 前倒しは明るい状況でやった方がよく、暗い世相では熟慮(じゅくりょ)が必要となるようだ。^^

                   完


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明暗ユーモア短編集 (17)軽い

2021年12月23日 00時00分00秒 | #小説

 物事は考え方が軽いと失敗するか? といえば、実はそうでもない。軽い方が首尾よくいく場合もあるのだ。例えばバンジージャンプという観光地の断崖絶壁の一角に設けられた遊戯場を考えてみよう。この場合、参加者は下の光景を見て、高いっ! と恐怖心にかられるだろう。さてそこで、飛び降りられるか否(いな)かである。明るく軽い考えが出来る者は、フフフ…大丈夫っ! と飛び降りるに違いない。それを重く考える者は、万一、ローブが切れたらっ! などと断念することになる訳である。切れることは百に一つもないだろうから、重く暗い考えはダメという結果となる。
 とある競馬場である。
「いやいやっ! キラキラスターは絶対来るさっ! 俺が重く考えた末だから絶対だっ!」
「そうなんだ…。僕は今日が初めてだから、よく分からないですから、このお馬さんにしますよっ!」
「どれどれ…。フウセツナガレか? ナガレはダメだぜ、絶対っ!」
「どうしてですっ?」
「流れちゃダメだろっ!? 流れ星はっ!」
「いいんです…」
「そうかいっ! まっ! いいけどな…」
 重い考えの男は競馬が初めての男の軽さを内心で笑った。
 一時間後である。フウセツナガレは見事に差し切り、一着となっていた。キラキラスターは流れ星となり、最下位だった。
 このように軽く明るい方がいい場合もある・・というお話である。むろん、軽いのは危険が多いことに間違いはないのだが…。^^

                 完


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明暗ユーモア短編集 (16)遠回(とおまわ)し

2021年12月22日 00時00分00秒 | #小説

 出来事を、やんわりと遠回(とおまわ)しに処理すれば、暗くなる結果を明るく終息させることができる。私はこれを、やんわり効果と呼んで時折り活用している。それは恰(あたか)もやんわりと揉(も)み解(ほぐ)して、肩の凝りを取るようなものだ。^^
 とある家庭の一コマである。
 いつものように夫婦の口喧嘩(くちげんか)が始まった。それは毎度のことで、コレといって荒れるほどでもなくいつの間にか終わっている・・という程度の口喧嘩である。その様子をテレビを観ながら遠目で窺(うかが)っていた小学一年生坊主が、『またか…』と、呆(あき)れながら、居間の座布団から立ち上がった。
「母ちゃん、もう夕方だよ…」
 やんわりと遠回しに夕飯準備の必要性を指摘したのである。この言い方にも方法があって、明るく言うのが口喧嘩を終わらせる秘訣(ひけつ)になっていた。暗いと、『分かってるわよっ!』と逆効果で、切れられる恐れがあった。遠回しに明るく、やんわりと言えば、『あっ! そうね…』くらいの軽いテンポで返され、口喧嘩が中断するのが毎度のことだった。ということで、今回もその手法を使ったのである。
 このように、遠回しの効果は潤滑油のような作用を果たし、暗く荒ぶる出来事を、明るく終息させる効果があるのである。^^

                   完


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