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Murder Ballads and Songs About Crime

2015-10-29 19:43:14 | 音楽
映画『薄氷の殺人』についての前回の記事で、俳優の演技や映画や小説が、作為であることから逃れられず、またそのガラパゴス化について、スター・システムの制度疲労と絡めて述べたが、(特にわが国の)音楽については詳述を避け、さらに悲惨だと指摘するにとどめた。

あらためて考察したい。
私の場合9割ほどが米英2ヵ国ではあるものの、さまざまな国・時代・ジャンルの曲が混ざって流れてくると、わが国の音楽は、作為・虚構・人工的であることが際立つ。山口百恵の「プレイバック・パート2」など、音楽というよりは小芝居のように感じられてならない。

歌謡曲は元々そういうものかも分からないが、「日本語でロックは可能なのか」を追求していた筈の松本隆や大瀧詠一のその後の音楽は、さらに人工的で不自然なものになっている。「木綿のハンカチーフ」や「赤いスイートピー」の、女性の立場で歌われる歌詞は、今にして保守的でややキモチ悪いと感じるが、太田裕美や松田聖子に罪はない。罪はないということは、彼女らは自己責任で歌っていない、歌わされているに過ぎないということだ。




英国や北欧を発祥とする、寓意や物語性を持った伝承歌謡=バラッドの中には、殺人事件を扱うマーダー・バラッドと呼ばれる系譜があり、移民と共に米国に渡り、ラジオやレコードが発達した20世紀も脈々と伝えられ、大きなヒット曲を生んだり、カントリーやロックやラップの作詞作曲にインスピレーションを与え続けている。

特筆されるのは、殺人や強盗などの犯罪について歌うにあたり、加害者の立場・視点から歌うものが少なくないことだ。それなのに心を打つ。独立心や自由ということの根本を思わずにはいられない。松田聖子の「輝いた季節へ旅立とう」とか、大事マンブラザーズであるとか、多数派におもねった、うわべだけのきれいごととは対極―




米国出身で、日本の居酒屋や戦後文化に精通する学者マイク・モラスキー氏の選による、戦中戦後に発達した「闇市」にまつわる11の短編小説。どれも珠玉。
終戦直後に爆発的に、と錯覚していたが、戦争中から政府の統制は有名無実化してゆき、誰もが生きるため非合法のヤミ行為に手を染めざるをえなかった。戦中と戦後は連続し、国民は敗戦や政府財政破綻を先取りしていたのだ。

モラスキー氏の選で、同シリーズ「パンパン」も予定されているとのことで、楽しみ。
これらの小説のように、戦後前期の歌謡曲は、職業歌手によるものでも、自発的で生き生きしており、うわべを取り繕った印象はなかった。経済発展し、市場が発達するにつれ、芸能界の官僚化と、人の和を重んじる日本人の美質が音楽では完全に裏目に出たことが重なって、遠慮せず本当に思ったことを叫ぶ自由競争原理がはたらく海外の音楽から取り残される孤児となったのだ。

わが国の音楽が世界一みっともないゆえん―





iTunes Playlist "Murder Ballads and Songs About Crime" 129 minutes
1) The Jimi Hendrix Experience / Hey Joe (1966)
2) The Band / Long Black Veil (1968)
3) Pretenders / Back On the Chain Gang (1982)
唯一の安らぎだった恋人と別れ、苦しい暮らしに戻ってゆく心境を「鎖につながれた囚人」に喩える。ウッ、ハッという掛け声など、サム・クックのChain Gangから曲想の霊感を得たという

4) Bobby Darin / Mack the Knife (1959)
5) Vicki Lawrence / The Night the Lights Went Out in Georgia (1973)
米南部を舞台に劇的な殺人事件を描く。当初シェールに提供されたが、南部のファンから顰蹙を買うのではと考えた夫のソニー・ボノが断り、作者の妻であるコメディエンヌのヴィッキー・ローレンスが歌うこととなった。異例の速さで米1位のヒットに

6) Nirvana / Where Did You Sleep Last Night? (1994)
In the PinesやBlack Girlという名でも知られ、1870年頃作られたとされる米フォーク・ソング。ニルヴァーナのカート・コベインは、自ら殺人犯として服役したこともある天才ブル-スマン、レッドベリーのバージョンに触発され、アンプラグド・ライブで披露したという。先日のカバー100曲にも入選

7) Nick Cave & the Bad Seeds / Where the Wild Roses Grow (feat. Kylie Minogue) (1995)
8) Johnny Cash / Delia's Gone (1994)
9) The Rolling Stones / Midnight Rambler (1969)



10) Robin & Linda Williams / Step It Out Nancy (2008)
11) Sufjan Stevens / John Wayne Gacy, Jr. (2005)
12) The Chieftains / Down in the Willow Garden (feat. Bon Iver) (2012)
13) Randy Newman / In Germany Before the War (1977)
「小さな女の子が行方知れずになった/その金色の髪とグレーの瞳と共に/彼女を観察する男の眼鏡に映る」。ランディー・ニューマンが児童殺人者を描写するメロディーは脳裏にこびりつく

14) The Raconteurs / Carolina Drama (2008)
15) Eminem / Stan (feat. Dido) (2000)
16) Doc Watson / Tom Dooley (1964)
南軍の兵士で、婚約者のローラ・フォスターを殺したとして絞首刑になったトム・ドゥーラという人物が題材。当時から、真犯人は被害者のイトコでトムの元恋人のアン・メルトンであると噂されたが、トムが自ら極刑を望んだという謎めいた事件で、キングストン・トリオによるバージョンが米1位となるなど20世紀を代表するフォーク・ソングに



17) Rhoda with the Special A.K.A. / The Boiler (1982)
boilerとは英国のスラングで古いカバン、または魅力的でないがヤリ捨てに適した女を意味するという。生々しい叫び声など、レイプの様子を克明に描き、放送禁止となる

18) Blitzen Trapper / Black River Killer (2008)
殺人の冤罪で服役することになった男は「魂の王国への鍵を取り戻すため」出所後、本当の殺人鬼となる



19) Warren Zevon / Excitable Boy (1978)
ウォーレン・ジーヴォンはダークな歌詞なのにアップビートな曲の名手だ。「彼は興奮しやすい男だと誰もが言う」と何度も陽気に繰り返される間、主人公はレストランで肉を自分の胸にこすり付け、深夜バーに行って女性従業員の足に噛みつき、卒業ダンスパーティーのパートナー女性をレイプした挙句に殺し、彼女の墓を掘り返して骨で鳥かごを作る

20) Neco Case / Deep Red Bells (2002)



21) Nick Cave & the Bad Seeds / The Mercy Seat (1988)
Mercy Seat(慈悲の席 = 電気椅子)。ニック・ケイヴがヘロイン中毒に苦しんでいた頃録音され、一人称で歌われる、悔い改めない死刑囚の様子に迫力を与えている。彼の代表曲であるとともに現代版フォーク・ブルースの名曲といえよう

22) Johnny Cash / Folsom Prison Blues (Live) (1968)
23) Public Enemy / Black Steel in the Hour of Chaos (1988)
24) Eagles / Desperado (1973)
25) Loretta Lynn / Women's Prison (2004)
ジャック・ホワイトがプロデュースしたカムバック・アルバムより。ロレッタ・リンは過去にDVや不倫や避妊ピルについての曲をヒットさせ、保守的なカントリー・ラジオ局を動揺させてきたが、この曲によって、ブルーカラー女性に寄り添う偉大なキャリアをさらに書き加えた

26) Nirvana / (New Wave) Polly (BBC Mark Godier Session) (1992)



27) Bob Dylan / Hurricane (1976)
28) Rory Gallagher / Philby (1979)
冷戦期、英MI6とソ連KGBの間で二重スパイを務めたキム・フィルビーについて扱った、アイリッシュ・ブルース佳曲

29) Sonic Youth / Death Valley '69 (1985)
30) Bruce Springsteen / Nebraska (1982)
14歳のガールフレンドを伴い、ネブラスカとワイオミングで10人を次々と殺し、処刑されたチャールズ・スタークウェザー。この実話を映画化した『地獄の逃避行(Badlands)』に触発され、ブルース・スプリングスティーンは殺人犯の一人称で淡々と歌う。抒情的で美しい曲であるにもかかわらず、残虐な男の立場で歌われていることに最初は驚いたものだが、今は最も好きなスプリングスティーンの曲の一つに



闇市 (シリーズ紙礫)
マイク・モラスキー
皓星社

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