水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

サスペンス・ユーモア短編集-34- 微妙な落雷

2016年07月18日 00時00分00秒 | #小説

 不審火による火災が発生し、梶北署の捜査員が現場へ出動した。家は廃家で、幸いにも誰も死傷者は出ていなかった。
「消防は火元から見て不審火としか考えられないとの結論でしたが…」
 組立(くみたて)刑事は体育(たいいく)主任の顔色を窺(うかが)った。
「ああ、漏電、その他の原因はなかったそうだからな…」
 体育は、少し威厳のある声で返した。
「立ち去った少年の目撃情報が取れましたが…」
「坂立(さかだち)が洗ってるそうだな」
「はい! 今回はスンナリ捕(つか)まりそうです」
「そうなればいいがな…。さあ、署へ引き上げるとするか」
「はい!」
 体育と組立は覆面パトカーへ向かった。
 数日後、少年は簡単に捕まった。それも当然で、逃げていなかったからである。少年は署へ連行されるとき、キョトン? とした顔で警官を見た。自分がなぜ逮捕されるのかが分からなかったのである。
 梶北署の取調室である。
「お前しかいないだろうがっ! ちゃんと目撃者の裏も取れてるんだっ!」
「そんなこと言われても…僕じゃないよっ!」
「それじゃ、お前を見たっていうのは嘘(うそ)ってことだなっ!」
 組立は強い口調で自白を迫った。
「いえ、それは本当だと思う。確かにその家の前を通ったから…」
「やはり…」
「いやいやいや…」
 少年は片手を広げ、ブラブラ振りながら否定した。それを見て、組立の後ろに立つ体育がポツリと言った。
「吐けば楽になるぞっ…」
「あっ! あのあと、しばらくして落雷があったんだ…」
「落雷? 馬鹿かお前は。そんな天気じゃなかったろうが…」
「いえ、確かに。僕がその家の前を通り過ぎてから五分ほどしたときだったな」
「馬鹿野郎! 落雷したなら近所の者は皆、知ってるわっ」
「音も聞いてるだろうしな」
 また体育が後ろから付け加えた。
「いえ、信じちゃもらえないかも知れないけど、無音で落ちたんだよ」
「誰が信じられるかっ!」
 そのとき、体育の携帯が鳴った。体育は威厳のある態度で携帯に出た。
「体育ですが…。…はい。…はい。えっ? そんな馬鹿なっ!」
 体育の顔の表情が一瞬、険(けわ)しくなった。
「主任、どうされました?」
「全焼した現場で、無傷の雷太鼓が発見されたそうだ…」
「でしょ?」
「微妙だな…」
 少年はニンマリし、二人の刑事はアングリした。

                   完


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