蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ひとがた流し

2008年02月10日 | 本の感想
ひとがた流し(北村薫 朝日新聞社)

タイトル名と著者から、ミステリに違いないと思ったのですがそうではありませんでした。

幼なじみの三人の女性とその家族の物語。章ごとに視点・語り手が入れ替わります。読み終わった後に振り返ると、新聞連載を強く意識した構成になっていたように思います。

ミステリではないものの、ところどころに小さな謎が仕掛けられています。例えば、主人公の石川千波が「トムおばさん」と呼ばれるのはなぜか?とか。

その石川千波は優秀な局アナですが、母の介護も仕事のかたわら続けていました。その千波の次の台詞が印象に残りました。(以下引用)

「人が生きていく時、力になるのは何かっていうと-<自分が生きてることを、切実に願う誰かが、いるかどうか>だと思うんだ。-人間は風船みたいで、誰かのそういう願いが、やっと自分を地上に繋ぎ止めてくれる。-でも、そんな切実な願いって、この世では稀なことだと思って来た。-母親は、-わたしの母親はね、そう願ってくれたと思うんだ。愛してくれたんだよ、わたしのこと。でも、その母親が倒れて介護をしてて、どうにもつらくなった時、わたしはね、<逝ってくれたら>と思ったことがある。-それだからね、-<わたしがこの世に生きてることを、誰も切実に願ってはくれない>と思ってきた。<それが当然だ>とね」

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