さらなる猛暑の2日目、名古屋郊外を歩いて桑名へ。話題のイケメンさんに会いにいこう。
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名古屋めしは概ね、見た目が茶色い。肉・味噌・揚げ物・麺が主たるコンテンツだからだが、これらがクロスオーバーすると例外なく美味い。視覚的には地味目ながら、口にすればその濃密な香りと味わいに、メリハリのある食感に魅了される。名古屋めしに常習性があるのは、そんなギャップからくるインパクトのおかげなのかも知れない。
各ジャンルの専門店のみならず、地元の普段使いの店でも同様の「色彩傾向」が見られるようで、広小路にある洋食店「キッチンマツヤ」のショーケースも、ブラウンなサンプルが大勢を占めている。創業は昭和37年、店頭さに掲げられた「広小路に生まれた名古屋の味」の文言にあるように、名古屋めしに限らず地元客向けの普段使いの品揃えが、人気を博している老舗である。
店内はホールのように広々しており、二階のカウンターに通されたら、せっかくなので名古屋めしではない茶色の料理を頼んでみたい。オードブルに自家製とあるベーコン三種盛りは、見るからにビールと合いそう。メインは味噌カツやエビフライにも目がいくが、あえて衣のない茶色系で店自慢のトンテキもオーダー。栄養が肉寄りになりそうなので、あらかじめ大根サラダをひと鉢平らげ、準備は万端である。
その名も「ベーコンオールスターズ」は、鉄皿でジュクジュクいいながら運ばれてきた。表面に脂を浮かべているのもあって、食欲をそそる。トラディショナルベーコンは、デンマーク産の豚バラが素材。サクサクかみごたえ軽やかで、反った身に脂が甘くまぶされる。いつも食べてるのの延長のような、親しみ深い味である。アームベーコンは皇帝豚のウデ肉とあり、強めの塩が濃厚な旨味を引き立て、これぞ加工肉の醍醐味だ。厚切りベーコンばザシザシとかみごたえを楽しみ、燻製香と脂が赤身の旨味を下支えする重層感。いずれもいい肉をいい加工しているのが伝わり、一枚ごとに嬉しくなる。
トンテキとは名の通り豚肉のステーキで、こちらも分厚いのがジュージュー響きながら登場した。「まぼろしの極みとんテキ」との大層な名の所以は、素材の皇帝豚にある。滋賀県で肥育している自社ブランドで、なんとバームクーヘンやパンを飼料に与えているのだとか。照り焼き風の甘ったるいソースと、ニンニクスライスをからめのせ、ひと切れかじると赤身と脂身のバランスがいいこと。シャグッとかみしめるほどに両者がほぐれからんでゆく。味噌カツとはひと味違った、街の洋食らしいハイカラな旨さがいい。
正調名古屋めしではないけれど、名古屋らしい料理を食べたような、不思議な思いがする2品。そんな料理を味わったおかげで、地元に根付いた料理屋には名古屋めしの精神が、より深く浸透しているのが感じられた。でも、締めに味噌串カツと天むすに赤だしいっちゃうのは、そうはいっても定番を求めてしまう、他所者の落とし所ということで。