蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

夏の祈りは

2017年12月03日 | 本の感想
夏の祈りは(須賀しのぶ 新潮文庫)

埼玉県の公立校;北園高校は、進学校だが野球も強い。過去最高の成績は(はるか昔の)県大会準優勝で甲子園に出たことはない。
1980年代、1990年代、2000年代、2010年代の同校野球部を、それぞれキャプテン(プレーで引っ張るタイプ。後の監督)、キャッチャー、女子マネ、キャプテン(声掛けと取り組む姿勢で引っ張るタイプ)の視点で描く。

本書の中で埼玉の高校野球界は私学4校が中心となっていて、北園高校はその厚いカベに何度もはね返される。
現実もほぼ同様で、公立校が全国レベルの大会に出場できたのは相当昔の話。ところが面白いのは(平均的成績で言えば)県勢最強と言えるU学院は滅法公立校に弱いのである。ここ数年、何度も公立校に敗れる(あるいは大苦戦する)が見られた。油断しているとか、相手の研究が不足しているとか、いろいろ言われるが、何度か公立校に負けたりしているうち、監督の選手も「公立校はイヤだなあ」なんてメンタルに陥ってしまっているように見える。(著者も当然そのことを知っていそうで、結末ではU学院をモデルにしたと思われる高校が北園に負けてしまう筋になっている)

本書は野球部のゲームそのものを描いているシーンはほとんどなく、高校野球部員のいろいろな屈託を描いていることが多い。
野球的能力はイマイチなキャプテンがリーダーシップをどう表現するべきか苦悩する第4話、第5話が特によかった。

著者の作品で読んだことがるのは「神の棘」だけだったが、これが、日本ではあまり見かけないような西欧型大型歴史ロマンだったので、全くかけ離れたジャンルっぽい高校野球モノも多く手掛けているのには少々驚いたが、こちらも最後まで一気読みの巧みさであった。

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