水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

思いようユーモア短編集 (60)助言(じょげん)

2020年12月31日 00時00分00秒 | #小説

 ものは思いようで、人の助言(じょげん)を素直に聞くか聞かないかでは、その後の展開に大きな差異を生じる。要は、その人が受け止める思いようの差で生まれる訳だが、どう判断するか? は本人の勝手で、他人には、どうしようもない。^^
 屑尾(くずお)は、とある観光地を訪れたのはいいが、到着した駅で戸惑っていた。
 駅の案内所である。
「あの…」
「はい?」
 案内係の若い女性は、ガラス越しに訝(いぶか)しげに屑尾の顔を見た。
「私は、どこへ行けばいいんでしょう?」
「はあ? …観光で来られたんですよね?」
「はい! 確かにここへ観光に来たのは来たと思うんですが…」
「思うんですか? この辺(あたり)の有名どころは、子作岳(こづくりだけ)の山麓(さんろく)にあります精力(せりき)神社なんですが…」
「はあ、そうなんですか?」
「行かれるんでしたら、駅前の停留所からバスが出てますよ」
「はあ…」
「お参りのあと、神社前の茶店で美味(おい)しい子作りそばなんか、いかがでしょう?」
 そのとき、ふと屑尾は思い出した。そうだっ! 俺は態々(わざわざ)こんな遠い観光地まで祈願で足を延ばしたんだ…と。
 お参りを無事、済ませた屑尾は、前の茶店で腹具合も満たし、一目散に帰途に着いた。
 助言を素直に聞く思いようで、胸の閊(つか)えが消えたという一例のお話である。^^
 
                      完


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思いようユーモア短編集 (59)済(す)ます

2020年12月30日 00時00分00秒 | #小説

 アレをせねば…で、そのあとナニをして…と、先々の予定を考え、皆さんも動かれることだろう。むろん、私も、そうしている。^^ それらの用件を済(す)ますことで、なぜか肩の疲れが取れたようなホッコリ感が生まれるのは私だけではないはずだ。人は思いようで生まれた用件を済ますことで安心感を得るのかも知れない。^^
 柚子川(ゆずかわ)はこの日、かねがね思っていた小屋の片づけをしていた。済ますことで、気になっていた思いようを減らすのが目的だ。片づけを進めていくと思った以上に予想外の品物が現れ、柚子川は難儀(なんぎ)した。出現した予想外の品物を、さて、どうしたものか? と動かせず、時間だけが経過していったのである。済ますことが目的なのに、とてもその日のうちに済ませないのでは? という事態にまでなってきた。
「もう、いいっ! …もう、いいっ!!」
 柚子川は、ついに捨(す)て鉢(ばち)になり、作業を中断した。
『熱いココアでも飲むか…』
 流れる冷気ですっかり冷えて悴(かじか)む両手を擦(こす)りながら、柚子川は呟(つぶや)いた。そのとき、ふと、柚子川に閃(ひらめ)きが生まれた。
「そうだっ! 今日じゃなくってもいいんだっ! 明日(あす)にしよう!!」
 問題は一瞬にして解決したのである。
 ものは思いようで、そのとき済ますことに固執(こしつ)する必要はないのだ。いつ済ませてもいい訳である。^^

                   完


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思いようユーモア短編集 (58)近づく者

2020年12月29日 00時00分00秒 | #小説
 人は世の中で生きる上で、否応(いやおう)なく他の人との接触を避けては通れない。こちらから近づく場合はいいとしても、問題は向こうから近づく者・・ということになる。まあ、こちらから近づく場合、相手にとってはこちらが近づく者・・ということになるのだが…。^^ それはさておき、相手が近づく場合は何らかの考えがあってのことだから、注意あるいは警戒が必要となるようだ。自分に何らかのメリット[利益]がなければ、人は決して近づかない・・と、オレオレ詐欺などがある今の世の中では考えた方が賢明だからである。実に嘆(なげ)かわしい現実だが、愚痴っても、まあ仕方がない。^^
 大伴(おおとも)は文字どおり金を貯めるのが唯一の楽しみという風変わりな男だった。日々、僅(わず)かでも貯えられれば機嫌がよく、出費が嵩(かさ)めばテンションがダダ落ち・・という風変わりな男だった。
 ある日の朝、その大伴が突然、町の繁華街で泣き出した。これには、後ろを歩いていた通行人は驚かされ、思わず訊(たず)ねていた。
「ど、どうされましたっ!?」
「実は今日、2,500円を使うんですっ! ぅぅぅ…」
「えっ? 2,500円を使えばダメなんですかっ!?」
「はいっ! 2,500円も減るんですよっ!」
「ははは…そ、そうでしたかっ!」
 通行人は、この人にはかかわらない方がいい…と思えたのか、やんわりと笑いながら通り去った。
 ものは思いようで、こんな場合には近づく者も遠ざかるのである。^^

                      

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思いようユーモア短編集 (57)探す

2020年12月28日 00時00分00秒 | #小説
 あれっ!? あったのに…と、思わず物を探すことがある。素直に出てさえくれれば何の問題も起きないが、『へへへ…そうは問屋(とんや)が卸(おろ)さないよっ!』とばかりに探す物が隠れてしまえば、コトは長びくことになる。^^ 要は、探す物に対する人の思いようの深さにより、その後の展開が変わるということである。展開を複雑にするのが嫌(いや)なら、早い話、探すのをやめればいい訳だ。^^
 空は晴れ渡り、絶好の行楽日和(こうらくびより)だというのに、鳥越(とりこし)九郎は朝から物を探す羽目に陥(おちい)っていた。買い求めた列車のチケットと福引で当たった観光地の宿泊券が見当たらないのである。『フフフ…明日は旅か』と、楽しみを胸に眠りについたまではよかった。夕方前から準備に取りかかり、アレやコレやと鞄(かばん)に詰め込み、ようやくホッ! と一息ついたとき、すでに夜の七時は回っていた。それから夕飯を食べ、もう一度、確認をっ! とばかり、一端、全てを鞄から出したのがいけなかった。肝心要(かんじんかなめ)の列車のチケットと宿泊券は、一番大事なものだから朝一に背広に入れよう…と、鞄の上へ置いたのだが、それが見つからないのである。見つからなければ、はずだった…も、はずにはならない。^^
「鞄に置いたろ? …で、歯を磨(みが)いて寝たと…」
 そこまでの鳥越の記憶は鮮明だった。それ以降が不鮮明なのである。少し早く起きたのが幸いして、まだ家を出る時間までに小一時間はあった。
「いやいや! 歯を磨いて、歯ブラシを鞄に入れようとビニール袋を探しに行ったんだった…」
 そしてまた、鳥越はその後の行動を思い出そうとした。
「で、袋に入れて寝たんだ。これは、はっきりしているっ!」
 力むほどのことでもないのに、鳥越は力んだ。力んで探す物が出てくれれば苦労はしない。^^
「見つからんか…。キャンセルの電話だな」
 家を出る十分前になり、諦(あきら)めた鳥越は背広をクローゼットに戻(もど)そうとした。そのとき、背広に封筒の感触を感じた。そうなのだ! 鳥越は鞄の上へ置いたチケットと宿泊券の入った封筒を、『うっかりすることもあるな…』と背広の内ポケットに入れたのだ。その記憶が鳥越から消えていた・・と話は、まあこうなる。^^
 危うく、時間ギリギリに家を出た鳥越の旅は、予定通り、苦労することなく始まったということである。^^
 ものは思いようで、探す羽目になるほどの取り越し苦労はしない方がいい・・という結論になる。^^
 
                      

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思いようユーモア短編集 (56)食文化

2020年12月27日 00時00分00秒 | #小説
 世界各地には、さまざまな食文化がある。その国や地域独特の食物を調理する文化だ。我が国にも日本独自に育(はぐく)まれた和食の文化があるように、世界の国や地域にも、えっ! こんなものがっ!? と驚かされるような食文化が当然、ある訳である。私なんか、文化はどうでもいいから、美味(おい)しければ何でもいいっ! 派なのだが…。^^
 食文化に対する思いようは人それぞれで、ある人は素晴らしいっ! と感じ、またある人は、なんだ、これはっ!? と顔を歪(ゆが)めるかも知れない。要するに、食文化はその国や地域の人々に根づいて好まれる食べ物文化ということになる。^^
 一人の旅人が、とあるうらぶれた田舎を訪れた。その夕方、観光を済ませた旅人は、予約した旅館に入った。風呂上がりに出された料理を前に、膳を運んで部屋を去ろうとする中居に、やんわりと訊(たず)ねた。
「あの…」
「はい? なんぞ?」
「このお料理なんですが、かぼちゃの上で放水している消防さんは食べられるんですか?」
「はい! もちろん食べられますよ。里芋でこさえておりますだぁ~。この辺(あた)りに伝わ味噌焼きかぼちゃでごぜぇ~ます。お食べ下せぇ~まし。消し手さんは、火伏(ひぶせ)のため、かぼちゃの上に乗っておられると聞き及んでおりますがのう…」
「そ、それはご苦労なことで…」
「ほほほ…ご苦労もなにも。この地域に伝わる食文化でごぜぇ~ますよっ!」
「はぁ…」
「それじゃ、ごゆるりと…。あとで、地酒をお持ちいたしますんで…」
 その話を聞いた旅人は、とても食えんっ! 酒は今、持って来いよっ! とは思ったが、言わずに思うにとどめた。
 食文化も多種多様に分化し、思いようによっては食べられないものも存在する。^^

                      

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思いようユーモア短編集 (55)悩(なや)み

2020年12月26日 00時00分00秒 | #小説
 誰だって一つぐらいは悩(なや)みがあるだろう。いや、悩みなんか私にはないっ! と言われる方もおられようが、そういう方は例外として、まあ普通は一つくらいはあるものだ。^^ 悩みが生まれるのは悩むからで、深く考えなければ悩みとはならない。要は、思いよう次第ということになる。
 一人の青年が深刻に考え込んでいる。そこへ、職場の同僚がやってきた。
「どうしたんだ、そんなに考え込んで…」
「いや、そんな大したことじゃないんだ」
「よかったら、話、聞くぞっ!」
「ああ、有難う、実は昼の食堂なんだが…」
「食堂がどうかしたか?」
「いや、食堂はどうもしない。食堂で食べるランチなんだが…」
「ランチ? ランチがどうかしたかっ?」
「Aランチというのがあるだろ?」
「ああ、あるな…。それが?」
「Bランチというのもあるわな?」
「ああ、あるある。それが?」
「どちらも日替わりで、今日のAランチは味噌煮込み鯖定食なんだ」
「そうなのか? で?」
「Bの方は鯖フライ定食なんだが…」
「ああ、で?」
「お前なら、どっちを選ぶ?」
「…知るかっ!? どっちだっていいだろっ!」
 訊(たず)ねた男は時間の無駄を悟(さと)った。
 このように、思いようによっては、ほんの些細(ささい)なことでも悩みとなるのである。^^

                      

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思いようユーモア短編集 (54)心根(こころね)

2020年12月25日 00時00分00秒 | #小説
 心根(こころね)の優(やさ)しい人・・などと、よく言う。心に根はないが、^^ 要は、心の奥底(おくそこ)が優しい人・・という意味になる。その人に対する他人の感受性の問題だから、思いようによっては、ふんっ! あいつがっ! と、反発する人もいることだろう。個々の受け取りようが違うからで、そうした多くの人と人の絡(から)み合いで世の中は動いている訳である。どうか、縺(もつ)れない程度にお願いしたいものだ。縺れれば、糸と同じで、なかなか解(ほぐ)せなくなる。^^
 ラッシュ時の、とある地下鉄車内である。
「チェッ! 今日も座れませんよっ、先輩っ!」
「仕方ねぇ~だろっ! この時間なんだからっ!」
「これなら、もう少し飲んでればよかったですねっ!」
「まあな…。しかし、それはそれで帰れば怖(こわ)いぜっ!」
「先輩とこもですかっ? うちもです…」
「20年も前は、心根のやさしい女房だったんだがなぁ~。見る影もありゃしねぇ~!」
「どうして変わっちまうんでしょうねっ!」
「というと、お前とこもかっ?」
「まあ、うちは先輩の奥さんほどじゃ、ないでしょうがねっ!」
「喜ぶのは俺の年になってからにしなっ! まあ、あと20年もすりゃ~分かるさっ!」
「そんなもんでしょうか?」
「ああ、そんなもんだ…」
 二人は吊革(つりかわ)を片手に、混雑する車内で揺られ続けた。
 このお話は、人の心根が年月で風化するという思いよう変化の実例である。^^

                      

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思いようユーモア短編集 (53)待つ

2020年12月24日 00時00分00秒 | #小説
 待っている時間が長ければ、イライラする人と、そうでない人に態度が分かれる。その人の性格による思いようの違いで生まれるものだ。両者には同じように時間が流れていて、待つ時間はどちらに贔屓(ひいき)している・・という性質のものではない。だが、待っているときの両者の気分は、大違いを見せる訳だ。^^
 とある駅ホームである。一人の男が腕を睨(にら)めっこしながら、イラついて人を待っている。
「ったくっ! あれだけ言っといたんだから、ちゃんと時間には来てくれないとっ!」
 待つ男は怒った顔で愚痴る。するとそこへ、待つ男がバタバタと走りながら、ようやく現れる。
「悪(わり)~い、悪~いっ!! 待ったぁ~~!?」
「そりゃぁ~待ちますよっ!!」
「まだ発車まで五分もあるじゃないかっ! 赤鼻(あかはな)君!」
「11:20発、兎名海(となかい)行き、あと五分ですよっ、先輩っ!」
「まあまあっ! イライラしたって同じことさっ! 時間にならないと発車しないんだからっ!」
「時間になれば発車しちまう! って考え方もありますよっ!」
「そりゃまあ、そうだがな…。思いようの違いだ。おっ! あと三分しかないぞっ! 急ごう!」
「はいっ!!」
 二人は慌(あわ)てて改札を通り抜けた。そのとき、構内アナウンスが流れた。
『お知らせいたします。11:20発、兎名海(となかい)行きは、豪雪のため30分、延着いたします。ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません』
 そのアナウンスを聞いた先輩、参田(さんた)は、厳(おごそ)かな声で後輩の赤鼻に言った。
「なっ!」
「確かに…」
 赤鼻は納得したのか、首を縦に振った。
 どう思おうと、それぞれの思いようは勝手だが、待つ時間は変化しないのである。焦らない、焦らないっ!!^^

                      

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思いようユーモア短編集 (52)後ろ向き

2020年12月23日 00時00分00秒 | #小説
 (51)の前向きがあれば、当然、後ろ向きもある。^^ この言葉も姿勢を示す意味合い以外にその人物の思いよう・・すなわち、気分を表す言葉にもなる。国会で「前向きに善処し、対処いたしますっ!」と答弁した大臣さんに、「ちっとも前向きじゃないっ! 後ろ向きじゃないかっ!」と、野党の議員さんが反発し、表現されるその手合いだ。^^
 地球の温暖化が問題視される昨今、とある会場では多くの聴衆を前に賑(にぎ)やかな討論会が行われている。
「ですから、温室効果ガスを抑止(よくし)する対策だけでは地球温暖化を抑止できないように思えるんですよ」
「確かにそれはそうでしょう。では、どうしろと?」
「私は文明の進歩自体をもう一度、考え直す必要があるんじゃないかな? と思ってるんです」
「ほう! 具体的にはっ?」
「これ以上、文明、特に環境に付随する文明を進めれば、地球そのものが危うくなると考えてる訳です」
「なるほど…。しかし、現にここまで進んでこうなってる訳ですから」
「だから、前向きを後ろ向きに方向転換する訳ですよ」「具体的にはっ?」
「例(たと)えばですね。草刈り機を使わず、以前のように鎌で除草するとか…」
「そ、それはいくらなんでも…」
「ははは…例えばですよ、例えばっ!」
「なるほどっ! 他の例(れい)ですと?」
「他の例ですか? 他の例ですと…すぐには思いつきませんが、要するに過去の次元まで一端、生活水準を戻(もど)す・・ということです」
「そう言われましてもねぇ~」
「過去のデータは数多くある訳ですから、その生活が今現在、どう変わっているか? を問題視して戻す訳です。むろん、出来ることからですが…」
「なるほどっ! ピンポイントで修正していくと?」
「そうですっ!」
「やってみますかっ!」
「一人の力では不可能ですから、地球全体で取り組むという方向で…」
「分かりましたっ! やってみましょう! ははは…私一人では無理ですが…」
 こうして討論会は終了した。会場からは割れんばかりの拍手が湧き起こった。
 思いようによっては、後ろ向きな事態も前向きに変化する・・というお話である。^^

                      

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思いようユーモア短編集 (51)前向き

2020年12月22日 00時00分00秒 | #小説
 前向き・・という言葉がある。その逆なら後ろ向きだ。^^ この言葉は、前向きで座るとか後ろ向きになって見ないようにする・・などという単に姿勢を表す意味だけではない。前向きに検討する、前向きに取り組む・・などといった気持を表す言葉でもある訳だ。今風に言えばアグレッシブという言葉に相当するのだろう。要は、積極的な思いようで生きていこう! という意欲ある姿勢で、非常に好感が持てる。世の動きには個人のそうした思いようを削(そ)ごうとする逆の動きがある。もちろん、そんな思いようを助けようという神さまか仏さまのような有難い動きもある訳で、私なんか日々、目には見えないそんな動きに感謝し、合掌(がっしょう)しているようなことだ。^^
 蛸壺は、とある清掃組合に勤務する、しがない公務員である。この日も住民のゴミ処理解決の職員として奮闘していた。場所は、もうお分かりだろう。ごみ収集車の搭乗員である。日夜出るごみは豊かな暮らしのツケ[負債]・・と蛸壺は受け止めていた。だが、そう重くは考えていなかった。^^ 出るものはしょ~~がねぇじゃん! くらいの気分である。^^ ただ、蛸壺の仕事ぶりは前向きだった。心の奥底のどこかで『俺は正義の味方、ゴミレンジャーだっ!』と思っていたのである。^^ こんな人ばかりなら、国も、さぞよくなるに違いない。^^ しかし、ゴミレンジャー蛸壺に立ち向かい、巷(ちまた)を汚(けが)す悪いポイ捨てマンもいる訳である。両者の戦いは日夜、繰り広げられていた。
「よしっ! ここで終わりだなっ、蛸っ!!」
 同僚の先輩、磯貝(いそがい)に声をかけられ、『俺は蛸じゃないぞっ! 蛸壺だっ!』と思いながら蛸壺は無言で頷(うなず)き、首筋のタオルで汗を拭(ぬぐ)った。梅雨明けした日射しが容赦(ようしゃ)なく蛸壺に照りつけていた。それでもゴミレンジャー蛸壺は、ナツノアツサニモマケズ・・ごみ収集車に吸いつきながら前向きに生きていた。^^
 蛸壺の楽しみは仕事のあとの一杯で、顔馴染みの居酒屋、網舟(あみふね)へ通うことだった。蛸壺が網舟へ前向きに壺入りする訳である。^^
 このように前向きな思いようは、世の中の気分を、なんとなくよくする。^^

                      

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