影車 水本爽涼
第四回 世乱し旗本(1)
あらすじ
旗本であることを嵩(かさ)にして、悪事の限りを尽くす白鞘組。末弟ゆえ
に無役であることの鬱憤を庶民にぶつけている。最初のうちは仙二郎も
見て見ぬ振りをしていたが、娘を手込めにする、或いは豪商から大金を
脅し盗る、そして挙句の果てには、それらの者を斬り殺すという凶悪事
件を引き起こすに及んで、手筈することを考える。彼らが人の命をもて
遊ぶ辻斬りの現場を見た刹那、仙二郎は遂に白鞘組を手筈することを
決断するのだった。
登場人物
板谷仙二郎 41 ・ ・ ・ ・ 御家人(北町奉行所 定廻り 同心)
留蔵 32 ・ ・ ・ ・ 鋳掛け屋(元 浪人)
又吉 31 ・ ・ ・ ・ 流し蕎麦屋(元 浪人)
伝助 18 ・ ・ ・ ・ 飛脚屋(町人)
お蔦 30 ・ ・ ・ ・ 瞽女(元 くの一 抜け忍)
(※ 以下 略)
1. 満開の桜並木(土手の道)・夜
タイトルバック
貧乏ながら、酒や持ち寄りの食物で酒宴を開く町人達。皆、浮かれ
て騒いでいる。飾られた雪洞(ぼんぼり)の灯りが映え、時折り散る
花びらが実に美しい。その光景を遠目で眺めながら、土手伝いに歩
く仙二郎。
仙二郎「ははっ、やってるな。…いいもんだぜ」
そこへ真向かいから、お蔦が杖をつき進んでくる。
仙二郎「よお、姐(ねえ)さんも夜桜見物かい?」
お蔦 「なに云ってるのさ。通り掛かっただけだよ(目を開け笑う)」
仙二郎「まあ、どうだっていいや。世の中、平和で何よりだ」
と、ふたたび町人達の酒宴を遠目に眺める仙二郎。
お蔦 「だといいんだけどねぇ。また物騒なことになりそうだよ」
仙二郎「どういう意味でぇ?」
お蔦 「ほら、あれをご覧な」
お蔦が指さす方向に、侍達の集団が現れる。
2. 満開の桜並木(土手の道)・夜
白鞘組の若侍、五人が、ぞろぞろと集団となって桜並木へ近づき、
若侍①「おっ、何やら騒いでますよ」
と、リーダー風の山倉疾風介(はやてのすけ)に云う。
疾風介「これは、面白くなってきたな。少し、からかってやれ」
疾風介、両脇の若侍達に軽く指示。若侍の中の二人、町人達の酒
宴へと乱入し、暴れ始める。
町人①「何、すんでぇ!」
若侍②「町人の分際で酒宴などと、片腹、痛いわ!!(徳利や料理もの
を蹴り倒して)」
町人①、酔いの勢いもあり、思わず若侍②を突き倒す。激昂した
若侍②、起き上がると、矢庭に刀を抜く。町人達、悲鳴を上げて逃
げ惑う。
疾風介「おいっ、やめろ! もういい…。引き上げだ!」
その声に若侍②、渋々、刀を鞘へ納める。ぞろぞろと去る白鞘組の
若侍五人。差した白鞘が淡い灯りに映える。
流れ唄 影車(挿入歌)
水本爽涼 作詞 麻生新 作編曲
なんにも 知らない 初(うぶ)な星…
健気に 生きてる 幼(おさな)星…
汚れ騙され 死ねずに生きる
悲しい女の 流れ唄
酒場で 出逢った 恋の星…
捨てられ はぐれて 夜の星…
いつか倖せ 信じてすがる
寂しい女の 流れ唄
あしたは 晴れるか 夢の星…
それとも しょぼ降る なみだ星…
辛い宿命を 嘆いて越える
儚い女の 流れ唄
※ レイアウトの関係で絵コンテは掲載しておりません。
※ S.E=サウンド・イフェクト、C.I=カット・イン、C.O=カット・オフ、N=ナレ-ション、オケ=オ-ケストラ