水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

分析ユーモア短編集  <62>  機械

2019年01月31日 00時00分00秒 | #小説

 機械は言うまでもなく、人類が文明を築く過程で便利さを求めて作った物質である。ただ、この機械という概念を分析してみれば、必ずしも便利になったとは言えない一面もあることが分かってくる。便利になれば人は当然、楽になる。楽にはなるが、楽になった分だけ、別のことをやるのか? と問えば、実はそうでもない。人は意外と欲深(よくぶか)で、怠惰[ルーズ]になりやすいのである。怠惰になれば、それが当たり前となり、日常の繰り返しとなる。すると益々、怠惰になっていく・・と、まあこういう経過を辿(たど)る訳だ。その結果、どうなるのか? だが、言うまでもなく機械抜きの生活が考えられなくなる。実は、この私がそうで、情(なさ)けないことにPC[パソコン]にもて遊ばれている現状にある。なんとかしたいが、今のところ、なんともならない。^^ PCには当然、電気や電波が必要となるが、これらもすべて機械によって作られる。いわば便利な機械が作り出す見えない副産物といえる。今の世の中、もはや機械様々なのだ。
 二人の老人が歳末の買い出しをしている。
「やあ、これはこれは酉岡(とりおか)さん!」
「ああ! お隣(となり)の戌口(いぬぐち)さんじゃないですかっ!」
 偶然なのだろうが、二人は干支(えと)の引き継ぎ式のようにバッタリと店のレジ前で出くわした。
「今日は、お車ですかっ?」
「はいっ! 車は車ですが、乳母車(うばぐるま)でしてな、ははは…」
「やはり機械も人力が一番ですかなっ!」
「まあ、場合によりけりでしょうが…」
「荷が多いときとか雨の日、それに長い距離の場合ですかなっ!」
「ええ、まあ…。そんなときは、やはりエンジンと屋根付きの車になります」
「やはり、機械ですかっ!」
「はい…。これだけの文明社会ともなれば、致し方ないですなっ、ははは…」
「ははは…」
 分析の結果、機械はすでに人類の手足の一部としてサイボーグ化しつつある。^^

                                 


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分析ユーモア短編集  <61>  部品保有期間

2019年01月30日 00時00分00秒 | #小説

 使っていた物が痛んだとき、『部品保有期間を過ぎており、部品がないため修理できません』などと言われる場合が多い。そんなとき、思わず、『ないのかいっ!』とテンションを下げ、不如意(ふにょい)を嘆(なげ)きそうになるものだ。^^ 最近の低成長の時代では、こうした傾向が頓(とみ)に強く、特に電化製品ともなれば、部品保有期間10年・・とかを堂々と謳(うた)い文句にしている。これは、暗に、『ははは…痛みましたか? 修理できませんから買い換えて下さいよっ!』とでも言いたげな会社の使い捨て感覚で、こうした経営方針には、誰もが腹立たしくなることだろう。
 さて、この部品保有期間という概念を分析すれば、以外にも今後の日本経済の展望も明るくなってくるのでは…と思えるから不思議である。^^
 どこにでもいそうな中年サラリーマンの夫が朝から、あ~でもない、こ~でもないとガチャガチャ音声機器を弄(いじ)っている。ゆっくり出来るのは日曜だということもある。
「妙だなぁ~? 昨日(きのう)までは、よく聴こえていたのに…。仕方がないっ! 修理に出すか…」
「あなた、トーストが冷めてしまうわよぉ~~!」
 そのとき、キッチンから妻がサイレンのような声を響かせた。
「ああ!! 今、いくっ!!」
 五月蝿(うるさ)いなぁ~…と思っても言えない夫は、その場しのぎの言葉を取りあえず返して、携帯を手にした。相手先は電化製品の取扱説明書に書かれていたメーカーである。
『はいっ! …ああ、そうですか。当社には部品在庫センターがございまして、ほとんどの物はケアされるシステムになっております。ですから、部品保有期間などは一切(いっさい)、ございません。お話の内容から致(いた)しますと、おそらく修理は可能と存じます。書かれております先へお送り願えれば…』
「ははは…これはこれはっ! お宅の会社を選んでよかったですよ、ほんとにっ! 他社は、ほとんど買い換えですからねぇ~」
『当社は、世界に誇(ほこ)る製品ケアを目指しております』
「なるほどっ! 会社は信用が第一ですからなっ! ははは…」
 そのとき、妻の第二声が、ふたたびキッチンから轟(とどろ)いた。
「あなたぁ~~!!」
「あっ! ではっ!」
 夫は慌(あわ)てて携帯を切ると、キッチンへ走った。
「危ない危ないっ! 信用、信用っ!!」
 部品保有期間を分析すれば、妻の信用度に似ていることが分かってくる。^^

                                 


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分析ユーモア短編集  <60>  歳末(さいまつ)

2019年01月29日 00時00分00秒 | #小説

 歳末(さいまつ)ともなれば、人々の動きはどういう訳か活発化する。その典型的な例が歳末商戦だ。『ホニャララ市場(いちば)は芋(いも)の子を洗うような賑(にぎ)わいを見せておりますっ! 以上、ホニャララ市場から煮汁(にじる)がお伝えしましたっ!』などと、アナウンサーが実況する人の動きである。^^ この歳末という得体(えたい)の知れない雰囲気を分析すれば、普段と何も変わりはないものの、雰囲気が一変する歴史的に培(つちか)われた伝統的な文化がその背景にあることが分かってくる。この雰囲気は、俄(にわ)かには作り得ない代物(しろもの)なのである。
 いつもはグデェ~ンとしている老人が師走(しわす)になった途端、別人のようにソソクサと動き出した。
「どうしたんですっ、ご隠居! そんなにお急ぎになって?」
 いつもと違い、歩道を早足で歩く若者のようなご隠居を見かけた酒屋の主人は、出前のパイクを止めると声をかけた。『ご隠居、ボケられたんじゃないか…』と一瞬、思えたこともある。
「君っ! 何を言っとるんだっ! 歳末だぞっ! 歳末っ!!」
 ご隠居は歳末を強調して言った。
「はあ、そうですなぁ~。今日から12月でしたっ! ははは…」
「ははは…じゃないっ! 歳末だぞ、歳末っ! こんなところで油を売っとる場合じゃないだろっ!!」
「いや、こりゃどうも…。まあ、私とこは油じゃなく酒ですがっ、ははは…」
「ったくっ! 油も酒もないっ!! 歳末は急がしいんだっ! 慌(あわただ)しいんだっ!」
「そうですなぁ~。でも、最近は余り景気がよくないのか、普段と余り変わらないんですがねぇ~」
「余り変わらんでも歳末は忙しい! としたもんだっ!」
「はあ、そういうもんなんですかねぇ~?」
「ああ、そういうもんだっ! 立ち話(ばなし)などしとらんで、さっさと行きなさいっ!!」
 ご隠居は大声で酒屋の主人を叱咤(しった)した。
 分析の結果、歳末とは慌しくしないといけない季節のようだ。^^

                                                                 


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分析ユーモア短編集  <59>  貧富(ひんぷ)

2019年01月28日 00時00分00秒 | #小説

 多くの人々が生活する上で、どうしても生じるのが貧富(ひんぷ)である。この内面を分析すれば、意外なことが分かってくる。豊かさとは何も金銭的に裕福だとか、地位、名誉などに恵まれているといった外的なものだけではない。内的に満たされた豊かな心・・といった見えない富(とみ)もあるのだ。━ 貧しいながらも楽しい我が家 ━ などと言われるのが、まさにそれである。
 とある大会社の昼休みである。会社ビルの屋上で二人の平サラリーマンが昼食後の話をしている。
「俺達ゃ、普通入社だから、まあ、普通のコースで終わりだろうなっ!」
「ああ、数十年後に上手(うま)くいって課長。で、定年! ははは…貧(まず)しい貧しいっ!」
「そこへいくと、金倉(かなくら)は違うぜっ!」
「だなっ! ヤツは入社から期待される特別コースだもんなっ!」
「そうそう。大株主の御曹司(おんぞうし)で富裕層(ふゆうそう)だからなっ!」
「ははは…金持ちってのは、いいよなっ! 出来不出来は関係ないっ!」
「ああ…」
 二人の話す姿をこっそりと遠目(とおめ)に見つめる一人の男・・話題の金倉である。
「気楽でいいよな、あの二人…。そこへいくと俺なんか期待されてるから気苦労ばっかりだっ! 代(か)わって欲しいよ、ったくっ! ああ、貧しい貧しいっ!」
 分析の結果、貧富には、コレだっ! と断言できない実体のない姿が見え隠れする。^^

                                


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分析ユーモア短編集  <58>  成功と失敗

2019年01月27日 00時00分00秒 | #小説

 物事をすれば当然、結果が出る。そのとき、しようとしたことが首尾(しゅび)よくいけば、人は成功した・・と表現して喜ぶ。逆に、結果が思い通りにならなければ、人は失敗した・・と思えて嘆(なげ)く。この成功と失敗という結果を分析してみるのも面白い。^^
 成功したとは思うが、ある意味、失敗したとも考えられる曖昧(あいまい)な結果の場合はどうなのか? ということになるが、この場合でも上手(うま)い言葉があり、成敗(せいばい)・・という言葉が使われる。この言葉は現代ではいろいろな意味へと分岐(ぶんき)し、政治を行う場合の日本史に登場する御成敗式目とかの成敗、裁決をする神の成敗とかの成敗、政治を行う場合の日本史に登場する御成敗式目とかの成敗、処置する意味の成敗、処罰する喧嘩(けんか)両成敗やテレビ時代劇でよく耳にする「成敗っ!」とかの成敗などがある。^^
 二人の男が、とあるうどん屋のカウンター席で口喧嘩(くちげんか)をしている。この店はうどん専門店で、いろいろな種類のうどんを客に提供する店だ。常連客の二人は、いつも開店とともに現れ、決めにしているカウンター席へ座るのが常だった。
「どう見ても、お前の方が量が多いぜっ!」
「そんなこたぁ~ないだろっ! なあ、親父さんっ!」
「はあ…。いつもと同(おんな)じにお出ししたつもりなんですがねぇ~」
 そうは言ったものの、店の親父は内心で、しまった! 向こうの客を見ていたからな…と量を見ずに出しことを悔(くや)やんだ。
「いや、俺の方は汁(しる)の嵩(かさ)が1cmは低いぜっ!」
 言った男には美味(うま)い汁を足してもらおう…というセコい魂胆(こんたん)があった。店の親父は、細かい人だなぁ~…とは思ったが、常連客にそうとも言えず、笑顔で暈(ぼか)かした。
「まあまあ、今日は私の失敗ということで、もう一杯づつサービスいたしましょう、無料でっ! 常連さんですからなっ! ははは…」
「いやぁ~、そりゃ悪いよ、親父さんっ!」
「ははは…いいんですよっ!」
 細かい男は、言ってみるもんだ…と、汁だけのつもりが一杯サービスという予想外の成功となり、喜んだ。店の親父は失敗を痛感した。
 分析の結果、成功と失敗は紙一重(かみひとえ)ということになる。^^

                                


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分析ユーモア短編集  <57>  予知(よち)

2019年01月26日 00時00分00秒 | #小説

 すべてのことに言えるのだが、生きる上で未来が予知(よち)出来れば、こんな便利なことはない。悪いことが起こる…と分かれば、予(あらかじ)め、そうならないように策や手段を講じることが出来るからだ。起こる場合でも、最小限に起こるに違いない悪いことを未然(みぜん)に防ぐ策や手段などを講じられる訳だ。孰(いず)れにしろ、先が分かれば私達が助かることに変わりはない。
 とある繁華街の人通りが少ない一角で、椅子と机を置いて座る一人の辻占いがいる。辺(あた)りはすでに夕方近くで、歩道を歩く通行人も少なくなっていた。
「どれどれ、そろそろ灯(あか)りを…」
 そう独(ひと)りごち、辻占いは机の角(かど)に置かれた行灯(あんどん)の蝋燭(ろうそく)に火を灯(とも)した。そのときである。一人のしがない中年男が、前を横切ろうとして立ち止まった。
「見ていただけますか?」
 男はポツリと短く言った。
「… ああ、どうぞどうぞっ! お手を…」
 男が椅子に座ると、辻占いは男の掌(てのひら)を天眼鏡(てんがんきょう)でマジマジと見始めた。
「ほう! これはこれは…」
「どうかしましたか?」
「どうもこうも! この手相(てそう)はっ!」
「はあ?」
「あなたの家へUFOが飛び来たり、あなたを星へ誘(いざな)うと・・出ておりますっ!」
「そ、そんなメロンっ![馬鹿なっ!→バナナっ!→さらに強い驚きを表(あらわ)すメロンっ!となる]」
「はあ? …まあとにかく、私はあなたの未来を、はっきりと予知できるのですっ!」
「ははは…いや、もういいです。これ、お代です…」
 男は見てもらうんじゃなかった…と後悔(こうかい)しながら紙幣を置き、立ち去った。
 その数日後、男の姿は忽然(こつぜん)と世の中から消えた。警察その他の捜査、捜索にもかかわらず、男の消息(しょうそく)は今なお分かってはいない。ただ、辻占いだけには男の行方(ゆくえ)がはっきりと分かっていた。
『ははは…いくら探したって無駄さっ! だって、あの方はTP102星雲の地球で暮らしているんだから…』
 これが本当なのかどうか、私は知らない。^^ ただ、分析の結果、3次元科学をもってしても、予知の能力を完全否定することは出来ないようだ。^^

                                


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分析ユーモア短編集  <56>  日没(にちぼつ)

2019年01月25日 00時00分00秒 | #小説

 冬の日没(にちぼつ)と夏の日没とでは、その様(さま)に大きな違いが生じる。この違いを分析すれば、沈みゆくお日さまをどう感じるか? といった気分的な違いであることに気づかされる。そんなことは気づかなくていいっ! と思われる方は、風呂上りの一杯を飲みながら適当に寛(くつろ)いでいただけば、それでいい。^^
 秋の日脚(ひあし)は釣瓶(つるべ)落とし・・と言われるほど早いが、冬の日脚は、なお一層(いっそう)早い。気温が下がるから、もう少し沈まないで欲しい…と未練がましく思う日没、これが冬の日没である。逆に、ギラギラと容赦(ようしゃ)なく照りつける猛暑の日が、ようやく西山へ傾く夏の日没は、早く沈んでくれっ! …と懇願(こんがん)して退散を願う日没である。お日さまは一年中、同じように地球上へ恵みの光を与えておられるのだが、地球の地軸が傾いているばかりに、こんな毛嫌いする感じ方になる訳だ。すべては、地球自身が傾いていることに気づいてション! と姿勢を正せば済む話なのである。^^ まあそうなれば、暑い地域は、ずぅ~~っと暑く、寒い地域は、ずぅ~~っと寒い訳で、四季の変化もへったくれもなくなるから、それはそれで面白くない訳だが…。^^
 一人の老人が散歩しながら愚痴っている。
「ったくっ! こう日没が早きゃ、のんびりと歩きもできゃしないっ!」
 いつも約一時間の同じルートを歩む老人にとって、夕飯前の冬場の散歩は、日没が早く急(せ)かされるようで嫌(いや)だった。では、夏場の散歩は、どうか? といえば、その時期もやはり愚痴が聞こえた。
「ったくっ! こう日没が遅(おそ)きゃ、猛暑で倒れっちまうっ!」
 分析の結果、日没に対する人の感性は勝手なもの・・という結論に立ち至る。現に、いい日差しが続く日没の頃、その時期は行楽のシーズンということもあるのだろうが、人は日没を惜(お)しむのである。^^

                                


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分析ユーモア短編集  <55>  御座成(おざな)り

2019年01月24日 00時00分00秒 | #小説

 御座成(おざな)りは当座の間に合わせ・・という言葉だが、分析すれば面白いことが分かってくる。真意は、いい加減なことでその場を逃れようとする背信行為を指す。おざなりの[な]を[お]の前に移動すれば[なおざり]となるのだが、意味は異(こと)なり、大事なことを手を付けずにそのままにしておく意となる。要は、おざなりは、なおざりではないっ! ということだ。^^
 とあるサッカーの試合で痛めた右足の捻挫(ねんざ)を病院へも行かずシップ薬で冷やして御座成りにしていた不精(ぶしょう)は、そのまま放置し、半月ばかりなおざりにしていたため、益々(ますます)悪化させ、代表選手から外(はず)されてしまった。
「どうして、こんなになるまで放っておいたんですっ!!」
 担当した外科の医者は不精の腫(は)れ上がった足を一目(ひとめ)診(み)て真っ赤な茹蛸(ゆでだこ)のような顔で怒った。
「私は不精ですから…」
 美味(うま)そうな蛸だな…と思いながら、不精は冷静に答えた。
「あなたが不精さんだとはお聞きしました。だから、なぜ放っておいたんですかっ!」
 少し冷静さを取り戻(もど)した医者は、ふたたび訊(たず)ねた。
「いや、だから不精ですから…」
「分からないお人だっ!」
「分からないのは、アンタだっ!」
「医者に向って、アンタとはなんですっ!」
 会話が売り言葉に買い言葉となった。
「…アンタだから、アンタと言ったんだっ! …シップで御座成りにしといたんですよっ! こう言や、分かるでしょうがっ!」
「そういうのを、なおざりって言うんですよっ!」
「… ? 御座成りは、なおざりなんですか、先生?」
「いや、私は医者ですから、そういうことは…。まあ、ともかく治療をしましょう!」
 医者は意味の違いに自信がなく、言葉を濁(にご)した。
「はい、お願します…」
 分析の結果、御座成りとなおざりは、泳がず楽をする? ^^ 魚のヒラメとカレイの関係に似ているようだ。^^

                                


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分析ユーモア短編集  <54>  要領(ようりょう)

2019年01月23日 00時00分00秒 | #小説

 同じ物事をしても、要領(ようりょう)の良し悪(あ)しで結果に大きな差が出る。要領を分析すれば、その良し悪しの差は時間差に限ったことではなく、その後の生活に多大な影響を与えることになる。というのも、一つの物事が要領が良いことによって、次の物事をやり易(やす)くするからだ。ただ、要領がいいからといって、結果が必ずしも良くはならないという点だけは留意(りゅうい)しておくべきだろう。要領が良すぎると、あいつは要領のいいヤツだっ! …などと思われることもあるからだ。そんなことはどうでもいいっ! 自分は好きなことをして好きに生きるっ! と言われるお方もあろうが、確かにその考えも一理あり、否定は出来ない。杓子定規(しゃくしじょうぎ)に生きず、好きなことをして愚直(ぐちょく)に生きる人生には、新しい可能性が芽生(めば)える可能性もあるからだ。^^ ただし、危険と隣(とな)り合わせということも覚悟しておかねばならないだろう。その危険性を避(さ)けたいなら、人がなんと言おうと思おうと、同じことを愚直に繰り返して生き続けることが懸命(けんめい)だということになる。
 とある中学校の美術の時間である。美術室の中では生徒達が粘土の塑像(そぞう)作りをやっている。モデルは小皿(こざら)の上に盛られた三本のバナナだ。
「どうだっ! 出来たかっ!!」
 偉そうに生徒達へ声をかけたのは美術教師、秋野(あきの)である。
「おお、なかなかいい出来じゃないかっ、田野(たの)っ!!」
 田野は要領のいい生徒で、なかなか上手(うま)く出来ないものだから、チャッカリと斜め前の生徒、仮庵(かりほ)の塑像を真似(まね)て僅(わず)か5分で作ったのである。
「ええ、まあ! 僕はこういうの得意ですからっ!」
 田野は悪びれもせず、したり顔で答えた。
「そうかっ! これなら十分、展覧会へも出せるぞっ!」
「そうですかぁ~?」
 田野は、ますます、したり顔になった。二人の会話を何げなく聞いていた斜め前の仮庵は、『そ、それは僕の真似ですっ!…』とは思ったが、そうとも言えず粘土の手で、ぅぅぅ…と泣けた。
 ━ 秋の田の 仮庵の庵(いほ)の 苫(とま)をあらみ わが衣手(ころもで)は 露(つゆ)に濡(ぬ)れつつ ━ である。^^
 まあ、そんなことで、でもないが、分析の結果、要領よくやられると、要領の悪い人々は泣けることになるようだ。^^

                                


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分析ユーモア短編集  <53>  馬鹿正直(ばかしょうじき)

2019年01月22日 00時00分00秒 | #小説

 世の中で使われる言葉の一つに馬鹿正直(ばかしょうじき)という譬(たと)えがある。この言葉を分析すれば、悪口ではないものの、その正直さには、聊(いささ)か疑問を感じる・・といった意味合いで使われる場合が多いことが分かる。何事(なにごと)も程度ものだ・・という意味を含んでいる言葉ということだ。そんなことはどうでもいいっ! と思われる方は、カラオケでも唸(うな)っていただいていればいい。ただし、ご近所迷惑にならない程度でお願いをしたい。^^
 ここはとある釣(つ)り堀(ぼり)である。客の老人が朝から糸を垂(た)れているが、いっこう当たりがない。時はすでに昼前になっていた。その姿を少し離れた対面の岸から別の中年男が気の毒そうな顔で見ていた。というのも、その男の釣果(ちょうか)は上々で、腹が減ったからそろそろお開きにしようか…と思った矢先だったのである。一匹も釣れずに居続ける老人を、なんとも、気の毒に思えたのも無理からぬ話で、馬鹿正直なお方だ…とも思えていた。
「こっちは、よく釣れますよっ!!」
 中年男は、思わず声を飛ばしていた。
「ああ、どうもっ!! 私、ここが気に入っておりますのでっ!!」
「ああ、そうでしたかっ!! ははは…!!」
 中年男は、言わなきゃよかった…と後悔(こうかい)した。
 分析の結果、すでに一つのスタンス[物事に取り組む姿勢]となっている馬鹿正直な人には、何を言っても無駄だということが分かる。^^

                                


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