水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

めげないユーモア短編集 (59)努力

2022年11月30日 00時00分00秒 | #小説

 めげないで努力すれば、ある程度まで出来ることが可能となる。例えば、縄跳びの跳べる技量などがそうで、現に私も、高校時代の体育の授業で6級、5級を通過し、4級を練習していたくらいだ。三回の試技があったが、なかなか6級が通過できず、随分と自分の情けなさに悩んだものだが、めげないで自宅で練習をした結果、なんとか通過できたという事実を記憶している。ある程度までというのは、天分があり、個々の生まれ持った程度の違いがあることを指す。
 とある釣り堀である。老人と知り合いの中年二人が日長、飽きもせず釣りをしている。
「釣果(ちょうか)のオイカワ寿司、美味(うま)かったですねっ! ありがとうございました」
「いやいや、こういう長丁場の釣りですと、続ける努力を支える食事も大事な手段となります。私くらいの年になりますとな、そのコツというか、なんというか…そんなものが分かってきよります」
「ご老人は何年くらいの釣歴(ちょうれき)がっ?」
「若い頃からですからなぁ~。おおよそ60年にもなりますか…」
「そんなにっ!」
「ええ、まあ…。お恥ずかしい話ですが…」
「いえいえ、大したものです。私なんか始めて20年ばかりですから…」
「釣歴は余り関係がありません。やはりめげずに釣りを継続する努力ですなっ!」
 そう言った老人がピールの肴(さかな)に持参したオイカワ寿司は、釣果がゼロで、帰りに魚屋で買ったオイカワだった。
 努力は、めげないで不言実行するところに成果が得られるようだ。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (58)睡眠不足

2022年11月29日 00時00分00秒 | #小説

 睡眠不足だと、体調にいろいろな不具合を生じる。例えば、食欲不振、疲感といった症状だ。生じた不具合にめげないで状況を続ければ、進行して健康を害することになる。だから、こういう場合は、めげた方がいいのだろう。^^ めげないのも、時によりけり・・ということに他ならない。
 とある真夏の早朝の公園である。朝早くから一人の老人が、まだ暖気が残った公園を、めげないで散歩している。その対向から、同じような老人が小犬のチワワを連れ、こちらも暖気にめげないで歩いてくる。二人はバッタリと出食わした。
「あらっ!? お宅も…」
「はあ、そういうお宅も…」
 犬を連れていない老人は、犬が苦手(にがて)で、小声で返した。
「ははは…眠れないんで睡眠不足ですわっ!」
「私もそうなんですが、こうしてめげないで歩いておるようなことで…」
 犬を連れた老人は、ゆとりの表情で上から目線で言った。小犬のチワワでも犬は犬である。睡眠不足にめげないで、というより犬にめげないで老人は気丈(きじょう)に返した。
「年齢を重ねますと、質のいい睡眠が必要になりますなっ!」
「と、いいますとっ?」
「短くても熟睡すりゃいいんですわっ! どうです? あちらの氷(こおり)屋でカキ氷でもっ!?」
 犬を連れた老人は、またゆとりの上から目線で言った。
「それは、いいですなっ!!」
 かき氷は小犬の恐怖心にめげないで跳ねのけ、勝利したのである。
 睡眠不足は、カキ氷に弱いようである。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (57)忘れ物

2022年11月28日 00時00分00秒 | #小説

 忘れ物をするという行為は、字義が示すとおり、忘れて気づかなかったとき、心がすでに亡くなっているということになる。^^ そこには、必ずと言っていいほど魔の存在が介在している。もちろん、その魔は人の目には見えず、見えたとしても他の存在を利用しており、直接、『ははは…私が魔です』などと挨拶はしない。^^ フェアに、やってもらいたいものだ。^^ 忘れても、気づかないか、『大したものじゃないから、まっ! いいか…』と諦(あきら)めてしまって取りにいかない・・この二点に魔が邪魔をしている事実が認められる。めげないで取りに行く場合は、魔を征した状態となり、金メダルな訳である。^^ それ以上、魔はその人に介在することが出来ず、スゥ~~っと消え去る他はない。^^
 とあるお墓である。お彼岸ということもあり、大そうな人で賑(にぎ)わっている。アチラコチラと線香の煙が棚引(たにび)き、遠目から見れば、ボヤかっ!! と騒ぎになりそうな棚引きかたである。
「んっ!? 数珠(じゅず)がないぞ…。しまった、お墓へ忘れてかっ!!」
 禿山(はげやま)は、お墓参りをして家へ戻(もど)った瞬間、数珠をお墓へ忘れたことに気づいた。数珠はそのまま忘れ物には出来ないから、これはお墓へ取りに戻るしかない。仕方なく禿山は車をUターンさせ、お墓へ戻った。幸い、数珠は盗られることなく、そのままお墓に存在し、事なきを得た。そして、数か月が過ぎ去り、お盆の季節となった。例年、春と秋のお彼岸、お盆の念三回はお墓へ参る禿山だったから、お盆も当然、お参りをしていた。そして、お墓参りをして家へ戻(もど)った瞬間、浄水(じょうすい)入れ用のペットボトルをお墓へ忘れたことに気づいた。たかがペットボトルのことである。数珠と違い、取りにお墓へ戻る・・というほどのものでもない。次のお彼岸に別のペットボトルを浄水入れにしてお墓参之りをし、忘れていたペットボトルを持ち帰っても、別に問題にはならない訳だ。まさか、空(から)になった忘れ物のペットボトルを盗る人はいないだろう…と、禿山は束の間、思った。だが、そのままにしておくのも如何なものか…と国会答弁のように思え、禿山は、めげないでペットボトルを取りにお墓へUターンした。実は、そこに魔の狙いが潜(ひそ)んでいたのである。戻らなければ…と、魔は横眼から虎視眈々(こしたんたん)と魔が刺せそうなお墓参りする人を探していたのである。だが、禿山が、ペットボトルを何事もなかったかのように手にしてお墓から去ると、『チェッ!』と舌打ちする他はなかった。こういう舌打ちするような墓の魔の舌は、冥府十三王庁の決めで引き抜くことになっている。魔としての資格を剥奪(はくだつ)されるという決めもあった。ただの地獄の亡者となつてしまう訳だ。それを考えれば、禿山がお墓へペットボトルを取りに戻ったことは、魔が禿山に助けられたとも言える。
 めげないで忘れ物を取りに戻るという行為は、大事な物、そうでない物を問わず、いい結果を導くことになる。ただ、落とした物は忘れ物とは違い、探すのは勝手だが、場所が特定できず、その限りではない。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (56)涙(なみだ)

2022年11月27日 00時00分00秒 | #小説

 喜怒哀楽を激しく感じれば、涙が出やすい。これは人の生理的現象だから止めようもないが、めげないで必死に堪(こら)えれば、止められることもあるにはある。脳からは、それは哀しいでしょ!? だから涙(なみだ)を出しなさいよっ! と、一応、神経系統の命令を伝達するのである。だが、本人の気持が、いやいや、今はそういうときじゃないっしょ! めげないで我慢(がまん)、我慢するんだっ! と自分に言い聞かせれば、脳は、あっ! そうなんだ…勝手にすればっ! 的に引き下がり、チェッ! と舌打ちしながら命令を取り消すことになる。当然、悲しいにもかかわらず、涙は出ない。ただ、陰鬱(いんうつ)な顔がニコニコ顔にはならないだろうが…。同じように喜びの場合も同じで、この場合は哀しい場合よりは出にくくなる。めげる状況がないからだ。激しい感動のうれし涙を、グッ! と我慢する気持くらいだろう。怒りながら涙を流す場合の気持は、私にはよく分からない。^^
 とある映画館である。その中に奇妙な観客席の男が一人いた。ブツブツと口では怒りながら顔では笑い、しかも涙をダラダラと流しているのである。オリンピックの体操競技に例えれば、難度Hクラスの金メダル演技である。^^
「どうしたんですっ!?」
 隣座席の男が、迷惑顔で思わず声をかけた。映画は始まったばかりで、まだそんなに泣けるシーンでもなかったからである。
「えっ!? いや、すみません…。つい、今朝の家のことを思い出したもので…」
 上映中の迷惑を考え、男はヒソヒソ声で隣の男の耳元で呟(つぶや)いた。
「ああ、そうなんですか。もう始まってますから…」
 隣座席の男は、迷惑ですよっ! とまでは言わず、男の耳元へ遠回しに呟き返した。ブツブツと口では怒りながら顔では笑い、しかも涙をダラダラと流すこの男の心境が分からなかったということもある。その後も、男はめげないでブツブツと口で怒らなくなったが、相変わらず笑顔で涙を流し続けた。変わった人だな…と隣座席の男は思ったが、迷惑をかけている訳でもないので、思うに留(とど)めた。
 涙が出る心境は、めげないでも流れるときは流れ、めげていても流れないときは流れない・・という複雑さが存在するのである。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (55)記録

2022年11月26日 00時00分00秒 | #小説

 つい先ほどまで賑(にぎ)やかにオリンピック競技が行われていた女子走り高跳びの会場である。
 時間を少し戻(もど)すことにしよう。いよいよ決勝はクライマックスを迎えようとしていた。接戦が接戦を呼び、バーの高さはオリンピック・レコードに近い高さまで引き上げられている。予選を通過し、決勝に残った4人のうち3人は、2.00m以上の自己記録を持っているにも関わらず全員が試技3回[2.00m]を失敗した直後である。その瞬間、1.98mまで一度も無効試技がなかったトベルナ・コレハー[&#%]が5度目のオリンピック出場にして初の金メダルを獲得したのだった。彼女はすでにメダル圏外だったから、3人が最終試技を終えるまで気分的にはすっかりめげていた。自力での優勝が消えたのだから、めげるのが道理で、めげない方が怪(おか)しい訳である。アナウンサーの質問に答える金メダル決定直後の彼女の言葉である。
アナウンサー「どうでしたか? 帰り支度(じたく)を、されてましたが…」
通訳「&%#$ '%"&!( &&$#$$#$%…」
トベルナ・コレハー「%&$& #%&" ('&%'%$#」
通訳「はい、すっかりめげて、早く引き上げようと思っていました」
アナウンサー「それが、思いもよらない結果になりましたねっ!」
通訳「##"$、'&$%$&&&% !」
トベルナ・コレハー「%$, %%$$%& !""#$$"'$$#$% $#$"&$」
通訳「はい、なりました。最後までめげないで、よかったですっ!」
アナウンサー「途中棄権しませんでしたが…」
通訳「$%$%& #""# (&%$' …」
トベルナ・コレハー「%$」
通訳「はい」
アナウンサー「めげない、あなたの精神力の金メダルですよ、これは」
通訳「%#& "% &%&%%#" (&&$$!>」
トベルナ・コレハー「%$,#"$''(」
通訳「はい、今回は記録じゃなかったと思います」
アナウンサー「会場から、お送りしました。マイクをスタジオにお返しいたします」
 めげない気力が、記録ではない最後の金メダル勝利を呼び起こすのである。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (54)体調

2022年11月25日 00時00分00秒 | #小説

 誰しも体調がよくないときはある。怪我をしている、身体の調子が余り芳(かんば)しくないetc. 状況は様々だが、修理あるいは改善しない限り体調が回復しないのは明々白々である。具体例を一、二あげれば、よく眠れない、余り食欲がない・・などがある。この一、二が関連している場合だってある。よく眠れないから睡眠不足で食欲がない・・といった関連だ。だったら、よく眠ればいいじゃないかっ! という話になるが、人の世はいろいろ[残業など]あって、そうもいかないから困る訳である。^^
 霞が関にある、とある官庁の、とある課である。別の課の居下尾(いかお)は、とある課の田子山(たこやま)に用がありザックリと課内へ入ってきた。
 「田子山さんは…あれっ!? いらっしゃらないっ! 君、知らないっ!?」 
「田子山さんですかっ? 田子山さんは体調が悪くなられ、検査の結果、ウイルスの陽性反応で、もっか入院中ですが…」
「それは、怪(おか)しいだろっ!? だって、この前、二度目の接種したって言っておられたぞっ!」
「そうでしたか…。でも、陽性で入院されているのも事実ですから…」
「って、ことはだっ! ワクチン打ったからって100%大丈夫な訳じゃないんだ…」
「ええ、みたいですね…」
「それじゃ治療薬じゃなく、予防薬じゃないか…」
「私に言われても…」
 女性職員の江美根(えびね)は困り顔で居下尾を窺(うかが)った。
「そりゃまあ、そうだ…。君に言っても仕方がないな。どこの病院だい? 見舞いがてら、別の日に見舞ってみよう」
「屋土仮(やどかり)総合病院ですが…」
「ええっ! 屋土仮かいっ!? 屋土仮はいけない、いけないっ!? だってアソコはこの前、院内感染でクラスターが発生したろっ!?」
「私に言われても…」
「体調の回復も簡単にはいかんなっ! ワクチンまだでよかったぞ…」
「まだ、だったんですかっ!?」
「そうだよ。まだ、まだ…。僕はねっ! 治療薬しか打たないのっ!!」
 江美根は、めげないそういう人なんだ…と、馬鹿にするでもなく、尊敬するでもなく思った。
 めげない体調の管理方法には個人差があります。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (53)トラブル

2022年11月24日 00時00分00秒 | #小説

 トラブルは双方の主張が激突したときに起きる。誰しもトラブルを態(わざ)と起こす方はおられないだろう。そういう人は人道のお方ではなく、修羅道に生きられるお方と考えられる。^^ トラブルが起こりそうになったときは、めげない地道な努力が求められる。
 とある町役場である。この男、豚崎(ぶたざき)は朝からブゥ~ブゥ~言いながら同じ課の鳥川とトラブル寸前にあった。鳥川は鳥川で、バタバタとニワトリのように忙(せわ)しいゼスチャーで両腕を動かし、誤解を解こうとしていた。
「いえ、だからですねっ! 今、言いましたように仕方なかったんですよ、ほんとにっ!」
「ほんとかどうか怪(あや)しいもんだっ! だいたい、そんなところに牛岡さんがおられる訳がないっ!」
「おられたんだから仕方ないじゃないですかっ!」
「牛岡さんは毎日、他へ回られてるんだっ! おられる訳がなかろっ!!」
「現に、おられたんだからっ! 話もしましたしねっ!」
「なぜ毎日、他へ回られてる人が、そこにいるんだっ!? 怪(おか)しいじゃないかっ!!」
「知りませんよっ! そんなこと。…何かのご用じゃなかったんですかっ!?」
「いや、それは怪しいっ!」
「怪しいって、アンタに言われたくないなっ!!」
「アンタとはなんだっ! 先輩に向かって!!」
 話は拗(こじ)れに拗れ、トラブル一歩寸前となった。そのとき、話題の人、牛岡が主役のように悠然(ゆうぜん)と登庁してきた。
「まあまあ、お二方(ふたかた)。朝っぱらから…」
 牛岡は、のっそりと、めげない牛のように両者の中に分け入り、二人を両手で格好よく宥(なだ)めながら、トラブルを鎮(しず)めようとした。牛岡に水をかけられて燻(くすぶ)りだした火種(ひだね)は、ジュジュ~~っと消された。
 トラブルには水をかけるのが一番! という結論が導ける。水といっても、それは心理的な水で、直接、トラブっている二人に頭からバケツの水をかけてはいけない。余計、トラブルになる。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (52)やってしまおう…

2022年11月23日 00時00分00秒 | #小説

 夏の猛暑の中、それでも桑岡(くわおか)は、めげないでやってしまおう…と蚕(かいこ)のように焼きソバを食べながら思った。めげないで思ったのはいいが、焼きソバを食べ終えると、昨夜の睡眠不足も手伝って、俄(にわ)かに眠気(ねむけ)に襲われた。いやいやいや、やってしまおう…と、桑岡は眠気に負けてはいけない…と思いながら必死に眠気を堪(こら)えた。対する眠気も負けてはいない。いやいやいや…ここは何がなんでも眠らせてしまおう…と、大内刈りをしかけた。ウトウトし始めた桑岡は、危ういところで大内刈りを凌(しの)いだ。そして逆に、袖(そで)釣り込み腰(ごし)を眠気に掛けた。眠気は、おっと、危ねぇ~! と凌(しの)いだ。そして、裾払(すそばら)いにいった桑岡の一瞬の隙(すき)をついて内股(うちまた)を、エイッ! とばかりに掛け、桑岡を跳ね上げた。見事に眠気の大技(おおわざ)は決まり、桑岡は心地よくスヤスヤと投げ飛ばされ、眠ってしまった。
「もうお昼よっ!」
 母親の大声で、桑岡は、しまった! と目覚めたが、昼の時計チャイムが、審判が眠気に片手を上げて勝利宣言をするかのように鳴った。
「ああ…」
 桑岡は、項垂(うなだ)れて眠気に頭を下げ、一本負けを認めた。
 めげないでやろうとしても、生理的要求には耐えられないのが人です。無理に、やってしまおう…と思う独断は、返ってやってしまえなくなりますから、やってしまえるかどうかは十分、考えて判断しましょう。^^

                   完


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ユーモア時代小説 月影兵馬事件帖 [スペシャル]  (26)枉神{まがかみ} <再掲>

2022年11月22日 00時00分00秒 | #小説

『その訳が訊(き)きたいか?』
「はい、是非とも…」
『訳は、この身を世の者どもが邪険にする故(ゆえ)じゃ!』
 枉神(まがかみ)の声が怒りを増し、少し大きくなった。人の気配がない町筋だけに、兵馬には少し不気味だった。
「…と、申されますと?」
『この身は元々、神であった。それを世の者どもが虚仮(こけ)にしおって、ぅぅぅ…神々の叱責(しっせき)を食らい、拗(す)ねて枉神となったのじゃ!』
「虚仮にしたとは?」
『この身は自然そのものぞっ! 田畑を守らず、自然を潰(つぶ)し、訳が分からぬ不用のものを建て、栄華を極め、ぅぅぅ…今ではこの身自体、追いやられておるわっ! これで枉神にならず何としよう!! 世の者どもを困らせるため思いついた腹いせじゃ!!!』
「では、いかがすれば、人変わりの悪さをやめていただけるのですか?」
『この身が安寧(あんねい)し得る姿に自然を変えれば考えてやらぬでもない…。そなたに、それが出来るかのう? ホッホッホッ…』
「私一人の身では無理とは存じますが、やるだけやってはみましょう…」
『おう! その心がけやよしっ! やれるものならばやってみるがよかろう。それによっては少しは変わるやも知れんぞ、ホッホッホッ…。ではのう…』
 枉神の気配はスゥ~っと消え失せた。兵馬はふたたび町筋を歩き出し、お芳の置屋へと歩を進めた。
 その後、この一件がどうなったかは定かではないが、人変わりの事件が幾らか下火になったことは事実である。兵馬の見えない努力が枉神の枉事(まがごと)を減らしたのかも知れない。

             完


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めげないユーモア短編集 (51)生きざま

2022年11月22日 00時00分00秒 | #小説

 人は生きざまを他人によく見せようとするところがある。誰しも貧乏よりは裕福、ブサイクよりはイケメンあるいは美人、ブ格好よりは格好よく見せたい方がいいに決まっている。だが、生まれ持った天性は変えようがない。それでも人は、めげないで、自分の生きざまを他人によく見せようとする。どぉ~~しようもないバカ、アホなのである。^^
 とある超有名画家の絵画を売却している画商の店である。画商が事務机に座り、何やらコチゃコチャと計算をしている。その計算は任された画家が画(えが)いた絵画の売り上げだ。その画商の暮らし向きは、必ずしも豊かとはいえない暮らし向きだった。なにせ、その画家には商才がなく、出来上がった絵画の売却はすべて、この画商に任されていた。任された画商は、いつもホクホク顔だった。
「フフフ…1,600万で落札か…。先生には60万で売れたと言ってあるから
差引1,540万の儲(もう)けだっ! やめられん、やめられん…」
 画商は、思わずニンマリとした。
「店長! つい、この前もそんなこと言ってましたよっ! あのときは確か…2,200万の儲けだと…」
 傍(そば)にいた店員が、思わず口を挟んだ。
「シィ~~ッ! 馬鹿かお前はっ!! でかい声を出すんじゃないっ! ここだけの話だっ!」
「どうも、すいません…」
 その頃、自分の値打ちを知らない超有名画家は、貧困にめげないで画(えが)き続けよう…と決意していた。
 人は裕福にならない方が、生きざまとしては、めげないで生き続けられるようだ。^^

                   完


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