皆さんご存じのように相場には時のテーマというものがある。今の為替相場のテーマは言うまでもなく「ドル高」。雇用統計その他の指標が良かったということで、すわ、出口政策発動だ、利上げだ、利回り上昇だ、経済回復だ、でドル買いということになった。で、いったんそのテーマが決まると、いろいろなデータがそれ向けに解釈されてますます広がる。これは一種のファンダメンタルズであるが、本当の意味でのファンダメンタルズとは異なっている。定点観測している、米国の貨幣乗数は12月になってついに0.811という未曾有の数値に下落してきた。マネタリーベースの拡大に、経済の需要拡大が追いついていないため、デフレギャップが広がっている状態だ。これを見れば、「利上げ」など夢物語であることは間違いない。コマーシャルペーパー残高も最低値を更新中であり、大企業の資金需要も極めて弱い。ここでマネー印刷を止めたら、たちまち経済が大崩壊を起こすだろう。
しかし、といって、ここで単純に月曜日からドル売りポジションをとるということでは相場には勝てない。その時々のテーマは経済の基礎的な条件だけでなく、さまざまな市場参加者の意図や、各国政府の思惑などが総合的に加わり、市場参加者の間に、当面はこれで行こうという形で暗黙のうちに共有される、共有知のようなものだろう。このようなプロセスで作られる相場の言説(「ドル高」「ドル安」「ドルキャリー」「円キャリー」etc.)は、昨今の社会学の用語で言えば、いわば「構築された」言説ということになるだろう。これをまったく無視するポジション取りは、いわゆるKY(空気読めない)なことになる。
もちろんテーマに沿っていれば勝てるわけでもなく、日々それと違った動きもあるし、ある人突然テーマが入れ替わることもある。ただ、その時の市場のテーマとそのテーマを支持している市場参加者の論理は把握しておく必要がある。その上で、あえてテーマに反したポジションをとっていくというのはもちろんアリである。
来週のテーマもドル高になるだろうから、ドルストレートのショートは間違いない。金もまた下げてくると思う。ドル円は、リスクの度合いで、円がどう動くかによってまったく方向は違ってくるが、どうもドバイ問題が軽くなってきて上に行く可能性が高いように見えている。しばらくはこのあたりで大きく上下することになるのではないだろうか。ドル高のテーマの後はまだ見えてこないが、私は、再度のドル安があってもいいと思っている。豪ドルの粘り強さ(日本勢の買いも強いようだが)を見ても、ドル安の底流はまだあると思う。原油が下がっては困る中東勢のドル売りもあるはずだ。これについてはまだ先となるのでおいおい考えてみたい。
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