水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

☆時代劇シナリオ・影車・第四回☆世乱し旗本(1)

2008年10月30日 00時00分00秒 | #小説

    影車      水本爽涼
    第四回 世乱し旗本(1)

   あらすじ

 旗本であることを嵩(かさ)にして、悪事の限りを尽くす白鞘組。末弟ゆえ       
 に無役であることの鬱憤を庶民にぶつけている。最初のうちは仙二郎も
 見て見ぬ振りをしていたが、娘を手込めにする、或いは豪商から大金を
 脅し盗る、そして挙句の果てには、それらの者を斬り殺すという凶悪事
 件を引き起こすに及んで、手筈することを考える。彼らが人の命をもて
 遊ぶ辻斬りの現場を見た刹那、仙二郎は遂に白鞘組を手筈することを
 決断するのだった。

   登場人物

   板谷仙二郎 41 ・ ・ ・ ・ 御家人(北町奉行所 定廻り 同心)
      留蔵 32 ・ ・ ・ ・ 鋳掛け屋(元 浪人)
      又吉 31 ・ ・ ・ ・ 流し蕎麦屋(元 浪人)
      伝助 18 ・ ・ ・ ・ 飛脚屋(町人)
      お蔦 30 ・ ・ ・ ・ 瞽女(元 くの一 抜け忍)
      (※ 以下 略)

1. 満開の桜並木(土手の道)・夜
    タイトルバック
    貧乏ながら、酒や持ち寄りの食物で酒宴を開く町人達。皆、浮かれ   
    て騒いでいる。飾られた雪洞(ぼんぼり)の灯りが映え、時折り散る   
    花びらが実に美しい。その光景を遠目で眺めながら、土手伝いに歩
    く仙二郎。
   仙二郎「ははっ、やってるな。…いいもんだぜ」
    そこへ真向かいから、お蔦が杖をつき進んでくる。
   仙二郎「よお、姐(ねえ)さんも夜桜見物かい?」
   お蔦  「なに云ってるのさ。通り掛かっただけだよ(目を開け笑う)」
   仙二郎「まあ、どうだっていいや。世の中、平和で何よりだ」
    と、ふたたび町人達の酒宴を遠目に眺める仙二郎。
   お蔦  「だといいんだけどねぇ。また物騒なことになりそうだよ」
   仙二郎「どういう意味でぇ?」
   お蔦  「ほら、あれをご覧な」
    お蔦が指さす方向に、侍達の集団が現れる。
2. 満開の桜並木(土手の道)・夜
    白鞘組の若侍、五人が、ぞろぞろと集団となって桜並木へ近づき、
   若侍①「おっ、何やら騒いでますよ」
    と、リーダー風の山倉疾風介(はやてのすけ)に云う。
   疾風介「これは、面白くなってきたな。少し、からかってやれ」
    疾風介、両脇の若侍達に軽く指示。若侍の中の二人、町人達の酒   
    宴へと乱入し、暴れ始める。
   町人①「何、すんでぇ!」
   若侍②「町人の分際で酒宴などと、片腹、痛いわ!!(徳利や料理もの
        を蹴り倒して)」
    町人①、酔いの勢いもあり、思わず若侍②を突き倒す。激昂した
    若侍②、起き上がると、矢庭に刀を抜く。町人達、悲鳴を上げて逃   
      げ惑う。
   疾風介「おいっ、やめろ! もういい…。引き上げだ!」
    その声に若侍②、渋々、刀を鞘へ納める。ぞろぞろと去る白鞘組の   
    若侍五人。差した白鞘が淡い灯りに映える。

                  流れ唄 影車(挿入歌)

            水本爽涼 作詞  麻生新 作編曲   


            なんにも 知らない 初(うぶ)な星…
             健気に 生きてる 幼(おさな)星…
              汚れ騙され 死ねずに生きる
                悲しい女の 流れ唄


              酒場で 出逢った 恋の星…
             捨てられ はぐれて 夜の星…
              いつか倖せ 信じてすがる
                寂しい女の 流れ唄


             あしたは 晴れるか 夢の星…
            それとも しょぼ降る なみだ星…
              辛い宿命を 嘆いて越える
                儚い女の 流れ唄


※ レイアウトの関係で絵コンテは掲載しておりません。

※ S.E=サウンド・イフェクト、C.I=カット・イン、C.O=カット・オフ、N=ナレ-ション、オケ=オ-ケストラ


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☆時代劇シナリオ・影車・第三回☆生臭坊主(11)

2008年10月29日 00時00分00秒 | #小説

    影車      水本爽涼
    第三回 生臭坊主(11)

50.  江戸の街通り(一筋の広い道)・朝
     立て札と無惨な死体の山を見物する野次馬(町人達)。その中に混   
     じり、仙二郎、宮部もいる。
   仙二郎「今日は、役人が来てないようですが…(辺りを見回し)」
   宮部  「なに云ってるの、私達がお役人でしょ?」
   仙二郎「(苦笑して)すみません。そうでした…」
    と、首筋を掻く仙二郎。
   宮部  「でも…(顔が一瞬、蒼ざめて) あれ…、もしかすると、お目付
   
        の青山様じゃないかしら?」
   仙二郎「(一笑に付して)そんな訳(わき)ゃないでしょう。悪い冗談はや   
        めて下さいよ、宮部さん(笑う)」
   宮部  「いいえ、…確かにそうよ。私、一度、チラッと見たことがある
        のよ。いつだったかしら…」
   仙二郎「ええ~っ! こりゃ駄目だ。早いとこ遁ズラしましょう、宮部
        さん。関わらない方が身の為ですよ(宮部の肩を、つつき)」
   宮部  「そうだわね…。でも凄いことやるわねぇ(横目で垣間見て)」
   仙二郎「感心してる場合じゃないです」
     と、足早やに仙二郎は、その場を離れる。後(あと)を同じように足
     早やに追う宮部。
51.  立て札
     立て札に一枚の紙が五寸釘で刺されている。そこに書かれた“手
     筈を愛けりゃ地獄へ落ちるのよぉ"の墨字。
   N  「手筈を愛けりゃ、地獄へ落ちるのよぉ…」   
     テーマ音楽。
   F.O
                              第三回 生臭坊主 完         


                  流れ唄 影車(挿入歌)

            水本爽涼 作詞  麻生新 作編曲   


            なんにも 知らない 初(うぶ)な星…
             健気に 生きてる 幼(おさな)星…
              汚れ騙され 死ねずに生きる
                悲しい女の 流れ唄


              酒場で 出逢った 恋の星…
             捨てられ はぐれて 夜の星…
              いつか倖せ 信じてすがる
                寂しい女の 流れ唄


             あしたは 晴れるか 夢の星…
            それとも しょぼ降る なみだ星…
              辛い宿命を 嘆いて越える
                儚い女の 流れ唄


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☆時代劇シナリオ・影車・第三回☆生臭坊主(10)

2008年10月28日 00時00分00秒 | #小説

    影車      水本爽涼
    第三回 生臭坊主(10)

45.  白河宗庵の屋敷(寝所の前廊下)・夜
    家臣①、座ったまま、ウトウトしかける。背後へ静かに近づく留蔵。   
    家臣①の口を押さえ、両眼へ真っ赤な大鎌の刃を押し当てる。(焼
    きいれの音ジュ~S.E)呻く家臣①。(焼け爛[ただ]れた両眼)なお
    も、その大鎌で
頚動脈(首)を掻き斬る。派手に吹き散る血しぶき。
    家臣①、刀の柄(つか
)に手をかけたまま、前へと崩れ落ちる。留蔵、   
    
それを見届け、闇へと消える。家臣②、物音を察知して、走りなが
    ら寝所へと近づく。前へ伏
で息絶えた家臣①に気づき抱え起
    こす家臣②。
その時、ふたたび真上の天井板が音もなくスゥーっと
    開き、家臣②めがけて鉄製
大丼鉢が垂直に落下。(鐘の音S.E)
    呻く家臣②。頭へスッポリ被った
大丼鉢。S.E=鐘楼で撞(つ)く鐘
    の音(グォ~~ン))家臣②、
被ったまま息絶え、崩れる。
    
(テーマ曲のオケ3 オフ)
46.  病院の診察室・現代 C.I
    シーン42.と同じ診察室。
   医師  「今日は、重なりますなぁ…。お気の毒です(軽く頭を下げて)」
    と、カメラ目線で素人っぽく笑う。
    C.O
47.  白河宗庵の屋敷(寝所の前廊下)・夜
    伝助が近づき、家臣①を担ぎ、
   伝助  「ふぅー、今日は大忙しでぇ。まだ一人、いやがる…」
    と云って闇へと消える。縄で下へ降りた又吉、大丼鉢を家臣②の
    顔から取り、
   又吉  「今日は手間取っちまったぜ…」
    と呟き、鉢を背の袋に納めると、縄を器用に昇る。
48.  江戸の街通り(細道の路地)・夜
     (テーマ曲のオケ1 イン)
     店へと帰途を急ぐ但馬屋多兵衛。
   多兵衛「色坊主の相手で、すっかり遅くなってしまったよ」
     と愚痴り、早足に急ぐ。そこへ、闇から現れた仙二郎、行く手を塞ぐ。      
   多兵衛「(手提灯で確認して)これはこれは、お役人様。夜分、お役目
   ご苦労に存じます(軽く会釈して)」
     と云い終わらないうちに、仙二郎、脇差しを抜くと、近づいて心臓を   
     一突き。
   仙二郎「悪いが、今日は役人じゃねえんだ。娘の怨み、晴らさせて貰う
        ぜ。地獄へ落ちろぃ!」
     と云って、深く心臓を抉(えぐ)る。(ブシュブシュっという音S.E)
     多兵衛、仙二郎が刃を抜くと、崩れ落ちる。燃える手提灯。
     S.E=豚や牛の肉塊をナイフ等で切り裂く音。
   仙二郎「伝助様、今日は、大仕事だぜ…」
     多兵衛の息が絶えたのを見届け、闇へと消える仙二郎。
      (テーマ曲のオケ1 オフ)
49.  若年寄・稲葉下野守の屋敷(寝所)・夜
      (テーマ曲のオケ2 イン)
     寝息を立てる稲葉。そこへ音もなく天井から舞い降りた、お蔦。
     静かに稲葉の布団へ近づくと、馬乗りになり、鼻と口へ濡れた一
     枚の和紙を貼り付け、そのまま手で押さえ続ける。息苦しさで目
     覚める稲葉。 しかし力尽きて、そのまま絶命。その死に顔を見
     遣って、
   お蔦  「世のためだからね。悪く思わないでおくれよ…」
     と呟き、闇へと一瞬に消える。
     
(テーマ曲のオケ2 オフ)


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☆時代劇シナリオ・影車・第三回☆生臭坊主(9)

2008年10月27日 00時00分00秒 | #小説

    影車      水本爽涼
    第三回 生臭坊主(9)

37.  青山監物[けんもつ]の屋敷(寝所)・夜
    (テーマ曲のオケ1 イン)
    青山、布団へと入る。燭台の灯りが微かに揺れると同時に、天井
    裏に忍んでいた、お蔦、音もなく舞い降りる。青山の背後に素早く
    近づくと片手で青山の口を封じ、もう片方の手で背中の三味線の
    仕込み刀を抜く。もがく青山。有無を云わさず頚動脈(首)を居合い
    斬りする、
お蔦。吹き出す血しぶき。青山、お蔦が手を離すと、赤
    く染まった布団へ無言
で崩れ落ちる。
38.  白河宗庵の屋敷(別棟の寝所)・夜
    宗庵が娘との睦み事を終え、満足げに布団を抜け、身嗜(だしな)
    みを整えて寝所を出る。
39.  白河宗庵の屋敷(寝所の前廊下)・夜
    厠(かわや)へと向かう宗庵(白衣姿)。満足した口調で、控えの家臣
    ①に、
   宗庵  「もうよい、明日にでも始末せい」
    と、冷たく云い捨てて廊下を歩む。その後ろ姿に、
   家臣①「ははっ!」
    と、恭順の声を出す。
    (テーマ曲のオケ1 オフ)
40.  白河宗庵の屋敷(厠)・夜
    (テーマ曲のオケ2 イン)
    宗庵が小便をしている。その時、天井の戸板がスゥーっと音もなく
    開き、鉄製の大丼鉢が宗庵めがけて垂直に落下。(鐘の音S.E) 呻   
    く宗庵。頭へスッポリ被った大丼鉢。S.E=鐘楼で撞(つ)く鐘の音
    (グォ~ン) 宗庵、被ったまま崩れる。
    (テーマ曲のオケ2 オフ)
41.  頭部のレントゲン映像 C.I
    シャウカステン上のレントゲン撮影されたフィルム映像。
    C.O
42.  病院の診察室・現代
    医師(配役は無名の外科医)が椅子に座りカルテを書いている。カメ
    ラ、医師の姿。医師、シャウカステンのレントゲン撮影されたィルム映
    像を見た後、カメラ目線で素人っぽく、
   医師  「今回も頭蓋骨陥没骨折による即死ですなぁ(笑って)。お気の
        毒でした…(軽く頭を下げて)」
43.  白河宗庵の屋敷(厠)・夜
    (ふたたび テーマ曲のオケ2 イン)
    いつの間にか忍び込んだ伝助、大丼鉢を床へ置き、宗庵を担ぎ去
    る。天井から縄で伝い降りた又吉、大丼鉢を背の袋に入れ、両手
    に金具付手袋を装着すると、器用に縄を昇る。
    (テーマ曲のオケ2 オフ)
44.  白河宗庵の屋敷(寝所近くの間)・夜
    (テーマ曲のオケ3 イン)
    留蔵が携帯用の鞴(ふいご)を手で押して準備する。真っ赤に焼け
    た鉄の大鎌の刃、闇に映える。無言で頷き確認すると、それを手
    に障子戸をスゥーっと開ける留蔵。


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☆時代劇シナリオ・影車・第三回☆生臭坊主(8)

2008年10月26日 00時00分00秒 | #小説

    影車      水本爽涼
    第三回 生臭坊主(8)

32. 白河宗庵の屋敷前・夜
    仙二郎が表門から遠ざかる姿。
   仙二郎「金の出所(でどこ)は但馬屋か…。これもワルだな」
    と呟いて去る。
33. 河川敷・深夜
    二人の娘が切り捨てられて倒れている。立ち去る侍(宗庵の家
    臣①、②)二人。その様子を離れた木陰から窺う、お蔦の姿。
   お蔦  「とうとう、やっておくれだよ。まあこれで手筈だろうねぇ…」
34. 河堀(橋の上)・夕刻
    柳、屋形船あり。いつものように、仙二郎と、お蔦が話をする。仙
    二郎、欄干に凭(もた)れて、
   仙二郎「そうかい、とうとうやっちまいやがったか…」
   お蔦  「阿漕(あこぎ)な奴らだよぉ」
   仙二郎「手筈だな! 皆を集めろい。明日の宵、五ツ、いつもの小屋
        だ…。少し派手にやらかすか」
    と云って笑い、歩き去る仙二郎。お蔦も瞽女(ごぜ)に戻って、反対   
    側へと消える。
35. 河川敷の掘っ立て小屋・夜(五ツ時)
    仙二郎、留蔵、又吉、伝助、お蔦といった、いつもの面々が一堂
    に会する。
   仙二郎「若年寄の稲葉、目付の青山、これは、お蔦、お前(めえ)に任
        せた」
   お蔦  「あいよっ!」
   仙二郎「他の者(もん)は、各自、手筈どおりやってくれ」
    留蔵、又吉、伝助、頷く。
   仙二郎「お蔦、今度ばかしは、ちと的(まと)がでけぇ。命の保障がね
        えから、お前(めえ)には先渡しだ、受け取れ。しくじるなよ」
    と、小判を一枚、土間へと置く。
   お蔦  「(少し笑いながら))諄(くど)いねぇ、帰れなきゃ、化けて出てや
        るよ(土間に近づき、一両を拾い)」
   仙二郎「口の減らねぇ、お姐(あね)ぇさんだ」
    と嫌みを云う仙二郎。一同、笑う。
   仙二郎「いつもの手筈でいくぜ。伝助、稲葉は晒(さら)さなくていい。
        お前
 (めぇ)が、しくじったら大変(てえ)へんだからな。…そい   
        じゃ、お開き
でぇ」
    伝助、頷いた後、土間の蝋燭を吹き消す。暗黒の闇。
36. 青山監物(けんもつ)の屋敷(廊下)・夜
    青山(白衣
姿)が寝所へと向かう。
   青山  「昨夜は、いい味見をさせて貰った。あの娘、殺すには惜しい
        のう…。口封じか…、但馬屋の申すことも一理ある。まあ、   
        仕方あるまいて…(嗤い)」
    と云って寝所の障子戸を開ける。廊下に控える側用人、青山に座   
    したまま一礼。
   青山  「大儀!」
    とだけ声をかけ、寝所へと入り障子戸を閉める。


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☆時代劇シナリオ・影車・第三回☆生臭坊主(7)

2008年10月25日 00時00分00秒 | #小説

    影車      水本爽涼
    第三回 生臭坊主(7)

29.  江戸城中(中書院・奥座敷・天井裏)・朝
    忍び込んで下の様子を窺う、お蔦。一部始終を聴き終えて、
    お蔦  「こりゃ、庶民が泣く訳さね。ここにもワルが一匹いたよ」
    と小さく呟いて、闇の中へ消える。
30.  うどん屋(内)・昼
    仙二郎、宮部と昼食にうどんを食べている。後ろの町人が二人、
    何やら話す。
   町人A「ぶっそうな世の中に、なっちまったもんだぜ。街の娘達ゃよ
        う、
夜分どころか日中(ひんなか)だって外を歩けねえってん
       
だからな」
   
町人B「お役人は、いってえ何してんだろうねえ(仙二郎達を見て)」
    仙二郎、宮部、その言葉を背に受けて、思わず喉を詰めかけ、箸
    を
置き、茶を飲む。
   町人A「まあ、お上(かみ)のしなさるこってぇ。俺達貧乏人風情が愚
        痴ったところで、仕方ねえやな」
   町人B「違(ちげ)えねぇ!」
   町人A「おめえよ、それがな…(声を小さくして)余(あんま)り、おおっ
        ぴらにゃ云えねえんだがな…、奉行所が手出しできねえんじ
        ゃねえかって云う者(もん)もいるんだ」
   町人B「それってよぉ、ご大層なお方が裏にいらなさるってことか?」   
   町人A「まあ、話の筋からすりゃ、そうなるわな」
   町人B「おお怖(こえ)ぇ…。世も末だぁ」
    仙二郎と宮部、二人の掛け合いを聴いて、顔を思わず見合わせ
    る。気まずさを感じた二人、聴かなかった素振りで、うどんの残りを
    食べ急ぐ。
31.  白河宗庵の奥座敷(別棟)・夜
    大奥出入りを許されている呉服商、但馬屋の多兵衛が来ている。
   多兵衛「腰元、女中達の聞こえも宜しいようで…、これも偏(ひとえ)に、   
        お坊主様のお引き立ての賜物と喜んでおる次第で御座居ま   
        す」
   宗庵  「そのように申されては、恐縮致しますなぁ…(笑って)」
   多兵衛「何をご謙遜なされますやら…。大奥では今や、お坊主様のご
        威光を受けぬ者は、おりますまい。今後とも、よしなにお引き
        立てのほどを…」
    と云って、脇に置いた風呂敷包みを解き、熨斗(のし)紙に包まれた
    木箱(二十五両包金が入った五百両)を差し出す。
   多兵衛「これは、ほんの僅(わず)かばかりでは御座居ますが…」
   宗庵  「毎度のご進物、痛み入る」
    と、慣れた手つきで手元へ引き寄せる。
   宗庵  「実はな…、今宵、呼び立てたは他でもない。城中のさるお方
        から、また御所望がありましてな。手ごろな娘はおりませぬ
        か?」
   多兵衛「…、この前、お世話致しました娘御(むすめご)は?」
   宗庵  「それよ。…あの娘は今、座敷牢に閉じ込めておりますが、
        まだ手離すのは惜しゅうてな(照れ笑いして)」
   多兵衛「他の娘どもは?」
   宗庵  「もう、始末しておる頃かと…」
   多兵衛「惜しいことを…。二人とも、まだ五日(いつか)ばかしでござい
        ましょうほどに…。どちらかを、そのお方へとは、いきませな
        んだか」
   宗庵  「味見した娘を献上というのも憚(はばか)られましてな…(嗤
        う)」
   多兵衛「お悪いお方じゃ、お坊主様は(嗤って)」
   宗庵  「いやいや、お恥ずかしき次第。だがのう、其許(そこもと)も、   
        それを知っておられる上でご助力くださるのじゃから、かな
        りお悪い」
    二人、顔を見合わせて嗤い合う。


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☆時代劇シナリオ・影車・第三回☆生臭坊主(6)

2008年10月24日 00時00分00秒 | #小説

    影車      水本爽涼
    第三回 生臭坊主(6)

25.  長屋(留蔵の家の中)・夜
    干物を摘んで茶碗酒を飲む留蔵。かなり酩酊している。そこへ、入
    口の障子を破り、紙包みの石つぶてが投げ込まれる。留蔵、幾らか
    フラついて土間へと降り、拾って乱雑に読む。
   留蔵  「…久しぶりだな」
    ひと言、そう呟いて、何もなかったように上へ戻り、干物を齧りな
    がら行灯へと近づくと、その紙に火をつけ煙草盆へ。
26.  飛脚屋の店前・昼
    お蔦が杖をついて、態(わざ)と店の入口へと近づく。ごった返す人
    の動き。飛脚達の出入りが激しい。お蔦に気づいた店の者。
   店の者「姐(ねえ)さん、危ないよ。押し倒されたら怪我しちまうから
        ね。さあさあ、あっちを通りな」
    その声に気づく伝助、素早く近づくと、お蔦の手をとって誘導する。
27.  飛脚屋の店横(路地)・昼
    人込みのない店横の路地まで来て、
   伝助  「姐(あね)さん、何の用で?」
   お蔦  「いやね、十手の言伝(ことづて)だよ。手筈が近いから心して
        おけってさ(小声で)」
   伝助  「的(まと)は誰なんです?(辺りを窺い、小声で)」
   お蔦  「茶坊主と目付…辺りだね。今のところ…(小声で)」
    そう云うと、お蔦、歩き去る。暫(しばら)く歩き細目を開ける。
    人の気配がないことを確認すると屋根へと飛び、姿を消す。(一瞬
    の早業) 見遣る伝助、お蔦の姿が消えると、
   伝助  「与三父っつぁんの仕事場けぇ…」
    と小さく呟き、店へ戻る。
28.  江戸城中(中書院・奥座敷)・朝
    宗庵が老中の稲葉に謁見している。
    稲葉  「青山監物(けんもつ)推挙によるのだぞ。過分の沙汰と有り
        
難く思わばのう(脇息に片腕を預け)」
   宗庵  「ははっ!(ひれ伏して)」
   稲葉  「そう堅苦しゅうせずともよいわ。面(おもて)を上げい」
    宗庵、ゆっくりと頭を上げる。
   稲葉  「ところで…、そちは色の道にも長(た)けておるそうよの?」
   宗庵  「めっそうもないことに御座居まする(また、ひれ伏して)」
   稲葉  「監物から、そう聞き及んでおるぞ。身共(みども)にも取り

        らえ
ぬか?(笑って)」
   宗庵  「ははっ! そのようなことなれば、容易(たやす)き事。孰(い
       ず)れ、頃合いを見まして献上に及びまする…」
   稲葉  「献上のう? 献上か、ははは…。急がずともよいでな。楽しみ
        にしておるぞ」
   宗庵  「ははっ!」


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☆時代劇シナリオ・影車・第三回☆生臭坊主(5)

2008年10月23日 00時00分00秒 | #小説

    影車      水本爽涼
    第三回 生臭坊主(5)

 20.  白河宗庵の屋敷(別棟の寝所)・夜
     宗庵が娘と睦みごとの最中。上から俯瞰して撮る二人の姿。嫌が
     りつつも、宗庵の手練手管に悶える娘の顔。そのとき、障子向こ
     うから声。
   家臣①「お坊主様!」
     宗庵、行為を中断し、煙たそうに、
   宗庵  「なんじゃ、かような夜分に…」
     半身を起こす宗庵。瞬間、乱れた肌襦袢を掻き合わせる娘。裸足
     の乱れが行灯の光に映え、艶っぽい。宗庵も白衣を整えて、
   宗庵  「苦しゅうない」
     と、威厳を込めて云う。家臣①、障子戸を開け、座したまま一礼
     し、
   家臣①「明朝、辰の下刻、登城せよとの、お達しが、ほん今、若年
        寄の稲葉様から御座居ました」
   宗庵  「そうか…。御苦労であった。下がって休め」
   家臣①「ははっ!」
     一礼して障子戸を閉める家臣①。
   宗庵 「興が冷めたわ…(娘を見て)。そなたも下がって休むがよい」
     娘、立つと足早に寝所を出る。
   宗庵  「思いのほか、首尾よくいったとみえる(北臾笑[ほくそえ]ん
        で)」
21.  白河宗庵の屋敷(寝所の前廊下)・夜
     寝所から少し離れた廊下の隅に座り、不寝番をする家臣②、出
     てきた娘を連れ去る。
22.  座敷牢(広い部屋)・夜
     かどわかされた娘二人が牢の中の布団で寝ている。そこへ家臣   
     ②に連れられた娘が、やってくる。家臣②、錠前を鍵で外すと、木
     の格子牢の扉を開け、
   家臣②「入れ!(娘を押して)」
     と云う。娘が牢に入ると、ふたたび施錠して去る。牢内に灯りはな
     く、牢外に僅かに一つある燭台の蝋燭の炎が微かに揺れる。娘達   
     が、すすり泣く声。
23.  座敷牢(天井裏)・夜
     お蔦が忍んでいる。天井裏で宗庵達の悪事の所業を探った後で
     ある。下で泣く娘達の様子を見ながら、
   お蔦  「やれやれ…お天道様は、どこにいなさるのかねぇ。それにし
        ても、ありゃ極悪坊主だよ。じれったいが、今日は戻るとす
        るか」
24.  河堀(橋の上)・夕刻
     柳、屋形船あり。仙二郎と、お蔦が話をしている。定位置で欄干
     に凭れる仙二郎。
   仙二郎「どうだったい?」
   お蔦  「ありゃ、ひどいねぇ。今すぐでも手筈をかけて貰いたいくらい
        の奴さね」
   仙二郎「やはり俺の読みどおりだったようだな…。だが、前(めえ)に
        も云ったと思うが、殺しの証(あかし)が攫(つか)めねえと、
        手筈はできねえ」
   お蔦  「もうひと押し、するかい?」
   仙二郎「そうだな」
   お蔦  「他の連中にも云っとくかね」
   仙二郎「ああ…、手筈が近(ちけ)えってことだけは云っといてくれ」
   お蔦  「分かったよ(仙二郎の前へ手の平を広げて催促し)」
   仙二郎「すまねえ。今日はこれだけしか持ち合わせがねえが、勘弁
        してくれ」
    と、両手を合わせ詫びた後、一朱銀、一枚を袖から出し、手渡す。
   お蔦  「まあ、いいか…(不満げに)」
    と云って一朱銀を受けとると瞽女(ごぜ)に戻って去る。仙二郎、そ
    れを見遣り、反対側へと歩き始める。
   仙二郎「へへっ、もう一朱あったんだがな。よし、今夜は久しぶりに鴨
        鍋にでもするか…(反対側の袖から一朱銀、一枚を取り出し、   
        眺めながら)」
    仙二郎が歩く後ろ姿。仙二郎、鼻歌で浮かれて遠ざかる。


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☆時代劇シナリオ・影車・第三回☆生臭坊主(4)

2008年10月22日 00時00分00秒 | #小説

    影車      水本爽涼
    第三回 生臭坊主(4)

16.  白河宗庵の屋敷(別棟の奥座敷)・昼
    宗庵が目付の青山下野守を饗応している。豪華な馳走の膳。
   宗庵  「この前の娘は、お気に召しましたかな?(盃に酒を注ぎ)」
   青山  「ふふふ…(嗤って)、それなりにのう」
   宗庵  「青山様は、お目が肥えておられるまする故、当方もお探し
        申すのに難儀致します(盃に酒を注ぎ足し、小笑いして)」
   青山  「何を申す。そちの足元にも及ばぬわ、ワハハ…」
    と、一笑に付す。
   草庵  「つきましては、私めの坊主頭への差配、何卒、よしなに」
   青山  「おお…
いつぞや申しておったのう。…若年寄の稲葉様に、
        近々、
話すとしよう」
   宗庵  「これは些少では御座居まするが…」
    傍の木箱を差し出し、蓋を開ける宗庵。中には山吹色に輝く二十
    五両包金の塊が詰まっている。チラッと下を見遣る青山。
   青山  「これは済まぬのう。だが、云っておくが、身共が手に致すの
        ではないぞ。全て稲葉様へり献上の為じゃ(箱を引き寄せ
        て)」
   宗庵  「はい、分かっておりますとも」
17.  江戸の街通り(一筋の広い道)・昼
    宮部と仙二郎が連れ立って歩いている。定廻り中の二人。時折り、   
    前後を行き来する町人達。
   仙二郎「宮部さん、娘の、かどわかしゃ、この月に入って何件でした?」
   宮部  「それよそれっ。えっとね…、確か三件だったかしら。それも、立   
        て続けでしょ?」
   仙二郎「ええ、みたいです。いったい誰の仕業なんでしょうねぇ?」
   宮部  「後(あと)が酷(むご)いわね。最近では、お目にかからない
         事件ですよ」
   仙二郎「はい。なにか、大きな黒幕が動いてるように思うんですが…」
   宮部  「私には、そんな、ややこしいことは分かんないけどさ」
   仙二郎「ですよね。…もう少し廻って、昼にしますか?」
   宮部  「そうね、そうしましょ」
    二人、話しながら遠退く。
18.  茶屋(狭い路地)・夕暮れ時
    門付けを、いつものように済ませた、お蔦。遠くから様子を窺う仙
    二郎、二階の障子が閉められるのを見届け、お蔦に近づく。
   仙二郎「歩くぜ…」
    足早やに歩く仙二郎の後方を、お蔦も歩く。

19.  河堀(橋の上)・夕暮れ時
    柳、屋形船あり。話す二人。仙二郎、いつもの定位置で欄干に凭
    れている。
   仙二郎「悪いが、また、ちょいと探って貰いてぇんだが…」
   お蔦  「今度は、どこのどなただい?」
   仙二郎「茶坊主の白河宗庵だ。俺の睨んだとこじゃ、こいつぁどうも、   
        続いてる娘達の、かどわかしと関係してやがる節がある」
   お蔦 「ひと月も経ちゃぁ、殺されっちまうっていうやつだろ? ありゃ
        酷いねぇ」
   仙二郎「ああ、そうなんだがな。奉行所も今のとこ、お手上げでよ」
   お蔦  「お前さんが云うのは怪(おか)しいよ」
   仙二郎「違(ちげ)ぇねえ。やってらんねぇな。まあ、ひとつ、頼まぁ」
   お蔦  「分かったよ。三日、貰うよ」
   仙二郎「ああ、それでいい。今の茶屋で今時分(財布を取り出して)」
   お蔦  「ほぉ~、今日は催促がいらないようだねぇ」
    仙二郎、苦笑しながら、一朱銀を二枚、手渡して去る。お蔦も瞽女
   
    (ごぜ)に戻り、杖をついて反対側へと歩きだす。


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☆時代劇シナリオ・影車・第三回☆生臭坊主(3)

2008年10月21日 00時00分00秒 | #小説

    影車      水本爽涼
    第三回 生臭坊主(3)

12.  江戸の街通り(一筋の広い道)・夜
    仙二郎が屋台に向かって歩いている。
   仙二郎「いけねえ、霰が降ってきちまったぜ(慌てて小走りする)」
13.  街通りの蕎麦屋の屋台(内)・夜
    仙二郎、駆け込んで暖簾を潜る。
   仙二郎「いつもの、かけだ」
   又吉  「へいっ! 毎度」
   仙二郎「汁は、たっぷり入れてくれ。ふぅ~、寒くって、いけねえや。
        風邪、ひいちまわぁ」
    又吉、微かに笑う。
   仙二郎「昨日(きのう)は、うっかり寝ちまってな。帰(けえ)って、空きっ
        腹に一杯(いっぺえ)ひっかけたのが悪かった。朝まで白河
        夜船よ」
   又吉  「結構な、ご身分で(笑って)」
   仙二郎「まあ、そういうねえ。…話ゃぁ変わるが、昨日(きのう)の茶坊
        主様の行列、お前(めえ)も見たろ? 夜船のよぉ」
    又吉、できた蕎麦の鉢を仙二郎の前へ置きながら頷いて、
   又吉 「へいっ、お待ち!」
    仙二郎、汁を先に啜り、その後、割り箸を取る。腹が空いていたの
    か、貪るように食べ始める。無言のまま半ば食べ、
   仙二郎「ありゃ、白河宗庵といってな、余(あんま)り出来のいい茶坊
        主じゃねえみてえだ。飽くまで、俺の勘なんだがな。続いて
        る娘達の、かどわかしゃ、奴に違(ちげ)えねえと踏んでんだ
        がな」
    と云って、また残りの蕎麦を食べる。
   又吉  「その噂は、俺も聞いてるぜ。街中の、お店(たな)の娘が震え
        てるみてえだな(影車の口調で)」
    と、又吉、呟くように云う。
   仙二郎「お蔦に調べ、入れさせる…」
    食べ終えた仙二郎、ぽつりと云い、財布を取り出し、十六文の銭
    を置
く。それとは別に、一朱銀(こつぶ)二枚を加えて、また置く。
   仙二郎「お前(めえ)も何かと入用だろ? とっときな(立ちながら)」
   又吉  「(蕎麦屋の口調に戻り)へいっ! 有り難(がと)やした!(笑顔)」   
    と、暖簾を上げて出ようとする仙二郎の後ろ姿に声をかける。
14.  街通りの蕎麦屋の屋台(外)・夜
    仙二郎、空を眺めて、
   仙二郎「おう、霰も止んだみてえだな。それにしても冷えらぁ…」
    と呟いて立ち去る。凍てた夜風が吹き、屋台の風鈴をチリン! と
    鳴らす。
15.  白河宗庵の屋敷(普請中)・昼
    小忙しく働く大工や左官の職人達。その中に与三もいる。(現在で
    いうリフォームの現場)


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