毎年このシーズンになると、いろいろな卒業設計の審査会に呼ばれます。
今年は、自分の大学(神奈川大学)と、京都っていうか関西のいくつかの大学の合同審査会(DiplomaxKYOTO)と、日大理工学部(AD賞)と、熊本のいくつかの大学の合同審査会(DA5展)と、千葉工業大学と、レモン画翠(学生設計優秀作品展)の6つ。
レモン画翠のは5月だから、それ以外の5つを、日程的にはすこしさかのぼりますが、簡単に紹介。
2月13日(火)14日(水) 神奈川大学建築学科卒業研究発表会
ぼくがつとめている神奈川大学の建築学科での発表会。15日(木)もあったんだけれど、この日は大学院の発表。ぼくのゼミはまだできて一年なので、修士の卒業生はいません。ということで、ぼくのゼミの学部の作品をいくつか紹介します。(写真は、制作者本人からもらいました)
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●草ヶ谷くん: うねうねな集合住宅。一見、変わった形を目指したかのようだけれど、実は、内部的な心地よさと外部的な心地よさのそれぞれを究極までつきつめて、それらを組み合わせることで一戸の住宅になるという仕組みになっている。パッと見、イケイケ造形系なんだけれど、実は細かい。
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●加藤くん: 西新宿の超高層ビルが得ている床面積は、周辺の同程度の広さのブロックに建つ低層ビル群の床面積とほぼ同じ、という事実に注目して、都市建築のより良い形を構想したもの。10%だけボリュームがある。ずーっと昔、構造家の木村俊彦さんのプロジェクトでこういうのがあった。避難計画とか動線の効率化とか広告面積の新しい確保のしかたとか、いろいろな工夫が満載。
![agn0213_3 agn0213_3](/images/agn0213_3.jpg)
●瀧澤くん: 先の二人とうってかわって、家具的なスケールでの建築空間の思考を繰り返しできた、新しいクライテリアでの建築空間のありかたを提示している。ただフラットに広がってるから、どこにでも椅子を置くことができるという自由と、段差や天井高や窓位置などが、ある場所に椅子を置きたくなってしまう自由。建築の質を考えるきっかけとなるプロジェクト。
![agn0213_4 agn0213_4](/images/agn0213_4.jpg)
●矢口くん: 黄金町の元ちょんの間街を舞台に、向こう数十年の年毎の変化をふまえた都市化の計画。よく考えられた秀作なのだけれど、残念ながら建築としてのとりまとめが部分的に未完。実は、審査に先立っての全教員での採点ではかなりの高得点だったのだけれど、建築的に未完である以上、賞の対象にはできなかった。でも、とても現代的な問題をきちんと受け止めた、気持ちのいい作品。
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●新井くん: 色だけで空間(空間の分節)をつくる、っていう壮大なっていうか、明らかに工学部系建築学科に不向きのテーマを突き詰めた作品。当初は、実物大でつくるって言い張ってたんだけれど、図面枚数などの規程があるこの大学向きに、建築設計の提案として、建物の隙間を敷地にしたもの。
2月24日(土) DiplomaxKYOTO
京都にある建築系大学の合同講評会。ちょっと前までとは枠組みが少し変わったようで、今回参加しているのは、京都大学、京都工芸繊維大学、奈良女子大、立命館大学など関西の8大学。で、講評というか審査をするのは、佐々木陸朗さん、西沢立衛さん、宮本佳明さんとぼくの4名。いろいろあって、4作品を選ぶこととなりました。いくつか紹介。
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●夏目奈央子さん: 山間を流れるリボンが絡み合って空間をつくっている。模型や図面での表現も美しいし、関連して作られていた絵本もきれいだった。最終の選考でぼくも投票していたんだけれど、建築としては実体に結びつける困難さがあって、僕の意識では2位。選考では、その辺をきちんと話をした方が良いと思って、一番強くおしていた立衛さんと議論。でもまあ、得票数も一番多くて、議論を通して問題点も十分確認できたと思うので、これが最優秀ということでみんな了解。こういうことをきちんと議論しないと、公開審査している意味がないし。
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●藤田桃子さん: ぼくと宮本さんはこれを最優秀に強くおしていた。キャベツの葉が巻き付くようにできた集合住宅の空間。一つ一つの住戸の整理がキレイで、こういったタイプにありがちな、ダイアグラム的平面構成の発見でおしまいになっていないところがよかった。立体駐車場とか商業用のスペースとか、確かに余計なものも計画に入っていて、そこが反対派(っていっても、どっちを1等にするか、っていう議論だけれど)のつっこみどころだった。気持ちが揺れ動いている部分が計画を弱いものにしていたか。ということで、最終的には二等。
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●荷福怜くん: このDiplomaxKYOTOの代表もやっている学生の作品。実際に、軽トラの後ろに建物(?)を作って、都市を観察・記録しながら移動し、そのドキュメントを作品化。案の定、最初の選考で、ぼくしか投票してなかったんだけれど、まあ、試みはおもしろいものの、ものとしての完成度は低かったから(本人はそんなことないです、って強調していたけれど)しかたないか。建築学科で、こういう美術的やり方での提案を試みることは興味深いのだけれど、この手のがいつも、美術的なクオリティで見るとレベルが低いのが問題。ともかく、こういう作品で卒業認定を出した京都大学の懐の深さに感服した。
3月2日(金) AD賞とAD+賞(日大理工学部建築学科)
これは、もう10年くらい前、その当時の日大の非常勤だった、アストリッド・クラインさん、今村雅樹さん、小泉雅生さん、佐藤光彦さん、杉千春さん、西沢立衛さんらと立ち上げた、日大の卒製賞。当時は、大学側が最優秀として選ぶ作品(桜建賞)に納得ができなくて、こんなことじゃだめだ、っていって、非常勤だったぼくたちが勝手に賞を作ったんだけれど(賞品もぼくたちがお金を出し合って買っていた)、最近では予算化され、さらに、受賞作品も大学が選ぶものと、それほど大きく変わらなくなってきた。今村さんも佐藤さんも、いまや日大の常勤教員だから、あたりまえか。存在意義を再考する時期かも(写真は、助手の大西正紀さんからもらいました)。
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●小野志門くん: 下町に残る木造住宅の密集地は、卒業設計で取り扱われるネタとしては定番の一つ。しかし、こういうアプローチははじめてみた。彼のアイデアは、残っている建物を型枠として外側にコンクリートを打設し、ホテルとして活用する、というもの。ホテルの内観には、古い木造建物の姿が写し取られるわけだ。路地的空間の取り扱いとか、敷地面積に対するプロジェクトの規模等にツメの甘さが残るものの、十分にインパクトのあるものだった。ただし、建築の完成度としてはまだまだだっていうことで(ぼくは良いと思ったんだけれど)、AD奨励賞っていうのが新設され、それになった。
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●山田明里さん: 大学院の作品としては、それなりの存在感だった。隅田川に浮かぶ歌舞伎の劇場。普段は5つくらいに分解されていて、それぞれ小さなギャラリーやカフェなどとして活用されているのだけれど、年に数回の歌舞伎座興行時には大劇場になるというもの。まだまだ詰められるところはあるものの、逆に、これからデザインを詰めていきたくなるようなポテンシャルがあった。一番デザイン的にアグレッシブな作品が、意匠系ではなくて計画系の研究室の作品っていうところが、現代の大学教育の状況を示しているかも。
3月7日(水) DA5展
今年はじめてできた、熊本県内にある4つの建築系大学(熊本大学、熊本県立大学、崇城大学、九州東海大、八代高専)の合同発表会。講評するのは、ぼくのほかに、構造家の佐藤淳さんと、熊本大学で教鞭をとる田中智之さん、崇城大学の西郷正浩さん。
前日に通常の講評会が、地元の建築家の方などによって行われていて、二日目のこの日は、佐藤さんとぼくが加わって、作品をネタに卒業設計のさまざまな側面について議論をする、というものだった。最近、卒業設計イベントがすごく多くなっているけれども、審査をやっていて実感するのが、短時間で計画を見た時に伝わってくる、建築に対しての美学や手法的な新しさが、ことのほか大きく評価され、半年とか一年とかかけて深められてきたであろう、その人の建築に対する考察の独自性が、どうしても埋もれてしまうという状況。そういう意味では、どれが一等かを選ぶのではなくて、このタイミングで卒業設計を通して考えたことの議論をきちんとしようというのは、とても新鮮だったし、本来、とても大事な、というか、当たり前のことのように思った。
ということで、一つ一つの作品にそれぞれが個人的にコメントをし、その後で車座の議論。一等を選んだりはしなかった。写真はどれが誰のか判らなくなったんだけれど、いくつか紹介。
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3月14日(水) 千葉工業大学建築学科講評会
千葉工業大学の学部と修士合わせて12作品があらかじめ選ばれていて、それについての講評。講師は、石山修武さん、横河健さん、新建築社の橋本純さんとぼく。藤本壮介さんも来る予定だったけれど、何でもコンペのヒアリングに残ったとか。うらやましい。
ここでも一等などを選ぶのではなくて、一つ一つに講評をする、というもの。いろいろな作品があったけれど、総じて辛口の講評がつづく。審査でなくて講評だからっていうこともあるし、石山さんが一緒っていうこともあるかもしれないけれど、ちょっといいたくなっちゃう作品が続いたように思う。
夜、飲んでいる席で、石山さんから、前に卒計講評を一緒にした時はふにゃふにゃ言ってたけれど、今日はなかなか良いことを言っていたと、ほめられた(?)。さらに、みかんぐみはアメリカ市民主義的建築って(10年以上前に書いた、非作家性の文章を引きずってるんだとおもうが・・・)突っ込まれたり、大学横断型の共通課題講評会の企画などで盛り上がった。
レモン画翠での講評会は5月。ということで、2006年度、卒業設計関連イベント報告でした。