暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

楽園に巣食う

2013-01-25 | 
雪に似た塵がちらついている
きみはそれをきれいだと言って
あちら側へと引っ張っていく
吐き気は悟られるものでもないと
わたしはそれを知っているふりをして
なおかつ知らないふりをして
かがやく虚無の向こう側
塵の降りしきる向こう側へ
なんとはなしに流される

すばらしくきれいなものを見て
きみはほうとため息をつく
たとえようもなくすばらしい世界だねと
わたしは胃袋の痙攣を我慢して
ひとつきりの涙をこぼした
きみはうっそりと微笑んで
わたしの手を握りなおす
降りしきるのはほんとうの雪
そして狂おしい花びらたち

あちら側はこちらになった
こちら側は向こう側
蝶々の舞うこちらの楽園では
どうやら怪奇はないらしい
それを呼び起こす畏れさえ
わたしはきれいだきれいだと呟く
きみもきれいねきれいねと呟く
雪は積もり
花は枯れることなく死を撒き散らし
虫も獣も愛を育む

わたしはこらえきれない筋肉の痛みを感じながら
幼い頃を思い出す
まっさらな雪に足跡をつける喜び
濡れた地面に落ちた花を汚す喜び
蝶々の羽を透明にする喜びは
きっと下世話なものだと思う
だけれど思うことは簡単だ
わたしがきみといるように

世界はかくもうつくしいものかと
雪に似た塵を思い描く
きれいだきれいだ
卑屈なほどに

醜いものを許さない世界で
わたしは粘膜の塊を吐き出した
叫んで逃げ惑う人はなく
ただただこころやさしいまなざしで
わたしの罪を確固たるものへ変えていく
許されることで膨らんでいく
きみはわたしの汚物にまみれた手をとって
やさしく背中をさすってくれる
もう大丈夫だからと頭を撫で
吐瀉物は花びらと雪に覆われる
そう、それは汚いものだから
この現象なんて当たり前のこと

わたしはもういちど
きれいだと呟く
きみもまたきれいになったわたしの手を握り
きれいねと返す
わたしの涙は花びらがぬぐってくれ
わたしの足跡は雪が覆い隠してくれ
わたしときみとであちら側のこちら側
雪と花びらはいっそう強く降りしきる

幼い頃の歪んだ欲望
つまりそれは恒常的なもの
まっさらな雪と花びらの続く道
向こうでは塵でも積もっているのか
汚いものはけがれない
きれいなものもけがれない
けがれてしまうのは可変性で
つまりはそれこそこのわたし

雪が雪が降りしきる
塵でも灰でもないあたたかな雪
花びらが花びらが舞い落ちる
決して汚れない孤高の桜
積もり積もったきれいな世界で
きみはまだきれいねと言う
きみは何を待っているのか
それとも待っていないのか
きれいなきみはあるいは
待ち続けているのかも

きれいなものはけがれない
まっさらな雪に足跡がつくのも
それがきれいでないからだ
変わりのないきれいな世界
そこは何一つ変わりない
だって汚い可変性など
薄汚れた恒常性など
すっかり覆い隠されたから

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