水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

☆時代劇シナリオ・影車・第六回☆悪徳医者(6)

2008年11月30日 00時00分00秒 | #小説
      影車      水本爽涼          
     第六回 悪徳医者(6)

15. 長屋(留蔵の家・中)・昼
    忍耐強い留蔵だが、流石に、うだる暑気には勝てず、昼寝している。
    褌一丁の姿。開けっ放しの木戸からは蝉時雨が降る。だが、清涼な
    風は流れていない。
   留蔵  「今年は暑いや…」
    とだけ、ひと言、吐いて寝返りを打ち、団扇(うちわ)で扇ぐ留蔵。
    そこへ、仙二郎が戸口より、ひょっこり現れる。
   仙二郎「ふう~、かなわねぇかなわねぇ。こう暑くっちゃ、日干しに
        なっちまわぁ(胸元を手拭で拭き)」
    急に現れた仙二郎に一瞬、驚いて半身を起こす留蔵。
   留蔵  「なんでぇ…十手か」
    と、ふたたび横になり団扇(うちわ)を扇ぐ留蔵。
   仙二郎「偉(えれ)ぇ御挨拶だな(小笑いし)」
   留蔵  「久しぶりだが、また手筈けぇ?」
   仙二郎「いやな、そういう訳でもねえんだが、そうなるかも知れねえっ
        て話よ…」
   留蔵  「なんでぇ、そりゃぁ。回り諄(くど)くって、いけねえや(小笑いし)」
   仙二郎「はは…。まあ、そうなりゃ、お蔦に言(こと)づけるが、今日は
        な、日差しを避けてぇから寄った迄よ

   留蔵  「そうけぇ…。何もねえが、ゆっくりしてってくんな」
   仙二郎「ああ…有り難(がと)よ」
   留蔵  「まあ、白湯(さゆ)ぐれぇは出すか(立ち上がり)」
   仙二郎「すまねえが、水でいい…」
   留蔵  「腹、壊すぜ」
   仙二郎「はは…そんな、やわな腹じゃねえや」
   留蔵  「ちょいと訊くんだがよぉ(茶碗を持ち水瓶へと近づき)、流行
        
り病(やまい)のこたぁ何か分かったかい? 幸い、この近辺
        じゃ、まだ出てねえんだがよ。又吉が幻斎先生と走り回って
        るようだぜ」
   仙二郎「又吉が?」
   留蔵  「そうよ。あっしなんかより、あいつの方が詳しいだろう」
   仙二郎「そうか…、又吉がな」
    留蔵が差し出した茶碗の水を一気に飲み干す仙二郎。
   仙二郎「それじゃ、またな…」
    と、ひと言、残して戸口を出る。
16. 又吉の長屋前・夕刻
    又吉、屋台で出る前の下準備をしている。いつものように井戸の釣
    瓶で水を汲む。木桶に水を入れた時、薄白く濁った水を見て、異変
    に気づく又吉。
   又吉  「妙だな? 水が濁ってやがらぁ…。まてよ、…こりゃ幻斎先生
        に知らせねえとな。こうしちゃいられねえ(慌てて走り出す)」   


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☆時代劇シナリオ・影車・第六回☆悪徳医者(5)

2008年11月29日 00時00分00秒 | #小説
      影車      水本爽涼          
     第六回 悪徳医者(5)

12. 薬園奉行・彦坂弾正の屋敷(外)・夜
    土塀に囲まれた門構えの豪壮な前景。
13. 薬園奉行・彦坂弾正の屋敷(内)・夜
    離れの座敷(六畳間)。脇息で寛(くつろ)ぐ彦坂、脇息に預けた手で   
    顎を弄りながら、家臣①の報告を受けている。
   彦坂  「さようか…。小石川の方では都合がつくと申すか。よし! そ
        ちに任すゆえ、柴胡と黄金花の増産に励め。町方に蔓延して
        おる流行り病(やまい)に効くそうよ。取り敢えず都合がつくだ 
        け集め、持参致せ。決して町方へは流すでないぞ」
   家臣①「ははっ(平伏して)」
    家臣①、一礼して立ち去る。
   彦坂  「薬草が、どのように金に化けるのかのう? 了然の申すこと、
        よう分からぬわ…(小嗤い
して呟き)」
    ふたたび、顎を脇息に預けた手で弄る彦坂。
14. 高山幻斎の医療所(待合場)・昼
    呻き、横たわる町人達で占拠された待合場。幻斎が慌ただしく患者
    達を診る。又吉も幻斎を手助けしている。
   幻斎  「もう薬草が底をついてきておる。弱ったことじゃて…」
   又吉  「先生、病(やまい)になる本元は何なんです?」
   幻斎  「いや、病因はのう、今のところ分からぬ。処方が分かっただ
        けじゃ。だが、その処方のための薬草は儂(わし)の手元に
        残り少ない」
   又吉  「薬問屋には、ねえんで?」
   幻斎  「いや、それが妙なことに、知っておる店を、くまなく問い合わ
        せたが、入手できぬと云うのじゃ」
   又吉  「そりゃ怪(おか)しいや。薬屋になけりゃ、どこにあるんです?」
   幻斎  「江戸十里四方は無理なようですぞ(又吉を見て)」
   又吉  「どういうこってす?」
   幻斎  「お上から流れぬような手配が、されておるようじゃの」
   又吉  「お上が? そりゃ偉(えれ)ぇこった」
   幻斎  「関八州などの近郷より入手できればいいのだが…。手配が
        及んでおれば、それものぉ…」
   又吉  「なぜ、お上が町衆の困ることをやるんです? 怪(おか)しいじ
        ゃありやせんか」
   幻斎  「(小笑いして)医のことと違(ちご)うて、儂(わし)には、そのよう
        なことは分からん」
   又吉  「困ったことですぜ…」
   幻斎  「(患者の汗を拭い)そうじゃのう…」  


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☆時代劇シナリオ・影車・第六回☆悪徳医者(4)

2008年11月28日 00時00分00秒 | #小説

      影車      水本爽涼          
     第六回 悪徳医者(4)

9. 御殿医・寺村了然の住居・夜
    薬園奉行の彦坂弾正を招いて饗応する了然。赤ら顔の彦坂、既に   
    酩酊状態。
   彦坂  「聞くところによれば、町医者の幻斎が流行り病(やまい)の妙   
        薬を探り当てたそうよの?」
   了然  「はい、どうもそのようで…。ここ数日前より、街の噂となってお
        ります。ところが、その薬に処方致します薬草は、薬園以外
        には無きものゆえ、下々(しもじも)は難儀致しておるやに聞
        き及びまする」
   彦坂  「さようか…。して、そちは身共に如何せよと申すのだ?」
   了然  「なあに、そんな小難しいことでは御座居ませぬ。手前にのみ、
        その薬草を、お遣(つか)わし下されば、法外な儲けになろう
        かと…」
   彦坂  「ほう…それで、いかほど、こちらへ回る(嗤って手の平を広
        げ)」  
   了然  「手前には、ほんのひと握りも頂戴出来ますれば…。あとは、
        全てお奉行様のものに…(嗤って)」
   彦坂  「ふふふ…。悪い話ではないのう。あい分かった。そのように取   
        り計らうことと致そう」
   了然  「有り難き幸せ…(平伏し)。さあ、もう一献(酒を勧めて)」
   彦坂  「(注がれた盃を干して)して、その薬草とは?」
   了然  「はい、柴胡(さいこ)と黄今(おうごん)で御座居ます。詳しく申さ
        ば、ミシマサイコの根、黄今は黄金花(コガネバナ)の根。両
        者を調合した後、煎じて処方致しまする」
   彦坂  「柴胡と黄金花か? 町方には入手が難しかろう」
   了然  「御意に御座居まする。柴胡は以前より柴胡湯として婦女の
        血の道に効くとされ、処方はされておりましたが、黄今は薬
        園以外では入手が厳しいかと…」
   彦坂  「小難しいことは分からぬが、取り敢えず黄金花は増やさせ、
        そちに遣わすと致そう」
   了然  「有り難き幸せ…過分に存じ上げまする(一礼して酒を勧め)」
10. 茶屋(狭い路地)・夕暮れ時
    いつものように門付けを済ませた、お蔦。額(ひたい)の汗を拭いな
    がら下目遣いに辺りを窺う。遠くから首を縦に振り、仙二郎が合図
    を送る。お蔦、ゆっくりと仙二郎へ近づく。仙二郎、知らぬ素振りで
    歩き出す。お蔦、間合いを置き、仙二郎の進行方向を少し離れて
    歩き出す。
11. 河堀(橋の上)・夕暮れ時
    柳、屋形船あり。仙二郎、お蔦の二人、いつものように橋の中ほど
    で会話する。
   仙二郎「病(やまい)に効く薬草が出回らねえのは、いけねえや。薬園
        奉行辺りを探って貰おうか(手に握った一朱銀二枚を手渡し
        て)」
   お蔦  「だから私が云ったとおりだろ?(二朱を受け取り) 暑いから
        ね、早いこと済ましちまうよ。二日も貰えりゃ、いいよ」
   仙二郎「分かった。二日後だな?(念を押して)」
    云い終わると、橋向こうへ歩き出す仙二郎。後ろ姿のまま、
   仙二郎「こう暑くっちゃ、一日中、水を浴びてえや…(笑って)」
    と、云うとはなしに口走る。お蔦、その言葉には答えず、ニタッと微
    笑み、反対方向へ歩きだす。


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☆時代劇シナリオ・影車・第六回☆悪徳医者(3)

2008年11月27日 00時00分00秒 | #小説

      影車      水本爽涼          
     第六回 悪徳医者(3)

5. 仙二郎の住居(同心長屋・外)・夕刻
    銭湯から帰ってきた仙二郎。そこへ、お蔦が突如、屋根から舞い降   
    りる。
   仙二郎「お蔦か…、まあ入んねえ」
   お蔦  「久しぶりだね。少し窶(やつ)れたんじゃないのかい?」
   仙二郎「そう見えるか? 夏場は昼の廻りが堪(こた)えてなぁ(戸口を    
        開け、お蔦を招き入れ)」
    仙二郎が家に入った後、お蔦、辺りを窺って入る。
6. 仙二郎の住居(同心長屋・内)・夕刻
    お蔦、仙二郎が土間から畳へ上がった後、鴨居へ座って、
   お蔦  「病(やまい)が相手じゃ、十手もやり難(にく)いだろうね」
    と、声を投げる。仙二郎、両刀を腰から抜くと、刀掛けに置く。
   仙二郎「さっぱりだぁな(笑って)」
   お蔦  「まあ、病(やまい)は医者に任すしかないが、そろそろワルが   
        動きそうだよ」
   仙二郎「どういうこってぇ?」
   お蔦  「そんな気がした迄さね。何ぞ、ありゃあ、また寄るよ」
   仙二郎「いや、俺の方が訊ねるかも知れねえぜ。その時ゃ頼まあ」
   お蔦  「ああ…。そいじゃ、邪魔したね。しかし時化(しけ)た暮らしぶ
        りだねぇ…(立って、辺りを見回し)」
   仙二郎「(舌打ちして)ちぇっ! 云ってやがらぁ。大きなお世話でぇ」
    と、お蔦に声を投げ返す仙二郎。既にその時、お蔦の姿は家の内
    から消えている。
7. 高山幻斎の医療所(診察場)・夜
    患者の町人、快方に向かっているのか、深い眠りに入っている。血
    色もよい。幻斎、その様子を診ながら、
   幻斎  「解熱したようじゃな。この薬草が効いたか…(乳鉢の中の薬
        を見て)。だが、この薬草、偶然、薬園から頂戴したもの。この
        辺りでは手に入らぬから困ったことになった(思案顔で)」
    
    と、嘆息する。
8. 寺の中・昼
    合同葬の最中。多くの町人や遺族が参列する中、読経がしめやかに流
    れている。仙二郎、宮部の姿もある。同じ後方で見物する町人の二人。
   町人②「幻斎先生が治療薬を見つけたそうよ」
   町人③「そうか! これで、ひと安心だな。一時(いっとき)は、バッタバ
        ッタと倒れたからなぁ。まあ、こんな葬儀は、もうあるめえ」
   町人②「いや、それがな。そうは、いかねえんだとよ」
   町人③「怪(おか)しなこと云うじゃねえか。なぜなんだよ」
   町人②「実は、な。その薬草、そうは簡単に手に入らねえ代物(しろも
        の)だそうよ」
   町人③「この辺りには、ねえのかい?」
   町人②「あるこたぁあるらしいが、なんでも、お上の薬園だとよ」
   町人③「そりゃ、偉(えれ)ぇこった。でもよぉ、お上も見て見ぬ振りは、      
        なされめえ? そのうち出回らぁな」
   町人②「そうなりゃ、いいんだがな…」
    二人の会話を、知らない素振りで聴く仙二郎、宮部の肩を叩くと寺
    を出ようと歩き出す。慌てて追う宮部。


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☆時代劇シナリオ・影車・第六回☆悪徳医者(2)

2008年11月26日 00時00分00秒 | #小説

      影車      水本爽涼          
     第六回 悪徳医者(2)

2. 寺の中・昼
    久遠寺の僧侶が数名、右往左往している。町人達によって
    運び込まれる多くの遺体。僧達に懇願する町人①。
   町人①「そんなことを云わずに、お願(ねげ)ぇしやすよ。次か
        ら次へ死人が出て、置き場もねえんですから」
   僧①  「お気の毒じゃが、寺も困りますでな…。このように次
        から次へ運ばれましては…。生憎(あいにく)、方丈様
                は法事で今、お出かけじゃ。私共の一存では計りかね
                ますので、今日のところは、ひとまず、お引取りを…」
   町人①「そんなこと云われましてもねぇ…。まだ街から運びて
                ぇ死人がいるんですぜ」
   僧②  「(僧①を見て)…仕方ありますまい。非常の事態ゆえ、
                野晒しでも宜しければ、寺外にありまする庭の片隅に
        お置き願えませぬか? 夏場ゆえ、腐敗臭が困ります
        るでのう…」
   町人①「有り難(がて)ぇ。置かせて貰えりゃ、どこでもいいん
        で(頭を下げ)」
    町人①、死体を寺内より寺外の庭へ移すよう、他の町人達
    に指示する。
3. 茶屋(軒)・昼
    立てかけられた軒の葦簾(よしず)。日陰の床机に座り、冷し
    飴を飲む仙二郎と宮部。
   仙二郎「暑い暑いと、何度も云いたくなりますなぁ…。日中(ひ
        んなか)の廻りは控えたいもんです(茶碗を口へと運
        びながら)」
   宮部  「そんなこと云ったって、村田さんの云いつけなんだか
                ら、仕方ないじゃないの」
   仙二郎「そうなんですがね…。下手人ったって、相手は病(や
                まい)ですよ。調べようがないじゃないですか、目に
        見えないですし…」      
   宮部  「そりゃ、そうだけど…」
    仙二郎、店に置いてある団扇(うちわ)を手にして、胸元をバ
    タバタと扇ぐ。
4. 高山幻斎の医療所(診察場)・昼
    横たわる町人の患者が体熱で魘(うな)されている。傍らの
    幻斎、患者を横目に、処方箋を書きながら頭を捻る。そこ
    へ、又吉が、ドカドカっと入ってくる。
   又吉  「先生、なんぞ分かりやしたか?」
   幻斎  「(振り向いて)おう、これは又吉殿ではないか…。そ
        うじゃのう、今迄の見立てでは、この病(やまい)が
        伝染せぬということだけじゃ」
   又吉  「そうですかい。本元の治す手立てが分かりゃ、い
        いんですがね」
   幻斎  「其処許(そこもと)の云われるとおりじゃ。今迄、見な
        んだ病(やまい)じゃによって…。やるだけは、やっ
        てみますがな」
   又吉  「町の衆は先生だけが頼りなんで。ひとつ、宜しゅう
        頼んます」   
    頭を下げる又吉に、首を縦に振って頷く幻斎。


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☆時代劇シナリオ・影車・第六回☆悪徳医者(1)

2008年11月25日 00時00分00秒 | #小説

      影車      水本爽涼          
     第六回 悪徳医者(1)

   あらすじ

 又吉と付き合いがある町医者の高山幻斎は、庶民の守り神として崇め
 られる慈悲深い名医である。突如として江戸の街を襲った奇病。その
 流行り病(やまい)に対し、幻斎は真正面から立ち向かい、遂にその治
 療法を発見する。それには、或る薬草が必要となるが、その薬草は、
 薬園奉行・彦坂弾正と結託する幕府お抱えの御殿医・寺村了然が様
 々な手口で世に流れないよう画策していた。そればかりか、その薬草
 を密かに高額で流し、莫大な利益を得るという悪事をなす。幻斎の努力
 により病因が治水工事による地下水脈の変化によることが判明し、病
 (やまい)は下火となるが、その間にも、了然や薬園奉行達がなす悪事
 は進行する。お蔦の探りでその事実を知った仙二郎は、遂に影車の面   
 々にワル達の手筈を下知する。今回は、見えざる殺人者を懲らしめる
 影車の活躍を描く。

   登場人物

   板谷仙二郎 41 ・ ・ ・ ・ 御家人(北町奉行所 定町廻り同心)
      留蔵 32 ・ ・ ・ ・ 鋳掛け屋(元 浪人)
      又吉 31 ・ ・ ・ ・ 流し蕎麦屋(元 浪人)
      伝助 18 ・ ・ ・ ・ 飛脚屋(町人)
      お蔦 30 ・ ・ ・ ・ 瞽女(元 くの一 抜け忍)
      (※ 以下 略)

1. 寺の境内・昼
    タイトルバック
    久遠(くおん)寺の境内。その一角の日陰に腰を下ろし、暫し休息を   
    する仙二郎と宮部。木立の中の蝉時雨が賑やか。
   仙二郎「ふぅ~(手拭で額[ひたい]の汗を拭いながら)。こうも暑いと、
        定町廻りも苦行ですなあ…」
   宮部  「ほんと…。特に今頃は身体に毒です(仙二郎と同じ仕草で汗   
        を拭いて)」
   仙二郎「誰も見てないでしょう。少し昼寝と決め込みますか?」
   宮部  「いえ、そんなことは駄目です」
   仙二郎「はは…冗談、冗談ですよ。失礼しました」
   宮部  「四半時(しはんとき)ごとの交代ということで、どうです?」
   仙二郎「えっ?!」
    と、宮部の思わぬ返答に驚く、仙二郎。
   宮部  「油断は出来ませんからね。誰が見てるか分かりませんよ」
   仙二郎「はあ…」
   宮部  「それじゃ、そういうことで。まずは私から…、起こして下さいよ   
        (仰向けになり)」
    云うが早いか、草枕を決め込む宮部。冗談を真に受けられ、しかも
    先手を取られた仙二郎。宮部の寝姿を見て、ただ呆れる。その時、
    俄かに寺の中から湧き起こる騒然とした人の動く気配。宮部、驚い   
    て、慌てた所作で半身を起こす。
   仙二郎「何か、あったようですなぁ」
   宮部  「そうみたいね…。こんな所(とこ)見られたら何を云われるや
        ら。さあ行きましょう(小脇に置いた刀を握ると急いで立つ)」
    仙二郎も、仕方なく宮部に従って立つ。カメラ、二人が遠ざかる後
    ろ姿から、少しずつ上へとパン。木立の茂みと上空の青空、湧き
    上がった入道雲を仰角に撮る。蝉時雨。燦燦(さんさん)と降り注ぐ
    直射日光。
   N   「晴らせぬ怨み、晴らします。今日は東へ、明日は西。北も南
        も
ワル次第。表じゃ消えぬ世の悪を、裏に回って晒します…」
    タイトル、テーマ曲など。

                  流れ唄 影車(挿入歌)

                  水本爽涼 作詞  麻生新 作編曲   


                  なんにも 知らない 初(うぶ)な星…
                   健気に 生きてる 幼(おさな)星…
                    汚れ騙され 死ねずに生きる
                      悲しい女の 流れ唄


                    酒場で 出逢った 恋の星…
                   捨てられ はぐれて 夜の星…
                    いつか倖せ 信じてすがる
                      寂しい女の 流れ唄


                   あしたは 晴れるか 夢の星…
                  それとも しょぼ降る なみだ星…
                    辛い宿命を 嘆いて越える
                      儚い女の 流れ唄
      


※ レイアウトの関係で絵コンテは掲載しておりません。
※ S.E=サウンド・イフェクト、C.I=カット・イン、C.O=カット・オフ、N=ナレ-ション、オケ=オ-ケストラ


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☆時代劇シナリオ・影車・第五回☆強欲一味(13)

2008年11月24日 00時00分00秒 | #小説

    影車      水本爽涼
    第五回 強欲一味(13)

47. 火付盗賊改方頭・井吹村重の屋敷(庭)・昼
    井吹が盆栽に水をやっている。
   井吹  「影車か…、やられたな(笑って)。悪党にしておくには、惜し
        い連中よのう。いや待てよ…、奴ら、悪党ではないな。(空を
        見上げ)有り難(がと)よ。拙者には、ここまでは出来ぬわ(笑
        って)」
    と、ブツブツ呟く。空の雲の切れ目より一場の光が射す。眩しさに
    目を細める井吹。
48. 江戸の街通り(一筋の広い道)・朝
    群衆を尻目に、奉行所へと急ぐ仙二郎と宮部。
49. 立て札
    立て札に一枚の紙が五寸釘で刺されている。そこに書かれた“手筈   
    を受けりゃ地獄へ落ちるのよぉ”の墨字をカメラ、アップ。
   N   「手筈を愛けりゃ、地獄へ落ちるのよぉ…」
50. 江戸の街通り(一筋の広い道)・朝
    カメラ、ふたたび仙二郎達の歩く姿を俯瞰して撮る。
    テーマ音楽。
   F.O
                              第五回 強欲一味 完

                 影車(挿入歌) 流れ唄

            水本爽涼 作詞  麻生新 作編曲    


             なんにも 知らない 初(うぶ)な星…
              健気に 生きてる 幼(おさな)星…
                汚れ騙され 死ねずに生きる
                  悲しい女の 流れ唄


               酒場で 出逢った 恋の星…
              捨てられ はぐれて 夜の星…
               いつか倖せ 信じてすがる
                 寂しい女の 流れ唄


              あしたは 晴れるか 夢の星…
             それとも しょぼ降る なみだ星…
               辛い宿命を 嘆いて越える
                 儚い女の 流れ唄


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☆時代劇シナリオ・影車・第五回☆強欲一味(12)

2008年11月23日 00時00分00秒 | #小説

    影車      水本爽涼
    第五回 強欲一味(12)

43. 材木問屋・越前屋の店前・夜
    刀を鞘へ納める仙二郎。そこへ、伝助が大八車で、やってくる。
   仙二郎「上手く、やったようだな」
   伝助 「姐(あね)さんの御蔭で…」
   仙二郎「それじゃ、俺はこれで消えるぜ。晒す場所は分かってるな?   
        頼んだぜ…」
    と云い捨て、闇へと消える。入れ替わりに、お蔦が瓦屋根から飛び降   
    りる。
   お蔦  「薄情なもんだよ、十手は…(仙二郎の消えた方を見て)。さあ、  
        もう少しだ、頑張りなよ」
   伝助  「分かってまさぁ(小笑いして)」
    と云いながら、静かに戸口を開け、矢兵衛を背負って再び現れる。
    お蔦、それを見届け、
   お蔦  「それじゃまた、私の後(あと)を追いな」
    早足で歩き出す、お蔦。伝助、矢兵衛を大八車に乗せると、静かに
    動き出す。
44. 寄場奉行・門倉内膳の屋敷前・夜
    御用提灯と多くの下役人。差配する井吹村重が馬上より、
   井吹  「一人(いちにん)たりとも、捕り逃すでないぞ。皆の者、かかれ
        い!!」   
    井吹の声を合図に、雪崩をうって屋敷に寄せる下役人達。(梯子を   
    土塀に立て、一斉に登り始める)
45. 江戸の街通り(一筋の広い道)・深夜
    (鶏が五更に向かって鳴くS.E)無惨に晒された五人の死体。傍ら
    には、立て札が立つ。辺りの静寂。S.E=雄鶏の高く響く鳴き声。
    F.O
46. 江戸の街通り(一筋の広い道)・朝
    F.I
    取り囲んで見る町人達の野次馬。そこへ通り掛かる通勤前の宮部
    と仙二郎。
   宮部  「板谷さん、さっきから欠伸ばっかりしてますよ」
   仙二郎「いやぁ…、よく眠れなかったんですよ(小笑いして首筋をボリ
        ボリと掻き)」
    適当に暈す仙二郎。
   宮部  「また人だかりよ…。見てく?」
   仙二郎「そうですな…少しだけですよ。遅れりゃ、また村田さんの、お
        目玉ですからね」
    と云いながら、二人、人の群へと入る。掻き分けて前へ出て、
   仙二郎「またまた賑やかに、やってくれましたなぁ~(高笑いして)」
   宮部  「(仙二郎の袖を引っ張り、口に指を立て)板谷さん!(仙二郎の
        顔を見て、首を激しく振り)」
    仙二郎、自重して黙る。その横で、いつも現れる町人の二人が話を
    している。
   町人A「これで影車も面目躍如よ」
   町人B「そうだな…。一時(いっとき)は、評判も盗っ人以下だったから
        なぁ」
   町人A「こいつらが贋の影車って訳か…」
   町人B「って云うか、影車の名を借りて悪事を働いた奴らってことよ」
   町人A「まあ、そういうこったろうな」
   町人B「やっぱり、影車は偉(えれ)ぇんだよ」
   町人A「神様より偉(えれ)ぇのかい?」
   町人B「そこまでは行かねえんじゃないの?」
   町人A「そんなもんだろうな…」
    仙二郎、聞くに堪(た)えないと顔を顰(しか)め、
   仙二郎「宮部さん、行きましょう」
    と、横の宮部を見ると、宮部は、もう人の波を押し分け、群衆の外
    へと出ている。慌てて宮部を追う仙二郎。


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☆時代劇シナリオ・影車・第五回☆強欲一味(11)

2008年11月22日 00時00分00秒 | #小説

    影車      水本爽涼
    第五回 強欲一味(11)

39. 寄場奉行・門倉内膳の屋敷(渡り廊下)・夜
    家臣①の死体は、既に伝助の手で大八車に乗せられている。伝助、   
    門倉の死体を背負ったまま、大八車へと運ぶ。
40. 寄場奉行・門倉内膳の座敷・夜
    見回り中の家臣③(黒装束)、襖前で手燭台を下ろし、
   家臣③「殿、見回り、終わって御座居ます」
    と、声をかけるが、いっこう中からの返答はない。不審に思った家臣  
    ③、首を捻り。ゆっくりと襖を開ける。燭台の蝋燭が灯るだけの部
    屋。誰もいない。家臣③、中へと入り見回して、異常を察知する。そ   
    の時、天井から家臣③の背後へ舞い降りた、お蔦。目にも止まらぬ
    早業で家臣③の頚動脈(首)を居合い斬る。首から派手に吹き散る
    血しぶき。ドスッと倒れた家臣③、目を開けたまま絶命。それを見届
    けた、お蔦、仕込み刀を背に納めると、家臣③を引き摺って廊下へ
    出ようとする。そこへ、伝助が現れる。
   お蔦  「他の荷物は乗せたかい?」
   伝助  「へぇ。ここは、もうコイツだけでさぁ」
   お蔦  「そうかい。走るだけだろうが、今日はちょいと要領がいるよ。   
        私が越前屋まで先達だ。音を立てずに静かに走りな。火盗改
        めの動きが気になる」
   伝助  「分かりやした」
    家臣③の死体を背負うと廊下へと出る伝助。その後ろ姿に、
   お蔦  「今頃は、十手も始末してるだろ。それじゃ、表で待つよ」
    と云うが早いか、天井へと飛ぶ、お蔦。戸板を上げ(又吉が開けた
    戸板)、天井裏へと消え去る。
41. 材木問屋・越前屋の店前・夜
    門倉の家臣②(黒装束)が走って店へ近づく。店の蔭に隠れていた
    仙二郎、前へ立ち塞がり、一刀のもとに斬り捨てる。
   仙二郎「もう一匹か…」
    と云って闇へと消える。
42. 材木問屋・越前屋の店前(帳場)・夜
    帳場に座る矢兵衛。焦れて、
   矢兵衛「門倉様の御家来、遅いねえ。何かあったんだろうか? これ
        じゃ、今夜は無理だよ…」
    そこへ、表から仙二郎の澄ました声。
   仙二郎「寄場奉行の使いの者でござる。開けて下されぃ!」
   矢兵衛「(小声で)やれやれ、やっと、お出ましだよ。(大声で) はいっ!   
        今、お開け致しますので!」
    と、戸の閂(かんぬき)を外しに立つ、矢兵衛。木戸の閂を外し、戸を     
    開けた刹那、仙二郎の刀が胸を突き刺す。呻く矢兵衛。
   仙二郎「申し訳ねえ…悪いが冥土の使いなんだ。地獄へ落ちろい!」   
    と云いながら、刃(やいば)で抉(えぐ)る(ブシュブシュ~という音
    S.E)。矢兵衛、仙二郎が刃を抜くと、土間へと崩れ落ちる。S.E=
    豚、牛などの肉塊をナイフ等で切り裂く音。


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☆時代劇シナリオ・影車・第五回☆強欲一味(10)

2008年11月21日 00時00分00秒 | #小説

    影車      水本爽涼
    第五回 強欲一味(10)

33. 寄場奉行・門倉内膳の屋敷(渡り廊下)・夜
    廊下を歩く家臣①。廊下の床下で携帯の鞴(ふいご)を押しながら
    機会を窺う留蔵。真っ赤に焼けた刺身包丁の刃先。上を通り過ぎ
    る家臣①の足音を確認した留蔵、密かに廊下の下から上へと出
    て家臣①の背後に回る。静かに近づくと、矢庭に家臣①の口を背
    後から塞ぎ、もう片方の手に握った灼熱の刺身包丁を両眼へ押し
    当てる。(ジュ~という焼入れの音S.E) 呻く家臣①。(焼け爛れた
    両眼) なおも、その刺身包丁で胸部(心臓)を一突き。家臣①、もが   
    く力も萎え、留蔵が手を離すと、
その場へ崩れ落ちる。
34. 寄場奉行・門倉内膳の座敷・夜
    黒装束の家臣②を呼び寄せ、話をする門倉。
   門倉  「火を落とす箇所は、これに記(しる)してある(図面を渡し)。越   
        前屋には既に浪人どもが集結しておる。そちは、これから出   
        向いて、浪人どもを差配いたせ。火盗改めも動いておる由、   
        ぬかるでないぞ」
   家臣②「ははっ」
    と一礼し、立ち上がると襖を閉める家臣②。一瞬、静寂が漂う座敷。   
    燭台の蝋燭の炎、微かに揺れる。その時、門倉の真上の天井板が
    スゥーっと音もなく開き、鉄製の大丼鉢と両腕が現れる。大丼鉢、門
    倉めがけて垂直に落下。(鐘の音S.E)スッポリ被った大丼鉢。呻く
    門倉。S.E=鐘楼で撞く鐘の音(グォ~~ン) 門倉、頭に被ったまま、
    直立でその場へ両膝を突く。その後、静かに崩れ落ちる。
35. 頭部のレントゲン撮影された映像  C.I
    シャウカステン上のレントゲン撮影されたフィルム映像。
    C.O
36. 病院の診察室・現代
    医師(配役は無名の外科医)が椅子に座ってカルテを書いている。
    カメラ、医師の姿をアップ。医師、シャウカステン上のレントゲン撮
    影されたフィルム映像をじっと見た後、カメラ目線で素人っぽく、
   医師  「いつもと同じですなぁ…(笑って)。頭蓋骨陥没骨折による即
        死です。お気の毒でした…(頭を下げ)」
37. 寄場奉行・門倉内膳の座敷・夜
    天井より縄を一本、下ろし、それを伝い降りる又吉。門倉の頭に被
    った大丼鉢を外すと、瀬の袋へ収める。その時、襖がスゥーっと開
    き、隠れていた伝助が現れる。
   留蔵  「伝公、あとは頼んだぜ」
    無言で頷く伝助。手に金具を装着すると、器用に天井へと登る留蔵。   
    天井板が閉じられるのを見届け、死体を背負う伝助。


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