蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

戦後世界経済史

2010年11月14日 | 本の感想
戦後世界経済史(猪木武徳 中公新書)

感想を書くのもおこがましいので、備忘のため、気になった箇所を抜書き。

「しかし米国の長期にわたる財政赤字とインフレは、・・・
米国のケインズ政策によって(つまり「完全雇用」政策のための需要管理によって)米国を国際収支赤字国にしながら、米ドルを世界に安定的に供給し続けるというシステムとして機能していた」(130P)


「いかなる体制下でも現場の人間は、時々刻々変化する世界の経済条件をすべて知ることはできないから、変化と不確実性に正確に対処することはできない。ところが、市場経済では、こうした変化に関する情報をすべて知る必要がないメカニズムが作動する。・・・
この相対的な重要性や稀少性の変化の指標が市場で形成される「価格」なのである。「価格」は各経済主体が知る必要のない個々の事象を捨象して、意思決定にとって必要かつ十分な情報を圧縮した形で提供する。社会主義経済はこの「価格」の担う重要な役割の理解が欠如していたことに、致命的欠陥があったといえよう」(188P)


「そもそも米国は近代保護主義の母国であった。米国という国家の誕生を見ても、関税問題がアメリカ独立革命の一大原因であった。A・ハミルトンの後進国の工業保護育成論『製造工業に関する報告書』は、決して現代と無縁な政策論ではない。南北戦争も、保護主義を唱えた北部の工業家と、綿・タバコを輸出する南部の自由貿易主義者との対立であり、北軍の勝利は、米国の保護主義をさらに強化させた。・・・
冷戦期の米国の自由貿易を基調とする通商政策は、歴史的に見てもむしろ例外的な現象であり、冷戦下の米国にとって同盟諸国の経済発展がいかに重要であったかということを示している」(301P)


「経済は、外交、公法・国内政治、社会・文化のどれよりも、統合や相互依存が一番進行しやすい領域であるが、一番不安定な統合の形態でもある。経済的な損得勘定でプラス効果がはっきりすれば、統合は確実に進行する。しかし、この損得勘定が逆転してマイナス効果がどちらかあるいは双方に発生すれば、ただちに分離が起こることもまた確かである。経済取引やコミュニケーションの量、人の移動が激しくなると、国家間の相互依存関係はもちろん強くなる。しかしこうした経済的取引が生み出す秩序形成は、二つの点で脆弱な側面を持つ。ひとつは、損得計算の符号をプラスからマイナスに変えてしまうような外的経済条件の変化が起こった場合、もうひとつは、そうした経済秩序をトータルに破壊するような政治的力が発現する場合である。このような不安定要因の動きを最小限に食い止めるには、やはり共通のオピニオンという楔、共通価値の形成、あるいは文化というセメントがどうしても必要になる」(338P)

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