曽我部絵日記

曽我部昌史の写真絵日記

黄金スタジオ

2009-01-13 | インポート

新年になりました。
昨年のプロジェクトですが、まずは十分に紹介をできていなかった黄金スタジオについて。



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神奈川大学曽我部研究室と黄金町との関わりは、このBankART桜荘改修の設計施工がはじまり。


二つの路地に挟まれている小さな敷地で、その二つの道をショートカットする小さな土間を残すように改修した(写真の左手)。



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美術に関わる活動と地域の人たちの生活が交差する場となることが大事だと考えたからだ。黄金スタジオでも同様。



設計に際してワークショップが開催された。地域のいろいろな人たちと意見交換をするチャンスがあったわけだ。横浜市立大鈴木伸治先生の研究室が運営しているkoganex-labの二階などが会場。



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まずは敷地について。このエリアでは、何十年もの間、高架下を中心に「ちょんの間」と呼ばれる風俗営業ゾーンが広がっていた。数年前、警察などの手で一斉摘発され、そのあとは警官が24時間立っている。結果として廃墟のような街になってしまった。



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上の写真では、公共空間に大きく開かれた場となっているけれど、これは例外的な場所で、ほとんどの場合、高架の両側には細い路地がある。この路地を行き交う地域の人たちと建物の関係や、路地を歩く人たちにとっての高架下の環境について考えることが、一番のテーマとなった。



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これが路地側の雰囲気。遊歩道側にも開いているというこの敷地の特殊事情を生かすことはもちろんだけれど、その前に、この路地に対して開くことで、敷地の前だけでなくて、このエリア全体での活動の可能性が開くことに期待したわけだ。ある建築系専門家に「遊歩道側ではなく路地側に開いたのは勇気がある」というようなことを言われたのだけれど、これが、ここでの一番大きなアイデアの一つ。



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断面的には路地側をぐっと低くした上で開いた。入りやすいスケール感を意識したのに加え、土間で活動をしていると、トップライトを介して高架下をぼんやりと照らし上げるようにしたわけだ。一方遊歩道側には立面を大きく立ち上げ、ショーケースのような窓を配した。制作活動の視点で考えると、地域との関わりを土間側で、作家として社会に表現をこころみることを遊歩道側でできるようになっている。



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遊歩道側の外観。作家の活動拠点なので、ショーケース窓の部分以外は閉じている。壁面は鏡面ステンレスにしたいところだったんだけれど、コスト的な制約もあって、2B仕上げのステンレス。窓の高さが違っている。



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つまり、スタジオによって窓の高さが違っていて、窓がベンチのようになったり、カウンターテーブルのようになったり部屋によって異なる。そうすることで、スタジオ毎に建築的な環境がちょっとずつ違うようになる。ショーケースなのでガラス部分は開閉できない。そのかわりに、隣に縦長の窓をつけている。



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黄金町バザールのオープニング式典は、車両通行止めした黄金スタジオ前の道で。通行止めをしやすい、つまり、一時的に車を走れなくしても支障のない道に接しているというのも、その場所のポテンシャル。中田市長がスピーチしているところ。



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路地側。全面開放が可能な木製建具。階段状に土間の床が道路面より上がっているのは構造的な理由。既存の高架の基礎に荷重を掛けないようになっていなくてはならないので、その基礎を跨ぐために床をあげなくてはいけなかった。高架に対して一切負担を増やさない、っていうのが大前提。



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夕方の風景。土間を照らす光が上に漏れて、高架の裏側が浮かび上がる。また、この写真だと判りにくいけれど、屋根越しに、向こう側の風景に対しても開かれる。高架が、この地域を分断していた歴史が長くて、そういう意味でも、こういう開放感が必要。



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すべての窓を全開にした時の、路地から遊歩道への視線。スタジオ奥右手の縦長窓が、換気排煙用。上まで一気に開くので、法規上の排煙窓を兼ねられている。内側には網戸を裏打ちした、パンチング板の扉付き。



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路地側に伸びる土間と、それに面するスタジオやカフェ。平面構成は至って単純。土間は機能的には廊下ってことになるのだけれど、この廊下は縁側部分まで含めると、全体の巾の半分ちかい。このエリアがこの建物のスタウトさを獲得する。



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竣工直後(引き渡し前)の土間。屋根を低く抑えたので、接道巾は狭いのだけれど、中は明るく開放的。大きなトップライトがあることもあって、中に入ってみると意外と外部的な印象。



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もともと、高架の下の独特の印象を生かしたいというところから始まったトップライト。既に触れたように、高架下を照らし上げたり、独特の明るさ感を生んだり効果的。上に高架があるので、雨が当たることもあまりないから汚れにくいし。ちなみに申請上は、高架は柱も含めて、建築の一部として活用しない限り、敷地にもともと立っている樹木のような扱い。



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オープニングの式典時。開始直後は来場者がびっしり埋まっていた。3時間くらいたつと、縁側や路地側の段差に座って飲み始める。そういえば、松澤知事と中田市長が縁側で談笑していた風景を、以前このブログでお伝えしました。



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黄金町バザールが終わって、昨年末には「年末大感謝祭」っていうのが開かれてました。写真左手のスタジオでは写真家の安斉重男さんの、黄金町バザールドキュメント写真展が、



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こちらでは田中千智さんの絵が一同に集まっている。田中さんは、黄金町バザールの会期中、このエリアに関わっているたくさんの人たちのポートレイトを描き続けていた。



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既存のコンクリート(高架)と新規構造の木が、この建物の基本素材。内装壁は、木毛セメント板。スタジオとして様々な使い方になるだろうから、タフで手を加えやすくて、手を加えた跡が汚くない素材にしてある。枠などは、木毛セメント板の切りっぱなし。



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シンポジウムもありました。一つのスタジオでやったのだけれど、土間部分まで一体化していて、かなりの人数。Justin Jestyさんが司会で、天野太郎さんと鈴木伸治さんと山野真悟さんとぼく。質問でもあったけれど、黄金町バザールの集客は10万人。トリエンナーレなどのやり方に合わせて、2会場のカウントの合計。7割以上が黄金スタジオの集客だったとか。



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カフェには、代々木上原のカフェ「試聴室」の支店が入っていたんだけれど、これは今後も続行。週末にはライブも多い。観客席とも高架とも地域とも一体化したライブイベント。これからも楽しみです。



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これは、修士2年の矢口くんの修士設計として設計施工しているプロジェクト。いつの間にか自分で話をつけてきてプロジェクトにしてました。彼は4年の春に先に紹介したBankART桜荘を手がけ、卒業設計では高架下再開発をテーマにして、修士に入って黄金スタジオの設計にも関わり、その集大成がこのプロジェクト。近くに行ったら、寄ってやってください(この写真だけ、黄金町バザールのスタッフブログから借りてきました)。




ということで、新聞各紙やテレビや雑誌各誌にも紹介していただきました。
より詳細の情報をみたい!ということでしたら、新建築(2008年11月)、SD(2008.12)などをご参照ください。
黄金スタジオレポートでした。




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