蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

等伯

2020年02月01日 | 本の感想
等伯(安部龍太郎 新潮文庫)

安土桃山~江戸初期に活躍した長谷川等伯の生涯を描く。
ちょっと前に狩野永徳を描いた「花鳥の夢」を読んだ。その中で永徳のライバルである等伯も登場する。「花鳥の夢」の主人公は永徳なのに、絵師(というか芸術家)としての才能は等伯の方が上だった・・・的な描写がされていた。
永徳は狩野派という大型工芸集団のトップリーダーで、多数の絵師たちを管理して(信長や秀吉のような絶対君主が注文主である)納期の超厳しいプロジェクトを仕上げなければならないという、経営者としての側面が強かったようだ。
一方、等伯は晩年まで一絵師的な立場で活動していたので、永徳のようなシバリはなく、この点が二人の作品の差になっているみたいだ。

本作のクライマックスは、松林図を秀吉との勝負(秀吉の逆鱗に触れた等伯が、秀吉を感心させるような絵を描けば許される)の成果とするシーンで、物語としては確かに盛り上がったのだが、いくら何でも創作しすぎなのでは?とも思ってしまった。

本作を読んで意外に感じたのは(主題とは全く関係ないが)旧主というものに(精神的に)束縛される武士階級の姿だった。
等伯は絵師の長谷川家の養子となって武士ではなくなったのだが、その兄は旧主の畠山家の再興のために文字通り命をかけており、人生のすべてをなげうった。等伯は子の兄の活動のためにさんざんな目にあったのだけれど、最後まで兄に協力しようとする。
著者は、もう一つの例として石田三成ら豊臣政権の文治派官僚をあげる。
彼らの多くが近江の浅井家の系譜につながる者たちであり、彼らは旧主の末裔である淀君を中心に結束したのだとしている。

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