曽我部絵日記

曽我部昌史の写真絵日記

ロサンゼルス2:LAの住宅建築

2008-09-11 | インポート

阿部さんが、LAの住宅建築に絞ったツアーをセッティングしてくれました。設計者みずから紹介してくれたり、建築家の自邸だったり、短い時間ながら、かなり充実したツアー。


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建築家でUCLA教授のCraig HodgettsとSCI-ARCのディレクターHsinming Fungの家。ユニバーサル・スタジオとかのあるスタジオシティの南の丘の頂上に元々あった古い建物に、少しだけ改修をして住んでいる。外の風景の視界からか、天井が低く(建具側は約2m)抑えられている。石積みの壁柱の上に木の架構。

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これがスタジオシティの風景。家の北側にあるので、昼間も太陽の陽があたる、気持ちのいい風景が広がる。庇も出てるんだけれど、日射のためじゃないらしい。

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南側にはプールのある庭。丘の頂上なので、こっちも開放的。この日は、SCI-ARCのジュリーの打ち上げで、有名建築家がたくさん。左手は、一緒に行った東北大学の小野田さん。
暗かったのとパーティーだったのとで写真があまりないです。

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次はNeil Denari設計の住宅。もともとあった平屋の戸建住宅の改修(増築)。右手に見える壁の向こう側が既存部分で、高低差を利用して2層のヴォリュームを庭側に増築。外壁ラインはセットバックの規制と木を残すことから自動的に決められている。

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増築部分の1階は庭と一体化したシンプルな土間になっていて、正面にある階段で既存部分とつながる。もともとは手摺無しだったらしいが、クライアントの要望であとから追加したもの。難しいかたちの手摺なので鉄工所ではやってくれなくて、設計者本人と溶接のできる学生とでつくったとか。スマートだけれどタフだ(写真右手の白いシャツのひとがニール)。

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2階は寝室。窓のアウトラインがニールらしい。この形状は、外の木の枝ぶりを見やすくするために決められた。そうそう、施主はニールの大ファンだとか。こんな少人数(ぼくと阿部さんと阿部さんの家族だけ)の見学に申し訳ない感じ。

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建物の正面は、元々の建物のまま。中にはすごくシンプルなデザインのキッチンが新設されていて、そういうところも新旧の対比が明快で面白い。建物のサイズを日本の住宅的だとニールがいっていたけれど、施工制度の良さも、ディテールの気配り(水切りとか)も、日本的。

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次の家に向かう道々、Frank Gehryの家の前を通ったり(木々に囲まれていて、この地にあると、そんなに違和感はない。多肉植物系が多かった)、

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Charles & Ray Eames邸を覗きにいったり。サンタモニカの海岸を見下ろせるようなロケーションにあるんですね。それにしても、なぜ海岸から思いっきり離して配置したんだろう。

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しかも、半分丘に押し付けるような配置。奥の壁はよう壁の上に立っている。理由があるはずだから、調べてみよう。

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次に訪れたのが、Mark Leeが設計した豪邸。シンプルな外観が特徴的。施工費が2億円ちかい。しかも、建て売り住宅としてつくったもの。だから、施主の要望とかは設計には反映されていない。

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北東側に大きく開く全面開放窓。この谷には、有名建築家物件がとてもたくさんあるようで、後で見るキャピー邸もこの谷の中にある。雨の少ないロサンゼルスでは、雨の集まる谷に豪邸が集まるということか。

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2階から見下ろす。2階は道路に近いのでオフィス的な場所とゲストルーム。寝室は地下(谷側には開いている)。崖にくっつくように3層分のヴォリュームが張り付く。それにしてもすごいロケーション。

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ヴォリュームは下の方が小さく絞られている。急斜面に施工するので杭を用いるわけだけれど、その本数を少なくするためだとか。構造は、絞っている部分がRCで上半分は鉄骨。それを左官的な素材で仕上げている。工場などの防水に用いるものらしく、伸縮性があって防水性があって耐火性もあるんだとか。この素材、日本でもほしいなあ(っていっても、防水の性能は西海岸対応クラス程度か)。

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Raymond Kappe邸。この家を体験することができて、そして、キャピー夫妻に会えたのは、とにかくすばらしい体験だった。この建物のことは、きちんと調べなくっちゃ。で、これが建物正面。1967竣工(65年に着工)当時に植えた木々が、大きく育っていて、木陰に建物がちらっと見える感じ。6本の「コ」の字型コンクリートタワーに、長いスパンの木梁を架け渡すブリッジ状の構成。

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敷地を水が横断していて、建物をブリッジ状にして水流をまたいでいる。敷地を少し上り、ブリッジの下=建物のピロティ部分に玄関がある。アプローチのデッキは天井高さ2mくらい。玄関の天井高さはぐっと絞っている。奥がオフィス部分。

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玄関を入って、2/3層ほど階段を上がったところ。左手に数段に下がるとリビング的な場所があって、奥に行って数段あがるとダイニングがある。段差をつけることで、場所毎の独立感が生まれて、かつ、隣接している場所同士の関係も感じられるんだ、って。ほぼ扉のないワンルーム。

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床レベルも、たとえばここの様に、3段のうちの2段目を大きくしてベンチにしていたり、移動のためだけではなくて、居場所としてデザインされている。右端がキャピーさん。建てたとき、40歳を過ぎていたっていうから、今は80歳を超えている。すっごく元気。

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ダイニング部分。ここから左奥に向かうと2段上がって中庭に出る(中庭からは、さらに屋上に上がれる)。右手から3段あがるとキッチン。天井はフラットだから、奥に向かうにつれて天井が低くなり、かつ、それぞれの部屋の広さも小さくなる。

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キッチンの奥には、キッチンに付属したスペースもある。ここはコンクリートのタワーの中。すべてのタワー上部は全面ガラス。上から光が落ちてくるのでぐっと明るく、天井が高い。
テーブルとキッチン作業面の高さの違いを生かして、調味料台にしてたり、細かい工夫も多い。

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タワー上部のガラス。屋上テラスに隣接しているから掃除とかも簡単。ほとんど雨のないロサンゼルスだから可能、っていう部分もなくはないが、コンクリートと木とガラスでできている。

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タワー部は、コージーさと明るさとコンクリートの素材感が組み合わさった場所になる。ここは、ベッドルームに付属する書斎的スペース。浴室などの水回りもタワーの下にある。階段もコンクリートタワー部分だった。

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玄関横のオフィス。正面には、アプローチだった、せせらぎのあるピロティ部分をのぞみ、少し見上げるとリビング。

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屋上テラス。左手は後からつくったというプール。ジャグジーもある。毎日泳ぐんだって。他にも、2カ所分セットの暖炉の煙突とか、集成材のこととか、自前の竹を使ったフェンスとか、自分で直営的にまとめた現場とか、興味深い話はつきない。ということで、楽しくて素敵なキャピー邸でした。

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R M Schindler自邸。これは、ギャラリーとして活用されていて、一般公開されている。ロサンゼルスでは、効果的に天井の高さを抑えた住宅をいくつかみたけれど、特に高さが低いプロポーション。玄関部分や、軒の高さは2mを切っている。そこに木の桟の入ったガラス扉と布を張った目隠しのパネル。どことなく、日本的な雰囲気がある。

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ライトのところをやめてすぐにつくった自邸。この家も、コンクリートと木のハイブリッド(反対の面にコンクリートパネルがある)。布を張った建具から、光が入ってくる様子が分かる。内部から見ると、ガラス扉の上に庇の部分を挟んでハイサイドが四周を囲う。

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中庭。屋外用のファイヤースペース。左手のヴォリュームの上部は手摺ではなくて、先のハイサイド部分。この家、二つの家族のスペースが、キッチン部分でジョイントされている。一時期は、ノイトラと一緒に住んでいたんだとか。

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屋上に小さなテラス。昼寝用のテラスだそうで。テラスの床は、庇の高さ。つまり、屋根よりちょっと低い。床の足下にもハイサイド窓の部分があって、下の様子がちらちら見える。目隠しのフェンスは、これも布製。

たくさんの、しかもいろいろな時代を横断するように住宅を渡り歩きました。建物を設計した建築家や住んでいる人にもたくさん会えた。このアレンジ力も阿部さんの影響力の大きさによるものか。本当に感謝しなくては。

ちょうど、PCのバッテリーもそろそろなくなりそう(帰りの飛行機で書いてました)。LAレポート・住宅編でした。

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ロサンゼルス1:UCLAの建築学科

2008-09-08 | インポート

いろいろあってロサンゼルスに来てます。他にいろいろあって、行ってる場合か?っていう感じもあったんだけれど、それを言ってると、年中「行ってる場合か?」なのと、一番大きな心配がほぼ解消したので、予定通り決行。

で、今回はUCLAの建築学科のレポート。

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こういうのをキャンパスっていうのか、って思うような、きちんとした雰囲気が備わっている。一つの街のようなスケールなんだけれど、広さも、緑の豊かさも、建築の質も、あるレベルを維持していて、計画全体として堂々としている。こういう由緒ありそうな建物もあれば、

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MLTW(C・ムーアら、シーランチを作ったチーム)のこんな建物や、R・マイヤーや、R・ベンチューリや、いろんなひとの建築がある。キャンパス内には、R・セラをはじめ、美術作品も少なくない。大学にこそ、もっとも質の高いものをっていうポリシーか。

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これが建築学科の建物。地下もあるのでかなり広い。キャンパス内のほぼ中央にある。2階のガラス窓の大きな部分が製図室。

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チェアマンである阿部仁史さんの部屋。就任して、もう1年半になる。今回は、LAでの阿部さんに会う、っていうのも目的の一つ。右が阿部さん。左奥は、アリ・セリグマンさん。くまもとアートポリスをテーマに論文を書いていたので、何度か会ったことがある。ここで再会するとは。


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部屋には、阿部さんらしいいろいろと気になるものが。仙台に戻るたびに、増やしていっているらしい。学科講演会のポスターとか、アニュアルの本とかも、ガンダムなテイストでまとめられている。プロの手によるデザイン。シャレも徹底している。

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製図室。明るくて広い。空間そのものも大きい。授業的にはオフシーズンなので、今はこの部屋は使われていないので片付いているが、戦いの後の空気感は伝わってくる。

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学生達の作品には、3次元局面の複雑で難しいかたちをしたものも少なくない。こんなものどうやってつくるんだろう、って考えていたら、模型製作用のワークショップ(工房)を見せてくれた。

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こういう大型木工加工機のがあるのは当然って言う感じで、いろんな種類の大きいマシンが並ぶ。ワークショップは当然、建築学科専用のスペースで、ここだけでもかなりの広さ。専従のスタッフや、機械の使い方の授業もある。

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これはレーザーカッター。PCに入力してアクリルとかを切り抜く。2台あって、どちらも需要が大きいらしく、24時間分30分ごとの予約表があった。休み中だけれど利用者がいた。こういう機械を用いる加工を、専門業者に発注したことはあるけれど…。

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これは3Dモデラー。どんなかたちの立体でもつくれる。いろいろなタイプがあるらしくて、UCLAにあるのは、トナーを積層させるようにして立体を立ち上げるタイプ。ギザギザもあまりない。当然、学生達も自由に使えるそうだ(材料費程度を負担)。

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学科専用の展示スペース。外部からの予算を元にした委託研究の成果などが展示されている(基本的に建築設計案)。こういう場所があるからこそ、予算も確保しやすい、っていうことか。

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学科の講演会スペースもある。人数が多い場合は、学内の別の場所を使うらしいが、ここもかなり広い。天井と壁には、学生達のプロジェクトでデザイン+自主制作したフェルト製の吸音パネル。まあ、ともかく、たくさんの意味で充実した研究環境でした。ワークショップくらいつくりたいもんだ。

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おまけ。
阿部さんの自宅には、自宅倉庫を改修した阿部仁史アトリエのロサンゼルスブランチがある。どこかのすっごい田舎町のように見えるけれど、ビバリーヒルズのすぐ脇の、街の中心。ハリウッドもUCLAも車で15分くらい。

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で、中にはやっぱりこれ。ぼくも自宅の設計をしているときに、等身大ZAKUを玄関において、印鑑置き場にしたいと思っていたことがあった(ぼくは量産型のほう)。ここで先を越されるとは。

ということで、LAレポート・UCLA編でした。

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