蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ぼくは本屋のおやじさん

2018年04月01日 | 本の感想
ぼくは本屋のおやじさん(早川義夫 ちくま文庫)

私の子供が通っていた音楽教室の近くの駅前に個人経営の小さな本屋さんがあった。子供3人が次期をずらして15年くらい教室に通っていたので、その送迎をするついでに寄っては本を買っていた。
京浜東北線の駅の真ん前にあったのでロケーションは申し分なかったが、近くにチェーン店の本屋さんが出店した頃から目に見えて来客が減り、それでも建物を改装したりしてがんばっているうち、チェーン店の方が撤退してくれて持ち直すかに見えた。しあし、まあチェーン店の方がなくなっちゃうくらいだから環境は厳しかったのだろう。
いつも店番をしていたおじいさんを見かけなくなって娘さん?がカウンターに立つようになってから棚がスカスカになってきて、(返品が滞っていたのか)古ぼけた在庫が多くなって、それでも応援するつもりで毎週1冊は買っていたが、とうとう廃業して居酒屋になってしまった。

出版業界に限ったことではないが、人気商品は大手の書店にしか集まらず、販売実績の低い書店にはいくら人気本を注文しても卸売業者が回してくれない。だから、書店経営を続けるにはできる限り売上を増やして人気のある本を少しでも多く仕入できるようにする、という自転車操業を強いられる。自分が売りたい本を売るような余裕は全くない。
と、いうのが、本書がさかんに主張する書店の現実である。

自分が好みの本を取り揃えて、本でも読みながら時折やってくる常連さんに本を売る、くらいののんびりした生活をイメージして、著者は本屋を始めたという。
ネット書店全盛の今では、そもそも新たに書店経営を始めようとする人はほとんどいないのだろうけど、本書の背景となった1970~1980年代には、著者と同じような考えの人はたくさんいたと思う。何を隠そう、私自身がそうだったのだから。しかし、現実は厳しく、そんな楽隠居のような商売が続くわけはないのであった。

タイトルから、ネット書店出現前夜の牧歌的?小書店経営の喜びや悲しみを描いた内容を想像していたのだが、実際は著者のグチを書き連ねた内容で、読んでいて楽しい気分にはなれなかった。

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